後始末屋の特異点   作:緋寺

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戦場の恐怖

 イリスの目が、妖精さん由来の力であることが判明し、更にはその力によって現在姿を消している敵の姿も看破出来ると主任から語られる。

 しかし、機材を使うと敵の能力、『迷彩』の曲解によって欺かれてしまい、そこにいても映ることが無くなってしまうため、イリスは自ら戦場に赴き、裸眼でその姿を確認することを選択した。

 

 作戦の決行は、敵が接近してくるであろう夜。

 

「夜も作業は中断しておくわ。敵が忍び寄っている可能性が高い今、ただでさえ見えにくくなる夜に作業をしていたら、危険どころの騒ぎじゃないもの」

 

 この方針は仕方なかった。おおわしも、貨物船も、全てが完全に停滞。本当ならば夜通しやりたかった作業ではあるのだが、今の状態では止めざるを得ない。

 あちらが少しだけ姿を現したのは、この作業を遅らせるためなのではと思えてしまう。しかし、そうする理由がわからない。

 

「苛立ちを募らせて、判断能力を低下させるのが目的かしら。作業が進まないことに焦りが見えてもおかしくはないし、何より()()()()()だなんて普通以上に緊張感が増すもの。まともな戦場じゃないんだから、誰だって違う感覚に陥るわよね」

 

 伊豆提督は比較的冷静ではあるのだが、艦娘達はそうはなれない者もいる。透明な敵に忍び寄られているだなんて、ちょっとしたホラーだ。

 

 しかし、違う感覚に陥っているのは、何を隠そう伊203である。トントン拍子に進んできた後始末の作業が中断させられ、早く終わらせようと思っていたのに何も出来ない。速さを重んじる伊203にとって、今の時間は苦痛でしかなかった。

 とはいえ、ここで無茶な独断先行をしないのは、伊203としても最も()()終わらせる方法がわかっていないため。変に動いて余計に遅くなる方が嫌だからである。ストレスは溜まる一方だが。

 

「こちらでもある程度は調査しているところよ。あちらの出方次第ではあるけれど、この夜が正念場だとも思っているわ。もう少しだけ辛抱してちょうだい」

 

 今はこうとしか言えない。実際、あちらはそれでも焦らして余計に苛立ちを生もうとしてくる可能性もあるのだから。

 

 

 

 

 作業中断から更に時間が経過し、日は落ちる。外は薄暗くなり始めたので、強めに探照灯を照射することで海域を明るく照らした。

 

 中断を決めた時点で、そこにいる艦は出入り口を封鎖。内部に侵入することは出来なくしている。勿論、内側から外に出ることも出来ない。

 強いて言えば、今からの作戦のキモとなる場所、デッキは、現在のうみどりが唯一、外界と隔てるモノが存在しない場所。侵入しようとするのなら、そこからしかない。

 

「うみどりに近付こうとしても、探照灯の熱に焼かれるはず。これはうみどりだけじゃなく、他の艦も同じ」

 

 デッキに向かうイリスが護衛を買って出てくれた者達に話す。

 

 イリスの中に妖精さんの力が入ってしまっていることは、あの後うみどりにいる者達に公表されている。そもそもカテゴリーを見分ける目を持っていることは知られており、その力の源が今わかったのだと伝えたに過ぎないのだが、場は少し騒然とした。その上で、その力ならば看破出来るかもしれないと話し、護衛艦隊を募っている。

 今回の戦いの相手は、今のところカモフラージュを得意としているという点から、迷彩の曲解の力を使う戦標船改装棲姫だと予想されている。陸軍の艦をモチーフとした深海棲艦であるところから、近接戦闘が得意である可能性を加味して、護衛は同様に近接戦闘が出来る者を選出。

 

「外からデッキに登ってくるなんてことがあり得るのかしらね」

 

