後始末屋の特異点   作:緋寺

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力の源

 敵の能力に妖精さんが絡んでいると仮説を立てた伊豆提督とイリスは、工廠で実際に出洲一派の魔の手にかかってしまった白雲とグレカーレ、そして深雪と電もつれて、奥の部屋へと移動。そこで、妖精さんの中でも特に高度な知能を持つ主任に話を聞くことにした。

 人間の文字が書けるという、他の妖精さんにはない強みを発揮した主任は、伊豆提督に気付いたことがあるかを聞かれ、早速その力を発揮。気付いたことをスケッチブックに書き出した。

 

 そこに書かれていた言葉は、「めいさい」という単語1つ。

 

「めいさい……順当に考えるなら迷彩のことよね」

 

 その言葉から判断していく。伊豆提督は真っ先に言葉の意味を漢字に変換。「めいさい」は、現状から考えれば流石に迷彩としか変換は出来ないだろう。そのため、今の敵は迷彩を使って姿を消していると主任は言っている。

 

「いや、迷彩っつってもさ、流石にそれで姿を完全に消すっておかしくないか?」

 

 深雪はそう言うと、艦娘達は全員が首を縦に振る。いくら迷彩とはいえ、そこにいるならば、うみどりやおおわしにある手段を使えば何かしらに引っかかるはずだ。ただ見えにくいだけなら、電探には引っかかるはずだし、薬剤散布でそこにいることがわかるはず。そもそも航跡だって見えて然るべきだ。

 それすらも見えないというのならば、それはもう迷彩とは言えないのでは。そう考えるのが妥当。

 

「これまでもおかしなことばかりだったじゃない。こんな言い方は申し訳ないけれど、アタシ達の技術では、触れただけで物質を凍らせることなんて出来ないわ」

 

 自分に話が振られたとわかり、白雲はふむと口元に手を当てて考えるような素振り。

 

「妖精様、貴方様には、白雲の力の源がおわかりになられるのでしょうか」

 

 単純な疑問をぶつけた結果、主任は先程と同じように首を大きく縦に振り、またスケッチブックに文字を書き出す。

 そして書かれた言葉は、「ぼいらー」と「ひやす」の2つ。白雲の力を正しく理解して、単語とは言え説明が出来ている。

 

 むしろ、それは当たり前のことでもある。白雲の力を把握していなければ、そもそも艤装の調整なんて出来るわけがない。それを可能にすることこそ、妖精さんの特別な力と言ってもいいのだろう。()()()()()()()()()()()()()という特性が。

 勿論、それは工廠で働いている妖精さんにしかない力かもしれない。武装の妖精さんや、艦載機の搭乗員妖精さん、ドックの妖精さんや、極端なところならば家具職人の妖精さんまで、各々別種の力を持ち合わせているとも考えられる。

 

「ボイラーと冷やす……加熱したボイラーを冷却する部分を拡張した結果、触れた部分を冷却……つまりは凍らせることが出来る、ということなのかしら」

「拡張どころじゃないわよ。冷やすってところだけを曲解してるわ。冷えるなら凍らせてるんだろって」

 

 イリスの口から、ここで初めて曲解という言葉が出る。艦娘や深海棲艦の持つ事象を、わざと捻じ曲げて解釈し、それを実現させてしまっていると。

 この()()()()()()()()という部分がミソ、もといネックであり、本来実現も出来ないのではという曲解すら現実の力としてしまうのは、どう考えてもおかしな話である。

 そして、そんなことが出来るのは何者かと言われれば、人間でも艦娘でも深海棲艦でもない。いろいろと超越してしまっている妖精さん。出洲はその妖精さんの力すら好き勝手コントロール出来ているのではという疑惑が生まれる。

 

「主任、質問させてちょうだい。白雲ちゃんには、()()()()()()が入ってしまっているのかしら」

 

 伊豆提督の質問に対し、主任はこれまでとは違い、あまり大きな身振り手振りではない仕草で頭を縦に振った。

 やはりと言えばやはりであった。そうでもしなくては、ここまでファンタジーな力を当たり前のように使ってくることはない。事実上の不老不死の実現も、あり得ない量のエネルギーの発生も、現実的ではない技術も、これで全て説明がつく。

 調査も解析もまともに出来ていない妖精さんの力が関わっているのならば、何が起きてもおかしくない。

 

