後始末屋の特異点   作:緋寺

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妖精の目

 見えない敵、戦標船改装棲姫との戦いを終えたうみどりは、夜中ではあるものの後始末を再開させることとした。その戦いに参加した者達は当然ながら休息に入るが、他の者達は少しでも終わりに近付くために動き出す。

 

 まず戦標船改装棲姫の襲撃の最中に、万が一のことを考えて海中を探索していた伊203達が戻ってくる。ステルス潜水艦のような厄介な存在はおらず、追加の忌雷がばら撒かれているなんてこともなかった。

 

「怪しいモノも何も無かった。全員で隈なく探したけど、誰も何も見つけてない」

 

 海底にまで向かって罠のようなモノが仕掛けられていないかも確認済み。後始末の最中に、ステルス潜水艦が何かを仕込んできている、なんてことがあったら気分が悪い。

 海底のみならず、うみどりを筆頭とした艦の底などに何か仕込まれていないかも確認しており、そういったところにも何もされていなかったと、潜水艦一同で話す。

 

 戦標船改装棲姫は本当に1人で襲撃してきたらしい。慢心からなのか、それとも他の者達がいると不都合があるのかは、今になってはもうわからない。

 

「今ならもう後始末が再開出来ると思う。というかした方がいい。早く終わらせるべき」

「大丈夫、もうそのつもりだったわ。みんなもやる気十分という感じだから、今からでも再開するつもりよ」

 

 これまで戦標船改装棲姫の存在によって足止めを喰らっていたわけだが、それから解き放たれたことで、これまで進めることが出来なかった作業をいち早く始めたいという気持ちが、他の者達にも拡がっていた。

 伊203のような速さ重視とかそういうわけではなく、単純にあと少しで終わるところまで来ているのだから早く終わらせたいという気持ちが強まっているから。

 流石にここまで長々と後始末をすることは、うみどりでも初めてのこと。伊203でなくても、あと一息ならばさっさと終わらせたいと思ってしまうのも仕方ない事である。

 

「じゃあ、私達も」

「待て待て待て! 少しは休憩させろ!」

 

 速さのためにも休むことなく海中にまた潜ろうとした伊203を、スキャンプがツッコミを入れるように止めた。

 潜水艦隊も、戦闘はしていないものの、これまでの時間をずっと海の中で調査を続けていたようなもの。伊203は置いておくとしても、他の者達は疲労でポテンシャルが落ちてしまっている。ならば、少しでも休憩してから始めた方がいい。

 

「遅いのは嫌い」

「このままやり続けた方がもっと遅くなるよ。ニム達、疲れてるからトロトロ動いちゃうからね」

「それだと困る。速く動けるようにして」

「そのために休むんだよ。急がば回れ、だよ」

 

 伊203は納得していないようだが、伊26の説得によって、渋々休憩を受け入れることとなった。

 ここまでずっと燻り続けていたためか、明らかに苛立っていた。遅くならざるを得ない状況は、伊203にとって酷いストレスに繋がる。それをようやく解消出来たのに、まだ休めと言われたら、ストレスからのイライラが余計に増える。

 

「じゃあ、デッキで休む」

「……フーミィちゃん、今回の戦いで、デッキが破壊されてしまったの」

 

 トドメはこれである。お気に入りの場所であるデッキは、戦標船改装棲姫によって現在は立ち入り禁止になるくらいに破壊されてしまっていた。修復は軍港都市に到着後。妖精さんの力を借りればそこまで時間はかからないが、それでもその間は使えない。

 それを聞いた伊203の表情は、何とも言葉に表すことが難しいモノだった。今回の戦いで一番踏んだり蹴ったりだったのは、伊203かもしれない。

 

 

 

 

 休める者は休み、作業が再開出来る者は後始末を始めて少しして、時間的には日を跨ぐくらいとなる。

 本来ならば戦場にいたため休まねばならないはずのイリスは、未だに休むことなく作業を続けていた。イリスにしか見えないモノがあるため、周辺警戒はなるべく裸眼で行わねばならないと立ち入り禁止のデッキから海を眺めている。

 

「イリスも身体を休めなくちゃダメよ」

 

 そこに伊豆提督が疲労を心配して寄り添う。

 

「アナタは初めて戦いの真っ只中に入っちゃったんだもの。自分ではわかっていなくても、かなり疲れていると思うわ」

「そう、ね。それはわかっているんだけれど、どうしてもね」

 

 それはむしろ戦いを知ったからこそ、よりみんなのために動きたいと思っていた。疲れているかもしれないが、万が一のことを考えると定期的に外を見ておこうと身体が動いている。

 

 実際、イリスは見た目的には疲れているようには見えない。戦場に立ったことで服は汚れてしまっていたが、それはこれまでの時間で着替えているため問題ない。表情はむしろ元気に見えるほどである。

