姿を消した敵をどうにかするため、あの手この手を模索する伊豆提督と昼目提督。
ひとまず一番安全を確保しなくてはならない貨物船には、なるべく近付かれないようにするために、出入り口を完全に封鎖することと、常に探照灯で照らし続けることを指示している。
光に照らされてくれるならいいのだが、それ以上に、大型の探照灯で照らすことでそこの熱量が相当なものになるということにも繋がる。
いくら姿が見えていないにしても、熱量の変化に対して生身が耐えられるかと言われれば話が違う。そこに無いわけでは無いのだから、触れられる。
「まだまだ安心は出来ないけれど……うん、決戦は多分、この夜ね」
後始末が完全に止まってしまっている現状は、姿が消えるというとんでもない力を見せつけられたことで作り出されてしまっている。
いつどのタイミングで侵入されるかもわからない。行動が全く見えない。近付いてきているのか、既にこの海域にいないのか、それすらもわからない。
潜水艦による哨戒でも、その姿を見ることは叶わなかった。伊203が目に見えるほど苛立っていたのは珍しく、この未知の敵のせいで後始末が遅くなっていることを愚痴るほどである。
「……少し、纏めましょうか」
「そうね」
伊豆提督はイリスと共に少し考える。敵の力ははっきり言って異常だ。妖精さんしか見ていないとはいえ、眼前で消えるだなんて、普通におかしい。
「マークちゃんが言ってた通り、今はまだ妖精さんしか見ていない敵よ。その後はうんともすんとも言ってこない」
「ここまで対策としてやってきたのは、薬剤散布を止めずに進めていることと、電探やソナーに、サーモグラフィー、探照灯、あとは?」
「念のため、うみどりの操艦をしている妖精さん達にも、カメラ越しとはいえ注視してもらってるわ。アタシ達が目を逸らしている内に行動を起こしている可能性だってあるんだもの」
その姿を見たのが妖精さんであり、その姿が消えるのを見たのも妖精さんだ。もしかしたら、状況的に見える者もいるかもしれない。そう考えて、操舵室で待機している妖精さん達に指示を出した。
うみどり接続全方位カメラの映像を注視してほしいと。妖精さん達は勿論、快くOKしてくれた。セレスが妖精さん用のお菓子まで作り始めて、それをみんなで食べていたからというのも少々考えられるものの、一大事であることも理解した上で、ちゃんと手伝ってくれていた。
「やれそうなことはあるでしょうけど、私達の艦じゃ不可能ってこともあるわよね」
「そうね。後始末に必要なモノは取り揃ってるけど、それ以外は何もないものね」
うみどりとしては、やれることは全部出したと考えている。姿形は見えずとも、海上にいるのだから不自然なモノがあってもおかしくないはずだと。
しかし、それでもやはりその姿を見ることは出来ていない。全て欺き続けられているかのような、そんな感覚に陥る。疑心暗鬼なのは理解しているが、それを止められない。
「なら逆に、あちらが
「というと?」
「どうやっても見えないモノになるという能力を持っている、として、それが何由来の力かを考えてみようということよ」
これまでの敵、一部の味方も含めて、どう考えても科学では説明がつかない事象を引き起こしている。筆頭は、うみどり所属の白雲。あちら側に改造された結果得た、凍結の力。モノを凍らせることが出来ると言っても、触れただけで艦娘すら冷やし凍らせ、踏んでいる海ですら一定の時間は凍結させるというのは、はっきり言って異常だ。
それ以外にも多種多様のそういうモノを見せられている。その最たるモノが、原元元帥の生首。あの状態で生きていられる者なんて、この世界には存在していない。それなのに、当たり前のように限定的な不死を実現してしまっている。
それに、自己修復だってそうだ。あちらにはもう当たり前のように備わり、その力をグレカーレも与えられてしまっているが、本来はこれだってあり得ないこと。いくら深海棲艦といえど、そこまでの修復が出来る個体はいない。かつてはいたらしいが、それでも即座では無い。
「原元元帥は、双胴艦だから本体と艤装どちらも同時に破壊しなければ斃せない存在となった……と仮定して、白雲ちゃんはあの大規模な凍結、あと結構前に遡るけど、船渠棲姫がその場で建造をしたわよねぇ」
「ああ……確かに。それに、那珂ちゃんに聞いたけれど、駆逐水鬼が放電したのよね。自分は無傷で」
「それにそもそも、ソナーが反応しない潜水棲姫も出てきたわよね。しかも複数。あちらはフーミィちゃんが直に確認してるから、今回みたいな見えていないということはないけれど」
