後始末屋の特異点   作:緋寺

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前向きな兄妹

 黒井兄妹による情報で、現在の出洲一派の拠点がとある島に存在することが判明した。後始末を終わらせ、軍港都市で補給が完了した後は、そこにある拠点をどう叩くかを考えなくてはならない。

 とはいえ、今は後始末屋としての仕事が最優先である。正直なところを言えば、今すぐにでもその島に対して何かしらの動きをしたい。しかし、この現場を放置するわけにもいかない。夜に深海棲艦が発生してしまったことも考えれば尚更だ。

 

「後始末屋……海の掃除屋ってことですね」

「ええ、アタシ達は海を綺麗にする仕事をしているの。そちらがどうしても優先になっちゃうのよ」

「確かに、ちょっとここの海、汚すぎますもんね」

 

 すぐに向かうとかはしないのか、何故ここに留まっているのかと、蛍の方から質問が来たので、伊豆提督が簡単に説明する。

 黒井兄妹も、ここに来るまでにおおわしから海を渡ってきたのだから、その時にこの海域の酷さを目にしているため、理解が早かった。特に透の方がなるほどとすぐに把握し、後始末を優先してくださいと頭を下げるくらいであった。

 

「それに、対策無しで向かっても一方的にやられちまう。奴らはやってくることがオレ達の一手も二手も先だ。気に入らねぇがな」

 

 昼目提督もすかさず口を出す。本拠地の場所がわかったところで、策無しで突撃したら間違いなく負ける。

 ただでさえ恐ろしいほどの力を持つカテゴリーKが出洲も含めて3人いる。その上で、本拠地というのならば多種多様な防衛手段を用いてくるだろう。本人達が出ずとも、アウェーであるうみどりが勝ちに行くのは至難の業。

 

 そして一番警戒しなくてはならないことが、海賊船から逃げ果せたアナウンスの向こう側にいたカテゴリーY。戦力としてではなく、奴の研究成果として生まれている深海忌雷。

 グレカーレがやられたそれは、『試作品』と呼ばれていた。ならば今頃、『正規品』が生まれていてもおかしくはない。それの対策は絶対である。

 グレカーレだからアレで済んでいるが、他の者が寄生された場合、救出不可能と言っても過言ではない。心身共に変化させられ、明確な敵として生まれ変わってしまうのが目に見えている。それだけは絶対に避けなくてはならない。

 

「なんというか、滅茶苦茶ですね」

 

 蛍の歯に衣着せない発言に、伊豆提督は思わず苦笑した。まさにその通りである。

 

「ともかく、アタシ達はもう少しここで後始末をした後、足りなくなった諸々を補給してから行動することになるわ。アナタ達はしばらくうみどりで生活してもらうことになるけど良かったかしら」

「はい、大丈夫です。よろしくお願いします」

 

 改めて頭を下げる黒井兄妹。ここまで素直な人間を見るのが久しぶりな気がして、伊豆提督達は少し温かな気持ちになれた。

 

「第二世代には私が話しておきます。よかったですよね、ハルカちゃん」

「ええ、お願いするわね。アタシよりもアナタの方が話を聞くでしょうし」

「了解です。また集まった時に話しておきますね」

 

 黒井兄妹のことを全体に伝えるのは丹陽がすることに。カテゴリーCならば伊豆提督達が話せばいいが、カテゴリーB達は伊豆提督よりも丹陽の方が話を聞く。ならば、適所の者にそれをやってもらった方が話が早い。そういう意味では丹陽は伊豆提督よりも説得力を持った存在。

 

「あ、でもごめんなさい。部屋があまり無くて、2人で1部屋とか大丈夫かしら。必要なら妖精さんに頼んでいろいろと弄ってもらうけれど」

 

 部屋数に関しては、現状は大分微妙なところになっている。全員に提供出来ないという理由で潜水艦勢がレクリエーションルームで雑魚寝をしているくらいなのだから、残っている部屋はあと数部屋。一応黒井兄妹に1人1部屋ずつ渡せないわけではないのだが、後から誰かを救出した際にどうにか出来るように、なるべく節約したいというのもある。

 

