深雪達が休息に入った後も、後始末は続く。後始末は2日目。
目標は、本日中に6割終了。初心者達も勝手がわかってきたため、作業そのものが少しずつ早くはなっていた。
中でも大発動艇を使える者達は非常に重宝されており、うみどりやおおわしにある大発動艇を洗浄しているモノも含めてフル稼働させるためにも、基本的には数人が海上に出ている状態。
深雪もそのうちの1人なわけだが、今は休息中。そのため、うみどりの睦月と梅に加え、潜水艦勢の清霜、榛名の友軍艦隊の満潮と村雨が、稼働出来る者からフル稼働で動き続けていた。
「深雪ちゃん達が休んでいる間に、ここはやっちゃいたいのね!」
睦月が胸を張って大発動艇を持ってきたのは、元は海賊船のあった場所。自爆によって木っ端微塵になってしまったわけだが、そのせいでここには、艦娘や深海棲艦だけでなく、
普段の後始末作業ではほぼ無い、艤装とは関係ないパーツ群。そもそもが大型の貨物船だったことを考えると、その残骸の量は計り知れない。しかも、海上に浮かんでいるモノだけでなく、海中に沈んでいってしまっているモノもかなりあるのだ。
「一部、大発に載らないほどに巨大な残骸もある。これは我々が引きずってでも運ぶしか無いな」
「はい、榛名は大丈夫です。ですが……引きずるのは大丈夫なのですか?」
「あまり大丈夫ではないな。だが、背に腹はかえられん。まずはここからの撤去を優先する」
あまりに大型のモノは、膂力が最大である戦艦の長門と榛名が受け持つ。深海棲艦との戦闘でこんなサイズが出ることはまず無いので、これも初めての試み。
幸いにも沈んでおらず浮かんでいるおかげで、2人で引っ張れば浮力も込みで動かすことは出来るだろう。問題は引きずっている間に穢れをも引きずることなのだが、こればっかりはどうにも出来ない。そもそもこの海域が穢れまみれであるため、今は目を瞑ることにするしかない。
「大発に載りそうなモノは、すぐにでも回収していきましょう。睦月さん、梅さん、村雨さん、何往復もすることになるでしょうが、よろしくお願いしますね」
「任せるのね!」
「了解です!」
「はいはーい」
それよりも小さなモノ、まだ大発動艇に載せられそうな残骸は、妙高が指揮しながら回収。トングで掴めそうなモノに関しては、いつものケースに回収するのだが、そうでは無いモノはもう載せては持っていきの繰り返ししかやりようがない。
大発動艇部隊の3人は、ここからは行ったり来たりを繰り返すことになるだろう。おそらく誰よりも動き回ることになる。体力勝負になるのだが、そこは後始末屋、鍛え方が違う。
「村雨ちゃん、大丈夫にゃし? 睦月達は慣れてるけど、初めてなのね」
「厳しいと思ったら、休憩してくださいね。そういうのも大事大事、ですよ」
「輸送任務とかもやってるから、ある程度は大丈夫よ。でも、バテたら休ませてね」
大発動艇をコントロールする駆逐艦達も、息があっているようだ。互いを気遣い、倒れるくらいならすぐに休むことを優先するようにと決めている。
今回の作業は、これまで以上に大発動艇が重要になってくるモノだ。全員が動けなくなったら、それだけで作業効率が大幅に下がってしまう。
それ以外にも、戦力と言えそうな者は全員が海賊船の残骸回収に手を動かすこととなっている。
その理由は非常に簡単で、この海賊船で酷い心の傷を負った深雪とグレカーレが眠っている間に、ある程度は目に入らないところに撤去したかったから。
「海の中のゴミはどうするっぽい? スキャ子達は今休憩中っぽいよね」
妙高に懐いている夕立が質問。海上の残骸は自分達が撤去出来るが、海中はどうにもならない。潜ることも出来ないのだから、やりようがないと言える。