 そう尋ねるのは、護衛隊の筆頭となる神風。艤装は基部だけだが、腰には刀を携え、()()()()()()()()()による参戦。

 これまではずっと燻っていたものの、丹陽と話をしたことで一度前に出ることにしていた。それをこの重要な局面にするのは神風としても申し訳ないと思っていたものの、それも覚悟の上で進むことを決意。

 

「何をしてきてもおかしくはないだろうさ。それに、探照灯を破壊してくる可能性もあるだろう」

 

 答えたのは長門。開けたデッキとはいえそこまで広くない空間での戦闘は、艤装が大きい長門にはかなり不得手なのだが、主砲も何もかもを全て下ろした状態で基部だけにしてしまえばかなりコンパクトになる。

 強みである砲撃を無くしている分、パワーアシストを全て膂力に回すことで、徒手空拳でも深海棲艦を始末出来るほどの力を得た。元々の経験から、これでも戦えるのが長門である。

 

「真っ暗でも私は戦えるから、そこは任せて。でも、見えない敵ってのは初めてだなぁ」

 

 加えて、夜戦忍者こと川内。夜の戦闘であるならば、どのような状況でも対応出来るということで参戦。万が一探照灯を全て破壊され、暗闇の中で戦うことになったとしても、誰よりも鋭敏な夜目で苦もなく戦うことが出来る。

 近接戦闘も出来るようで、手に持っているのは忍者らしくクナイ。相当近付かなければ殺傷能力は無いものの、室内戦闘ならばそれでも問題がない。

 

「……」

「相変わらずですねぇ。もう集中モードですよぉ」

 

 そして、川内といえばこの二人、暁と綾波。こちらも夜戦がかなり得意な方であり、暁は相変わらず探照灯装備。意味がないかもしれないものの、無いよりはマシな装備であろう。

 暁はあくまでも集中してサポートに徹する。綾波は施設への侵入の際に使用したコンバットナイフを所持。これによって、戦えるようになった時点で猛攻を仕掛ける。

 

「主任は私の目を使えば敵が視えると言っていたわ。だから、こんな言い方はアレだけど、私を全力で守って」

「当たり前だ。誰も失いたくないからな」

「なのです。イリスさんがいないと、うみどりじゃないのです」

 

 そして最後は、深雪と電。これに関しては伊豆提督も本当にいいのかと考えたものの、決着をこの段階でつけるつもりで考えるならば、この手段を使わざるを得ない。そして、それを言い出したのが深雪だったため、それを採用することとなった。

 敵を確実にうみどりに誘導する必要があり、狙いやすい状況を作ってやるのが一番手っ取り早い。その中でも最も簡単なモノは、深雪(特異点)を囮として使うこと。夜でも特異点の後光が目立ち、深海棲艦はそれに導かれて攻撃が集中する。カテゴリーYでもその光を感知出来る上に、あちらの狙いが特異点なのだから狙わない理由がない。

 その時にイリスに敵が視えるかどうかを確認してもらう。そして、視えることが確認出来ればあとはもうやることは決まる。その場でイリスが場所を伝え続けるだけ。

 

 イリスを守るために集まった7人、遊撃部隊によって、この作戦は実行される。

 

「私のことは、そうね、見張員か何かだと思ってちょうだい。妖精さんだけに」

「妖精さんよりも大きいんだから、貴女が一番気をつけなさいよ。守るけれど、最悪自分の身は自分で守ってもらわないといけないんだから」

 

 神風が苦笑しながら刀に手をかける。いつでも抜けるように準備するのは大切なこと。流石にまだ艦内に忍び込んでいるとは思っていないものの、扉を開けたらそこにいるなんてことがあっては困る。

 

「それじゃあ、まずはデッキに入るわよ。長門さん」

「ああ、私が開けよう」

 

 詰みにならないように、まずは長門を先頭にデッキへと入る。神風に言われて、長門が扉を開けた。

 イリスは最後尾で、そのすぐ傍に川内と綾波が控える。深雪と電は少し前、イリスよりも視線を誘導するために、ある意味()()のようなスタンスで待ち構える。

 

