後始末屋の特異点   作:緋寺

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深雪の呪い

 これまで後始末屋としてやったことのない、大規模を超えた超規模の後始末。幸いにも仲間の残骸を回収しなくてはならないなんてことはないため、そういった精神的なダメージが発生することはないが、単純な作業量は大規模を超えているだけあって、尋常ではなかった。

 何処から見ても一面が残骸で埋め尽くされているようなモノ。足の踏み場がないというようなことは無くとも、普通の戦いではあり得ない密度で残骸が散らばっているため、肉片集めだけでも一苦労。

 それに加えて、海中にもかなりの数が散らばっている上に、最後の最後に海賊船そのものが爆発しているのだからタチが悪い。後始末で()()()()()の残骸というのは滅多にないし、それ自体が穢れを発生させるようなモノというのは前代未聞。

 

「ハルカ先輩、オレんところも全面的にお手伝いさせていただきます。人数、いりますよね」

「ええ、そう言ってもらえるとありがたいわ。ちょっとこれは後始末屋でも手に余るもの」

「榛名達も手伝ってくれるそうです。初心者でも出来る仕事から割り振ってもらえますかね」

 

 おおわしは簡易的な後始末くらいならやったことがあるものの、ここまでの規模となると、本職の者達に指示を出してもらった方が確実。

 榛名達からも手伝わせてほしいと進言されているため、そちらにも作業の説明は必要。一度工廠内の作業は手伝ってもらっているが、今回はそれ以上のことをやってもらうつもりである。

 そして、今。潜水艦勢も後始末は見ていただけで初めてやること。こちらにも勿論指示が無ければ何も出来ない。

 

 初心者ばかりの作業になるが、猫の手も借りたい現状では、これも立派な戦力なのだから。

 ちなみに、妖精さんも現在、全員分のインナーを製作中である。すぐにでも用意出来るらしいので、作業はすぐにでも始められることだろう。

 

「作業をしてもらっている間に、今回の戦いのことについても話してもらうわ。よかったわよね」

「はい、オレはそのために来たようなモンです。一部始終見てますし、データも残してあります。それに、ハルカ先輩に相談に乗ってもらいたいこともありますし」

「相談?」

「後から話します。今はまだおおわしにありますが、何処で管理するべきか迷っているモノなので」

 

 伊豆提督は首を傾げることしか出来なかった。

 

「じゃあ、あたし達は後始末に行く。いいよな」

 

 戦いの時の話は提督達にやってもらって、艦娘達は後始末作業に入る。これが現在の最適解。深雪も勿論、後始末に参加する方向に持っていこうとした。

 だが、現在の精神状態で後始末がまともにやれるのか。身体は確かに問題ない。悪夢に魘されていたことで、若干寝不足気味というのは見えるものの、本人はやる気満々。朝食もしっかり摂れているため、作業自体は出来るだろう。

 

 伊豆提督的には、深雪にはもう少し休んでいてもらいたいという気持ちが大きい。

 怒りや憎しみに呑み込まれているような心で、その元凶たる海賊船の残骸をまともに片付けられるのか。

 

「深雪、君はまだ休んでいた方がいいんじゃないかい?」

 

 ここで口を挟んだのは時雨である。先程も、深雪には『呪い』が芽生えてしまったと忠告したばかり。ここでさらに深雪に強く出る。

 電も白雲も深雪にどうこう言うのは厳しい。電はストッパーとしての立ち位置を持っていたが、ここ最近の状態から、強く出ることは出来なくなってしまっている。白雲は基本的に全肯定なので、後始末をやると言っているのを否定することはない。

 だが、時雨は違う。互いに好敵手(ライバル)くらいに思っているからこそ、容赦なく強く物言い出来る。

 

「あたしは充分休んだろ。それに、戦力は1人でも多い方が早く終わるんだ。あたしが休む理由にはならねぇよ」

「いや、今の君はまともに後始末が出来ないと思うよ。同じ『呪い』を持っている僕だから言い切れる」

 

