後始末屋の特異点   作:緋寺

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産声

 外南洋駆逐棲姫と戦う深雪達。状況が状況だけに、近接戦闘を余儀なくされているが、3対1という数的優位を作れているため、まだ戦えているという状態。

 白雪と響は、散った後に昼目提督の護衛をしつつ、戦闘の最中であってもこの設備の調査を怠ってはいない。余裕があるわけではないが、だとしてもやれることはすぐにでもやっておかなければならないのだから。

 

「くそ、人間だったらオレがぶっ倒してやんだがな」

「それは見てみたいが、今はダメだね。司令官には分が悪すぎるよ」

「力業でどうにか出来るのは、ああいう一撃で終わりな武装を持たない相手だけですからね」

 

 などと言いながらも、昼目提督はあえて設備へと突入している。調査隊としての仕事を全うするため、広い船倉のあらゆる場所をカメラに収めているのだ。

 かなりラフな姿で突入しているものの、そういうところは抜け目ないのが調査隊を纏める者。簡易的な小型カメラをポケットから取り出し、二の腕に括り付けながら戦場を駆け回ることで、敵の技術を全て収めていた。

 

 そうとは知らないものの、人間がうろちょろしているのが横目に見えている外南洋駆逐棲姫は、当然ながら深雪のついでに昼目提督を狙う。

 しかし、そうすることも予測済みな神通がしっかりとカバーするため、近付くどころか撃つことも出来ない。少しでも隙を見せたら、短刀でブスリであることが目に見えているからだ。

 それだけでなく、背を向ける相手を間違えるとそれだけで一気に持っていける。深雪も白雲も、いつだって外南洋駆逐棲姫を始末することが出来る力を持っているのだから。

 

「しかし、囲まれた状態で戦うというのは、なかなか厳しいものがありますね。ならば、こちらももう少し()()()()やらせてもらいましょうか」

 

 そう言うと、外南洋駆逐棲姫は剛腕の手を開き、前と後ろに伸ばす。その指先は、どう見ても魚雷の形状をしていた。海上ではないのに魚雷を放とうとしている。

 この設備を破壊してもいいと考え、逆に自分への被害を全く考えない攻撃。自暴自棄なのではなく、それこそが与えられた使命なのだと、本気で考えているから厄介極まりない。

 実際、外南洋駆逐棲姫は自己修復能力があるため、多少の怪我でもすぐに修復されてしまう。最悪、自爆しても生きていれば元通りというインチキが罷り通ってしまっているのだ。

 

「こんな狭い場所で、なんてことしようとしてやがる!」

 

 船倉内での魚雷は流石に危険すぎる。しかし、ただ避けるだけでも真後ろから爆発が起きるという危険性もあった。

 ならば消し飛ばすしかないのだが、深雪の砲撃が綺麗に決まってしまうと、魚雷どころか設備、海賊船そのものに致命的なダメージを与えかねない。魚雷の爆発は問題ないのかもしれないが、それ以上の火力は扱えない。

 

「お任せください」

 

 そこで主砲を放つのは白雲である。凍結の力はあるが、主砲の威力は並より高い程度。深雪の超火力と比べれば、こういった場所でもまだマシなレベル。

 

「大丈夫ですよ。私も扱えますから」

 

 それと同時に神通も砲撃を放っていた。魚雷を持ち出されては、砲撃禁止だなんて言ってはいられない。あわよくば、その爆発で外南洋駆逐棲姫にダメージを与えたい。

 

 魚雷は放たれた瞬間に撃墜され、すぐさま爆発を引き起こす。設備内を大きく揺らすことになるものの、これで外南洋駆逐棲姫がどうにかなるとは思えない。

 故に、白雲はすぐさま凍結の鎖を投擲。爆煙の中で何かして来てもいいように、先んじて牽制した。

 

「おっと、そうはさせません」

 

 やはり無傷……いや、傷付いてはいたが修復されている外南洋駆逐棲姫が爆煙から飛び出し、深雪に対して主砲で狙いを定めていた。

 

「っぶねぇなぁ!」

 

 当然それならば避けられる。まだまだ不意打ちには程遠い。

 

『ふぅむ、やはり多勢に無勢ですか』

 

