超規模の後始末が続く中、伊豆提督と昼目提督は、情報共有のために執務室で見てきたことを全て話していた。
海賊船の深部まで入り、全てを見てきた昼目提督の情報は、伊豆提督としても値千金。出洲一派に繋がる情報では無いかもしれないが、敵がどういうことをしてくるかを知ることが出来れば、今後のことを考えることも出来る。
「これがマークちゃんが持ってきてくれた情報ね……」
「はい。船倉の一部始終がここに映っています。
あの戦場で常に撮影し続けていた昼目提督が、その時の映像を伊豆提督に見せる。
二の腕に括り付けたカメラでの撮影のため、高さや向きが稀にブレることはあるが、それでも深海棲艦の生産施設はハッキリと映っており、しかもそれが動画として残されているおかげで、何が起きているのかも完璧にわかった。
しかし、動画で残されているということは、あまり見たくない瞬間、グレカーレが深海棲艦へと変貌する瞬間も、一部始終が残ってしまっている。これはおおわしにいる間にグレカーレには伝わっており、敵を追い詰めるための手段になるかもしれないなら、使ってくれて構わないと許可を貰っている。
その凄惨な現場を見て、伊豆提督は思わず口を手で覆った。吐き気がするというわけでは無いのだが、最悪な気分になったのは間違いない。
深雪が呪いを持ってしまったのも理解出来る。仲間がこんなカタチで姿を変えられたら、憎しみを持ってもおかしくない。それに、グレカーレだったから洗脳が効いていなかったが、そうでは無かったらどうなっていたか。もし、あの場でグレカーレの命を奪わねばならなかったらどうしていたか。それを考えるだけでも嫌な気分になる。
「……マークちゃん、アナタの見解として、この敵のやり方はどう思う?」
このやり方というのは勿論、グレカーレのこと。昼目提督は間髪容れずに答える。
「忌雷を回避する方法は無いと言ってもいいと思います。グレカーレは本当にたまたま、奇跡的に洗脳を回避しただけ。そんな方法を平和のためと宣う連中は、正直言って
「アタシも概ね同じ意見よ。自分の考えに属していない者ですら従わせる。そんな連中には平和も正義もないわ。変えられたら幸福であろうが、それまでの感情を消しているのは違うわ。この行為に正当性なんてないわね」
「はい、オレもそう思います。平和のため正義のためっつってるけど、これはどう考えてもエゴっスよ。自分の研究成果を見せたいだけなんじゃないかとすら思えますね」
ここまで来ると、もう他者を陥れることでしか自分達の存在を誇示出来ないのではないかとすら思えてきた。このような手段が本気で世界の平和に繋がるというのなら、それはもう狂っているとしか言いようがない。
本当にそれが平和に向かう道だとしても、他者に強要している時点で間違っているのだ。正しいだなんて絶対に言えない。
「奴はこの忌雷を試作品と言っていました。つまり……」
「
「はい。寄生した相手を確実に支配下に置くなんてこともあり得ますよ。対策出来るかはわかりませんが、どうにかしないと本気でマズイっスよ」
下手をしたら、出来損ないすら作らず、寄生された者が確実に深海棲艦化した上に姫級の力を得た挙句、全員が漏れなく出洲一派と同じ思想を持ってしまう。それが人間であろうが艦娘であろうが。
恐ろしいことに、それをただばら撒くだけで戦力増強信者爆増である。最悪、世論を傾かせることすら出来かねない。何せ、深海棲艦化をした場合、身体が書き換えられる……つまり、病も何もかもを凌駕してしまうからだ。
考え方次第では、強靭な身体と永遠の命にすら繋がりかねない。それを求める人間なんて山ほどいるだろう。
「勝てば官軍じゃないけど、出洲の平和を否定する側がマイノリティになってしまう可能性もあるのよね……。そうなったらおしまいよ」
「はい……。本当にこちらが悪にされかねません。変えられた者は、それが正しいと思い込まされる上に、こちらを始末する圧倒的な力すら得ます。思想も暴力も手に入るんですよ。これはもう信者じゃなく暴徒ですよ」
しかも、今のままでは不可逆──一度変えられたらそのままとなってしまう。本来の考えすら塗り潰して、存在そのものを都合のいいものに書き換えてしまうのだ。そして、自分の手を汚すことなく、変えられた者が勝手に暴れ始める。
そんなことが許せるわけがない。そんなカタチで自分達の意見を押し付ける者が、正義なわけがない。
「どうにかするにしても、何をどうすればいいのか……。アタシにも見当がつかないわ」
「オレもっスよ……。そもそも、これがどうにか出来れば、変えられたグレカーレやカテゴリーYだって元の姿に戻せると思うので」
「最終的にはそこに行きたいところだけれど……今はこちらでも研究していくしかないわよね……」
伊豆提督も昼目提督も、頭を抱えるしかなかった。
「一旦置いておきましょ。これに悩み始めたら、時間がいくらあっても足りないわ」
「そっスね。じゃあ、ちょっと相談に乗ってもらいたいことがあるんスけど」
「言ってたわねぇ。何か困ったことでも?」
ここからは話題を変更。時間も無限ではないため、解決出来るところから解決するべきである。
