後始末屋の特異点   作:緋寺

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芽生えたモノ

 精神的な疲弊が酷く、怒りが燃え滾ってしまっているせいで、案の定悪夢を見てしまった深雪。目が覚めたとき、電や白雲に対しても変化がないかを問うた辺り、グレカーレの変化が大きなトラウマになってしまっているのは間違いなかった。

 海賊船で見たことを、余すことなく伊豆提督に語った深雪は、どうしても怒りが抑えられない、ずっとむしゃくしゃしている状態だと漏らす。素直にそれを打ち明けたのならまだマシだとは思うが、今の深雪の精神状態はかなり危険な状態にある。

 出洲一派に対しての怒りと憎しみが膨れ上がっているのが、伊豆提督からも見えているからである。

 

「……深雪ちゃん、アナタの気持ちはわかるわ。アタシだって、仲間にそんなことをされたら本当に気分が悪いもの。まだ本人を見ているわけではないけれど、とてもじゃないけど許し難い所業よ」

 

 伊豆提督は深雪に寄り添うカタチで本心を語った。その表情は、提督としてこれからを見据えるモノ、しかし、内側に秘める怒りも隠していないモノ。

 

 深海棲艦に姿を変えられるというのは、カテゴリーYというわかりやすい前例があった。艦娘が深海棲艦に変えられるのも、ここにいる白雲が前例として存在している。

 しかし、その思考をも変え、自らの信者(尖兵)に書き換えてしまうというのは、前例のない、あまりにも平和とは程遠い行為。最初から自分についてくる者だけをそうするのであっても許し難いのに、嫌がる者ですら強制的に自らの考えを崇拝するように弄るだなんて、どうあっても正義なんて言えない。

 

 深雪の怒りや憎しみもそこにある。グレカーレは寄生され、変化する直前まで嫌がっていた。激痛まで与えられ、嫌悪と苦しみを感じた非常に歪んだ表情をしていた。しかし、それを無理矢理曲げられ、それこそ()()()と言えるような半狂乱となり、過剰過ぎる快楽によってあの姿にされている。

 その一部始終を見せられたことで、深雪はグレカーレだけでなく、他の仲間達も同じようにしてくるのではないかと想像してしまう。それがまさに、先程まで見ることになった悪夢に反映されてしまっていた。仲間達が次々と忌雷に寄生されて敵対する夢を。

 

「冷静でいようとする姿勢は、とても立派だと思うわ。怒りや憎しみに身を任せて暴れないようにしているんだもの」

「……ああ、ハルカちゃんにも迷惑はかけられねぇ。こんなカタチで手間かけさせちまったけどさ……」

 

 うみどりのことを思って、深雪は冷静に努めようとしている。だが、仲間のことを思うあまり、その怒りは深雪が今までに感じたこともない程になっていた。

 それこそ、()()()()()M()()()()と思えるほどに、出洲一派に対して憎しみを持っている。時雨や白雲と同じように、呪いの方向性を一極化しているようなもの。

 しかし、元から呪いを持っていて、それを制御しながらうみどりの面々を仲間だと信用出来る時雨と白雲とは違って、これまでそういった深い憎しみを持ったことのない深雪だからこそ、ここまで深刻な状態となっている。

 

「ひとまず2人とも、朝ご飯を食べちゃいましょ。セレスちゃんがアナタ達のことを心配しているわ」

「……悪ぃ、この後仕事もあるんだもんな。ちゃんと食って、あたしも参加するから。白雲、飯食いに行こう。セレスに心配かけるのも違うからな」

「はい……お姉様。ですが、無理だけはなさらぬよう」

「大丈夫だ。身体はピンピンしてんだから」

 

 深雪はあくまでも自分は大丈夫だと思っているようだが、誰がどう見てもおかしな方向に向かっているのは明らかである。何せ、こうやって話している間も、まるで表情を変えていなかったのだから。

 

 電はそれを指摘したかった。したかったのだが、そこまでの勇気は出なかった。顔を合わせること、悪夢から目覚めさせることで振り絞った勇気を使い切ってしまったため、これ以降は口に出来なかった。

 

