後始末屋の特異点   作:緋寺

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微かな良い事

 全体の6割まで終わらせている状態で、交替しながら夜の間も作業を続け、後始末は4日目に突入。本日の目標は全体の8割完了まで。

 前日から貨物船による海賊船の撤去を開始しているため、そちらの後始末は順調に進んでいる。それに呼応するように、周辺の残骸集めも捗っていた。

 

「4日目ともなると、潜水艦の連中もやれるようになってくるよな」

「なのです。みんな手際が良くなっているのです」

 

 4日間、作業を変えることなく同じことをし続けているため、小さな残骸集めも肉片集めも、最初よりも抵抗なく手早くこなすようになっていた。

 また、大物の撤去もかなり順調。うみどりの長門と援軍の榛名がメインに動いていたが、グレカーレも随分と貢献している。本当に大きなモノに関しては、3人がかりで移動させるなんてこともあった。

 

「終わりが見えてきたって感じだな」

「そうですね。このまま順調に進めば、そろそろ終わりとなるでしょう」

 

 白雲も大分慣れたものである。残骸をケースに入れる手も、最初はおっかなびっくりだったが、今や躊躇がない。同じ仕事を4日も続ければ、それくらいは出来るモノ。

 

「これが終わったら1日待機して、そこから軍港だっけ?」

「ああ、そう聞いてる。人数が倍近く増えてるからな。補給もしておかねぇと、飯すら食えなくなるぞ」

「それは嫌だなぁ。美味しいご飯がここ(うみどり)の特にいいところなのに」

 

 グレカーレが戯けて言ったため、3人は苦笑。だが、ここの食事の美味しさは、確実に作業効率に影響している。簡単に作ったモノでも、丹念に作ったモノでも、その美味しさは一流と言ってもいいほどのものだからだ。

 伊豆提督が雑務で忙しくとも、今やうみどり専属料理人と化したセレスによる提供が滞らないため、作業をする者達は全員がしっかり回復することが出来ていた。

 後始末が長く続きすぎて食糧が無くなってしまった場合、その料理も失われることになる。それはモチベーションにも繋がり、作業効率が一気に下がるだろう。そしてまた補給が遅くなるという悪循環。

 

「まぁまだ大丈夫だろうし、無くなりかけても最悪貨物船が持ってきてくれるだろうから、心配はしなくていいと思うぜ?」

「それなら安心、かな?」

「安心なのです。軍港の人達は優しい人達ばかりなのです」

 

 軍港に既に行ったことがある深雪と電が自信を持って語るので、グレカーレも白雲もそこは信用することにした。

 

 

 

 

 4日目、昼。話にも出ていた昼食に舌鼓を打ちながら、午後からの作業を確認する。とは言ってもやることは変わらないので、どの場所を綺麗にしていくかという話になる。

 

 貨物船による海賊船の撤去はまだまだ進行中。苦戦しているところはなくとも、どうしても時間はかかる。貨物船はその内部で交替制らしく、夜通し作業はしていたようだが、それでもまだまだ終わらない。

 あちらもそれなりに慣れている者達が来ているため、これでも非常に順調。それだけ規模が大きいということである。

 

「おう、そっちはどうよ」

「ぼちぼちかな。新人がいい腕をしているからね」

 

 深雪とそう話しているのは時雨。作業が離れていたのでこうやって話すのは若干久しぶりなイメージがある。

 

 時雨が言う新人というのは、Z1のこと。出来損ないとの戦いで共に戦い、時雨が庇って重傷を負ったことで、Z1側からの接触が増えているらしい。最初は心配からだったが、時雨も純粋種であるために心を開くことも容易。元よりちょくちょく一緒に活動していたようだが、ここに来てその頻度が上がっているようだ。

