後始末屋の特異点   作:緋寺

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海賊船の終わり

 洗脳された演技によって戦況を完全にひっくり返したグレカーレが、外南洋駆逐棲姫の頭部を潰したことにより、設備内での戦闘は残るところ出来損ない2体のみとなる。

 そして、それに関しては響と白雪が対処することで既に終了していた。こちらもまた自爆するようなことは無かったため、忌雷によって出来損ないと化した場合は自爆はしないのだと考えられる。

 要するに、自爆する出来損ないは、()()()()()()()()()()()()ということとなるのだろう。忌雷によってその場で変質したモノは、どうあっても自爆はしない。

 

「グレカーレよぉ……焦らせんじゃねぇよ」

 

 疲れた顔の昼目提督に、グレカーレはゴメンゴメンと謝っていた。

 

 出来損ないを嗾しかけられることをいいことに、外南洋駆逐棲姫を始末するための布石として、昼目提督を響と白雪に任せて安全圏に逃がすという方向に持っていったのは、ここにいる唯一の生身の人間の生存率を上げることが出来る最善の手段。

 実際、昼目提督はかなり疲労はしているものの無傷である。響と白雪はかなり弾を使ってしまったようだが、致命的な傷は負っていない。

 

「さてと、あたしがここを締めていいのかな。あたしをこんな身体にして、そっちは高みの見物? 自分の実験が上手くいかなくてどんな気持ちか聞きたいんだけど?」

 

 小悪魔のような笑みを浮かべて、おそらくここだろうという場所を見つめるグレカーレ。事実、グレカーレの視線はアナウンスをしている最後の1人と目が合っていた。

 

『……なるほど、今回は私の負けです。特異点を確実に始末するために策を幾重にも張り巡らせましたが、その悉くを打ち砕かれました』

 

 素直に敗北を認めたことに、グレカーレだけでなく深雪も驚いていた。顔が見えていないことをいいことに、さんざん言い訳をしたりするかと思っていたが、そんなこともせずに、むしろ()()()()()()()()()声色。

 

『貴女のような例外がいることもわかりました。それによって、特異点を壊すことも出来ませんでした。由々しき事態ですが、その分私はここで学びを得た』

「負けは認めるけど、次に活かそうとするんだね。じゃあもしかして、アンタここにはいないんだ」

『はい、早々に立ち去らせていただきました。敗走となりましたので、褒められるものではないですけどね』

 

 やはり、最後の1人は既に海賊船にはいないようである。最初からここにいない状態で高みの見物を決め込み、外南洋駆逐棲姫とグレカーレ、そして操舵室の連中に忌雷を使用することで、自ら開発した『神の導き』の効果を確認していたに過ぎない。

 

 安全圏からただ見ているだけ。それがまた、深雪の中に怒りを生む。しかし、それを表に出すことは無かった。

 もう何度目かもわからない自分の不甲斐なさに打ちひしがれていたというのもあるが、今この空気を乱すことは、むしろあちらの思うツボに思えた。

 だからこそ、冷静に耐えた。気に入らない。とても気に入らない。だが、絶対に何も言わない。特異点はこんなことではブレないのだと見せつけるために。

 

『では、()()()()()また』

 

 それを最後にアナウンスの声は聞こえなくなった。二度と話はしないと伝えるように強めにマイクを切った音が聞こえた程だった。

 

 しかし、このままじっとしているわけにはいかない。今のアナウンスの言葉から、次に起きることを察することが出来たからだ。

 

「さっさとずらかるぞ! この船、多分()()()()!」

 

 昼目提督がすぐに指示を出した。

 

 間違いなく証拠隠滅が目的。いや、何かしらバレていたとしても、物的証拠がそこに残っていることを嫌い、あわよくば特異点を諸共破壊出来るとなるのなら、あちらは一切の容赦なくこれまで使ってきた船であっても木っ端微塵に破壊するだろう。

 

「司令官、どうせぶっ壊れるなら、別に撃っても構わねぇよな」

 

 深雪が冷たい声で昼目提督に告げる。冷静さを取り繕うために、表情は何も無かった。ただ淡々と、しかし破壊衝動を持ってしまったかのように、ここを壊したくて仕方ないという怒りが見え隠れしていた。

 マイクは切っていても、中の様子はギリギリまで見ている可能性は高い。爆発に巻き込まれているかどうかくらいは確認しそうである。だから、最後まで気を抜かずに。

 

「……ああ、やっちまえ。脱出を優先するなら、外に向けて撃てよ」

「わかってるよ。今は、あたし達全員が逃げることが先決だろ」

 

 怒りが湧けば湧くほど、深雪は変に冷静になれた。心の何処かが壊れてしまったかのように。だから、仲間達の命を優先出来た。

 怒りに任せて爆発前に海賊船を全壊させるという気持ちもあったが、そんなことをしていたら自分も含めて命が危ない。そういうカタチで怒りを発散出来ないことが、余計に深雪の心を冷たくする。