「そこは、我々調査隊に任せてくれないかい」
それにすかさず答えたのは響。こういう時こそ、後始末屋にはなく調査隊にあるモノを使うと少しドヤ顔を見せていた。
「海底調査のための潜水艇があるんだ。潜水艦だけでは足りない時に出す用のね。昨日まではまだ出していなかったが、今日からはそちらもフル稼働さ」
「おっきいゴミを持てるっぽい?」
「ある程度ならね。いざという時は海上に手伝ってもらうよ」
その潜水艇がおおわしから発進しているのが見える。1人乗りの小型潜水艇には、何かを掴むためのアームのようなモノも接続されており、海中の残骸もある程度は運ぶことが出来そうなカタチをしていた。そんな潜水艇が合計3隻。トプンと海中に潜っていく。
昨日まで出していなかったのは、調査隊の潜水艦達による簡易的な調査が入ったからである。何せ、今回の海域は深海棲艦の生産設備まで組み込まれた海賊船の残骸が沈んでいる場所。本当に何があるかわからないところに、潜水艦ではなく
後始末を手伝いながらの調査となったが、現状ではそこまでの問題がないと判断された。設備で生産されていた深海棲艦や忌雷などは、海賊船が破壊されたことで共に死滅しており、ピクリとも動かなかったらしい。最も危険であろう忌雷も、その全てが死んでいたという。
その上で、念には念をと残骸が拡がる覚悟で魚雷を撃ち込んだため、間違いなく処理が出来ているとのこと。むしろこれによって海中の残骸のサイズが多少小さくなったため、潜水艇でも作業がしやすくなっていたりする。勿論、この手段は伊豆提督と昼目提督が指示したこと。安全確保の攻撃は、この時ばかりは仕方ないと判断されている。
「ちなみに、あの潜水艇を操縦しているのは海防艦達だよ」
「海防艦はうみどりにはいませんが、調査隊ではそういうカタチで運用しているんですね」
「ああ、勿論対潜掃討にも出てもらっているけど、調査の時にはああいうことをしてもらっているんだ。だから、なかなかみんなの前には出てこないね。危険なことはさせられないし」
うみどりにはいない海防艦は、駆逐艦よりも幼い姿をした存在。戦力としては少々心許ないところは多いものの、駆逐艦よりも高い対潜性能を誇る、その名の通り
膂力が駆逐艦以下となるとどうしても作業にも制限が出てくるが、代わりにああいう設備を使う力を伸ばすことで、場所によっては誰よりも柔軟に動ける存在となる。
その方針で育て上げたのは、他ならぬ昼目提督である。いろいろわけがあるらしいが、そこに関しては機密事項ということだそうだ。
「ともかく、これで海中も片付けが捗るはずさ。潜水艦チームが帰ってくるまでに、海上をある程度片付けたいね。勿論、深雪達のことも考えて」
これだけ人数が揃えば、海賊船の残骸の後始末も想定以上に早く終わるだろう。流石に1日で終わるとは思えないものの、なるべく時間はかけたくないモノである。
そのまま時間は流れてお昼時。一度休憩となったところで深雪とグレカーレも目を覚ましていた。
後始末中は食堂ではなく工廠での昼食となるため、頭を掻きながらそちらへ赴く2人。休憩中ということもあり、今は作業に出ている者はおらず、全員が工廠で休んでいた。
そしてそこには見慣れない物も。
「んん? ありゃあ何だ?」
深雪もそれに気付いたため、すぐに声を上げる。グレカーレも見たことが無いものであるため、首を傾げた。
「あ、深雪ちゃん、おはようなのです」
「おう、昼だけどおはようさん電。ありゃあ何だ?」
深雪が工廠に訪れたのをいち早く感じ取った電が白雲と共に駆け寄った。こうして離れて作業をしているうちに、電もより前向きになろうとしているのがわかる。白雲が共にいるということもあり、顔を合わせることにも抵抗が無くなってきていた。
