おおわしでの入渠を終え、うみどりへとやってきた2人の港湾水鬼。カテゴリーYであることはわかっているのだが、姿が全く同じと言ってもいいため、名前を聞くと、2人の関係性がわかる。
2人は血の繋がった兄妹、
「あの……ハルカちゃん、カテゴリーYが……来たと聞きまして」
工廠にやってきたのは、黒井兄妹と同じく出洲に改造された、うみどりに既に所属しているカテゴリーY達。
筆頭の平瀬は、2人の姿を見て驚いていた。変えられたとはいえ、自分と殆ど同じ見た目の深海棲艦が2人もいるのだ。
「わ、わ、平瀬さんと、そっくり……」
「私は棲姫で……そちらの方々は水鬼……なんでしょう」
驚いたのは平瀬だけでなく手小野も。桜もオドオドしながら平瀬の陰から黒井兄妹をチラチラと見ていた。
表情の怖さで一歩引いていても、黒井兄妹の本質が自分と同じ被害者であり、好きでこうなったわけでもなければ、うみどりを陥れようと考えているわけでもない。
そのため、今はまだ恥ずかしがり屋な性格から前に出られないものの、関係を持つことは出来そうであった。
黒井兄妹も平瀬の姿を見て驚く。自分と同じように身体を変えられているような者がいるのは知っていても、自分とほぼ同じ姿の同胞がいることは知らなかったためである。
本来全く無関係である平瀬と黒井兄妹が並ぶと、2人兄妹が3人に増えたかのようにも見えてしまう。細かいことを言えば、黒井兄妹の方が少しだけ身長が高いため、平瀬が末っ子に見えるというくらい。
「ここには私達がいますので……少しは安心出来るかと思います……」
「そ、そう、みんな同じ、だから」
うみどりに保護されたのならば、お互いに助け合って生きていける。平瀬達は先達として、黒井兄妹を導いていこうと考えていた。
壊された人生を巻き返すためにも、同じ傷を持ってしまった者同士でまずは支え合おうというのが、カテゴリーYの中で考えられたやり方。
「はい、よろしくお願いします。まだ勝手がわからないこともありますが……」
「だ、大丈夫。私達も、完全に慣れたわけじゃ、ないから」
蛍が深々とお辞儀するため、手小野がアワアワしだした。こうなったらもうみんな一蓮托生。
「いえ、多分私達の方が歳下だと思うので」
「そうかも……しれませんが……。桜ちゃんよりは歳上……ですよね」
名前を出されたため、桜がビクッと震える。だが、紹介されたというのもあって、おずおずと少しだけ前に出た。
その姿をマジマジと見た黒井兄妹は、こんな子供にも巻き込まれた者がいることを知り、少なからずショックを受ける。特に透の方は感受性が高いのか、表情に出るほどに悲しそうにしていた。
だが、それを見て平瀬がすぐにフォローする。
「いろいろありましたが……ここで
「えぇと、はい、わかりました。せめて今を楽しみます。今後どうなるかわかりませんけど、こうなってしまったのはもう仕方ないですから」
蛍の方はえらくポジティブのようだ。今の状況を受け入れ、これからどうするかを考えるだけの余裕がある。精神的にもかなり強いタイプ。
しかし、透の方はそれでもポジティブにはなれない。何せ、元々人間というだけでなく、元々男である。これまでも勝手があまりにも違うため、戸惑いは誰よりも大きい。
「透、ゆっくり慣れていこうよ。ポジティブに考えれば、
「そう……だけどさ……」
これはまた聞き捨てならない言葉。カテゴリーYとの交流も必要だが、黒井兄妹がこうなってしまった経緯を聞かなくてはならない。
「ごめんなさい、少しいいかしら」
「あ、はい、なんでしょうか」
「アナタ達はどうしてこうなってしまったのか、話を聞かせてくれるかしら。ここで立ち話もなんだし、執務室でお茶でも飲みながら」
「そうですね、私達の知っていることが、何かお役に立てるなら是非」
ここからは鎮守府としての仕事。この事件を解決に導くためにやるべきこと。
これには黒井兄妹も力になりたいと、知っていることを全て話すつもりで挑んだ。
執務室。話すのは勿論黒井兄妹。それを聞くのは伊豆提督に昼目提督、議事録を取るためのイリス、そして、
「初めまして。私は丹陽、純粋な艦娘を取り纏めることにされた艦娘です。こんな見た目でも80年以上生きている今のうみどりのダントツ最年長なので、お気軽にお婆ちゃんとでも呼んでください」
「は、80年!?」
丹陽が参加。幼い見た目からは想像出来ないくらいの経歴に、蛍は声を上げて驚いた。透は言葉もなく目を見開いている。
お茶でも飲みながらと話を振っているため、しっかりその辺りは用意された。それを用意するのは勿論セレス。
「貴女も私達と同じで」
「イイエ、私ハ貴女達ガ言ウ純粋ナ深海棲艦ヨ。イロイロアッテ、ココデ食ヲ探究シテイルノ。侵略トカ微塵モ興味無イカラ安心シテ。ムシロ、貴女達ニ料理ノ知識ガアレバ、後カラ教エテチョウダイ」
