後始末屋の特異点   作:緋寺

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偏った祈り

 超規模後始末、1日目午後の部が開始される。誰もがこの作業は1日では終わらないと確信しているため、最初から『1日目』と称していた。

 疲れはあるものの、セレス手製のカレーを食べることで英気を養い、疲労も多少は癒した状態で、また海へと向かって行く。

 

「ハルカちゃん、午後からはあたし達も出るぜ」

「いろいろあったけど、ひとまず落ち着くところがわかったからさ」

 

 そんな中、深雪とグレカーレが伊豆提督にこれからの後始末に参加すると伝えた。既に準備もしており、制服の下には後始末用のインナーも着込んだ状態。あとは許可をもらえば艤装を装備して出発するだけ。

 グレカーレですらそれなのだから、本人達のやる気は充分である。

 

「2人とも、本当に大丈夫? 辛かったら、まだ休んでいてもいいのよ?」

「いや、もう大丈夫だよ。丹陽に話聞いてもらってさ」

「うんうん、ボスと話したから結構スッキリしたんだよね」

 

 少なくとも、深雪の表情は朝イチの酷いモノでは無くなっていた。自分の中の()()()()()に対して、ある一定の納得に辿り着いたと言える、清々しさも感じられるモノ。

 これならば大丈夫かと伊豆提督も頷いた。猫の手も借りたい状況なのは変わっておらず、2人増えるだけでも大違いである。

 

「ただ……恥ずかしい話なんだけどさ」

「あら、どうしたの?」

 

 ここで、深雪は今の自覚した心境と、後始末に向ける思いを伊豆提督に伝える。敵の亡骸でも、自分の意思で出洲に従っているようなモノに対して、祈りを捧げることが出来ないのだと。

 伊豆提督は少なからず驚きがあったものの、アレだけのこと──昼目提督から提供された船倉での一部始終──を知っているため、こうなるのも仕方ないと納得した。

 

 深雪とグレカーレにはうみどりに近い場所での作業に取り組んでもらうというのが、話を聞いた伊豆提督の判断。敵にも祈りが捧げられるくらいになるまで作業させない理由は無いし、本人達が少しでも力になりたいという気持ちがあるのなら、それを無下にするわけにもいかない。

 

「それじゃあ、グレカーレちゃんは深雪ちゃんに教えてもらいながら作業をしてちょうだい。今は見てわかる通り、海の上の残骸を掻き集めることが最優先だから」

「りょーかい。ミユキ、よろしくね」

「ああ、あたしもそれなりに経験積んでるから、ある程度は教えられるぜ」

「具合が悪くなったらすぐに言うのよ。後始末も大切だけど、アナタ達の体調の方がもっと大切なんだから」

 

 そんな伊豆提督の言葉に2人してサムズアップして、すぐに作業をしようと艤装を取りに駆け出した。

 

「あら、あの2人……」

 

 そこに入れ違いになるようにイリスがやってくる。回収された残骸の清浄化を管理しつつ、その量を確認して伊豆提督に報告しに来た様子。

 

「ええ、少し落ち着いたから後始末に参加してくれるんですって。ただ、自分の意思であちら側に行ったカテゴリーYの残骸は片付けられないって言っていたわ」

「それは……まぁ仕方ないわね。理不尽に悪と断じて狙われているんだもの。我慢ならないのは当たり前の話よ」

 

 イリスもそこには納得。ただ生きているだけで悪と言われたら堪ったものではないし、グレカーレに至っては実害も出ている。そんな輩に安らかに眠ってほしいだなんて感情はそんな簡単には生まれない。

 

「深雪の彩、少し()()()()()()のよね。今の感情のせいだとは思うけれど」

 

 純白だったものが少しくすんでしまっているのだと話す。仕方ないとはいえ、彩が翳ってしまうのも無理もないことだと理解している。それがまた元の彩に戻るかはわからない。

 深雪の精神的なダメージが根深いことが、そういうカタチからも見えていた。だとしても、特異点であることは変わらないようだが。

 

