後始末屋の特異点   作:緋寺

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悲しい覚悟

 敵対したグレカーレに押し込まれ、外南洋駆逐棲姫との合流を許してしまった。3対1だった戦いが、グレカーレが寄生されてしまったことにより、3対2となり、更には1人は始末も考えられないような相手である。

 

 深雪の精神は、この戦いで幾度も揺らいできたが、仲間のお陰で立ち直ることが出来ていた。しかし、今回の件は深雪の心を揺らがせるどころか破壊しかけている。

 元が人間ならば、もうその命を奪う覚悟が出来ていた。目の前で人間が変わり果てたとしても、それはやらざるを得ないと考えるしか無かった。だが、ついさっきまで仲間だった者が変わり果ててしまったのはダメだ。深雪だけでなく、他の者すら躊躇する相手なのだ。深雪が手を出せるわけがない。

 

「それじゃあまあ、行っちゃおうかな!」

 

 外南洋駆逐棲姫よりも先にグレカーレが動き出す。深雪達の精神にダメージを与える術を心得ていると言ってもいい。

 グレカーレが前衛というだけで、深雪達の動きは鈍くなる。仲間に襲われるという苦行を味わって、まともにいられるわけがない。

 カテゴリーMであり呪いも持ったままである白雲ですら、グレカーレからの攻撃には戸惑いが隠せず、神通もどうしたものかと考えながらその攻撃を見極める。

 

「ほらほら、反撃しないの? あたし、もう敵なんだよ?」

「グレカーレ……!」

「まぁそっちの方が好都合かもしれないけどさ」

 

 基本的にはやはり特異点──深雪を集中狙いにしていた。グレカーレと外南洋駆逐棲姫の巨腕はそれだけでも脅威であり、直撃はすなわち死を意味するため、回避を続ける以外に道はない。しかし、そうなったら間違いなくジリ貧になる。

 やってくることは基本的には同じ。剛腕を振るい、周囲を破壊しながら追い詰めるのみ。自分自身の存在を全面に出し、()()()()()()()()()()()()という事実を突きつけながらだからこそ、とんでもないストレスになっている。

 

「お姉様ばかりを……!」

「イラつくなら攻撃すりゃいいじゃん。躊躇う必要ある?」

「くっ……貴様は……!」

 

 白雲が攻撃出来ないのは、グレカーレを痛めつければ深雪が悲しむとわかっているからだ。だから攻撃を外南洋駆逐棲姫にしか向けられない。しかし、その攻撃はどうしてもあちらの剛腕──『装甲』の曲解により異常な耐久力を手に入れているそれを貫けなかった。凍結すら、大きく振って凍る前に弾かれてしまうために通用していない。

 

「仕方ありません。始末せずとも、気絶させればまだどうとでもなります」

 

 神通は英断。例えグレカーレであろうとも、今は敵。命を奪うことが厳しいならば、せめて気を失わせればどうにでもなる。例えば、うみどりまで運んで、洗浄を試みるとか。

 前例として、セレスというわかりやすい存在がいる。本来ならば正気を取り戻せば確実に敵対する純粋な深海棲艦が、今や穢れすら持たずに食文化を学ぶために日々努力しているのだ。グレカーレから穢れを洗い落とせば、身体は元に戻らずとも、()()元に戻るはず。

 

「深雪さん、気を失わせてください」

「りょ、了解だ! でも近付けねぇよ!」

 

 気絶させるためには接近することが大事である。深雪が出来るのは、打撃技と絞め技。特に絞め技は確実。首を絞めて落とせばそれでいい。グレカーレは日常から()()()()()()()()()があるのだから、今こそそれをやってやるしかない。

 しかし、これまでならば近付いて絞め落とせばいいだけなのだが、剛腕があるためにそうはいかない。身体を掴めたとしても、逆に剛腕に捕まってしまったら、そのままお陀仏である。

 

「くそ、どうすりゃ、どうすりゃいいんだ……っ」

「さっきも言ったけどさぁ、お得意の煙幕は使わないの? もしかしてあたしって、こんな状態になってもなめられてんのかな」

 

 次から次へと床を破壊していくグレカーレの猛攻に、深雪はただただ避け続けるしか出来ない。

 

 煙幕は出せるだろう。しかし、それはおそらく()()()()()である。敵にも味方にもそれは作用してしまい、しかも有限の空間でそんなことをしたら、それこそ仲間達に迷惑がかかってしまう。ただでさえ、今は昼目提督達が出来損ないに応戦している状態だ。生身の人間の中では段違いに強いとはいえ、煙幕が撒かれた状態となったら万が一がある。

 だが、軍港や深海千島棲姫との戦いの時に発生した()()()()()は、深雪の意思とは殆ど関係なく出てしまうため、深雪には制御が出来ていない。出ろと思っても出ないのが実情である。

 それは、精神的な理由もある。グレカーレを救いたいという気持ちはあれど、目の前で展開されている状況が心を折っているため、本当に救えるのかという疑問さえ出てきてしまっていた。そのせいで、煙幕は出ない。

 

「ふぅん、別に良いけど」

 