その真意はまだ伝えることが出来ていないが、この後始末が終わったら、面と向かって話すつもり。今はまだ、その時では無い。
「あれは調査隊の潜水艇なのです」
「潜水艇? じゃあ、アレで海ん中をいろいろやってんのか」
「なのです。潜水艦と同じくらい働けるんだーって、響ちゃんが言っていたのです」
物珍しそうに潜水艇を眺める深雪。その後ろでグレカーレがコソコソと電の方へ。
「ゴメンねイナヅマ、今はミユキ借りちゃってる」
「えっ、ぐ、グレカーレちゃん……?」
「後始末が終わったら電に返したげるから、というかちゃんと前向かないとあたしがずっと借りておくからね」
ニッコリ笑って耳打ちするが、電は顔を赤くしながら慌てる。そんな電の様子を見て、グレカーレはよりニンマリと深い笑みに。
「ミユキはあたしの弱みも知ってる、結構
「え、ええっ!?」
「んっふふ、でもあたしはイナヅマのことも好きだからさ、応援もしてるんだからね」
最後はさっぱりした笑顔。そういうところを見ると、グレカーレは本当に外見だけが変わったのだと感じる。
電もそれに安心を覚えつつも、深雪との関係を引っ掻き回す存在となりそうでほんの少しの危機感も覚えた。
「お姉様、あの潜水艇を操縦するのは、海防艦とのこと。我々より幼い姿で、あのような物を手足のように扱うらしく」
「へぇーっ、すげぇな。海防艦はうみどりにいねぇけど、適材適所ってヤツなのかな」
「だと思われます。ほら、あちらの方に」
その噂の海防艦達は、セレスから昼食を貰って美味しそうに頬張っていた。
確かに見た目は幼女と言っても過言では無い。うみどりにいる中で幼い外見といえば睦月などになるが、それ以上に幼い。言ってしまえば、戦場には場違いとすら感じる。
だが、それでも艦娘。そして、調査隊としては無くてはならない存在のようだ。これまで顔を合わせてこなかったのも、その適材適所に深雪が絡んでこなかったから。
その海防艦達が深雪の視線を感じ取ったか、ニッコリ笑って手を振ってきた。深雪も手を振り返す。
「お姉様、グレカーレ様、まだ昼食を摂っておられませんでしょう。ついでですし、彼女達と話をしつつ、セレス様から昼食をいただいては如何ですか」
「そうだな。初めてのヤツとはちゃんと話しておかないとな。グレカーレ」
「はいはーい。電も一緒に行こうねー」
「ひゃっ、な、なのですぅ」
深雪に連れられ、4人でセレスの元へ。相変わらず食の探究者は、昼食としての質、美味しく食べられることを重視した食事を提供中。昨晩はカレーだったが、昼はガツッと肉が出されている。食材も残骸回収の貨物船に一部運んできてもらっているらしい。
「初めましてだよな、お前達」
「はぁい、初めましてでっすー」
おそらくリーダーを務めている幼女が、深雪を見ながら可愛らしく敬礼をする。同時に後ろの2人も敬礼。みんな同じ制服を着ているので、おそらく姉妹艦。
「てー型かいぼー艦、第四号海防艦、でっすー。よつ、と呼んでねぇ」
「同じく、第二十二号海防艦! ふーふ、でいいよ」
「第三十号海防艦、みと、です」
三者三様、性格の違いがわかるお辞儀。これまでになく幼い3人に、深雪は何処となく穏やかな気持ちになれた。
「マークのあにきから、海の中を任されてまっすー」
「潜水艦やっつけるのから、海の中の調査まで、私達に任せてね!」
「出来る限り、皆さんをお守りします……!」
こんな子供でも戦いに駆り出されなくてはならない今の状況。そういう意味でも、この戦いは早く終わらせたいと、深雪は感じた。
そんな3人の海防艦を遠目に見ながら、視界に入らないようにしている者もいるのだが、それはまた別のお話。
ヤツがいるなら、よつもいる。