見た目は自分達と同じ深海棲艦なので、まだ犠牲者がいるのかと思ったら、こちらは普通ならあり得ない純粋な深海棲艦だと言い出した。
こればっかりは一番の想定外で、言ってしまえば
ここには人間も艦娘も深海棲艦もいる。自分のような元人間だが深海棲艦に変えられた者もいれば、一般的に知られている艦娘となった人間もいる。
この空間をどう捉えるかはその者次第ではあるが、蛍は少なくとも前向きに捉えた。
「凄いですね、ココ。なんでもある」
「まぁそうね。アタシは七色の艦隊なんて言ってるわ」
「七色、確かに!」
このまま話していたら脱線しそうだったため、すぐに軌道修正。黒井兄妹の経緯を聞いていくことに。
「えぇと、まず大前提として、兄の透のことからお話しします」
「さっき病気がどうとか言っていたけれど、それが関係してくるのかしら」
「はい。透は不治の病を患っていまして……その治療が出来るということで、両親から勧められたんです」
先進医療を使ってもなかなか治療出来ないタイプだったらしく、家族で困り果てていたところ、何処からかわからないが両親がその噂を聞きつけて、治療を受けさせたらしい。
そこで、透が治療を受けるのは勿論だが、双子の妹である蛍からの輸血をしたいということもあって、2人で入院したとのこと。
透の消耗が早かったのは、そういうところもあった。深海棲艦化して体力や膂力は人間とは比にならないくらいのモノにされてしまったが、病気のせいで元々の部分が足りない。その上で、慣れていない
「実際、手術する直前までは信用しきっていました。透の病気が治るんだって大喜びして。でも、蓋を開けてみればコレです。確かに病気は治ったけど、私共々姿を変えられて……多分病気を治すというのも、実験台の調達のための出任せだったんだと思います」
「……そうね。心が弱ったところに付け込まれた……というのが妥当なのかしら。あちらは高次の存在に辿り着くために手段を問わない連中だもの。それでも世界平和を目指しているって言っているのよ」
「病気が治るという点だけで言えば平和だと思います。それは間違いないです。でも……それでこれって酷くないですか。何の許可もなく、透どころか私の身体まで弄くり回して。しかも、その後に両親とは一度も面会させてもらえない挙句、なんかよくわからない船に括り付けられて、身体の自由を奪われてあんなことやらされて。詐欺ですよ詐欺」
蛍がヒートアップしてきたため、透が一旦その熱を冷ますために背中を撫でる。何処かこういう仕草が慣れっこに見えたため、この兄妹の関係性がわかった。
よく喋り熱くなりやすい妹と、口数が少なく冷静な兄。兄は不治の病であるため少々後ろ向きで、妹はそれをどうにか出来るかもしれないと前向き。正反対の兄妹だが、非常に仲が良かったこともわかる。
「お前さん達の怒りはよくわかった。あとはオレ達に任せてくれや。仇って言やいいかわからねぇけど、他人を騙くらかすような輩は制裁してやっからよ」
「ありがとうございます、強面のおじさん」
昼目提督相手にも臆さない蛍。透は終始黙っているようだが、力になってくれるうみどりの面々に対しては、信頼を置いているように見えた。海賊船で救ってもらったという恩を強く持っているのもある。
「その治療として何処の病院に入ったのかしら」
「えぇと……」
「両親の実家の島です」
ここからは透からの発言。
「あの島に、そんな高度な医療施設があるなんて知りませんでした。ですが……今の自分の身体を見て、
透の見解として、知らず知らずのうちにその島が
ならば、黒井兄妹がこの姿にされた場所というのが、白雲が捕まって改造された場所と考えるのが妥当。
「その島って、ここのことか?」
ここで昼目提督も動き出す。うみどりと合流する前に調査隊として調べ上げていた内容が一致するかをこの場で確認する。
タブレットのため少し小さい画面ではあったが、地図を表示して候補地を見せた。すると、
「ここです。これが僕達の両親の実家です」
該当する島がその中にあった。今の場所からはそれなりに離れているものの、行って行けないことはないような場所。
人口もそこまで多くなく、いわゆる漁師町と言える島だ。つまり、港もある。
「ここが、奴らの今の本拠地と考えるのがいい、のよね」
「うす。次に向かわねぇといけないのは、ここっスね」
2人を救ったことで導き出された、次の目的地。出洲一派の本拠地とも言えるその島に向かうために、まずはやらねばならないことを終わらせなくてはならない。
だが、黒井兄妹が救われて場所をバラされる可能性は考慮していなかったのだろうか。つまり、
それを考えていては戦いは終わらないのだが、どうしてもそんな不安が頭をよぎった。
ついに本拠地と言える島の在処が確定しました。ですが、まずは後始末、その後軍港都市で補給と、やることはいっぱい。