後始末屋の特異点   作:緋寺

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港湾水鬼

 後始末2日目にして、その進行度はおおよそ半分ほど。これまでのことから考えると、人数が一気に増えたこともあり、かなりのハイペースで進んでいる。

 しかし、天候悪化からの強制的な休息。その間に残骸は波で流されて、ただでさえ広かった範囲がさらに拡がり、さらには穢れもそこから拡がるという悪影響。

 状況としては、5割まで行ったのに4割まで戻されたかのようにすら感じるモノである。

 

 そして、案の定と言うべきか、雷雨が治まってきた辺りで、穢れから深海棲艦の発生が確認されてしまった。

 波によって範囲が拡がったこと、広い範囲で穢れが放置されてしまったこと、そして何より、海中に未だ鎮座している深海棲艦の生産設備の残骸が多量の穢れを放出していたことが、そこに繋がっていた。

 

「雷は止んでたけど、雨はまだザーザーでさ、戦えはするけど、堪ったもんじゃなかったよ」

 

 とは川内談。軍港都市からの援軍が夜間待機をしていたわけだが、それがまさに功を奏したと言える。

 発生した深海棲艦も、その穢れの濃さから強力な個体だったらしく、夜間警備として待機していた者達は、重傷を負う者はいなかったもののなかなかに苦戦を強いられたらしい。

 そもそも雨の中での戦いになったことでどうしても視界が悪くなり、本来使わなくてもいい神経まで使わなくてはならなくなったのも大きい。雨に打たれながらも、普通以上に体力を消耗させられる。

 

「始末した深海棲艦は結局そのまま置いておくことになっちゃったけど、よかったかな」

「それは仕方ないわ。撃破してくれただけでもありがたいんだもの。ありがとう、みんな」

 

 深海棲艦発生と同時に警報で起こされているものの、うみどりやおおわし、曳航中の潜水艦すらも、この戦いの影響を受けることはなかった。それだけいち早く対処出来たということに他ならない。

 これまでのうみどりのように受動的ではなく、能動的にその対策を取ったのだ。うまく行ったのは必然と言えるだろう。

 

 とはいえ、これによって残骸が増えてしまっている。また一歩、後始末完了から後退しているのだが、これもまた仕方ないこと。むしろ、予測していたことである。

 

 

 

 

 そして迎えた朝。雷はおろか雨も止んでおり、少々波が高いものの、誰がどう見ても()()()()()と思えるようなお日柄。しかし、外を見るとその酷さに顔を顰めたくなる。

 片付けた場所にまた残骸が流されていたり、まだ手付かずだったところが無くなっていたり、見たことのない残骸すら見えたりと、雷雨の影響を嫌というほど知ることになった。

 

「予想通り、今日は大変なことになりそうだぜ」

「なのです……でも、みんなで頑張ればいつか終わるのです!」

「電様の仰る通りです。元より早々に終わるとは思っておりません」

「だな。今日も頑張って後始末屋としての仕事をやっていこうぜ」

 

 深雪、電、白雲と、いつもの3人は気持ちよく目を覚まして朝の支度。久しぶりに一緒に眠った深雪と電は、絶好調とも言える心境である。

 

「Ciao〜、昨日の夜は部屋から追い出されたグレカーレちゃんだよ〜」

 

 3人のいる部屋にノックもせずに入ってきたグレカーレ。女社会であるために着替えている途中でも何とも思っていないものの、グレカーレがむしろ着替えの途中を狙ってきたのではないかと勘繰る。

 

 なお、昨晩追い出されたというのは、深雪のベッドで4人一度に眠るということをしようとしたからである。

 いくらグレカーレが駆逐艦であっても、電と白雲に続いてもう1人増やそうとしたら、流石にベッドから誰かが転がり落ちることになってしまった。

 その後も食い下がり、横に並ぶのが間違っている、上、つまり掛け布団になると言い出した辺りで流石に引き退らせた。最終的にはグレカーレは神風の部屋に行ったらしい。

 