 人類は妖精さんという存在に敬意を払って、深くまで追求していない。しかし、出洲一派はおそらく、その敬意すらない。最悪、妖精さんの命すら踏み躙って解析をしている可能性がある。それこそ、艦娘や深海棲艦の命を搾り上げるように、妖精さんの力すら吸い上げている。その結果、妖精さんがどうなるかなんて考えたくもない。

 

「んだよそれ……じゃあ何か、あいつらは全部の力をぐっちゃぐちゃに混ぜて使ってるってことかよ」

 

 深雪の言葉に、伊豆提督もイリスも頷くしかない。初期のカテゴリーYには無かったであろうこのシステムは、ここ最近のカテゴリーYには全て含まれていると言ってもいいだろう。もしくは、意図的に入れたり入れなかったりしているか。

 例えば黒井兄妹は、心はそのままに身体だけ改造されているから、妖精さんの力は入れられていない。例えば自ら出洲一派に与していた駆逐水鬼や原元元帥(深海鶴棲姫)は、裏切ることがないため、妖精さんの力は入れられている。グレカーレの場合は、忌雷による凶悪な洗脳を最初から加味していたことから、妖精さんの力が入れられる。むしろ、妖精さんの力があるからこそ、強力な洗脳が成立しているのかもしれない。

 ならば白雲はどうなのかと言う話になるが、そこは忌雷を作る前の最後の実験台か何かではないかと考えられる。純粋種に妖精さんの力を付与出来るかどうか、それによって悪影響が出ないかなどなど。

 

「白雲が成功したから、彼奴等は忌雷を完成させた、ということですか」

「あり得ない話ではないわね。そして、それの試作品をグレカーレちゃんに使った。結果がコレなわけだけれど……」

「じゃあ、あたしにも妖精さんの力が入ってるってこと?」

 

 グレカーレは自分の力に自覚がないタイプ。だが、それのおかげで今、無事にここにいられる。

 妖精さんはグレカーレの質問にも首を縦に振り、スケッチブックに「らしんばん」と書く。そう書かれても、グレカーレにはさっぱりであった。無意識に本質に気付かないようにしているかもしれない。

 

「そういうのは、イリスさんの目では見れたりしなかったのです?」

 

 ここで電が素朴な疑問を漏らす。他者の彩を見ることでカテゴリーを分類出来る、イリスの特殊な目。それで、妖精さんの力が混じってしまっていることは判別出来ないのだろうかと質問する。

 対するイリスは、少し困った表情を浮かべ、自分の見解を答えた。つい最近知った、というかそうではないかと仮説を立てたことも併せて。

 

「妖精さんの力が入っているかどうかは、私の目にも見えないの。妖精さん自体に彩が見えなくて。おそらく透明の彩を持っているんだと思うわ」

 

 イリスの目でもそれは判断出来ない。カテゴリーAと仮定したそれは、イリスの目にも映らない()()を持っている。そういうところも例外的。

 だが、ここで主任が何も尋ねられていないのに文字を書き始める。対話ではなく、自分の意思を伝えるために。

 

「……え?」

 

 そこに書かれている言葉を見て、イリスは息を呑んだ。

 

「いりす」「()()()()()()()()()

 

 妖精さんと同じ。これはイリス自身も知らなかった事実。

 

「……もしかして私にも、貴女達妖精さんの力が宿っているの?」

 

 主任は力強く首を縦に振る。

 

 イリスは自分自身をカテゴリーG、つまりは人間だと思っていた。鏡で自分の姿を見ても、見える彩は緑のみ。ただし、彩が視えるという特別な力を持っていることだけは人間とは少し違うため、そこは人間と少しズレているのではとは考えていた。理由はわからないが。

 妖精さん由来の彩は透明なのだから、自分にそれが宿っていても視えるわけがなかった。だから、自分の力なのに自分で認識出来なかった。つい最近まで妖精さんの彩が透明であることだって気付いていなかったのだから。

 

 ここで初めて自分の力の源が妖精さん由来であることを知る。つまり、主任にもここにいる者達の彩が見えているということ。

 

「そう、そういうことなのね。確かに私は、妖精さんと接する機会があったわ。でも、まさか私自身に妖精さんが入ってしまっているなんて、気付いていなかった。なんだかいろいろと納得出来たかも」

 

 何処か喉の奥につっかえていたものが取れたような感覚を覚えながら、イリスはまず現状を打破しましょうと話を先に進めようとした。事実を受け入れるのにも時間がかかるだろうが、うみどりの安全を確保するために、自分のことより先に今を見据えた。