 

「全力でぶっ放す。出口を開くぞ」

 

 言うが早いか、今は誰もいない壁に向けて、深雪は渾身の一撃を放った。消し飛ばす砲撃は、当然壁すらも完全に破壊する。破片も残さず、やはり抉り取ったかのように壁に大穴を空けた。

 もしこれでも通れないようならば、グレカーレが剛腕でこじ開けるつもりだった。だが、その大穴は深雪の心に秘めた怒りを表すほどに大きく、艤装を装備した艦娘ならば余裕で通ることが出来るくらいのサイズである。

 

「提督、掴まってください」

「悪いな!」

 

 昼目提督は穴が空いた時点で動き出していた神通にファイアーマンズキャリーで担ぎ上げられると、すぐさま穴から外へと飛び出した。他の者も後を追うように飛び出していく。

 

「お姉様、お急ぎを……お姉様?」

「グレカーレ、アイツは何処から見てそうかわかるか」

 

 脱出前。深雪はグレカーレにこの空間にありそうなカメラの位置を聞いた。

 

「多分あそこ。ほら、ちょっと穴が空いてる感じでしょ。あそこから全方位カメラ使って部屋の中見てる。あそこだけじゃ無さそうだけど、全部教えとく?」

「ああ、頼む」

 

 グレカーレに聞いた位置に、間髪容れずに砲撃を放った。それも当たり前のようにそこは抉られ、天井に大穴が空く。

 明らかに余計な砲撃だ。やりすぎると天井が落ちてきて大惨事に繋がりかねない。だが、深雪はどうしても止められなかった。自分の動向を見ているアナウンスの向こう側の敵がどうしても気に入らず、せめてその視線を破壊したくて仕方なくなり、昼目提督の安全が確保されたことを確認した後に暴れた。

 グレカーレが指示したのは合計3箇所。ただ怪しそうというだけの部分も、容赦なく破壊したことで、おそらくもう見られていない状態となった。

 

「悪ぃ、待たせた」

 

 視線を切ったとしても、深雪の表情は変わらない。静かに沸点を超え続けている。白雲もグレカーレも、深雪のその気持ちは痛いほど伝わってきた。

 

 

 

 

 深雪達が脱出した直後、海賊船は機関部を中心に爆発を起こし始める。連鎖的に爆発するように仕掛けてあったのか、爆発が更なる爆発を呼び、瞬く間に海賊船はそのカタチを失っていく。

 その衝撃はその戦場を揺るがすほどであり、爆風もとんでもないことになっている。最も近くにいたであろう深雪達は、その場に留まることも難しく、また、爆発したことで海賊船の破片も戦場にばら撒かれることになるため、それを回避するのも一苦労。

 

「危ねぇ」

 

 大きな破片が降ってくることもあったが、深雪は真上に何発か砲撃を放つことで、その破片の雨も消し飛ばし続けていた。

 この対処が防空も兼ねることとなり、空からの攻撃を全てシャットアウトしている。脅威となり得る空母群はもういないものの、まだ残存している改造深海棲艦がいないわけではないため、生身で運び出された昼目提督を守るためにも、こういった配慮は必要だった。

 

「提督! ちゃんと出入り口から出てきてください!」

「仕方ねぇだろ! そっちまで戻る余裕なんて無ぇことくらい、テメェにもわかるだろうが!」

「わかってますけど言わないと気が済まないので!」

 

 そんな昼目提督を迎えに来たのが、出入り口で水上バイクを守りながら奮闘していた鳥海。船内の音が大きくなった時点で出入り口から離れていたおかげで、本人も水上バイクも爆発に巻き込まれるようなことはなく退避出来ていた。

 いや、実際はかなり危険だったみたいだが、鳥海の持つ技術とパワーでどうにか水上バイクに傷一つつけずに抜け出せたようだ。

 

 神通の側に駆け寄り、昼目提督を水上バイクに乗せると、そのままおおわしへと直行。今はこのまま残党狩りをするより、先に脱出した港湾水鬼達の状況を見に行くことを先決する。

 おおわしの面々ならば、港湾水鬼を偏見の目で見るようなことは無いと思うが、万が一何かが起きていないかという不安はどうしても出てきてしまうもの。

 

「大丈夫かい!?」

「何も無かった!?」

 

 時雨と子日がおおわしから再出撃しているのがちょうど見えた。やはり港湾水鬼関連で多少手間がかかったようである。

 

「おう、こっちは終わった。見ての通り、最後っ屁を喰らってギリギリ脱出だ。そっちは」

「勝手にドックに入れさせてもらったよ。僕はおおわしの艦娘じゃないから場所とかわからないし、いろいろ手間取ってしまってね」

「任せちまってすまねぇな。でも、ひとまずは最善を尽くしてくれたってわけだ」

「ああ、そこから何が起きても、僕には何とも言えない」

「それでいい。オレだってあの2人はすぐにドックに入れるぜ」

 