「深雪ちゃん、ご飯を食べた後、お話をしましょうか。多分その時には、おおわしに引き取ってもらってる子達も戻ってくるわ」

 

 だが、伊豆提督としては見過ごせない状態。寝起きであり空腹でもある今話をしたところで、深雪の頭には入らないだろうということを見越して、ひとまず今の状態でもいいから腹を膨らましてもらい、後始末に向かおうとする前に一度、おおわしで休息していた面々も加えて話をする方向に持っていく。

 ある程度は話しているのだが、他の者の観点……特に、今はおおわしにいるグレカーレ(一番の被害者)からの言葉を直に聞くことは必要。

 

「……わかった」

 

 深雪はそれに従う他なかった。

 

 

 

 

 伊豆提督の予想通り、深雪と白雲が朝食を終わらせたタイミングで、おおわしで休息していた仲間達が戻ってくる。その一団には水上バイクの昼目提督も加わっており、むしろ先陣を切ってうみどりへと向かってきていた。

 だが、それよりもどうしても目を引く存在がそこにいた。深海棲艦化させられたグレカーレである。

 

 朝食を終えた者から後始末の作業に入ろうとしている今、その姿を見る者は多く、事前に聞かされていないために言葉を失う者は多かった。最初はグレカーレだと気付かない者すら出てくる始末である。

 

「Ciao〜。グレカーレちゃん帰投でーす」

 

 軽いノリで工廠に入ってくるグレカーレ。時雨や子日もこの態度には苦笑するしか無かったのだが、伊豆提督としては絶句してしまう。この戦いを終わらせてほしいと送り出した仲間が、変わり果てた姿で戻ってきたのだから。

 

「もう、ハルカちゃんもそういう顔するの? あたしは大丈夫だってみんなに言ってんのになぁ。そーゆー顔されると、逆にきっついんだよ?」

 

 そのノリは崩していないものの、伊豆提督も昼目提督と同様に、グレカーレの心の奥底にある()()を感じ取ることが出来た。そして、昼目提督と同様に、本人が望んでいるのだから、これ以上深く追求することはしない。

 

 だが、本人がそれを望んでいるとしても、深雪だけはどうしても怒りを抑え込むことは出来なかった。

 

「グレカーレ……本当に大丈夫なのか。無理してないか」

「何度も言わせないでよ。あたしは大丈夫。こうなっちゃったモンは仕方ないし、あたしがあたしでいられてるんだから、周りが何言っても意味がないの」

 

 ケラケラ笑うグレカーレだが、深雪は拳を強く握り締めて声を荒げるのを耐えるしかなかった。

 深雪だけではない、その現場にいなかった者達──今工廠で準備をしている者なども、こんなグレカーレの姿に複雑な心境だった。電はもう泣きそうな表情をしているくらいである。

 

「イナズマ、今言った通りだけど、あたしは気にしてないんだよ。これ、あっちのテートクにも言ったんだけどさ、見てよこの綺麗な肌とさらさらな髪。女としてとんでもないモノ手に入れたと思わない?」

 

 冗談なのか本気なのかもわからないグレカーレの戯けた態度に、誰もが口を噤む。

 

「あ、でも服は替えたいかなぁ。勝手にこんなのにされちゃったけど、やっぱりアイツらの思い通りって感じで気に入らないし。でもなぁ、この身体って変に敏感だから、いつものだと風とか感じすぎちゃうかもしれないんだよねぇ。ピッチリしてる方が逆にいいのかもしれないけど、悩んじゃうなぁ」

 

 ノリは本当に変わらない。むしろ、出ていく前よりもテンションが高く見える。

 深海棲艦化したことによる昂揚が続いてしまっているのか、下がりそうなテンションを無理に上げようとしているのかはわからない。だが、グレカーレが()()()()()()ことはわかる。

 

「グレカーレ……お前、今日の後始末は出るのか……?」

「んー、一応そのつもりかな。ミユキ、海見た? エグいとかそういうレベルじゃないよアレ。みんなで力を合わせて片付けないと一生終わらないんじゃないかな。向こうでも全員やる気満々だよ。シグレだって『僕がやらないと終わらないからね』とか言ってたし、援軍のハルナ達も手伝いますって言ってくれてるしね。アサシモはうえって顔してたけど」

