後始末屋の特異点   作:緋寺

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かつての上司

 雷雨だった2日目を感じさせない晴天の中の後始末3日目。作業は順調に進むものの、昨晩に残骸が大きく拡がり、その上で新たな深海棲艦まで発生しているため、2日目までに終わらせたところから大きく後退。目標は6割完了だったのだが、残念ながら4割完了というところとなっていた。

 

 午前中の作業に引き続き、午後の作業も邪魔など入らずに進んでいく。範囲が大きく拡がってしまっているため、それだけでもどうしても時間がかかってしまうのはもう仕方ない。

 だが今回はかなり大きい援軍が来ていた。それが、軍港都市から派遣された貨物船。拾い集めた残骸を持っていくだけではなく、後始末屋には時間が大きくかかる残骸集めである海賊船の後片付けの手伝いを買って出てくれたのだ。

 

「邪魔しないように少し離れておかないとな」

 

 作業中の深雪達は、その貨物船の作業を邪魔しないようになるべく離れる。雷雨のせいで散らばった残骸を片付けるのにはちょうどいいし、深雪やグレカーレに関しては、嫌な思い出が多すぎる海賊船から離れられるのはありがたかった。

 

「すごいのです。海の中の大きなモノを掬い上げていくのです」

 

 貨物船の作業の主は、沈んでいってしまった海賊船の大きな残骸の撤去。潜水艦達や潜水艇を操る海防艦達だけでは手に余るくらいの大きなモノは、ここでどうにかしてくれるという寸法。当然時間はかかるものの、安全に確実に撤去出来るというのは大きな利点。

 

 今はうみどり内部に溜め込まれた後始末の残骸も一旦全て持っていっているため、貨物船はそちらの作業に専念出来る。

 流石に潜水艦達が海中で指示などをしているようだが、その作業は初めてではないようで、かなり手際がいい。

 

「今日中に結構いい線行けるかもしれないな」

「だねー。あたし達が()()に関わらないで済むっていうのもありがたいよ」

 

 グレカーレが堂々と海賊船には関わりたくないと言い切った。深雪も口には出さないが、同じ気持ちであることは間違いない。

 

 あの戦いから少しだけ時間が経っているが、やはり出洲一派に関わる者に対して祈ることなんて出来なかった。故に、自分の意思とは関係なく巻き込まれたモノの残骸しか後始末出来ていない。

 共に作業をしている電と白雲も、深雪とグレカーレが意図的に海賊船を避けているのはわかっている。しかし、何か言うこともなく、そのやり方を肯定する。今はそれでいいと。すぐにそれを指摘するのは得策じゃないと。

 

「それでも、あと何日かはかかるよな、多分」

「なのです。また深海棲艦が出てこないとも限らないのです」

「天候も崩れるやもしれませぬ」

 

 順調に行ってもまだまだ時間はかかりそうだが、想定外の出来事も起こり得る。その辺りを考慮すると、まだまだ終わらないのではと思えてしまった。だが、やらねば終わらない。後始末屋として、作業の手を止めることはない。

 

「一番最悪なのは、また()()()()が来ることだよ」

「……だな。可能性として無くはないんだ。片付いたと思ったらまた散らかしに来るかもしれないと思うと、気分が悪いな」

「だよねぇ。次も返り討ちにしてやるけどさ」

 

 グレカーレの言うアイツらとは、無論、出洲一派のことである。今回は海賊船というカタチで襲撃に来たが、また違ったカタチで後始末の現場に襲撃に来るかもしれない。

 誰のせいでこうなってるんだと文句の一つでも言いたいものだが、ヤツらは素知らぬ顔で好き放題するだろう。これもまた平和のためであり、特異点に与する者は全て、平和のための道を邪魔する不届き者であると勝手なことを言いながら。

 

「何が来ても、白雲はお姉様をお守り致します。二度とあんな思いをさせぬように。彼奴等には指一本触れさせませぬ」

「ありがとな、白雲」

 

 躊躇なくそういう発言が出来る白雲に、電は先を越されたと一瞬思ってしまったものの、誰が先に言うかとかは関係ない。思いを伝えることに意味がある。

 

「電も、深雪ちゃんが悲しむのはもう見たくないのです。だから、戦うのです」

「ああ、一緒に全部終わらせような」

「なのです!」

 

