軍港都市からの増援が来たことで、さらに捗る後始末。各々休憩を挟みながら、次々と残骸を回収していき、まず一晩を越えた。
この段階で、現場はおおよそ3割強が片付いたくらい。まだ戦場の半分以上が残骸で埋まっている。
また、厄介なのは海上よりも海中。命を失った改造深海棲艦は、海賊船に回収しやすくなるように、勝手に沈むようにされていたこともあり、海中の残骸はこれまで以上。浮かんでいるモノだけでも超規模ならば、海中も当然超規模である。
「……流石に疲れた」
「だねぇ……。潜水艦はそもそもの人数が少ないからねぇ」
うみどりでは丸一日を作業に費やした伊203達が疲れた顔をして帰投した。スキャンプに至っては言葉すらない。熟練者であっても、今回の量はなかなか厳しい。スキャンプは初心者なのだから尚更である。
うみどりからは3人がすぐに出ることが出来るが、それだけでは確実に人数が少ないので、おおわしからも出てもらっている。あちらにはあちらで2人ほどいるため、交替しながら海中を隈なく調査しながら後始末を続けていた。
「……どれだけ休めんだ?」
やっとの思いで言葉が紡げたスキャンプが2人に聞く。それに対して、伊203が即答する。
「3時間」
「短ぇ」
「普通じゃないからねぇ今回は」
こればっかりは
これまではどれだけ大規模な後始末であっても、丸一日やれば終わる程度で済んでいた。それくらいなら、朝イチから初めて軽く休憩をしつつで終わらせることが出来る。
しかし、今回は海上ですら丸一日使っても終わりが見えていないレベルなのだ。海中がさらに厳しい環境だというのならば、こうなっても仕方ない。
「3時間休んで、セレスのご飯を食べて、また海に出る」
「Fuck. なんつー仕事だよ」
「まず洗浄。そのあと工廠で仮眠。起きたらすぐ動く。遅いのは嫌い」
伊203に言わせてみれば、この休息の時間も速さに影響が出るのでそこまで長く休みたくないとのことだが、体力という限界も速さに影響が出るので、優先順位として休息を取っているだけらしい。
「これが終わったらグッスリ眠れるからね。それに、この後は軍港で追加の休憩だから」
「それくらい無ぇと割に合わねぇっつーの。ったく……」
こんなことを言いながらも、スキャンプも後始末屋としての仕事に手を抜かない辺り、随分と変わったと言えよう。
「おう、お疲れさん」
「お疲れー。
休息のために艤装を下ろしている潜水艦の3人の後ろから、同じように夜通し作業をしていた深雪とグレカーレが声をかける。深雪はまだ経験があるからマシではあるが、グレカーレは流石に疲労の色が濃い。
電と白雲は朝から動いていたため、先んじて休息に入っている。深雪とグレカーレはいろいろとワケアリで午後からの参戦だったため、休息は後回しでいいと自分達から話している。
「
「何て?」
深雪の疑問には返答せず、けっと悪態をつくスキャンプに、グレカーレはいつも通りだよと笑う。
疲れでイライラしているのもあり、スキャンプはいつも以上に表情がキツイ。だが、深雪はともかくグレカーレの姿を見て一瞬反応していた。
「……Ah……Grecale」
「ん? なぁに?」
「いや、何でも無ぇ」
何か言おうとしたが、結局やめた。むしろ、
今かけようとした言葉は、間違いなく同情の言葉。だがおそらく、グレカーレの欲しい言葉はそういう言葉では無い。
スキャンプも潜水艦に住んでいた第二世代のカテゴリーB。問題児として、グレカーレとはそれなりに長く
長年過ごしてきた仲間の変貌は、如何にスキャンプとて気分は悪い。敵の醜悪さを改めて知ることになり、かつ、明日は我が身という気持ちにもさせられる。
だから、グレカーレもそれ以上は問いたださなかった。今の一言二言の問答で、スキャンプの気持ちがわかったから。
「深雪達も休憩?」
「ああ、結局夜通しやったからな。大発を一度洗浄するってのもあるんだと」
「そう、そういうのは早いに越したことは無い」
そんな空気を払うためか、伊203がすぐに話題を切り替えた。速さ重視は、こういった時間が一瞬止まる感覚も嬉しくない様子。
深雪が言う通り、今回は大物も沢山出てしまっている超規模後始末。何度も深海棲艦の残骸を積み込んでいることから、大発動艇そのものに穢れが溜まってしまう。それを解消するために、定期的に大発動艇も洗浄するとのこと。
本来なら洗浄まで行かずに後始末が終わるのだが、今回はそうもいかない。大発動艇自体も次に使うのは今まで使っていたものとは別のモノを使うまである。
「あたしはあたし自身を洗浄しなくちゃだしね。まだわかんないけど、この身体、もしかしたら内側から穢れ出しちゃうかもだし」
グレカーレはそれも懸念点。身体が深海棲艦化してしまったことで、自分が穢れを生み出してしまう可能性を考慮していた。
おおわしで全身を洗浄しているため、今は大丈夫かもしれないが、今は穢れまみれの後始末現場で活動し続けていたのだ。自分が出していなくても、外側から取り込んでしまいやすくなっている可能性は充分にある。むしろ、それが呼水となってグレカーレ自身がまた穢れを発生させる可能性すらある。
そのため、グレカーレはそれなりに定期的に洗浄を繰り返すようにする。じっとしていても穢れを生み出すかもしれないから、じっとせずに動いては洗い流しを繰り返すことを選択した。