 グレカーレは表情を変えない。そして、攻撃をひたすらに続ける。身体と心の消耗を導き続ける。

 

 だが、ここで何かに気付き始めた者がいる。それが、神通である。調査隊としての優れた洞察力と、戦闘のセンスから、今のグレカーレにほんの少しの()()()を覚えた。

 

「……あれ?」

 

 口に出した瞬間、グレカーレがそれに気付いたように視線を送る。

 

「グレカーレさん、貴女……っ」

 

 神通の言葉を遮るように、グレカーレはすかさずその剛腕の指先から魚雷を放った。まずいと思い砲撃ですぐさま対処。そこにいたグレカーレと深雪、そしてサポートしていた外南洋駆逐棲姫までもが、その爆炎に巻き込まれるカタチとなる。

 グレカーレと外南洋駆逐棲姫は自己修復があるから問題ないが、深雪にはそんなものはないため、神通の砲撃と同時に後ろに飛び退いていた。それでも爆風をどうにかすることは出来ないため、その衝撃に弾き飛ばされる。

 

「っくぅっ!?」

「お姉様!」

 

 白雲がすぐさま深雪の元へと近付き、傷口を軽く凍結することで痛みを多少は引かせた。完全に凍り付かせるわけではなく、血を止めるくらいの優しい凍結。

 この時に、白雲は深雪を助けたい一心で、凍結の力のコントロールをさらに細分化出来るようにしていた。これもまた、成長の一つ。

 

「あーあ、残念。ジンツー反応早すぎだよ。魚雷はもう少し粘ってから使うつもりだったのに。アンタも流石に治るの早いねぇ」

「勿論、私とて高次の存在へと昇華したもの。このくらいの爆発で身を焼かれるようなことは」

「あるけどすぐに治ったんでしょ? あたしだってそうだったんだから」

 

 この攻撃で一瞬戦いが止まる。それをきっかけに、神通はすぐさま移動を開始し、深雪と白雲に合流。バラけている状態では埒が明かないと、3人一緒に行動することを選択。

 魚雷を受けてしまったら一網打尽になってしまうが、今回はそれ以上に意味のある合流である。

 

 神通は再びグレカーレと外南洋駆逐棲姫に主砲を向けた。瞬間、グレカーレは再び剛腕を神通に向けて、魚雷を発射。今度はグレカーレの方が速かったか、魚雷と砲撃が中間よりも神通寄りの場所で爆発し、再び爆煙がそこに巻き起こる。

 

「やはり……っ」

 

 これで神通は確信した。自分の考えが間違っていないと。深雪と白雲に合流したのは正解だったと。

 だが、それを話すべきなのかは少しだけ躊躇われた。本当に大丈夫か、そうすることで、()()()()()()()()()()()()()

 

「お二人とも、いいですか、よく聞いてください」

 

 神通は深雪と白雲に言い聞かせるように話す。

 

「やはり気絶させる以外の方法はありません。ですが、あの腕が邪魔なのはわかります」

「あ、ああ……」

「ですので、私が片腕を捥ぎます。白雲さんはその凍結でもう片方を凍らせられませんか」

「……今ならば、やれぬことは無いでしょう」

「私と白雲さん2人で、グレカーレさんの艤装の腕を止めます。深雪さんがその間に、本体を絞め落としてください」

 

 今ならばこれが最善。というか、これくらいしかグレカーレを止める手段はない。

 だが、3人全員、誰も失敗出来ない上に、外南洋駆逐棲姫を完全に無視した策だ。成功する確率はかなり低いと言えよう。とはいえ、グレカーレさえ止めてしまえば、あとはまだマシになるはず。

 

「……やろう。あたしは意地でもグレカーレを救いたい。心はグチャグチャだけど、どうにかするためにそれが必要だってならやってやるさ」

「お姉様がそう言うのならば、白雲もお手伝いいたします。必ずや成功させ、お姉様の道を切り拓きます」

 

 深雪も白雲も神通の策に乗った。始末するわけではない。ただ、気絶させるだけ。深雪としては、初めて潜水艦で顔を合わせた時の喧嘩と同じようなもの。あの時の相手はスキャンプだったが、今回は電が相手をしたグレカーレというだけ。

 多少痛い目をみても、止めるためには仕方ない。自分も痛い目を見てもいいから、どうにかしてでも止めてやる。深雪は揺らいだ心であっても決意して、鋭い目でグレカーレを見つめた。

 

「やっと本気になってくれるのかな?」

「ああ……覚悟決めてやった。グレカーレ、お前も覚悟しろよ」

「んっふふ、来なよ特異点」

 

 不敵な笑みを浮かべたグレカーレに、3人が同時に駆け出した。狙いは予定通り、神通と白雲が剛腕、そして深雪が中央の本体。

 

「わお、真正面から来ちゃうんだ。でも、思い切りがよくてあたしは好きだよ」

「言ってろ! お前の目ェ覚まさせてやらぁ!」

 

 当然ながら、グレカーレは正面からやってくる深雪達を迎え撃つために剛腕を振るう。拳を強く握り、迎撃するかのように叩きつける。衝撃も相当であるため、回避しなければまず間違いなく死ぬ。