 あのいざこざの前よりも親密になっているとわかるような会話に、ニコニコしているのはグレカーレ。

 電にライバル宣言をしつつも、電が深雪と仲良くしているところを見るのも好きなため、今の状況が嬉しくて仕方ないようである。

 

「さ、あたし達はあたし達でやれることをやっちまおうぜ。手ェ動かさねぇと、後始末はいつまで経っても終わんねぇぞ」

 

 海にはまだまだ残骸が散らばっている。これをどうにかしない限り、この海域から撤収は出来ない。

 作業はまだまだ続く。だが、そこまで嫌な雰囲気では無かった。

 

 

 

 

 後始末3日目は、全体のおおよそ6割まで達成。このペースで行けば、あと3日くらいで一段落つくのではと言われていた。

 これまで大規模な後始末でも丸一日あれば終わっていたことを考えると、おおよそ1週間想定、しかも援軍まで使ってこなしている今回の後始末は、これまででも屈指の作業規模であると言える。

 長く後始末屋をやっている伊豆提督やイリスも、ここまで長々と同じ海域にいることは滅多に無い。ましてやずっと後始末作業をしているなんて以ての外。

 

『うむ、ひとまず詳報は全て読ませてもらった』

 

 伊豆提督はこれまでのことを話すため、大本営、瀬石元帥と通信中。ちょうどいいということで、その通信には昼目提督や丹陽まで加わっている。昼目提督はおおわしから、丹陽は当然同じ執務室から。

 通信先に丹陽がいることに、瀬石元帥は大いに驚いたが、それくらい仲が深まっているということもわかったため、胃薬を1錠呑むだけに留まっている。

 

『厄介な敵であることはわかっておったが、まさかここまでとはのう』

「ええ……おかげでこの海域の後始末はまだ終わらず、出来る限りの戦力を総動員です」

『深海棲艦の生産と使役、その上で人間も艦娘も深海棲艦と変えることが出来る技術……聞いているだけで頭と胃が痛くなるわい』

 

 瀬石元帥はその犠牲者を直接見ているわけではないので、若干半信半疑なところはある。しかし、わざわざ戦闘詳報に書いてまで嘘をつくようなことを、この伊豆提督がするわけがない。そのため、見ていなくても信じている。

 昼目提督が現場に赴き録画してきた生産設備やグレカーレの変貌の瞬間などの情報も並んで提供されたため、信じざるを得ないのだが。

 

『それで、昼目君からの詳報も読んだんじゃが……こっちの方が問題じゃぞ』

『まぁ、そうですよね。普通なら考えられませんし』

 

 その内容というのが、首だけになっても生きている第二次深海戦争の元帥、原の存在である。

 今はおおわしで艤装が解体され、首から下の部分も凍結というカタチで保管されている。その凍結は人工的に行われたもの。調査隊は、保管が必要なモノに対しては冷凍保存する設備も存在している。ここがうみどりと違うところ。

 

 凍結させているため、自己修復は完全にロックされている。しかし、まだ死にはしていないという恐ろしい状態。それもそのはず、敵の調査のために、解体された艤装側の(コア)はそのままにしているからである。

 双胴艦として生まれ変わっている深海鶴棲姫は、本体と艤装、両方が存在していれば生きているし、片方が失われてももう片方が残っていれば自己修復する。そして、その全てが(コア)に依存していた。

 そのため、昼目提督は本体と艤装の(コア)はそのままにし、戦闘力を全て奪った状態にして調査をしている。出洲のやり方を突破出来る糸口を探すために。

 

「アタシも聞いて驚きましたよ。生首のままでも生きてるとか、ちょっと理解出来ませんから」

『最初はもう動かないかと思いましたが、今は()()()()()()()()()()()()

 

 そう言いながら机の下に手を伸ばす。まさかと思った瞬間、下から少し大きな筒状のモノが現れた。

 表面が分厚いガラスで作られたそれの向こう側は、何やら液体で満たされており、その中央に()()()()()()()()()()()()()()

 

「だ、出すなら出すって言いなさいな。流石にいきなり生首出されたら驚くわよ!?」

『あー……すみません。すぐに見てもらった方がいいかと思って』

 