「グレカーレちゃんはどう見えるのかしら」

「元々はカテゴリーBだったわけだけど、今はMに近いわね。こういうパターンのカテゴリーMは他にはいないと思うけれど、本当に混ぜ合わされているのだからこうなってもおかしくないわ」

 

 グレカーレは青からマゼンタに変化しているらしい。これまでのカテゴリーMは、艦娘の身体ではあるが深海棲艦のような思想、『呪い』が混じっているから、2つの彩の混成体としていた。だがグレカーレは、深海棲艦の身体に艦娘の思想という真逆の存在となっている。ある意味、白雲と同じような存在。

 

「どうであれ、あの子達は私達の協力者であり仲間よ。彩で何か変わるわけじゃないわ」

「そうね。アタシもそう思う。ああやって前を向いてくれているんだから、あの子達の気持ちを大切にしなくちゃいけないわよね」

「ええ、それがいいわ」

 

 勿論不安が無いわけではないが、2人の前進の心を折ることはないのだから、今はこのまま、自由にやってもらう。

 それが本当に良くないことだったら、誰もが黙って見ていない。

 

 

 

 

 そこから少し時間が経過し、海上。深雪とグレカーレも後始末に参戦し、次々と残骸を回収して行くことになる。

 この2人の少々特殊な事情を考慮して、やることはこれまでとは少し違うこと。肉片拾いや細かい残骸ではなく、少々大きめな残骸をとにかく拾い集めるという方向で進めて行くことになった。

 主にそういうことをするのは、膂力のある長門と、大発動艇を取り扱う睦月や梅なのだが、それと同様のことが2人なら出来るようになっていた。

 

「よし、ちゃんと動かせるぜ」

 

 大発動艇を扱えるようになった深雪がそれを使って現場を駆ける。改二へと改装したことで手に入れた力は、こういう時にも有用。

 コントロール自体は一度やっているというのもあり、感覚的に出来た、いきなり横転させたり、スピードの調節が出来なかったりとするわけでは無いようである。

 

「あたしが大物を拾ってそこに載せる、と」

 

 そして、グレカーレが艤装の剛腕を使って大物な残骸を大発動艇に積み込んでいく。

 駆逐艦の身でありながら、その膂力は戦艦に負けず劣らずのモノに変化させられていた。深海棲艦化の影響ではあるのだが、それを悪いことではなく良いことに使えば、ここまで後始末に貢献出来る。

 

「そのまま残っちゃってるのもあるんだねぇ」

「ああ、当たりどころがいいヤツとかは、割と()()が残ってるな。これまであたし達駆逐艦はそういうのを全部任せ切ってたんだけどよ」

「あたしなら、そんな大きなヤツでも軽々持ち上げられちゃうわけだね」

 

 本能剥き出しの改造深海棲艦とはいえ、ヒト型のモノとなると少々引け目を感じる。今回積み込まれたのは、ほとんどカタチとしては残っていた雷巡チ級。下半身が砲撃によって破壊されているが、機能停止した上半身はモロにヒト型。

 だが、これもまた出洲一派に利用され、望んでもいないのに生み出された命。ただ()()()()()()()()()と言っても過言ではない。

 

「……安らかに眠ってくれ」

 

 そんな命に対しては、心の底から冥福を祈れる。深雪は勿論のこと、グレカーレも祈る気持ちが理解出来た。自分が今の身体になったからこそ、()()()()()()()の痛みがわかる。

 その命をせめて安らかに眠らせるために、グレカーレも祈った。目を瞑り、何やらボソボソした後、小さく『Amen』と呟いていたのが聞こえる。

 

「よし、どんどんやってくぞ」

「りょーかい。まだまだいっぱいあるもんね」

 

 見渡す限りにばら撒かれた残骸に溜息が溢れるが、出来る仕事があるのだから手を止めずに進めていきたい。

 だが、それでも海賊船の方には足を踏み入れなかった。視線を向けることすらほとんど無かった。2人の心に刻まれた感情は、それだけあの場所を拒絶していた。

 

 

 

 

