後始末屋の特異点   作:緋寺

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一人前の淑女

 暁と話がしたいということで深雪と別行動をとっている電は、その目的を果たすために艦内を探していた。

 

 川内が共に来ているということもあって、軍港都市からやってきた援軍3人は、夜にすぐ出撃出来るように待機しておくことになっているらしい。

 そのため、いるなら工廠ではないかと考え、そちらに向かっていた。雷雨の中でも安全性を高めるために、艤装の整備などは欠かしていないだろうから。

 

「暁ちゃん、いるのです……?」

 

 工廠をキョロキョロ見回す電。すると、暁の姿が確認出来た。予想通り、艤装の整備中。しかも、同じように夜待機する川内も一緒。

 

「あら、電。どうしたの? もしかして、後始末の時に言ってた相談したいことって話?」

「なのです。時間があれば、お話ししたいなーって……思ったのですけど、あれ、綾波ちゃんは……」

 

 暁と川内は艤装の整備のために工廠にいるが、綾波の姿は無かった。その話をすると、暁は大きな大きな溜息を吐く。

 

「昨日さ、そっちの夕立とちょっとあったじゃない」

「えーっと……はい、演習をするって」

「早速やってんのよ。ここって、仮想訓練が出来るのよね。そこでね」

 

 綾波にも夕立にも、休息という言葉は無いらしい。時間が空いて手持ち無沙汰になったからか、早速約束していた演習を実践に移したとのこと。一応監督役として妙高が出向いてくれているため、心配はしていないようだが、結果がどうなるかは少し気になった。

 とはいえ、綾波のことを知っているのなら、どちらが勝ったかは考えるまでもない。あの神風と互角どころか有利に戦えるだけの実力者である綾波と、その神風に手も足も出なかった夕立。それだけでもオッズは綾波側に傾く。

 だが、今の夕立は心に余裕を取り戻している。それを自らの力に換え、新たにここで学んだこともあるだろうから、もしかしたら互角に立ち回れるかもしれない。うみどりに来てからやれることも増えているのだし。

 

「だからまぁ、綾波はいないってだけで、暁達は今はフリーよ。工廠からは基本離れないとは思うけど」

「そう、なのですね。それじゃあ……」

「ここにいるのは私だけでいいから、暁もちょっとは休んでおきな」

 

 電や暁のことを気遣ってか、川内が背中を押した。

 艤装の整備中かもしれないが、それは実際妖精さんがやることであって、艦娘達はすぐ装備出来るようにそこにいるだけ。整備完了時にすぐに装備して具合を確かめるためにいると言ってもいい。

 なので、ここに絶対にいないといけないというわけではないのだ。現に綾波は仮想空間での演習に赴いている。

 

「川内さん、いいの?」

「むしろダメな理由が無いよ。電はここでは話しにくいかもしれないしさ。妹がお姉ちゃんを頼りに来たんだから、こんなとこじゃなく、ちゃんとしたところで話をしなよ」

 

 ニコニコしながら手をヒラヒラさせる川内に、電はありがとうございますと頭を下げた。

 

「じゃあ、電の部屋に行く? あまり人に聞かれたくないような話?」

「そこまで厳密じゃないのですけど……はい、電の部屋でお願いするのです」

「ん、わかった。じゃあ、行こっか」

 

 川内の気遣いに感謝しつつ、暁は電と共に工廠から離れた。

 

 

 

 

 普段はあまり使わない電の部屋。基本は深雪の部屋で一緒に眠っているというのと、それが途絶えた今でも他の誰かの温もりがないと悪夢を見てしまうことが多いために誰かの部屋に入らせてもらっているため、色々な意味で綺麗な部屋である。

 暁をベッドに座らせ、電はその隣に座る。距離が近いのは、電が暁を信用している証。

 

「で、相談って?」

「……実は……」

 

 電はこれまでの経緯を掻い摘んで説明する。深雪と共に戦っていたが、それが難しくなってきたこと。深雪はメキメキと力をつけているのに、自分は強くなれないこと。それがキッカケで、深雪に対して当たり散らしてしまったこと。そして、自分のやるべき道がうっすらだが見え始めたこと。