 その戦闘の最中、アナウンスが不意に声を上げる。わざわざ聞こえるように言ってくる辺り、何かしらの当てつけをしようとしているのが手に取るようにわかる。

 

『ならば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。彼らの他に1つだけでも、仕込んでおいてよかったですね』

 

 聞き捨てならない言葉。深雪達は戦闘に必死でこのアナウンスはうまく聞き取れなかったが、昼目提督にはしっかりと聞こえていた。

 人数を増やす。彼ら。そして、1()()()()。彼らというのはわかる。操舵室の男達のこと。それくらいしか、彼──男を見ていない。そしてそれとは違う1つとなると、それが意味するモノは、すぐに勘付くことが出来た。

 

「……まずい!」

「何がまずいんだい」

 

 響が聞き返す。昼目提督はすぐに答える。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 

 

 

 一方、2人の港湾水鬼を護送している時雨達。片方の港湾水鬼はまだ体力が残っていたため、少しふらつきながらも自分の足で歩いていた。外に出る時は、子日に抱きかかえてもらうということで話はついており、子日も既に主砲を両手から外してマウントしている。

 もう1人の港湾水鬼は、グレカーレが抱えたまま。その肌触りを楽しんでいる様子は、時雨から呆れられている。

 

「綺麗な肌だよねぇ。モチモチのツヤツヤ。羨ましい限りだよ。ほら、髪もサラッサラでさぁ」

「緊張感がないねグレカーレは。気持ちはわかるけど、それはまだ危険な状態なんだ。急いでおおわしに連れていかないと」

 

 溜息をつかれてもグレカーレは何も変わらない。ニコニコしながら運んでいるだけ。

 

 すると、別の方から大きな爆発音が聞こえ、海賊船全体が揺れた。歩けている方の港湾水鬼が少しふらついたため、一旦その場で落ち着くまで止まる。サイズが大き過ぎて支えることは出来ず、もう抱えた方がいいのではと提案したことで、子日がしっかりと抱える。

 

「うわぁ、あっちの方はまた激戦になってるのかな。早いとこココから出た方がいいかもね。最悪、この船が沈むかもしれないし」

「だねー。そういう意味でも、抱えさせてねー」

「よ、よろしくお願いします……」

 

 子日のような少し幼いタイプの艦娘にお姫様抱っこされるのは少々恥ずかしいのか、苦笑しながら子日に身を任せた。

 

「相方とは、そうなる前から知り合いなのかい?」

 

 時雨が問うと、港湾水鬼ははいと首を縦に振る。

 

「その、実は……って、ちょっと待ってください。今、髪が動いたような……」

「ん?」

 

 港湾水鬼がもう1人の港湾水鬼の髪が不自然に動いたという。抱きかかえているグレカーレは、その長い髪が地面に擦らないようにしっかりと持っているため、不自然な動き方をするというのは何かおかしい。

 

「グレカーレ、そのヒトをゆっくり下ろすんだ。何かおかしい」

「え、ちょっと突然何が……っ!?」

 

 そう言われた瞬間だった。港湾水鬼の髪の中から、突如小さな深海忌雷が飛び出し、グレカーレの胸元に飛びついたのだ。

 あまりのことにグレカーレは驚き、港湾水鬼をその場に落としてしまう。鈍い音がしたものの、深海棲艦なだけあって頑丈に出来ており、衰弱しているせいで動けないものの、怪我は無かった。

 

 今はそれ以上に危険なことが起きている。グレカーレの胸元に飛びついた深海忌雷は、さも当然のように触手をグレカーレに突き刺した。

 

「いぎっ!? 何すんのさ!」

 

 だが、潜り込まれる前に忌雷の本体を掴むことに成功したグレカーレ。無理矢理引き剥がそうと強引に引っ張るが、自分に突き刺さっている触手のせいで、それだけでも激痛を伴う。だが、嫌な予感がしたため絶対に放すことはしない。

 

「ちょ、痛い痛い痛い! なんなのコイツ!?」

「深海忌雷だ! あの気持ち悪い連中についていたヤツより、随分と小さいようだが、絶対放しちゃだめだよ!」

「当たり前でしょ! うぐっ、潜り込んでこようとする!」

 