「あ、それは大丈夫です。2人で1部屋で。透に()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「け、蛍……あまりそういうことを大きな声で言わないでも」

「でも、向こうでもそこまで自分の身体見れてないでしょ。服だって私が着せてあげたんだし。今度から自分で下着つけてもらわないと困るんだから」

「そ、それはそうだけどさ……」

「私だってこんなえっぐい身体になるなんて思ってなかったから、お互いにちょっと見合った方がいいよ。ね?」

 

 ポジティブというかアグレッシブな蛍にタジタジな透。この兄妹の力関係がわかる。

 確かに、透はこれまで男だったのに、出洲一派の仕業で女、しかも港湾水鬼という深海棲艦の中でも屈指の肉体を持つ身体へと変貌させられてしまっているのだ。もし元に戻れなかった場合、これが今後の自分の身体になるわけで、蛍の言うように今の身体に慣れなくてはならない。

 

「蛍さんはグレカーレさんと気が合いそうですね」

「そういう気の合い方は、アタシ的には苦言なんだけれど」

「まあまあ、子供の前ではやらないでもらえば。それくらい自重出来るでしょう?」

 

 丹陽に言われて、勿論ですと親指を立てる蛍。このテンション、非常に()()

 

「失礼だけれど、アナタ達おいくつ?」

「2人揃って17歳です。双子ですので」

 

 なるほどと全員が納得した。

 

 

 

 

 黒井兄妹がうみどりに住まうことになる情報はすぐに伝達され、午前中には全員に知れ渡る。

 ちなみに、透の方が元男であることも通達済み。そこを知っておかないと後々厄介なことが起きるかもしれないため、そういう情報は包み隠さず。

 

 勿論深雪達もその話は耳にしており、早朝に噂をしていたこともあって、無事にうみどりの一員になったことを喜びながら、ちゃんと顔を合わせておこうと昼食の休憩の際に会いに行った。

 

「あ、君達は私を助けてくれた子だよね」

 

 そんな感じで明るく深雪達を出迎えた黒井兄妹。特に深雪の方に目が行くのは、カテゴリーW、特異点の光のせいだろう。

 

「あれ、なんかいろいろ変わってる?」

「見た目が同じだし、ここには平瀬さんもいるでしょ? だから、差別化は大切だよねって」

 

 見ただけでわかる差別化ということで、蛍の方は髪を結ぶように、そして透の方は髪を切っていた。ショートカットの港湾水鬼というのはまずいないので、見ただけで特殊であることがわかる。角さえなければ、深海棲艦にも繋がらなくなるかもしれない。

 それに加えて、服装も差別化。透の方はやはり()()ということもあって少々男装風味に。蛍の方は逆に女性らしくしている。平瀬がラフにしているため、三者三様で区別がつきやすくなっているとのこと。

 このおかげか、桜とも打ち解けることが出来ているらしい。港湾水鬼という個体の人相の悪さだけはどうにもならないが、睨みつけるようなことをしなければ、少々キツイ顔のお姉さんになるくらい。強さは薄れるというものである。

 

「改めて御礼を言っておくね。助けてくれてありがとう。あのままだったら、私達は確実に死んでたからさ」

「助けられてよかったよ。でも、あたしは囮してただけで、助けたのはあたしじゃなくて神通さん達だからさ」

「みんなで力を合わせてくれたから助かったんだからさ、みんなのおかげだよね。だから、ありがとうね」

 

 ニンマリ笑う蛍。透も薄く微笑みながら頭を下げる。これを否定するのは間違っていると思った深雪は、それをただ受け入れた。

 

「でも、特異点だっけ、すごくわかりやすいんだね。私でさえ見てわかるレベルだもん。ね、透」

「だね……僕からも光って見える」

 

 平瀬も手小野もそう話していた通り、カテゴリーYから見れば、特異点は一目瞭然。これがあるから、海賊船では艤装が反応して攻撃を優先したほど。

 

「あ、そっちの子も少しだけ光ってるんだね」

 