「いやぁ、カミカゼに迷惑かけちゃったかなぁ。ミユキも知ってると思うけど、布団が擦れるだけでちょっと声出ちゃうのヤバいよね〜」

「それだけはどうにか出来ないもんなのかな」

「慣れるしかないんじゃないかな。多分、コイツがあたしの身体を変えた後遺症だと思うし」

 

 胸元を親指で指差すグレカーレ。そこに小型の深海忌雷がいるのだと暗に示しているわけだが、今はもうそれそのものがいるわけではないようである。グレカーレ自身、それが体内にいると感じないし、蠢いているようなことがあれば嫌でもそれがわかるというもの。

 要は身体を書き換えるために()()()したということで間違いなさそうである。だからこそ、元に戻す手段が今のところ見当たらないというところにも繋がる。

 

「あ、それで思い出したんだけどさ、この忌雷が髪の毛の中に仕込まれてた港湾水鬼、どうなったんだろうね」

「今はおおわしで入渠されていると聞きましたが」

「流石に丸一日以上経ってんだし、目を覚ましててもおかしくはないよな」

 

 電だけはその港湾水鬼のことを知らないため首を傾げる。現場で救われたカテゴリーYのことは、まだそこまで話が出回っていない状態。

 

 艤装に囚われ、意思に関係なくうみどりを攻撃させられていた2人の港湾水鬼。片方は特に衰弱しており、すぐに入渠が必要だとおおわしで療養に徹している。

 入渠がどれだけ長引いたかは知られていないが、流石に救ってから大分時間が経っているため、入渠も完了して話くらいは出来るようになっている可能性は高い。

 そもそも、もう片方の港湾水鬼はそこまで消耗しておらず、救われた時から話が出来ていたのだ。そちらから何かしら話を聞いているかもしれない。

 

「港湾水鬼……ということは、平瀬さんと同じような感じなのです?」

「ああ、見た目だけならかなり近かったな。個体差っぽいのは全然わからなかった」

「艤装がちょっと違うね。あと、人相がすごい」

 

 港湾棲姫である平瀬とは、見た目だけならかなり近しい。なんならそっくりと言っても過言ではない。戦闘面で言えば、グレカーレが言うように艤装の形状が少々違う。港湾棲姫が航空戦主体であることと比べて、港湾水鬼は砲撃を駆使してくる。万能さで言えば、水鬼に軍配が上がる。

 そして何より違うのは、その人相。港湾水鬼は常に睨み付けるような表情をしており、小さな子供だとそれだけで怯えるとまで言われていた。

 

「艤装が無い状態でここに来たら、平瀬さんも区別つかないかもしれないな」

「その辺りはなんか違うカタチで差別化するんじゃないかな。服とかアクセサリーとかで」

「まぁそうしないとマジでわかんねぇもんな」

 

 それに関してはおおわしの采配。艤装は海賊船で破壊しているため、残っているのは本人達のみ。流石に深海棲艦のままの服装は本人達が嫌いそうなので、着替えさせてはいそうである。

 そうでなくても、港湾水鬼の服装は割と過激である。露出度が高いわけではないが、いろいろと見せつけてくるようなモノであるため、情操教育上良くない。ただでさえ、おおわしには丁型海防艦のような無邪気な子供達がいるのだから、そういうところは避けたいと思うだろう。

 

「その方達はうみどりに来るのです?」

「どうだろうな……カテゴリーYをうみどりに集めておくのかどうかわからねぇし」

「うみどりが間違いなく安全とは言いにくい状況です。しかし、陸に置いておくのも見た目から危険ではないかと」

 

 ここが難しいところで、その姿のせいで人間社会に戻れるかと言われるとかなり難しい。桜や手小野はまだマシだが、平瀬と港湾水鬼はあまりにもわかりやすい角があるため、嫌でもその存在がバレる。