 突き刺さった部分をグリグリと動かすために非常に痛い。グレカーレも苦悶の表情を浮かべるが、放したら最後、身体に確実に潜り込むだろう。

 出来損ないの姿を知っているからこそ、ゾッとした。自分もああなってしまいかねないと思うと、気分が悪すぎる。故に、対処法をすぐに考える。

 

「すぐおおわしに行って何かしてもらわないと!?」

「いや、それだと遅い! 白雲に凍らせてもらった方が早い!」

 

 こんな時に時雨は冴えていた。殺さず処置するためには、まず動きを止めた後に切断する必要があるだろう。ならば、白雲の凍結が有効。その後に、神通の短刀などに触手部分を切ってもらってどうにかするしかない。

 

「じゃ、じゃあ、あたし、シラクモのところ行ってくる! そのヒト達、2人に任せていいかな!?」

「1人で大丈夫!?」

「そのヒト達も大事でしょ! 流石についてこさせるわけにはいかないんだから、ダッシュで船倉まで行くから!」

 

 言うが早いか、忌雷を握りしめたまま、先程の爆音がした場所へと猛ダッシュするグレカーレ。

 時雨も子日も不安でいっぱいなため、港湾水鬼をどうにかすることが出来次第、自分もすぐに戻ることにした。出来ることならば、船外で戦っている誰かに預け、Uターンが出来れば完璧。

 

「すぐに戻るよ。僕がこちらを運ぼう」

「うん、大急ぎでね。壁に頭ぶつけないように!」

 

 グレカーレのためにも、港湾水鬼達のためにも、すぐに戻れるように時雨と子日も出来る限りのスピードで行動を開始した。

 

 

 

 

 そして、船倉。昼目提督が勘付いたことで、再び設備の外へと駆ける。白雪と響も共に向かい、何事もないことを確認するために。

 外南洋駆逐棲姫にはそれが見えていたが、深雪達の妨害によって目で追うことしか出来ない。とはいえ、特異点を足止め出来ている時点で自分の仕事は出来ていると自負している。

 

「ちょっとちょっとシラクモ! お願いがあるんだけど!?」

 

 そんな船倉に、グレカーレが飛び込んできた。その手には何かを握りしめ、その隙間から胸に突き刺さる触手を見え隠れさせ。

 それを見て昼目提督は絶句した。だが、止まっている余裕はない。グレカーレが言うように、白雲の凍結で一時的に無力化し、寄生を食い止めた後、本体を神通に破壊させるのがおそらく最もいい対処手段。

 

「なんかよくわかんないけど忌雷が港湾水鬼の髪の毛から出てきて!」

「絶対放すんじゃねぇぞ! 白雲ぉ!」

「それは止めておいた方がよさそうですね」

 

 昼目提督が白雲に叫ぶが、それよりも早く外南洋駆逐棲姫が動き出し、深雪よりも優先的に白雲を狙い出す。

 

「お姉様! グレカーレ様を!」

「おうよ!」

 

 白雲に託され、グレカーレを救うために走る深雪だが、そのグレカーレの後ろに嫌なものを見てしまった。

 それは出来損ないと化した操舵室に置いてきた男3人。あちらにも忌雷が仕込まれていたか、しかし素質がなくそのまま出来損ないとなってしまったようである。

 その出来損ないが、深雪と昼目提督がグレカーレの元に辿り着く前に後ろから忍び寄ると、2人がグレカーレの両腕を掴んで強引に開いてしまった。

 

「ひゃっ!?」

 

 あまりにも不意だったため、驚いたグレカーレは悲鳴を上げる。だが、忌雷は放すことはなかった。これを放したらまずいとわかっていたから。

 

 しかし、3人目の出来損ないがグレカーレのその手を掴み、丁寧に解いていく。そして、忌雷は解放されてしまった。

 

「え、えっ!?」

 

 こうなってしまったら忌雷の思うまま。激痛を伴いながらグレカーレの胸元に潜り込み、見る見るうちにその姿を消してしまった。

 痛みに悶えるグレカーレを2人の出来損ないが完全に取り押さえており、残った1人の出来損ないが深雪と昼目提督を来させないように妨害する。自らの身を犠牲にしてもいいという行動のせいで、深雪の全力の拳を叩き込まれても、ただそれだけで終わり。倒れることもなく、グレカーレに近付けさせないように動いてきた。

 