昼目提督の相談事、困り事というのは、今おおわしに保管されている
「……鶴棲姫の生首!?」
流石に伊豆提督も驚きを隠せなかった。
元はと言えば、戦場で伊203が持ってきたモノ。この状態になっても生きているかもしれないから管理するべきだとおおわしにおいていかれたモノ。
現在は生首と共にそこから下の部分も、艤装も含めておおわしに運び込まれており、戦闘後に何処の鎮守府でも行われる洗浄作業によって穢れ自体は洗い流されている。
ちなみにグレカーレもおおわしで洗浄を受けているため、深海棲艦化してしまったとしても、穢れを振り撒くようなことは一応無くなってはいた。
「頭と身体、そして艤装はこちらで管理しています。3つに分けているわけですが、妖精さんに頼んで、各々干渉出来ないように置いてある状態です」
「……そんな状態でも生きているというの……?」
「最初は半信半疑でしたよ。フーミィもかもしれないしか言えなかったわけですし。ですが、妖精さんに調べてもらったところ、それが本当だった」
榛名がその場で話していた『双胴艦』というのが正解だったというのが答えである。
深海鶴棲姫──第二次深海戦争の際の元帥である原は、
艤装が破壊されても、本体が残っていれば自己修復される。本体が破壊されても、艤装が残っていれば自己修復される。斃すなら、どちらも同じタイミングで破壊するしかない。寸分違わない時間とは言わないものの、実際はかなりシビア。片方がやられると、もう片方が猛攻による反撃か徹底的に逃げ回るかして、相方の自己修復を促進させるまでする。
そして最も重要なところは、今どちらも核の部分を破壊していないため、
「……ちなみに、話すことは出来そうなのかしら」
「出来ないことは無いと思います。艤装と身体を離れさせていても、頭だけで活動が出来そうなので」
「これまでの誰よりも気持ち悪いわよ」
思わず本音が出てしまった伊豆提督に、昼目提督も苦笑した。
首だけで生きているというのは、オブラートに包んで表現したとしても気持ち悪い存在。
「そこからあちらの情報は引き出せるかしら」
「鶴……いや、原元元帥は、最初からあちら側なので、何をしても話さないような気はしますね。やれることはやりますが」
原の名前が出たことで、伊豆提督がまた目を見開く。それも今ここで初めて展開される情報であるため、驚きを隠さない。
元々第二次深海戦争の元帥が出洲の研究の肯定派だったことは知っていたが、今でも生きていた上に、カテゴリーYとなって戦場に現れ、しかも簡単には死なないバケモノになっていたとなれば、こうもなる。
そんな原が出洲一派について話をするとは到底思えない。それこそ、
「相談したいのは、この
「何とも言えないわね……。本当なら今の元帥に引き渡すべきだとは思うけれど、モノがモノだもの。報告だけはしっかりしておいて、要否はあちらに委ねるということくらいしか出来ないわ」
これに関しては伊豆提督すらお手上げ。話が出来るならしておきたいというのもあるが、話したところで何か変わるかもわからないのならば、そこに時間を使うのはナンセンスと考えた。
結果的にうみどりで管理するというのならば、それに従うのみ。おおわしで管理するなら任せるしかないし、他で預かるというのならそこに任せるしかない。
「この後、元帥に連絡しましょうか」
「うす。生首を見せながらの方がいいですかね」
「胃薬常用になりつつある元帥に予告無しでそんなもの見せたら、心臓止まるわよ」
「ごもっとも」
ここでの話の後は、元帥への連絡という流れになった。今回の戦いの件もしっかり伝えておかなければならないし、これからのことも相談しておきたい。
「トシちゃんにも改めて連絡しておかないとね」
「そっスね……というか、一度連絡は」
「してるわよ。今日の朝のうちにね。今回の残骸、正直なところ、うみどりの許容量を超えてるもの。だから、先んじてあちらにも準備してもらって、残骸を運べるように手配しているわ」
距離があるため、最速でももう少しかかりそうだが、後始末にはさらに増員が期待されているようである。基本的には後始末ではなく残骸運搬用。海賊船の残骸を運べるようにクレーンなどまで持ってきてもらえるように手配しているらしい。
なるべく早く終わらせたいということもあり、頼れるところは全て頼るという方針。
「マークちゃんも、手伝ってくれてありがとう。本当に猫の手も借りたいくらいの規模だもの」
「いえいえ、こちらも調査隊としてモノが欲しかったので。そのついでみたいなモンですから。いや、勿論ついでっつっても、誠心誠意やらせてもらってます」
調査隊は調査隊の仕事があるため、それも当然実行中。海賊船から得られる情報はなるべく現物を持ち帰りたいというのが調査隊としての本心である。映像以外の情報もあればあっただけ先に進めるのだから。
超規模の後始末はまだ始まったばかり。使える手段を全て使い、この場を片付け、次の戦いに向けて進めていきたいところである。
軍港都市に向かう前に、軍港都市からも援軍を募っています。この結果、回収した残骸をそのまま持っていくタンカーなどを手配することに成功しました。頼れるところは次から次へと頼っていきたいところですね。