後始末屋の特異点   作:緋寺

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山積みの問題

 海賊船が自爆したことで、改造深海棲艦の残党を全て始末すれば、この長かった深夜の戦いも終了となる。

 生産設備は海賊船と共に失われているため、これ以上は絶対に増えないという確証がある。そうなれば仲間達の士気も上がるというもの。

 

 後少しだと躍起になる仲間達のお陰で、深雪は休息のためにおおわしではなく、うみどりに帰投していた。今の精神状態の深雪は、一番落ち着ける場所──自分の部屋で眠ることが推奨されている。これを言い出したのは勿論、救護班である子日。

 戦場の真ん中を駆け抜けることになったのだが、仲間達の尽力によって、何の妨害もなく真っ直ぐ帰投出来ている。白雲も付き添い、いち早く休息がとれるように力を尽くそうとしていた。

 

「お帰りなさい! アナタ達だけ!?」

 

 工廠でバタバタしていた伊豆提督が深雪と白雲に駆け寄る。深雪は小さく首を縦に振ることしかしない。

 その表情を見て、伊豆提督は小さく息を漏らす。やはり、深雪は怖いくらいに無表情。怒りを籠らせ、冷静でいようとしているからこそ、その感情が顔に出ているのがわかる。

 

「……あの船の中で余程のことがあったのね。深雪ちゃん、すぐに休んでちょうだい」

「みんなに言われたよ。あたしは今休まないとダメだってさ。時雨には迷惑だから帰れって言われた」

「アタシだってそんな顔を見たら今すぐ休めって言うわよ。少なくとも、今のアナタは戦場には絶対に出せない顔をしているわ」

 

 時雨や子日にもさんざん言われたが、伊豆提督からそこまで言われたのはショックではあった。

 

「何があったのかは今は聞かない。とにかく、すぐに洗浄して、すぐに寝ちゃいなさい。それが深雪ちゃんの出来る最善よ」

「……わかった。ハルカちゃんにも言われちまったら、あたしはもう休むしか出来なくなる」

「お姉様、白雲もお供いたします。心をどうか落ち着け下さい。身体に異変があれば、すぐに仰ってください」

 

 こうして、深雪は白雲のサポートを受けながら洗浄され、その足で自室へと移動。白雲にも共に寝てもらい、心落ち着ける状態で就寝した。

 

 

 

 

 深雪と白雲が眠っている間に、この戦場は終息を迎えることとなった。改造深海棲艦は、そこに見えているモノだけで言っても全滅。海中も潜水艦娘達が念入りに確認して、何も潜んでいないことを確認した。

 しかし、残骸があらゆる場所に散らばり、その上で自爆した海賊船の後始末すら押し付けられているという、最後に残していった最大級の()()()()がある。

 

 後始末屋としては、この現場を放置して次の行動に出るわけにはいかない。このままにしていたら間違いなくこの海域は穢れまみれになり、深海棲艦の温床となる未来が見えている。

 しかも、あの海賊船には深海棲艦の生産設備が存在していたのだ。それが破壊された状態とはいえ海中に沈んでしまっているのだから、そこからは洒落にならないくらいの穢れが生まれるだろう。

 

「大規模を超えてるわね……。これは初めての()()()の現場として、すぐにでも後始末を始めないと厳しいかもしれないわ」

 

 全てが終わった後の海上をデッキから眺めながら、大きく溜息を吐くイリス。そのデッキですら、海賊船からの砲撃で傷がついており、軍港都市での修復が必要な状態である。

 

 現在イリスは、うみどりの被害状況を調べるために艦内の調査をしていた。秋月を筆頭とした防衛によって、致命的なダメージを受けるようなことは無かったのは不幸中の幸い。航行も可能ならば、潜水艦の曳航も可能。

 とはいえ、艦内はいろいろと散らかってしまっているため、その片付けも必要になる。後始末よりは優先順位は低いものの、この戦いよりも前の生活を取り戻すためには必要不可欠。

 