そういったところから、その力を得るためには本来持つ艦娘や深海棲艦の機能を異常に拡張させているというのが伊豆提督の見解。勿論、それだけでは説明がつかないところもあるのだが、そこは特に謎が多い深海棲艦だからと納得せざるを得ない。むしろ──
「
ここに行き着く。イリスにも見えない透明な彩、カテゴリーAの力は、深海棲艦以上に謎が多く、科学では解明出来ないモノばかり。それこそ、今の艦娘達も、提督達だって、妖精さんの存在を
「一度、ちゃんと話してみましょうか。アタシだけの見解では限界があるわ」
「話してみるって……妖精さんと?」
「ええ。当たり前だけどここには妖精さんがいるんだもの。言葉はわからなくても、意思の疎通が出来るんだから、何かわかるかもしれないわ」
もう藁にもすがるような気持ちではあるが、解決のヒントに繋がるならば、やれることは全てやらねばならない。
故に、伊豆提督は工廠へと足を運ぶ。敵の力を看破するために、全ての力を結集するために。
工廠ではいつでも後始末が再開出来るように艦娘達が待機している。最悪戦闘になることも見越して、すぐに下ろせるように武装も加えて。
一時空気がギスギスしかけたものの、待機中に那珂が突発的なライブを開いたことで、その場はいい雰囲気となっていた。緊張感があるのは変わらないのだが、ありすぎるのは良くないと、歌と踊りで空気を弛緩させることに専念していた。
流石は艦隊のアイドルと自称するだけあり、歌も踊りも素晴らしいモノ。特に潜水艦勢には、これを強く好む者もいるため、思った以上に好評だった。
そこに伊豆提督とイリスがやってきたため、そのライブが中断されそうになったものの、大丈夫と伊豆提督は手でジェスチャー。那珂もウィンクして感謝の気持ちを表現すると、歌と踊りを止めることなく続ける。
「ごめんなさい、盛り上がっているところ悪いんだけれど、少し付き合ってくれるかしら」
その中から、
「ここでテートクがあたしに用なんて、もしかして改めてあたしの身体調べちゃうつもり。いやーん、もう、エッチなんだからぁ」
「身体を調べるというのは否定しないけれど、でもアナタの期待しているようなことじゃないことは先に伝えておくわね。むしろ、アナタには嫌なことを思い出させるかもしれないから、少し心苦しいわ」
「真面目に返さないでよもー。でも、わかった。今回の敵のことを知るために、敵に変えられたあたし達の情報が必要なんだよね」
相変わらず理解が早くて助かると、伊豆提督は苦笑。
白雲とグレカーレは伊豆提督に頼まれたことで、工廠の少し奥まったところに向かった。この2人は自分達だけではなく、深雪と電も一緒にと4人で部屋に入る。
「みんなも知っている通り、出てきた敵は未知の力を持ってる。これはいいわね?」
「ああ、姿が見えない敵ってやつだよな。こっちでも何か対策出来ないかって考えてたんだけど、煮詰まった上にすげぇ空気悪くなっちまって」
「那珂ちゃんさんが歌ってくれたおかげでまた温かくなったのです。凄いのです」
深雪達も、自分が持っている知識ではお手上げだと諦めてしまっている。自分達では対策が生み出せないと。
「そこで、アタシとイリスは1つ仮説を立てたの。あちらの力には、妖精さんが一枚噛んでるんじゃないかなって」
「妖精さんが?」
「ええ。あちらの力は、艦娘や深海棲艦の持つ
理解の範疇から超えている場合は、妖精さんが一枚噛んでいると考えても納得が出来てしまうのが悲しいところ。妖精さんならそうなってもおかしくない。
「だから、妖精さん自身に聞いてみようと思ってね」
「聞く……って、あたし達にも声聞こえないぜ?」
「まぁ聞くって言い方は少し違うわね。本人にいろいろと教えてもらうってことよ」
話している内に、その部屋に小さな機械が入ってきた。そこに乗っていたのは、工廠を仕切る妖精さんのトップ、主任。
うみどりで妖精さんといえば、やはり主任を措いて他にはいない。他の妖精さんと同様に人語を介することは出来ないため、会話による意思疎通は出来ないものの、身振り手振りや絵を描くことでしっかり対話が出来る存在。
その中でも主任が主任たらしめているのは、
「主任、先に話は聞いているかしら?」
テーブルの上に乗った主任は、首を大きく縦に振った。人間達よりも大きな身振り手振りなのは、妖精さんの特徴。小さい分、わかりやすい。
「その上で、何か気付いたことはあるかしら」
主任は小さく悩んだ挙句、スケッチブックに何やら書き始めた。
「お、すげぇ、本当に文字が書けてる」
「なになに……?」
そこに書かれた言葉は、単語1つ。
「めいさい」
主任には違う世界が見えている