 当然、3人ともそれを華麗に回避。神通は右、白雲は左へ。だが、神通の方が危険と判断したか、外南洋駆逐棲姫がその行動を止めるために躍り出た。

 彼女の曲解の力、『装甲』の曲解は、神通の持つ短刀でも貫けないくらいの頑強さを持つ艤装に変える力。硬いということは、攻撃力もあるということに他ならないため、グレカーレと同様に外南洋駆逐棲姫も腕を振りかぶって神通を殴り飛ばそうと迎撃する。

 

「そんなものには当たりませんよ」

 

 その攻撃もヒラリと躱し、跳び越えるかのように外南洋駆逐棲姫を避けた神通は、狙い通りグレカーレの剛腕の片方を短刀で斬り落とした。

 

「こちらも!」

 

 そして、白雲はもう片方の腕の攻撃を回避しながら鎖を巻きつけ、本体には届かないように腕だけを凍結させる。力が注がれた鎖からの凍結であり、コントロールが完璧となった今、剛腕の根本まで()()を凍らせることで、一時的にその腕を使えなくした。

 

「とった、グレカーレぇ!」

 

 胴を蹴り飛ばすために脚を出す深雪。

 

「そんなことでやられるあたしじゃないよ」

 

 それを当然止めるため、空いている本体の両手をクロスして蹴りをガード。だが、その蹴りの威力は殆ど無かった。深雪が飛び込んだ勢いをそのままに脚を曲げ、蹴るのではなく密着するように突っ込んだからだ。

 少しだけ高く飛んでいたことで、もう片方の脚はグレカーレの顔面スレスレを通過した後、かなり強引に曲げることで首に引っかかる。

 

「お゛っ!?」

「こんな強引な手段で悪い」

 

 飛び込んだ勢いもあるため首に脚が食い込み、喉まで一気に締め上げる。そこからガードされつつも脱力していた脚を自らの脚に絡ませて、完全にロックした。

 艦娘の身体能力を活かした、普通ではまず出来ない飛びかかり式の首四の字。伊203が海中でやっていたことを、陸戦でやってのけた。グレカーレをすくうためという気持ちが、それを成功させた。

 

 しかし、一つだけ誤算があった。

 

「んぅうっ!」

「かはっ!?」

 

 グレカーレも絞め技に関しては学びを得ていた。すぐさま後ろに倒れることで、深雪を床に叩きつける。艤装を背負った状態で叩きつけられたことで、身体中に激しい衝撃が駆け抜けた。

 そのせいで脚のロックが緩んでしまい、グレカーレはすぐさまそれを解いた後、体勢を入れ替えてマウントポジションへと移行。深雪の首を掴んだかと思いきや、少し息を切らせながらも強引に持ち上げた。

 

「っふぅっ、あ、あっぶなかったぁ。今回はあたしの勝ちだよミユキ。前はイナヅマだったけどさ」

「っくぁ……グレ……カーレ……」

 

 この時には神通に斬り落とされた剛腕も自己修復によって元通り。その手を手刀のカタチにして、構える。

 

「お姉様!?」

「シラクモ、動かないでね。ジンツーもだよ」

 

 動いても動かなくても深雪が殺されてしまうのならばと、白雲は何も言うことなく凍結の力を強め、グレカーレを氷漬けにしてやろうと動き出す。

 しかし、グレカーレは深雪の身体を移動させてその鎖に触れさせた。

 

「っ!?」

「先にミユキが凍るよ。あたしがやられる前にね」

 

 白雲の力も把握しているからこそ、この動きが出来る。敵対されたら一番厄介な相手と言えるグレカーレに、白雲は歯痒い気持ちでいっぱいだった。

 

「これでチェックメイト。じゃあ、終わりにしよっか」

「ぐ、グレ……」

「特異点の最期なのですね。これで平和が訪れます」

 

 外南洋駆逐棲姫もご満悦。声は聞こえないが、アナウンスの向こう側も、その時を今か今かと待ち構えているかのようだった。

 

 そして、

 

Arrivederci(サヨナラ)

 

 その手刀が、胴を貫いた。

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()

 

「なっ……!?」

 

 そんなことをされると思っていなかった外南洋駆逐棲姫だが、間一髪心臓は逸れていたようで、すぐさま離れると自己修復が開始された。それを妨害するために神通がすぐさま動き出すが、血を流しながらも剛腕を振り回された上に、魚雷まで放たれてしまったため、外南洋駆逐棲姫から離れざるを得なくなる。だが、砲撃だけは絶えず撃ち続けることで牽制をした。

 

「あーあ、もう少し左だったか。うまくやれたと思ってたんだけどなぁ。こりゃあたしの落ち度だ」

 

 すぐに深雪を解放するグレカーレ。窒息を免れたことでむせる深雪の背中をさすりながら、ゴメンねと何度も謝った。

 

「ぐ、グレカーレ……?」

「本当にゴメン、ミユキ。実はあたし、()()()()()()()()()()

「はぁ!?」

 

 驚愕の事実に、深雪は目を見開いた。

 

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