 2人の視線が電の方へと向く。ビクッと震えるものの、別に敵意のある視線でも無く、興味、そして好意の目であるため、怖がるようなことはない。

 カテゴリーYから見れば、電とてカテゴリーYの光を持っている者。しかし、その光は深雪と比べると微弱であり、ぱっと見でわかるとはいえ、そこまで気にならないという程度。

 逆に言えば、深雪がそれだけわかりやすいとも言える。敵が深雪を集中して狙ってくるのもわかるというもの。

 

「ああ、電はあたしと同じカテゴリーWなんだ。でも、あいつらからは特異点とは言われてないんだよな」

「なのです。電はちょっと違うのでしょうか……」

「それならそれでいいんじゃね? 電まで狙われたら嫌だしな」

 

 電は特異点扱いではない。カテゴリーWと特異点はイコールで繋がっていないということになる。深雪としてはそれでありがたく、電としては少し悲しい。自分も特異点ならば、深雪への敵の執着を自分に分配出来るのに。そう考えると、少し残念でもあった。深雪と同じでないことに対しても少し思うところはあるが。

 

「特異点って一体何なんだろうね。私にはただ光ってるヒトって感じにしか見えないけど」

「わかんねぇ。向こうには何かわかってんのかもしれねぇけど、謂れのないことで命まで狙われたら堪ったもんじゃねぇや」

「本当だねぇ……しかもそれに巻き込まれて私達みたいな人も増えちゃうんでしょ? 話は聞いたけど、私達をこんな身体に変えた連中は滅茶苦茶が過ぎるよ。特異点って言っても普通の女の子なのに、平和のためには殺さなくちゃーって言ってるんでしょう。キチガイだよキチガイ」

 

 割と過激な発言をする蛍に、透が困った顔を見せる。蛍はいつもこうだし、透はいつもこう。

 

「出来れば私も戦いの方でお手伝いしたいんだけどなぁ」

「艤装は全部ぶっ壊しちまったよ。それに、戦いに参加出来ないなら、無理して参加しない方がいいよ」

 

 深雪の言葉に、電だけでなく、共にいた白雲とグレカーレもうんうんと頷く。

 黒井兄妹は身体こそ深海棲艦に改造されてしまったが、戦力とはお世辞にも言いにくい。そもそもあの戦場で武力を振り回させられていたのも、艤装が勝手に動いていただけで、黒井兄妹の力は何一つ使われていない。

 言ってしまえば、黒井兄妹は平瀬や手小野と同じで、深海棲艦の力が与えられただけの素人。その力だけを振り回すのならば、それは間違っていると断言出来た。

 

「命懸けるのは、あたし達に任せてくれよ。せっかく救われた命を、そんなキチガイとの戦いに擲っちゃダメだ」

「……うん、そうだね。君の言う通りだ。ギソーとかいうのもないのにどうやって戦うんだって話だし、わざわざここに迷惑かけるのもおかしいもんね」

「そうそう。というか、ここでやってもらいたいこともあるよ」

 

 非戦闘員としてやってほしいことはそれなりにある。今でこそセレスが自分の意思でやり続けている料理の件もあるし、艦内の掃除などもある。艦娘達ではもう手が届かなくなりそうなところをやってもらえるだけでもありがたい。

 

「適材適所ってヤツだ。私達でもやれそうなことをやっていこう」

「うん、せっかく拾った命だし、出来ることがあるならやろうか」

 

 兄も妹も、そういったところにはやる気があるらしい。蛍はアグレッシブに匿ってくれている人たちの役に立つために、透は健康体にされた身体を使ってこれまでやれなかったことをやるために。

 

「よーし、じゃあ私達は海を綺麗にすることが出来ないし、この艦の中を綺麗にしていこっか。せっかく身長もこんなに高くなったことだしさ」

「そうだね。それに、身体が怠くないんだ。やりたいことが沢山あるよ」

「透もポジティブに身体動かそうね。運動とかもやっていこ」

「せっかくだから、ね」

 

 

 

 

 港湾水鬼とされた兄妹は、思った以上に前向きだった。身体は変わってしまっても、心は変わらない。

 




健全な高校生だった黒井兄妹。そんな2人があんな身体を手に入ってしまったんだから、今後大変だ。
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