 

 自分の悪い部分を話すのは辛いことではあるのだが、過去と向き合い前を向かうとしている証拠でもあるため、電は辛くても話すのを止めなかった。

 暁もそんな電の話をただ聞いていた。相談に乗るためには、まず電が何を思っているかをハッキリと知る必要があるから。普段は子供っぽい暁も、こういう時はお姉ちゃんをしている。

 

「まずは、ここまでなのです」

「大変だったのね。なんか、暁が予想してたことより何倍も重いわ」

 

 今回の後始末があまりにも規模が大きいために援軍を要請されたことで、今回の戦いが非常に苦戦したことはわかっていたつもりである。電からの相談というのも、それに関係するものなのかなと思っていた。

 だが、その実態はそこにも関わることではあるが、電のこれからのこと。深雪と共に歩くためにどうすればいいかの相談。ある意味、()()()()の相談である。

 

 だが、暁にも電と同じような時があった。だからこそ、より深く相談に乗れる。

 

「電は、深雪ちゃんと一緒に戦うために、全力でサポートをする……深雪ちゃんの()()()()になりたいのです」

「帰る場所……かぁ。安心出来るヒトってことでいいのかしら」

「なのです。電は深雪ちゃんと並んで戦うことばかり考えていたのです。でも、本当に必要なのは、深雪ちゃんを安心させること……なんだろうなって、思ったのです」

 

 電は朝霜と満潮から言われたことを思い出していた。

 優しい艦娘にサポートされて、初めて全力が出せる。後ろがあるから、前に行ける。帰る場所を保証してくれる。

 電は深雪にとってそんな存在でありたいと、強く願った。隣に並ぶのではない。後ろからでもいい。深雪が全力で戦えるように手を添えるような、そんな存在に。

 

「深雪ちゃんばかりが狙われているのです。そんな深雪ちゃんを、隣じゃなくてもいいから、支えたいなって……」

「電は自分のこと弱いって思ってるみたいだけど、そんなことないじゃない。とんでもなく強いわよ。暁はそう思うわ」

 

 妹の独白に、暁は何処か懐かしさを感じているような温かい表情を見せた。

 

「電って、自分が弱いって自覚出来てるんだもの。しかも、それでも前を向けてる。それって物凄く勇気がいることなのよ」

「そう……なのですか?」

「心が折れちゃうヒトだって結構いるんだもの。暁だってそうだったんだからわかるわ」

「暁ちゃんも……なのです?」

 

 ここからは暁が自分の過去を明かす。何故艦娘になったのか、とかではなく、艦娘になってから今までの経緯。

 今でこそこうやって援軍を任されているくらいの実力者である暁にだって、新人時代はあるし、限界を迎えた時もある。それをどうやって乗り越えたか。

 

「暁はさ、結構最初の時から、()()綾波と組まされたのよ。暁も綾波も新人の時代、同じ特型の長女組だったいう理由で相性がいいかもっていわれて」

 

 暁は特Ⅲ型の長女、綾波は特Ⅱ型の長女。そういうところから、最初の采配でコンビを組むことになったらしい。

 だが、綾波は普通の艦娘とは一味も二味も違った。ゆるふわ感を出しながらも、その実、とんでもない戦闘狂。そして、戦うために鍛えることも躊躇せず、敵が出たら前線に突っ込むことを厭わない。

 そして困ったことに、綾波は()()だった。鍛えたら鍛えた分だけ力をつけ、最善手を本能的に実行出来るような、戦いの天才。その結果が、自ら人間の皮を剥がしてしまった神風と同等な力を持っている、あの異常な戦闘力である。

 

 そんな綾波と組まされた暁は、自分の力が無いと錯覚させられることになる。力をメキメキつけていく綾波と、平々凡々な暁。目の前で差を見せ付けられたら、流石に心が折れかける。

 

「でも、暁はわかったの。別に綾波と同じことする必要ないんだって」

「……電と……同じなのです」

「うん、多分今の電と同じだと思う。暁は、前に向かって突っ込むのをやめた。綾波にそういうのは全部任せることにしたのよ」

 