「後始末に……おおよそ3日、いや、5日はかかるわね……。船の残骸がとにかく多すぎるし、海中が大変なことになってる。穢れを無くすための薬剤もありったけ投入する必要があるかもしれないし……足りるかもわからなくなってきたわ」

 

 前代未聞の規模の後始末に、イリスも頭を抱えた。海上に出る仲間達にどれだけ負担をかけず、効率的に作業が出来るか。それを考えるだけでも、胃がキリキリと痛みそうだった。

 イリス自身も海に出て作業を手伝えたら、少しは手が足りるかもしれないのだが、それも出来ないのだ。指示を出して、それを見ていることしか出来ない自分の立ち位置に、悔しさが滲み出てくる。

 

「あ、イリスさん、ここにいたんですね」

 

 そんなイリスに声をかけたのは、丹陽である。今は明石もおらず、一人で行動しているようだ。

 明石は工廠で工作艦としての作業に勤しんでいる。こういう時だからこそ、動かせる手は全て動かすのだと丹陽が指示していた。明石の手が増えるだけで、片付けの効率は格段に良くなるだろう。

 

「潜水艦の方は大丈夫だったのかしら」

「はい、おかげさまで。みんなが守ってくれたおかげで、致命傷はありませんでした。そもそもが壊れかけだったわけですが、妖精さんにも被害はなく、曳航のサポートも問題ありません」

 

 秋月の奮闘は、うみどりだけでなく潜水艦もしっかり守っており、一部直撃した部分があっても、機関部は確実に避けていたおかげで、曳航に支障はないという。

 

「私の仲間──純粋種のみんなとも話をしました。といっても、今このうみどりにいる子達だけですが」

 

 戦場でも特に海賊船に近いところまで切り込んだ者に関しては、うみどりまで戻らず、おおわしで一段落つけた後にうみどりに戻ることになっていた。

 そのため、まだうみどりの面々はグレカーレの状態を知らない。唯一知っていた深雪と白雲が、そのことを話さずに休息に入ったのもあり、知ることになるのは日が昇ってからになるだろう。

 

「ハルカちゃんにも先に伝えておきましたが、イリスさんにも話しておこうかなと思いまして」

「何か?」

「我々純粋種、カテゴリーBは、うみどりに全面的に協力します。ここの後始末作業、是非手伝わせてください」

 

 猫の手も借りたい状況、それは願ってもない申し出である。

 

「私達は今回の戦いで、うみどりを心の底から信頼するようになりました。共に戦い、共に危機を乗り越えたことで、強い仲間意識が芽生えたと思っていただければ」

「……ありがたい限りね。私達は過去の人間の罪を贖罪するという意味でも後始末を続けてきたのだけれど」

「その過去の人間が明確になったことで、現代の人間……というと少し主語が大きすぎますが、少なくともうみどり、あと途中から来てくれたおおわしに対しては、不信感も嫌悪感も何もないというのが満場一致の見解です。タシュケントさん風に言うなら、『同志』ですね」

 

 敵の存在が明らかになり、それをどうにかするために動いている者達がここにいる人間だというのならば、そこに惜しみなく力を尽くす。これが第二世代の艦娘達の見解。

 丹陽は最初からその思いでいたが、他の者達はどうしても割り切れなかった。だが、今回の一件は割り切るのには充分すぎたのだ。

 

「その後始末屋が困っているというのなら、手を貸さない理由がありません。私だって艤装を装備して海の廃棄物を拾い回りたいくらいです」

「いや、貴女はダメでしょ」

「明石さんだけでなくみんなに叱られました。スキャンプさんとか酷かったですよ。『身体考えろ。迷惑なんだよババア』ですって」

 

 あのスキャンプなら言いそうだとイリスがクスリと笑みを浮かべた。強い言葉を使いつつも、丹陽のことを気遣っているような思いが見て取れる。

 スキャンプもまた、このうみどりで生活することで気遣う心を取り戻した、いや、()()()()()者。今でも救護班の見習いとして、酒匂のサポートを嫌々という体裁で続けているのだ。

 

「なので、私は頭の方でお手伝いします。85年生きてきたお婆ちゃんの年の功、今後の後始末に存分に役に立ててください」

「ありがとう、丹陽。心強いわ」

「はい、結末まで共に」

 