 深雪達と別行動を取っている時雨は、基本的にZ1や子日、そして夕立と共に作業をしている。やはり共に戦ったというのが大きいようで、時雨も気が許せる相手。今もZ1は時雨と共に活動しており、子日や夕立と談笑中。笑えるようになっているあたり、大分心に余裕が出てきているようだった。

 

「あの出来損ないの体液が厄介だったよ。君が爆発させずに始末してくれたからそのまま放置していたけど、持続性はそこそこあるらしい」

「マジかよ。じゃあ、近付いたら艤装がやられるかもしれないってことか」

「ああ、だから、見つけても近付かない方がいい。回収も割と手間取ってね。浄化も時間がかかるみたいなんだ」

 

 時雨やZ1を傷付けたあの腐食性の体液。海上に散らばったそれは、海水に溶け込むわけでもなく、その場に留まっている。そして、その腐食性はそうなったとしてもあまり薄れていないらしく、それが付着すると戦闘中ほどの即効性は無いにしろ、悪影響は与えるらしい。

 一度子日がそれをやらかしたらしく、脚部艤装をゆっくりと侵蝕して機能不全になりかけたとのこと。少しガタが来た時にすぐに整備が出来たからよかったものの、最悪の場合、浮力を失ってそのまま水没の可能性すらあった。

 戦いは終わったのに、まだその残滓が迷惑をかけてくる。それが突然変異であちらも予想していないことだったとしても、厄介極まりなく、敵の性質を充分に表していると言える。

 

 穢れは平気で踏みつけてしまっている分、若干警戒を怠りやすいところ。万が一のことを考えると、そこはしっかり避けた方がいい。

 

「幸いにも、アレは僕達が見た6体しかいなかったみたいだから、これ以上の被害は無いと思うけど、もし見かけたら注意するように」

「おう、ありがとな。もう大丈夫かと思って踏みつけてたら酷い目に遭ってたかもしれないってことだもんな」

「そんなくだらないことで沈みたくはないだろう。僕も、君もね」

 

 確かにと笑う。

 

「……今回の戦い、悪いことの方が多かったとは思うけれど、いいことも少しはあったよ」

 

 時雨が突然そんなことを言い出したので、深雪は怪訝そうな表情を見せる。どう考えてもいいことなんて思い浮かばない。

 

「潜水艦のみんな、戦いの前よりも間違いなく力を貸してくれるようになったろう。一致団結っていうのかな、みんなアレだ、()()()()()()()()()()

 

 言われてみれば確かにと、深雪は聞けば納得が出来た。

 

 うみどりに住まうようになり、そこの人間ならばまだ信用出来るようにはなっていた潜水艦勢だが、やはり不信感はあったためにどこかギクシャクしている感じはしていた。最初から慣れている者──舞風や清霜──はいたものの、全員が全員、同じように信用出来ているかと言われれば、そうでは無かった。Z1はそれが特に顕著だったと言える。

 しかし、今回の戦いを経たことで全員が同じ目標を得たため、互いが互いに大きく信用出来るようになっていた。それは後からの援軍である榛名友軍艦隊や調査隊ともだ。これもまた、Z1が顕著。今、人間である子日と仲良く出来ていることがそれを物語っている。

 

「僕が言えた話では無いかもしれないけれど、人間は捨てたもんじゃないって気付いたんじゃないかな」

「本当にお前が言えた話じゃないな。でも、そうかもしれねぇ」

 

 工廠の雰囲気は非常に和やかだ。人間不信の潜水艦勢も空気が柔らかく、うみどりの面々だけでなく、榛名友軍艦隊やおおわしの面々とも当たり前のように話し、そして笑顔を見せていた。

 

 これまで最悪なことばかりだった出洲一派との戦いも、そういう意味ではいい影響を与えるものではあった。仲間達の結束力は高まり、誰もが仲良くなったと言えよう。

 

「これからはもっと艦内の雰囲気が良くなるんじゃないかな」

「だな。それはいいことだ」

「君も、()()には負けないように」

「それこそお前に言われたくはねぇよ」

 