 それが元々人間で、自分の意思に関係なく身体を変えられたと説明しても、全員が納得出来るかと言われたらそうではない。如何なる理由があっても、その姿だけで反発する者は存在する。

 

 出洲一派に好き勝手やられただけなのに、人生を勝手に壊され、隠れ潜んで生きていかなくてはならなくなっているのが不憫でならない。

 故に、せめて落ち着くまではうみどりで匿い、全てが終わった後にどうにか一般人として戻したい。そこまでしてこその()()()である。

 

 

 

 

 噂の港湾水鬼2人だが、昼目提督が考えた結果、まずは一度うみどりに向かわせることとされた。同じカテゴリーYがいるというのが心の支えになるかもしれないというのが非常に大きい。

 最初から2人いるので支え合えるとは思うが、2人よりも5人の方が支え合える規模が大きくなる。そして、周りにはカテゴリーYを理解する者しかいない。勿論おおわしもだが、うみどりは理解度が違う。

 

 運んできたのは大発動艇が扱える者。艤装などは無くても、港湾水鬼は深海棲艦の中でも大柄な方なので、流石に昼目提督の水上バイクで運んでくるようなことは出来なかった。

 

「すんません、ハルカ先輩。やっぱ、こっちの方がオレんとこより落ち着けると思いまして」

「ここが安全かと言われたらそうではないけれど、確かに()()が多い方が落ち着けるとは思うわ」

 

 大発動艇からおずおずと降りてくる港湾水鬼2人。2人の前に立つとその大柄さが際立つ。

 予想通り、港湾水鬼の服装はやめており、かなりラフな姿。平瀬と同様にシャツとズボンという程度。それくらいの方が落ち着けるという昼目提督からの配慮でもある。

 

「お世話になります」

 

 頭を下げる片方の港湾水鬼。こちらは、海賊船の中でもまだ元気があった方。もう片方も小さく頭を下げる。

 

「えぇと、港湾水鬼と呼ぶのは忍びないから、名前を教えてもらえるかしら。ああ、アタシはうみどりの伊豆遥。ハルカちゃんと呼んでちょうだいね」

「あ、はい、ハルカちゃん。よろしくお願いします」

 

 順応性は高めの片方の港湾水鬼が、改めて頭を下げる。しかし、もう片方も港湾水鬼は未だにモジモジしているというか、少し居心地が悪そうである。

 

「あ、名乗らなくちゃですね。私は、黒井(クロイ) (ケイ)と言います。で、こちらは私の……」

(トオル)……黒井透……です」

 

 苗字からして姉妹である。2人揃って素質があったようで、2人揃って同じタイプの深海棲艦となっている。

 

「……やっぱり、言いにくいよね……。でも、言わないとわからないよ?」

「そう、だけど……」

 

 蛍の方が何か深みのある言い方。そして、透の方は未だに変わらず顔を伏せてモジモジしている。

 

「何かあるの? その身体にされてどうしても不都合が出てきちゃった? 大丈夫、ここにいる子達はみんなそういうことも受け入れてくれるわ。言いにくいことなら言わなくてもいいけれど、辛いことがあるなら吐き出しちゃった方が身のためかもしれないわよ」

 

 伊豆提督が宥めるように話したことで、意を決したように透が首を縦に振る。だが、自分では言いにくそうだったので、蛍がその真相を代弁した。

 

「……あの、透は……私の……()()()()()

 

 空気が凍りついたかのようだった。

 

 兄、すなわち()()()()。居心地の悪さはそれ。勝手に深海棲艦にさせられただけで無く、()()()()()()()()()()()()()というのが一番の問題だった。

 

 

 

 

 黒井姉妹ではなく、黒井兄妹。2人の合流で、また事態は先に進む。

 




黒井兄妹の名前の由来は、ギリシャ神話の双子、デュオスクーロイから。名前は兄のカストール、弟(妹)のポリュデウケースから。
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