「退けオラァ!」

 

 そこに昼目提督の鋭い蹴りが突き刺さり、深雪の道を開く。艤装を装備している艦娘よりも強烈な攻撃を放ったことはこの際置いておき、深雪はすぐさまグレカーレの元へと近寄る。

 しかし、出来損ないはまだ妨害を止めることなく、深雪の脚を掴んでいた。そのせいですぐに振り払えず、その場に立ち止まることになってしまった。

 

「痛い痛い痛い!? いや、いやぁ!?」

 

 グレカーレの悲鳴が木霊する。出来損ないに動きを封じられているため、激痛を耐えるように頭を振るしか出来なかった。

 だが、ある時を境に、痛みに苦しむ声色が突然変化する。動きが急に止まり、ピクンと小さく震える。

 

「んぇっ、な、なに、痛くない……むしろ、気持ち、いい……」

 

 こうなった時にはもう出来損ないはグレカーレを解放していた。腕が解放されたグレカーレは、忌雷が潜り込んでいった胸を押さえながら、フラつきつつも膝をその場につく。まるで神に祈っているかのようなポーズにすら見えた。

 

「グレカーレ!?」

「ふぇ、ミユキ、なんか、なんか変だよぉ、痛かったのに、すごく痛かったのに、すごく、気持ちいいのぉ!」

 

 小さな震えは、次第に大きくなっていく。そして、グレカーレは今までに見たことのないような蕩けた表情を見せていた。涙目で、小さく涎を垂らし、顔を赤らめて。

 

「っああっ、あははははぁあっ!? 何これ! ナニコレぇ! すごいのぉっ! 」

 

 そして、その時が来てしまった。深雪は知っている。それをさっき見ているのだから。

 

「すごいっ、すごいぃっ、はぁあああああっ!?」

 

 大きくのけぞりながら、つんざくように叫ぶグレカーレ。

 

「変わるぅっ! あたし、変わっちゃうのぉおおおっ!」

 

 ゾワリと寒気が背筋を伝った。グレカーレが、今までと違うモノに変貌してしまうのだと思った途端に、本当に嫌な気持ちになった。

 

 のけぞるグレカーレが黒い靄のように包まれたかと思うと、今まで着ていた制服のワンピースがボロボロと崩れ落ちる。深海棲艦化するには不要なモノであると認識されたか、まるで腐り落ちるかのようだった。

 その下から現れたのは、外南洋駆逐棲姫のようなノースリーブの制服。しかし、あちらはブレザーだがこちらはセーラー服。どちらかといえば船渠棲姫に近しい意匠であり、その上で少しサイズが小さいのか胸にピッタリと張り付いていた。また、外南洋駆逐棲姫はブレザーの下にシャツを着ているが、グレカーレはそれも無くヘソは丸出し。

 下半身には外南洋駆逐棲姫と同様のスパッツ。その上にスカートが出来上がるが、その中身はほとんど隠せていないほどに丈が短い。まるで本人の性格を表しているかのように露出度が高くヤンチャなイメージを感じさせた。

 

「ぐ、グレカーレ……嘘だろ……」

 

 弱々しい声を呟く深雪。しかし、そんな声は聞こえていないかのようにグレカーレはその力の奔流を受け入れてしまっていた。

 それが如実にわかるように、グレカーレの褐色の肌が白く、プラチナブランドの髪は黒く染まっていく。それは殆ど船渠棲姫と同じ色合い。

 

「っはっ、ははっ、あはははははっ!」

 

 グレカーレの高笑いがその場に響いた瞬間、その背中の艤装が崩れ落ち、新たに生まれたのは深海棲艦の艤装。外南洋駆逐棲姫の剛腕を黒く塗りつぶしたような色違い。

 それが勢いよく生える衝撃で、グレカーレは何度も何度も震えていた。深雪はもう、見ていることも出来なかった。

 

「ハァアア……あはぁ、すっごかったぁ……こんなの初めてだよぉ」

 

 変化が終わったことで、のけぞっていたグレカーレが体勢を戻した。その時によくわかった。

 その瞳は真紅に染まり、薄ぼんやりと光り輝いていた。

 

 

 

 

 艦娘グレカーレは、今この時死んでしまった。

 そして、深海棲艦グレカーレが産声を上げた。

 

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