 港湾水鬼に何か仕込まれていたのなら、今取り返しのつかないことになっている可能性すらある。だが、時雨も子日も今は無事に見えるため、2人に仕込まれていたのはグレカーレに寄生した忌雷1体だけだったと言える。

 勿論、2人はうみどりに戻ったら洗浄は欠かさない。遅効性で穢れが何かしら発揮されても困る。

 

「グレカーレは無事かい」

 

 時雨のこの言葉で空気が変わる。昼目提督が顎で視線を向けさせた先にいるのは、深海棲艦と化したグレカーレ。

 時雨と目が合ったところで、グレカーレはニッコリ笑みを浮かべて小さく手を振った。同時に背後の剛腕もダブルピースまで決めていたため、とても複雑な気分になった。

 

 時雨が悔しそうな表情を見せ、子日もショックで言葉を失う。そのままグレカーレとも合流し、理由を聞くことにした。

 

「……間に合わなかったのかい」

「まぁ、そんなところ。実際は間に合ったんだけどさ、操舵室にいた3バカいたでしょ。アレに邪魔されちゃって、そのままこうなっちゃったんだよね。でも安心していいよ。あたしはあたし、強くて可愛いグレカーレちゃんのままだからね」

 

 表情はこれまでのグレカーレと変わらない。言葉も、態度も、性格も、時雨や子日の知っているグレカーレそのもの。

 

「……深雪」

「グレカーレが大丈夫っつってんだ。それに、あたし達はこうなったグレカーレに救われてる。何も変わってねぇよ、本当に」

 

 時雨が深雪の方に目を向けると、無表情の深雪が淡々と説明した。グレカーレが変わっていない分、深雪の変化が明確だった。

 時雨は既に勘付いている。深雪はこれまで以上に精神的に疲弊している。これまでに危惧していた人間を相手にすることだけではなく、仲間が変貌する場面にも立ち合わせていたのだから無理もない。

 

「深雪、僕としては君の方が心配だ。すぐにでも休んだ方がいい」

「うみどりに戻ったらな。まだ全部終わったわけじゃ無ぇ」

「仲間に任せて君は休むべきだね。そんな心持ちで戦場にいられても迷惑だ」

 

 真正面から悪態をつく時雨に、深雪はカチンと来たか、時雨に突っかかろうと前に出る。

 だが、それを止めたのはまさかの白雲である。基本深雪を全肯定する白雲が、今回ばかりは深雪を止める側に回った。

 

「お姉様、時雨様の仰る通りです。お姉様はとても、とても疲れております。ずっと戦い通しで、心が休まる間がありませんでした」

「それはみんな同じだろ。お前だって、グレカーレだって」

「だとしても、今のお姉様には間違いなく休息が必要です。誰よりも」

 

 白雲の真っ直ぐな瞳に、深雪は逆に睨み付けるような瞳をぶつけた。だとしても、白雲は折れない曲がらない。深雪のことを思って、休むように強要した。

 いつもの深雪だったらそうだなとすぐに休む方向に向かっていただろう。ここでこんな態度を取ること自体、精神的に限界が来ている証拠。

 

「深雪ちゃん、救護班の子日からも忠告しておくね」

「あ?」

「今の深雪ちゃんは正直救護対象だよ。自分の顔は自分じゃ見えないからわからないだろうけど、今の深雪ちゃん、ひっどい顔してる。ぶっちゃけ、見るに堪えないレベルだね」

 

 子日にまでそう言われて、周囲に目を向けると、全員が首を縦に振った。白雲や時雨、グレカーレまでもが、今の深雪は()()()と言い切れるくらいに。

 

「こういう時は、一番わかってる救護班の言うことを聞いておきなよ。それとも何かい、君はそんなザマで戦い続けて、過労死でも目指しているのかい?」

「時雨……お前……」

「黙って休みに行きなよ。白雲、いざって時は凍らせてでも運んでいいよ。このバカが言って聞かないならね。なんなら僕が殴って気絶させようか?」

 

 ここまで言われたら、深雪も流石に折れるしか無かった。時雨が念入りに言ってくるほどなのだ。自分の状況があまりにも酷いということが嫌でもわかる。

 

「今ならグレカーレちゃんのビッグハンドで運んじゃうよん♪」

「……やめてくれ。自分の足で戻る」

 

 グレカーレの明るさは特に心に刺さる。しかも、深海棲艦化した自分の特徴を存分に発揮しようとしてくる。そのため、深雪はすぐにうみどりへと戻ることにした。

 港湾水鬼のことも心配だし、この戦場の行く末も見届けたいが、このまま戦いに戻ろうとしたら本気で白雲に凍らされかねない。

 

 

 

 

 深雪の戦いはここで終わる。だが、心はずっとガタガタだった。

 

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