 こんな言い合いであっても、互いに笑顔。

 深雪と時雨の絆は、こんな悪友のようなもの。それでもお互い居心地が悪くないのだからそれでいい。

 

 

 

 

 さらに後始末は続き、夜。目標である8割が見えつつある状況。早めに休憩を取って夜間に働く者や、続けて作業して夜に休む者が分かれていくくらいの時間。

 頑張れば明日には残骸の撤去だけは終わるのではと考えられる。それくらい早期に作業が進んでいた。

 

「長かった作業も、そろそろやっと終わるかもだな……」

 

 しげしげと海を眺める深雪だが、まだ油断は出来ない。撤去は出来ているものの、穢れの処理が滞っているのだ。

 

 大規模の時でも、残骸を片付けながら洗浄をしていくのだが、あまりにも残骸が多すぎたため、洗浄よりも優先して残骸拾いをし続けていた。洗浄をするにも、残骸が多く残っている場合、そこからまた穢れが溢れて意味がなくなるからである。

 

「今日ももしかしたら深海棲艦が出てきちまうかもしれねぇな」

「なのです。そうしたら夜のヒト達でどうにかしなくちゃなんですよね」

「ああ。あの雨の日に軍港のみんながどうにかしたらしいけど、何か来るのはあり得るぜ」

 

 深雪の隣で同じように海を見ている電も、この後にまたここで戦いがあるかもしれないと思うと、少し嫌な気持ちになる。

 

「あたし達はまた夜は休ませてもらうから、任せることになるんだけどな」

「何もなければいいのですけど……」

「あたしもそれは願ってるよ。流石にもう何もあってほしくはない」

 

 後始末の最中に攻め込まれるのが一番キツい。後始末の範囲が拡がるのと、単純に疲労が溜まっている状態での戦いになるからである。

 今やるべきことをやっている最中に別事が割り込んでくるのは嬉しくない。早く終わらせなくてはならない作業を先延ばしにさせられるのには苛立ちを感じる。それを何度も仕掛けてこられたら、いい加減怒りが限界を越えるだろう。

 

「でも……やってきそうなんだよなぁアイツら」

「なのです……タイミングが最悪なのです」

「そういう予感だけは当たってほしくはないんだけどな」

 

 穢れから深海棲艦が生まれてしまうのはまだいい。だが、出洲一派は嫌がらせのようにタイミングを合わせてこちらが一番苛立つ瞬間を狙ってくる。

 それもこれも、全て特異点の心を崩すため。どういう理由があってそこまで執着してくるかはわからないが、とにかく出洲一派は特異点──深雪を()()()()()ようにも思われる。

 

「深雪ちゃん、あっちに怖がられてるのです?」

「だとしても、追い詰め方が陰険すぎんだよ。出来損ないにされた初雪見せつけられたり、クソみたいな人間を使われたり、挙句の果てにはグレカーレだ。これ以上何が出来んだよ」

「……あまり考えない方がいいと思うのです。電も考えたくないのです」

 

 自分が嫌だなと思ったことがまたされそうな気がして仕方なかった。例えば、朝に話していた食糧の枯渇。例えば、昼に話していた絆の崩壊。どれもこれも、深雪にとっては致命的。死活問題に繋がる。

 

「今は休んで、後始末を終わらせようぜ。やることはまだまだあるんだ」

「なのです。今日も一緒にお願いするのです」

「ああ、あたしからも頼む。やっぱ、一番落ち着けるのは電だよ」

 

 そんなことを言われたら電は内心大喜び。

 

「よし、じゃあ休むか。明日もまだまだ作業は続くぜ」

「なのです!」

 

 こうして夜は更けていく。

 

 

 

 

 まだ何が起きるかわからない。何事もないことを祈り、願い続けるしか出来ない。

 




共通の敵が現れれば、それを討ち倒すために協力関係になって、それ故にギスギスが無くなるという方式。
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