それもこれも、グレカーレはここにいるカテゴリーYやセレスとは違い、忌雷による後付けで身体を書き換えられているからである。未だにグレカーレの体内には忌雷が潜んでいると考えてもいい。
洗浄によってその忌雷が失われればいいが、常に潜伏したままとなっていたら、割と目も当てられない。洗浄を繰り返すことで鎮静化させるというのもある。
「ここの洗浄、シャワータイプだよねぇ。あれ、肌に当たる感覚が結構ヤバいんだよなぁ」
「ヤバい?」
「言ったじゃん。あたし、今の身体になって、肌がやたら敏感なんだって。シャワーが当たる感覚って、それはもう凄いよ? めっちゃ喘ぐよ?」
笑みを浮かべるグレカーレだが、その苦労が理解してやれないのが悔しかった。しかし、グレカーレはこの苦労を他の者には知ってもらいたくないと思っている。そのため、深雪は何も言わない。
「洗浄に行くんでしょ。早く行く。遅いのは嫌い」
「あ、ちょっと待て」
「相変わらずマイペースだなぁホント」
微妙な空気になりそうなのも伊203がぶった切り、2人の手を取って洗浄に向かわせようと引っ張る。深雪はいいが、グレカーレはこれだけで少し身動ぎしてしまうレベル。
「まだ艤装下ろしてないっての! フーミィ、引っ張るな引っ張るな!」
「ちょ、ちょっと優しく握ってくれないかな!? あ、ちょ、ヤバっ」
「遅いのは嫌い」
こういう時の強引さには困ることもあるが、少なからず今回は助かっている。空気が悪くなるのをすぐさま変えようとするのも、伊203のいいところである。
洗浄後、少しの時間を休息に使う。悪夢を防ぐために1人で眠ることは控えているのだが、今までの添い寝要員である電や白雲は、先に休息に入っているため同じようには眠れない。
「で、ここに来たと」
「ああ、悪いんだけどさ」
「いえいえ、頼ってくれて嬉しいですよ」
2人がやって来たのは、2人の共通の
丹陽自身は艤装を装備出来ないということもあり後始末には全く参加していないものの、裏では潜水艦側の妖精さんの様子を明石と共に見に行ったり、カテゴリーYと交流したり、伊豆提督や昼目提督を相手に今後について考えたりと、トップに立つ者、ある意味提督業に近いことで貢献している。
「ボスは今から何かあるの?」
「まぁあるといえばあるんですが、無いといえば無いですよ。ですが、ちょっとだけタイミングが悪かったというのはありますね」
タイミングが悪いと言われ首を傾げるが、部屋に入ったらそれがすぐにわかる。
丹陽の部屋の中には、既に先客がいたのだ。
「え、神風?」
「おはよう2人とも。ここで顔を合わせることになるとは思っていなかったわ」
丹陽の部屋で優雅にお茶を飲む神風の姿があった。その表情はいつも通り凛としているようだが、ここにいるということは、何かしらの悩みがあるということだろうか。
「神風さんは私が呼んだんです。深雪さんやグレカーレさんと同じように」
「あたし達と同じ?」
「仲間にだって見せられない弱みを、ここでなら出してもいいですから」
ある意味、神風に2人の弱みをバラされたようなものではあるのだが、いまはそれは置いておき、神風に弱みがあるということに驚きが隠せなかった。
しかし、よくよく考えてみれば、今の神風は少しおかしなところがある。前回の海賊船との戦いでも裏方に回り、最も過酷な戦場には出ていない。自主的な理由で戦闘を避けているのだが、本人曰く、雑念が邪魔をするから。
「カミカゼ……何かあったの?」
「ええ、私の悩みも、丹陽にはお見通しだったみたいでね。朝から呼び出されたの」
苦笑しながらお茶をテーブルに置く。その笑みには、少し疲れが見えていた。
「深雪さんもグレカーレさんも、神風さんの秘密はご存知でしたよね」
「秘密?」
「丹陽はそのことも気付いてたわ。私が割と歳行ってること」
つまり、神風が経産婦であることも、丹陽は既に気付いていたということ。その戦う理念の内に、家族の仇討ちが含まれていることも、全てお見通しだったらしい。
深雪とグレカーレは神風に直に聞いているため知っているが、他の者は殆ど知らない超極秘事項。丹陽はそれすらも看破していたようである。
「ま、マジかよ……」
「ボスってホント、なんていうか凄いね」
「いえいえ、これもまた年の功ですよ。お婆ちゃんの知恵袋というヤツです」
「知恵とかの話じゃねぇ気がするんだけどな」
これは外部に聞かれるわけにはいかない話なので、深雪もグレカーレも丹陽の部屋に入り、しっかりと扉が閉まっていることを確認。念のため、丹陽に酷似した見た目の妖精さんに外の見張りまでしてもらっている。
「休みに来たのなら、ここで眠ってしまっても構いませんよ」
「いや、ここまで言われて蚊帳の外はやめろよ。あたしだって神風の力になりてぇ」
「そうそう。カミカゼはあたしも尊敬してんだから。それに、弱み見せてくれるならもっと仲良くなれると思うんだよね」
疲れが飛んだわけでは無いが、神風の悩みと聞いたら話は別。休息の前にその件を聞いておきたかった。
神風的には隠しておきたいことなのかもしれないが、こうなってしまったらもう止められない。丹陽の強引さも相まって、諦めざるを得なかった。深雪とグレカーレなら、秘密も知っていることもあり、伝わってもそこまで痛くはない。
「さて、と。神風さん、改めてお話ししましょうか」
深雪とグレカーレが中に入ったところで、丹陽が改めて切り出した。
「神風さんを蝕む雑念──
ここ最近登場していなかった神風。その悩みに切り込んでいきます。