「何も見えないわ。ひとまず全員前へ」

 

 イリスの目には何も映っていない。そのため、まずは部隊全員でデッキに上がった。

 

 イリス含めて8人同時にここにいるとなると、外からでも嫌というほど目立つもの。しかもその中に、あちらからしたら後光を放っている者がいるのだから、余計にわかりやすい。

 艦載機の妖精さんが発見してから作業を止め、全ての艦が侵入を防ぐために出入り口を固く閉ざしていたため、そんな中でも外から見える位置にターゲットがいるのなら、そちらに目が向くはず。

 

「加賀達から聞いた方向は、あちらね」

 

 デッキから、明るい内に敵を発見した方向を見るイリス。機材を通したら欺かれるため、裸眼で見ざるを得ない。それでも本当に見えるかは、割と半信半疑であった。

 望遠鏡なども機材として認識されるとまずいので、あくまでも裸眼。イリスは目が良い方なので、それでもまだ問題がない。夜目が利くかと言われたら、艦娘よりは利かないという程度。今は探照灯も照射されているため、まだ比較的見える方。

 

 そんなイリスを守るため、特に接近戦に長けた神風と長門が両サイドを陣取った。緊急時は、無理にでもイリスを退かせて戦闘に入る。とはいえ、艤装のパワーアシストがある状態で思い切り押し出すようなことをしたら、イリスが壊れかねないので、そこは優しく。

 

「今は見えないわ。目新しい彩は見えていない」

 

 本当にいないのか、ただ見えていないのかは、まだわからず。しかし、イリスがそういうのならば、そうなのだろうとしか言えないのが仲間達。

 他の者には見えないものは見えない。だが、これまでの経緯で信用は勝ち取っている。

 

「もっと暗くなったら来るのかもしれないわね。陽が落ちて間もないし」

「かもしれないな。だが、緊張感だけは持っておかねば」

 

 長門が腕を組んで外を眺め続ける。見てもわからないが、今まで艦娘の裸眼で敵を見定めることはまだやっていなかったので、もしかしたらなにかわかるかもしれないと、集中して海を見つめた。

 

「こんなカタチで戦いに参加することになるなんて、思っていなかったわ」

 

 場を少し温めるためか、イリスが世間話のように話し始める。

 

「私、一応ここの事務員なんだけれどね」

「事務員が戦場に立つことは……そりゃあ無いよな」

「ええ。戦場を視ることはあっても、戦場に立つことは無かったわ。これまでは」

 

 しかし、その目がどうしても必要になってしまったのならば、こうやって身体を張るしかない。イリスは今の心境を語る。

 

「正直、結構怖いわ。貴女達、こんなところで戦っていたのね」

 

 今このデッキは格好の的だ。しかも囮として深雪がここにいるのだから、狙ってくださいと言っているようなもの。

 今まではうみどり内の比較的安全な場所から全方位カメラを使いながら戦場を見てサポートをすることに徹していたが、今ここは最前線。流れ弾が飛んでくるかもしれない。砲撃の熱に焼かれるかもしれない。そう思うと、イリスはどうしても恐怖を感じてしまっていた。

 

「それが、この怖さがわかったのは良かったわ。貴女達に戦闘を任せているんだもの。何も知らないより、()()()()()を知った状態の方がサポートがしやすいというものよ」

「そんなもんかな」

「そんなものよ。今回ばかりは、私も貴女達と同じ場所で戦うわ。出来る限りのサポートをするから、信じてちょうだい」

 

 当たり前だと全員応えた。

 

 

 

 

 そして──

 

「……ごめんなさいね、話はおしまい」

 

 そんなイリスの言葉で空気が急にヒリつく。

 

「本当に見えたわ。黄の彩……カテゴリーYよ」

 




やはりイリスの目は迷彩を突き抜けました。
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