 伊豆提督が苦言を呈するのも無理はない。後始末屋として残骸やグロテスクな亡骸などにも耐性はあるが、イリスですらビクッと驚き、瀬石元帥は思い切り咳き込んでしまっている。流石の丹陽もうわぁと口を開いていた。

 この状況に動じていないのは、昼目提督の()()()()行動に慣れてしまっている、おおわし側の画面に映る秘書艦鳥海くらい。それでも苦笑している辺り、この昼目提督の行動は普通ではない。

 

『こいつ、目を覚ましてるのに(だんま)りです。奴らの情報は絶対に流さねぇっていう意志を感じますね』

 

 筒をバンと叩くが、深海鶴棲姫は動じない。薄く目を開く程度で、そのあと何か語ることもない。

 

『……それが原さんだと言うのかね』

「はい」

 

 瀬石元帥は少し悲しそうに問う。詳報にはそう記載されているし、戦場で長門達が本人からそうであると聞いているため、そうなのだろうとは思っているが、姿形が当時とまるで違うため、現物を見ても納得は出来ない。

 瀬石元帥は、原元元帥と面識がある。第二次深海戦争の際に、瀬石元帥は他鎮守府の提督として活動しており、大元帥ともある程度交流はあった。その時に、原元元帥とは会話すらしたことがある。

 

『……変わり果てたものですな、原さん』

 

 語りかけても反応しない──と思いきや、薄く開いた目を画面上に向けていた。瀬石元帥の姿を見たことで、小さく微笑んだようにも見えた。

 

『何も語ってはくれませんか。貴女のやっていたことは、確実に間違っている。それくらい、聡明な貴女なら理解しているんじゃないですか』

 

 瀬石元帥は、()()()()()()に向けて、懇切丁寧に語りかける。画面越しだとしても、敵だとしても、その敬意は忘れてはいない。

 だが、その行いが間違っていると言い切れた。他者を騙して犠牲にしてまで目指す平和に、何の意味があるのか。それを強行した原元元帥には、敬意と同時に軽蔑の目も持っていた。

 

『……偉くなったものね、瀬石君』

 

 初めて生首が口を開いた。

 

『貴女の選民思想は間違っている。人類を高みに押し上げると考えるのはいい。だが、考えるだけで止めておくべきだった。他の者の命を使って成し遂げようとしている時点で、貴女はおかしい』

『新人類へと至るためには、多少の犠牲は必要よ。強き生物が栄華を極める。犠牲となった者は、そこに至ることが出来なかった弱者ということになるわ。それすらも凌駕し、全ての者を強者たらしめる研究を今しているのだけれど』

『それが真の平和に繋がると? 貴女は……本当に愚かだ』

 

 瀬石元帥が大きく溜息を吐く。何を話しても平行線上。原元元帥の思想は、どうあっても変わることはない。

 

「一つ聞きたいのだけれど」

『答えられることなんてないわ。特異点を確保している後始末屋風情に』

 

 伊豆提督の口を塞ぐように、先んじて言い放つ原元元帥。即、お前と話すことはないと言い切る。

 だが、伊豆提督は口を噤むようなことはしない。答えろとは言わないが、話だけはする。

 

「出洲の思想は、本当に最初からあったのかしら。あまりに過激な思想すぎるもの」

 

 その質問に対して、原元元帥は口を開かない。ならばと、自分の考えを続ける。

 

「元々は、出洲は真っ当な科学者だったんじゃないかしら。それを、貴女が()()()()()()()()()なんてこと、あるかもしれないと思ったのだけれど」

 

 わざわざ悪という言葉も使って、原元元帥の言葉を引き出そうとしている。

 その考え方自体、無くはないと言える。本来は艦娘の研究をしているだけのただ善良な科学者だった出洲が、原元元帥の思想に触れてしまったことで、狂気に陥った。そんなことだってあり得る。

 

 しかし、原元元帥は何も話さず目を閉じた。ただ無視しただけにも見えるし、()()()()()とも取れるその態度に、一同は溜息を吐くしかなかった。

 

 

 

 

 後始末は続くが、その裏側も情報は引き出せず、難航している状況。そうなってしまうと、今はもうやることは見えていることしかない。

 




あの出洲が真っ当だったかはわからず。でも、今やっていることがやっていることだから、過去が良くても許されることではありませんね。
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