 断言する時雨にカチンと来た深雪は、どういうことだよと詰め寄る。だが、こういう時のストッパーにはなれるようで、電と白雲が両サイドからその行動を止めた。

 

「じゃあ聞こう。君はあの船の残骸を、そこにあるものを、()()()()()片付けようと思えるかい」

 

 ただそれだけで、深雪の動きは止まった。何もせずに終われるとは、到底思えなかったからである。

 

 海賊船は確かに爆破された。今はその影も形も残っていない。だが、船の形が残っていないだけで、その中にあったモノが木っ端微塵になっているとは限らない。

 それが、外南洋駆逐棲姫の亡骸である。グレカーレが頭部を潰したことで絶命したそれは、海賊船の爆発に巻き込まれて何処かに落ちている可能性が高い。損壊はあっても、それがそれと断定出来ないくらいになっているとは限らないのだ。それは勿論、あの時の出来損ないにも言える。

 つまり、今の深雪は、グレカーレがこうなった原因を作ったモノを見た場合、その怒りをさらに暴走させる危険性を孕んでいるということになる。冷静に努めようと思っていても、それは間違いなく深雪を怒りに狂わせるきっかけとなり得る。

 だから、何もせずに終われるとは断言出来ない。見つけたら、八つ当たりと言ってもいいくらいにグチャグチャに破壊する自信があった。

 

「返す言葉も無いのなら、君はこの後始末は参加しない方が身のためだよ。呪いの業火は、君が思っている程生ぬるいモノじゃないんだ。僕と白雲は今でも秘めているわけだからね、君よりも理解している」

 

 深雪が視線を向けると、白雲は少し目を伏せた後、小さく首を縦に振った。今でこそ抑え込めているため、暴走することなくこうしていられるが、生まれたばかりで呪いに本能を焼かれていた時は、手近な人間の住む島を襲撃しようと考えたくらいに強い怒りと憎しみを持っていたのだ。

 今の深雪は、それと同じことを出洲一派に関連するモノ全てに行うだろう。それが人間であっても、艦娘であっても。

 

「もう少し落ち着いたら参加すればいい。僕は君が落ち着けるとは思っていないけれど」

「……んだと」

「君、そこまで腹を立てることは初めてじゃないかい? しかも、僕や白雲のような全方位じゃなく、最初から一極化しているんだ。こうしているのもイラつくんじゃないかい?」

 

 呪いの理解者であることもあって、時雨が話していることは全て、深雪には図星だった。

 今すぐにでも出洲一派を探し出して八つ裂きにしてやりたいというのが本心だ。だが、そんなことをしたらうみどりに迷惑がかかる。だから自重しているだけ。それが無かったら、制止も聞かずに皆殺しに行っていたかもしれない。

 

「悪いことは言わない。君は誰かと心を休めることをした方がいい。呪いの先輩である僕からの優しい優しい忠告さ。これ以上壊れたくなかったらね」

「あたしは壊れてなんかねぇよ」

「自覚が無いのが重症の証さ。君はそれでも、周りが大丈夫だと思っていないなら、そちらに倣った方がいい。僕以外にも休めと言われたら、つまりはそういうことさ」

 

 時雨に言われて周りを見回す。こんなことを言ってるのは時雨だけだと信じて。

 しかし、実際は時雨の言う通り、周りの者達も深雪には休んでもらいたいという気持ちが見えていた。ようやく勇気が出せた電も、全肯定の白雲も、今の深雪は今までの深雪とは違うと言い切れるくらいに。

 そして、伊豆提督が最も顕著だった。目がもう休めと言っているようなものだった。時雨の口出しに感謝しているかのようにも見えた。

 