 改めて心強い仲間が手に入ったと実感するイリスだった。

 

 

 

 

 うみどりと同じように、おおわし側もようやく落ち着いてきた。2人の港湾水鬼の入渠はまだまだ終わりそうに無いようだが、他の者達は入渠まで行くことなく、ただ工廠で身体を休めることで、ひとまずは息を整えることが出来た。

 

「……グレカーレ」

 

 そんな休息する中、時雨や子日と共にいたグレカーレの元へ、神妙な面持ちの昼目提督がやってくる。

 

「なぁに? あたし、あんまり暗いことは好きじゃないよ?」

「お前さんがどうであれ、オレは謝っておかねぇと気がすまねぇ」

 

 ガッと膝をついたかと思えば、グレカーレに向けて頭を下げる。

 

「すまねぇ。オレがもう少し気が回っていりゃあ、お前さんをそんな姿にすることなんてなかったかもしれねぇ。少し考えりゃ、あの操舵室のクズが利用されることなんて想像もついた。港湾水鬼に何か仕込まれてることだって考えられた。なのに、それも気付かずにこんなことになっちまった。本当にすまねぇ」

 

 昼目提督は、グレカーレのこの変化を自分の落ち度だと悔やんでいた。調査隊だというのに、その調査を疎かにしてしまったようなものだ。特に操舵室の男達に忌雷が仕込まれていただなんて、もっと入念に調べていたら事前に防げた可能性が高いのだ。

 

 頭を下げる昼目提督に対し、グレカーレはその誠意を知ることで、少しキュンと来てしまった。

 

「頭をあげてよテートク。あたしはさ、別にそこまで気にしてないよ」

 

 悪巧みをしているようなニンマリとした笑みではなく、昼目提督を気遣っているような優しい笑みを浮かべ、グレカーレは昼目提督と向かい合う。おそらく苦手であろう正座で、真正面に。

 

「あれ、あたしじゃなかったらもっと大変なことになってたんだと思う。あたしだからこれで済んでるんだ。だからさ、むしろ気にされる方があたしは嫌だな」

「……グレカーレ……」

「こうなっても良いことがあるんだよね。ほら見てよこの輝く肌。ツヤッツヤでモッチモチ。髪も潮風に当たってるのにサラッサラでさ、むしろ当たった方が瑞々しくなるかも。港湾水鬼のこと羨ましいなーって思ってたけど、それが手に入っちゃったんだもん。()()()()()喜ばしいかなって思うんだよ」

 

 元々は褐色だったのに、今は美白の肌。髪も綺麗に黒く染まり、ひと目見てグレカーレとわかるものはそうそういないだろう。そんな姿になっても、グレカーレはケラケラ笑って済ましていた。

 

「あー、でも、不意に触るのはやめてね。あの時にも言ったけど、この身体さぁ、本当にずっと気持ちいい感じなんだよね。深海棲艦だからか、妙に敏感っていうか。だから、叩くのは当然だけど、撫でるのとか絶対ダメだよ。情操教育に悪い喘ぎ声出すからね」

 

 冗談でも言うように軽い口調で語るグレカーレに、昼目提督はより申し訳ない気持ちになった。

 こんなことを言っているが、グレカーレは間違いなく思うところがある。表情にも態度にも雰囲気にすらそういうのは見せていないが、昼目提督には気付くことが出来た。

 だが、本人が望むのだから、それ以上深く追求するのはやめる。今一番辛いのはグレカーレなのだから、本人が望む通りに気にしないように振る舞うことにした。

 

「わかった。お前さんがそう言うなら、オレぁ気にしねぇ。今まで通りにする」

「そうしてよね。あたしのために」

 

 

 

 

 海賊船との戦いが終わっても、問題は山積み。ここからはみんなで協力して、1つずつ確実に片付けていかなければならない。

 




おおよそ50話ほど続いたvs海賊船はこれで終了です。勝利を収めることは出来ましたが、大きく傷をつけることになってしまいました。
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