 そこからまたしばらくして、大体時間はおやつ時と言ったくらい。長時間連続で作業をし続けると、心身共に疲弊してしまうため、小休憩を挟む。

 ここでもまた、セレスのちょっとした甘味が仲間達の心を潤す。今回は大量生産を視野に入れて作成されたアイスクリーム。量が無くてもその甘さによって幸せな気分になれる一品。

 

「ふぃー、少しやっただけでも疲れちゃうねぇ」

 

 初めての後始末作業に小さく息を吐くグレカーレ。そんな様子を見て、深雪は小さく笑う。

 

「まだまだ始まったばかりだぜ? 今回は夜通しやるかは知らないけど、これで疲れたってなら、先が思いやられるな」

「まだ見ればわかるくらいに残骸あるもんなぁ。やってみてわかるけど、みんな凄いよ。これ何も文句言わずにやり続けてるんでしょ? 多分、潜水艦のみんながあたしと同じこと思ってるよ」

 

 雰囲気的に、グレカーレが思っていることは正解。今日初めて後始末作業を始めた者達は、この地道な作業を延々と繰り返すことに、既に若干の疲労を見せていた。30年選手である第二世代のカテゴリーBですら、後始末屋がどれだけハードな仕事であるかを痛感していた。

 

「おう、白雲。初めての後始末はどうだ?」

 

 電と時雨に任せていた白雲も、この作業によって疲れの色が見えている。ただ肉片を集めるという作業であっても、長い時間続ければ当然疲れるし、そもそも精神的な疲労がただの残骸よりも強い。

 

「お姉様……後始末屋とは、凄まじい組織だったのですね」

「凄まじいってお前」

「白雲は痛感してるんだよ。この作業は馬鹿に出来ないとね」

 

 時雨が飄々とした顔で語る。自分はもう慣れたからと、白雲に先輩風を吹き荒らしているようだった。

 

「深雪ちゃん……もう、大丈夫なのです?」

「ああ、心配かけちまったかな。あたしはもう大丈夫だ。思うところはあるけど、後始末が出来ないわけじゃねぇからさ」

 

 心配そうな電に、深雪も明るく返した。まだぎこちなさは残っているものの、電が前を向いてきていることを察し、深雪も一歩引くのを今だけはやめている。

 先程まではそんな余裕すらなかったのだということも痛感した。丹陽のところで怒りを発散していなかったら、ここでもまた素気ない態度をとっていたかもしれない。そう思うと、途端に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

 だが、今はあえてそのことは口に出さなかった。空気を悪くするくらいならば、話さなくてはならないことだって後回しにするべき。

 

「よし、じゃあ休憩も出来たことだし、作業再開と行くか……っと」

 

 気合を入れようとした矢先、突然艦内放送が鳴り響く。だが、警報音ではなく、ただ注意喚起というカタチで。

 

『今ちょうど全員休憩のために艦内にいると思うけれど、少しの間、外に出ないでちょうだい。軍港から援軍が来るのだけれど、回収物をいち早く運んでもらうためのタンカーが来る手筈となっているの。危ないかもしれないから、念のためお願いね』

 

 現状この海域にはうみどりとおおわし、そして軍港に曳航している潜水艦があるのだが、さらにそこに増えるとのこと。うみどりで回収した残骸をさらに回収して軍港都市へと運ぶため、それなりに近くまでやってくるらしい。

 

「あー、この量じゃ、うみどりの中に入りきらねぇよな確かに」

「中で綺麗にしてから、すぐに持っていってもらうということなのです?」

「多分な。あたしにもよくわからねぇけど、援軍が来るってことにゃ変わりねぇや。今回は本当に総動員ってこった」

 

 

 

 

 それだけの人員を使わねば、ここの後始末は終わらないという異常事態。うみどりの信用があってこそ、これだけ人員が集まるというのもある。

 




次回からは軍港都市からやってきたタンカーと人員も加えて、作業が一気に進みます。それでもまだ1日目。人数が増えても、まだまだ時間がかかるのは目に見えていますね。
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