 

 やたらと口数が多いようにも思えた。質問の機会を与えないようにしているようにすら感じた。自分の考えはコレだと押し付けているようで、反論の余地も無い。

 話題に出された時雨や榛名、朝霜も、グレカーレがそういうことを言っていても話しているのは事実であるため何も口を挟まなかった。今は、今だけは、グレカーレのためにも変な空気にならないようにしようと努めていた。

 

「ハルカ先輩……すんません、オレもその場にいたのに、何も出来ませんでした」

 

 昼目提督も、グレカーレのコレにはかなり悔しい思いをしている様子。直接ここに来たのも、今回の件で伊豆提督に直接謝罪をするためである。

 グレカーレには気にするなと言われていても、伊豆提督の仲間が危害を加えられたのは事実。ケジメとして頭を下げなければならないと。

 

「ううん、アナタのせいじゃないわ。あちらは常に未知の手段を使ってくる。調査隊であっても、足を掬われてもおかしくないわよ。悔しいのはわかるけれど、組織の頭を張るなら、あんまり落ち込んだ姿を見せるものじゃないわよ」

「ですが……」

「グレカーレちゃんは気にしていないと言っているんだもの。アタシ達は、それを信じてあげるしかないわ。だから、あの子とは普段通りに接してあげるのが一番よ」

 

 昼目提督はどうしても悔しいのか、伊豆提督にここまで言われても表情に出っ放しである。そんな後輩の姿に、伊豆提督も仕方ないと思いつつ苦笑した。

 

「はいはい、暗い雰囲気はあたしが気に入らないから、元に戻ってよね。何度でも言うよ。あたしは今のあたしを気にしてない。戦いが終わったんだから、ここからはいつもの後始末屋に戻ってよ。せっかく手伝おうってやる気出してんだから、萎えさせないでよね」

 

 笑顔はそのままに、グレカーレはこの場を和ませようとずっと口を動かし続けている。本当に隙を与えないように。

 

 そんなグレカーレの姿に、深雪は一層怒りが増した。グレカーレがここまでしている姿を引き起こしたのは、紛れもなく出洲一派のせい。それを意識してしまうだけで、頭に血が昇るような感覚を覚える。

 だが、表情には絶対に出さない。グレカーレのためにも、気にしていないフリだけは続ける。その奥の感情が筒抜けであっても、冷静に努める。

 

「深雪、バレバレだよ」

 

 そんな深雪の肩をポンと叩いたのは、おおわしから戻ってきた時雨。

 

「僕は前に、君も僕達の呪いを分けてあげたいと言ったね」

「……ああ、そんなこともあったな」

「今、それが現実になってしまったのだと思う」

 

 深雪の心に芽生えているのは、まさにカテゴリーMの持つ呪い。人間に対しての怒りと憎しみが、制御出来ないくらいに溢れてくる状態。

 

 深雪はカテゴリーW。()()()()()()()()()()()を内包していると考えてもいい。

 それは、カテゴリーRGBだけではなく、人工的に作られている混成種であるカテゴリーCMYの要素すら持っている可能性はあった。つまり、カテゴリーMの要素──『呪い』だって、深雪の中にあってもおかしくない。

 

「あたしに呪い……かよ。でも、お前に言われたら、なんだかそんな気がするな。お前達が持ってたのは、こういうのなのかよ」

 

 言葉にされたら理解出来た。今のこの感情は、生まれたばかりのカテゴリーMが持つ感情とほとんど同じと言える。しかも、最初から一極化されている分、その感情が本来よりも強かった。

 

 

 

 

 深雪に芽生えたモノは、一極化されたカテゴリーMの持つ呪い。全ての要素を持つことによる弊害。持たなくてもいいモノまで持ってしまう、カテゴリーWの()()特性。

 




ついには深雪まで呪いを持つこととなりました。カテゴリーWは最初から持っていたけど表面化されていなかったとも取れますね。何せ、全てのカテゴリーの要素を持っているんですから。
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