「……ハルカちゃん、あたしは……」

「ごめんなさい。今回ばかりは、時雨ちゃんの言っていることが正しいわ。深雪ちゃん……アナタ、()()()()()()()()()?」

「鏡……?」

「一度見てみなさいな。アタシ達の言ってること、わかるから」

 

 着替えている時も、気が逸っていたからか鏡なんて見ていない。自分の顔なんて知らない。心にそんな余裕がなかった。

 

「グレカーレさんも少しお休みしてくださいね」

 

 そして、グレカーレの後始末はこの話を少し離れて見ていた丹陽が禁じた。深雪が強行するようならば、丹陽も説得するつもりだったらしい。

 

「えー、ボス何言ってんのさ。あたし、どう見ても深雪よりやれそうっしょ?」

「見た目だけは、ですよ。今の深雪さんは私も作業に行かせようなんて思えませんけど、グレカーレさんだって似たようなものですからね?」

 

 急な飛び火だったが、伊豆提督に続いて丹陽からもそんなことを言われてしまったら、深雪も立つ瀬が無かった。余程自分が酷い顔をしているのだろうと考えてしまう。しかし、内に潜む怒りは滾ったまま。この炎は全く鎮まる気配がない。

 

「あたしは平気だって言ってんじゃん〜」

「口では何とでも言えますから。この後、私の部屋に来てください」

「なんでさ」

「まずは面と向かってお話ししましょう。あ、深雪さんも来てください。お婆ちゃんとお話しして、少しでもスッキリしましょうね」

 

 なんでそんなことをしなくてはならないのだと突っかかろうとしたものの、丹陽の無言の圧によって言葉を呑み込んでしまった。

 これまではここまで感じたことが無かったのに、今だけは丹陽から()()()()()を感じた。これが第一世代、大きな戦いを二度経験し、それを乗り越えてきた古き艦娘の力なのかと。

 グレカーレも反発しようとしたのだが、深雪と同じように丹陽の圧に押された。押しが強くなっているのは知っていても、自分の知っている丹陽とは思えないくらいに強い圧に、少しだけ震えてしまった。

 

「しょうがないなぁ。じゃあ、ちょっと話するだけだよ?」

「はい、それで構いません。深雪さんもいいですね?」

「……わかった。とりあえず丹陽といることにする。電、白雲のこと頼む」

「な、なのです」

 

 電とのいざこざは一旦置いておいて、深雪はいつもついてきてくれている白雲を電に任せることにした。白雲はえっという顔を見せるが、電ならば白雲の中では深雪の次に頼れる相手なので、ひとまずは良しとする。

 電は、これでもやはり距離を感じてしまうが、自業自得だと理解しているので何も言わない。それでも頼られたことは間違いないので、これまでの自分の行いを振り払うように、白雲の手を握った。

 

「電様……宜しくお願い申し上げ奉ります」

「そ、そんなに畏まらなくてもいいのです。白雲ちゃんも初心者ですので、電が後始末のやり方、教えるのです」

「はい。お姉様の分まで、この白雲、全身全霊をもって後始末に身を投じようと存じます」

 

 うみどりを信じられるようになっている白雲も、後始末屋として初めての作業に参加することを決意した。本来ならば深雪がやる作業をやるということで、その意気込みはかなりのモノ。

 この表情が後に疲労とそれ以上の感情で歪むかもしれないと思うと、電は何とも言えなかった。

 

「では、この2人は私がいただいていきますね。またいろいろな詳細は、後から聞かせてください」

「ええ、その子達をよろしくお願いね」

「頼んだ。後からまた話させてくれや」

 

 

 

 

 ここから深雪は、グレカーレと共に丹陽と話をして心を落ち着けることになる。だが、この呪いはそう簡単には払拭出来ない。ならば、少しでもうまく共存出来るようになりたいところである。

 




現在の最高齢、お婆ちゃんこと丹陽のありがたい話。深雪もグレカーレも、これで何か変わることが出来るでしょうか。
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