 深雪達も動揺の色が見えたが、イリスがそう言うのならそれに倣うしかない。触れてほしくないことだってあるだろうし、気持ちの整理も必要。それに、そういうことはまず伊豆提督がちゃんと聞いておくべき。

 

「あれ、でもちょっと待って。私が妖精さんと同じなら、私にも主任のように、白雲やグレカーレのそれが見えてもおかしくないってことじゃないのかしら。彩として見えなくても、その存在を見ることくらいは出来るんじゃないかしら」

 

 対する主任の言葉は、「すこしだけ」という端的かつ少々わかりにくいモノ。だが、伊豆提督にもそれはわかった。

 イリスの持つ妖精さんの力は、あくまでも少しだけ。それこそ、彩を判別する力()()が宿っていると考えるのが妥当。妖精さんの有無までは判別出来ない。

 

「そう……それは残念ね。でも、スッキリ出来たわ。ありがとう」

 

 自分に宿る謎の力の意味がわかったために、イリスは微笑みながら主任の頭を指先で撫でた。主任も気持ちよさそうにそれを受け入れた。

 

「ともかく、今の敵は妖精さんの力を使って迷彩をおかしな方向に使っていると考えるのが良さそうね。イリスの言う通り、曲解している、ただ隠れるという事柄だけを捻くれて考えて、それを実現してしまっていると思えば、全部辻褄が合うんじゃないかしら。納得は出来ないけれど」

 

 ここで答えに辿り着いた。今回の敵の持つ力は、『迷彩』の曲解。敵の目を欺くという一点に特化し、あらゆる手段を用いてもその姿を見ることが出来なくなるというとんでもない力。航跡すら見せず、音すら立てない。迷彩というには限度を超えている。

 本体のスペックがまだわからないものの、今までの傾向からして姫級であることは間違いない。そして、そんなことが出来る存在はと思案を巡らせる。

 

「艦娘なら、榛名ちゃんや妙高ちゃんの迷彩とかが思いつくけど、あれは姿を隠すというイメージじゃないのよね。となると……カモフラージュ……」

「戦標船改装棲姫じゃないかしら」

「それ、それね。それが持っている力を曲解して、誰の目にも映らず、センサーにも反応しない脅威的な迷彩になってしまっているわ」

 

 しかも、と伊豆提督は続けた。今話に出た戦標船改装棲姫は、モチーフとされている艦が熊野丸──()()()()であること。つまり、陸上戦にも強い。艦内に乗り込まれたら、抵抗出来る者がかなり限られる。

 そんな存在が姿を隠して忍び込むという相性が良すぎるくらいの力を持ってしまったのだから、対策出来なければひとたまりもない。対抗出来るのは伊豆提督や神風くらいしか思いつかないレベル。

 

「これは早急に対策を考えなくちゃいけないわね……そもそも近付けさせないようにしないといけないのだけれど」

 

 これには主任もお手上げらしい。艦内から外を見ようとすると、全方位カメラを経由することになるのだが、機材そのものを欺いているために、何も映らない。

 

 しかし、ここで主任がまた何かを書き始める。

 

「たぶん」「()()()()()()()()

 

 これはまた予想外の言葉。その後もツラツラと書き出される言葉を読んでいくと、イリスの力は一点特化しているために妖精さんよりも()()()()()()()と判断出来るらしい。むしろ、人間と混じったことで変質していてもおかしくはない。

 カメラ越しでは、あちらの力が入ってしまうため、そもそも映像に映らず、彩を見ることは出来ないが、イリスの裸眼であれば、その迷彩も貫いて見ることが出来るのではというのが主任の考え。

 

「彩しか視えない代わりに、彩ならどういう状況でも視える、ということかしら」

 

 主任は力強く頷いた。

 

「わかった。なら、私がデッキから外を確認するわ。今は潜伏しているかもしれないけれど、夜になったら潜入を企てるかもしれないのよね。それを、私の目で暴き出してみるわ」

 

 

 

 

 作戦は、敵の接近がありそうな夜に決行する。これまで非戦闘員だったイリスによる、仲間達の不安を取り除くための作戦が、始まろうとしている。

 




イリスの目の秘密が今明らかに。そして、その力を使った作戦が組み立てられました。イリスがここまで前に出てくるのは初めてのこと。
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