 代わりに学んだのは、その綾波を()()()方法。綾波が気持ちよく戦えるようにするために必要なこと。

 前に向かうための露払い。突っ込むために必要な索敵。その一挙手一投足を予測して、本当に欲しい援護を即座に繰り出す。それは戦うだけではない、()()()()()()()()()()()手段。

 

「それが多分性に合ってたんでしょうね。暁は、そこから一気に伸びたの。で、改二にもなれたことでそれがもっと出来るようになって。今じゃ、綾波の手綱を握れる唯一の艦娘なんて言われちゃってる」

「す、すごいのです……」

「まぁたまに『お願いします。まともに戦ってください』って祈る時はあるけどね」

 

 苦笑しているが、実際、()()綾波を制御出来るのは暁しかいない。それだけの信頼を得ているのだから、綾波も暁の意見には従うし、引っ叩かれるようなブレーキにも文句一つ言わない。いや、文句くらいは言うが、最終的には暁に従う。

 さらに言えば、それだけの目覚ましい成長を遂げた暁だから、軍港鎮守府の者達も一目置いている。綾波相手に出来ることは、他の者相手ならもっと簡単に出来るのだ。常に暴れ馬に乗っているのだから、素直な馬を御せないわけがない。

 

「深雪ちゃんは、その、そこまでではないのですけど」

「うん、それはわかる。綾波が異常なだけ」

「そこまで言ってないのです! でも、電は、暁ちゃんみたいになりたいのです。一人前の、超一流の援護役……電の目指す道、なのです」

 

 電はもう気付いている。深雪と同じことをする必要はない。深雪が戦いやすいように支えること。それが、自分にとって一番の道であると。

 でも、ここから何をすればそこに向かえるかがわからない。それを暁に聞きたかった。

 

「じゃあ、まずはやっぱり深雪と一緒にいることが大切じゃないかしら。暁もそうしたもの。綾波と一緒に行動して、振り回されて、どういう時にどういう行動をするかを知ることにしたから。というか、電は深雪に対してならそれくらい出来てるでしょ」

 

 実際、それはほぼ出来ている。深雪の僅かな違いでも見分けられるくらいには。ならば、もう次のステップだ。

 

「だったら、そんな深雪がやってほしいことを知ることよね。深雪にだって出来ないことがあるんだもの。前を向きながら後ろは向けないんだから」

「やってほしいこと……なのです?」

「うん。綾波の場合は、結構わかりやすかったのよね。敵のボスに突っ込みたいって思ってる時は、その周りの邪魔するヤツから始末するとか、敵が何処から仕掛けてくるかわからない時は、先にその場所を索敵するとか」

 

 それを言われる前にやるのが、暁のサポートが超一流であるところ。一挙手一投足に注意しているからこそ、その仕草で何を求めるかを把握している。

 

「一人前の淑女(レディ)は、一歩後ろで視野を拡げるのよ」

 

 最終的にはそこに行き着いたようだが、少なくとも間違ったことは言っていない。援護役に徹するならば、一歩後ろに下がって戦場を見る。深雪よりも広い視野で、その全域を見渡す。そこから、深雪の次の行動に必要なモノを拾い集め、そして行動に移す。

 言葉にするのは簡単だが、これは当然簡単にはいかない。だが、今の電はその努力をする覚悟がある。

 

「ありがとうなのです、暁ちゃん。電、やらなくちゃいけないことがわかったのです」

「そっか。ならよかったわ。電も一人前の淑女(レディ)になるために……っ!?」

 

 最後を綺麗に締めようとした瞬間、窓の外がカッと光り、すぐさま雷の音が鳴り響いた。

 電も暁もこれには大きく反応して身体を震わせ、ギャアと悲鳴すら上げかけた。

 

「か、雷くらいでビビるのは、れ、レディじゃないわね、うん」

「せ、説得力無いのです……」

 

 

 

 

 最後は締まらなかったが、とにかく、電は自分の歩くべき道を見定めることが出来ただろう。

 




暁にとって、綾波は暴れ馬。だけど、御してしまえば心強い戦友。あのお祈りに関しては、有名な競走馬のエピソードですね。
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