 だが、伊豆提督はそういう状態だからこそしっかり休まないと後に響くと考える。今はハイになってしまっているだけ。疲れているけど疲れを感じていない状態だ。わかっていても動けてしまう。

 

「ん、誰も何も無いわ。今の海は安全。作業も続けられるわね」

「それなら良かった。じゃあ、イリスは一度しっかり休みなさい。いつもより長くよ。朝が来るまではアタシだけで大丈夫だから」

 

 優しく話す伊豆提督に、イリスはそうさせてもらうわと苦笑する。自覚のない消耗ほど後からが怖い。自覚していても身体が動いてしまうのはもっと怖い。限界ギリギリまで動いた後は、電池が切れたかのようにバタリと倒れて、本来以上の休息が必要になる。

 

「……ハルカ」

「そんな神妙な顔しちゃって、どうしたの?」

「私、自分のこの目が何処から来てるのか、ずっと疑問だったのよ。ハルカは信じてくれているけど、誰にも彩なんて見えないじゃない」

 

 やはり、自分の力には思うところがあるイリス。自分の目にはハッキリと視えている彩で、子供の頃は気味悪がられたこともあった。自分が普通とは違うと自覚させられ、それをひた隠しにして生きてきた。

 何故自分はこんな力を持ってしまったのか。何故自分は()()()()()()()()。思春期には深く悩んだこともある。

 

「でも、ようやくわかったわ。というか、思い出した」

「何かあったの?」

「ええ、この力を持つに至った理由、()()()()()()()()

 

 イリスの力を信じてくれているのは、うみどりの面々だけではない。生みの親も、イリスがそう話していたことを否定していない。

 その母が子供の頃に話していたことを思い出した。あまりにも昔過ぎて忘れていたが、主任から妖精さんの力を宿していると言われたことで、それをようやく思い出した。

 

「私が生まれる前に、母は海難事故に遭ったらしいの。第二次深海戦争が終わって少ししてからだったから、まだ海は危険な状態で、それでも訳あって海に行かなくちゃいけなくなったらしくて、その時に案の定ね」

 

 戦争が終わっても深海棲艦が完全にいなくなったわけではないというのが第三次深海戦争までの20年。戦争をしている時期に比べると格段に出現率は減っており、少数の人工艦娘、カテゴリーCによって海の安全は守られるくらいではあるのだが、事故はどうしても起きてしまう。

 

 イリスの母はその時、輸送業に従事していたらしい。戦争によって疲弊した場所に物資を輸送するということで、仕事自体はかなり忙しい部類に入る。

 その中で、陸から離れた場所への物資輸送が依頼され、危険ではあるものの人命に関わると考えて引き受けた。その結果、護衛のカテゴリーCがいたにもかかわらず、イリスの母が乗っていた船は攻撃を受けてしまい、投げ出され、海に落ちる羽目になった。

 

「その時は身重では無かったらしいけど、あわや溺死するのではというところまで行ったらしいのよ。でも、母は()()()()()()()

 

 船から投げ出されて、着衣水泳の心得が浅かった上に、戦場となってしまったことで激しく波打つ海では為す術もなく、そのまま沈んで行ってしまったという。

 しかし、気付いたら船に戻され、息を吹き返した。人工呼吸などはされたらしいが、命に別状は無かった。

 

 運良く九死に一生を得たと思っていたものの、その実、無事に帰還出来たのにはカラクリがある。イリスの母は、意識を失う寸前に見たものがあった。

 

 それが、()()()()()()()

 

「今でこそ知識があるからわかるんだけれど、その妖精さん……母を助けた恩人は、おそらく応急修理女神よ」

 

 応急修理女神。艦娘が沈んでしまうかもしれないほどの傷を負った際に、その命を糧に、艦娘の死を覆す力を発揮する、妖精さんの中でもトップクラスの力を持つ、まさに女神に相応しい存在。

 うみどりにも女神の存在は周知されているが、そもそも死を覚悟して戦闘に参加することもなければ、女神の力を借りねばならないような作戦も立てない。それでも過酷な任務があるのならば、その力を借りざるを得ないと考えてはいるものの、そうならないことを祈っている。

 

 その応急修理女神が、()()()()母にその命を捧げたのではないかというのがイリスの見解。艦娘ではなく人間にもその力が発揮されるなんて事はこれまでに見られていないことではあるのだが、そう考えるのが一番妥当。あり得ないことが起きてしまうのが妖精さんのやること。

 そして、その際に意図せず宿った妖精さんの力が、その腹から生まれたイリスに移動し、その結果その力が目に影響を与えて、今の彩を見る力に目覚めた。

 

「母が助かったおかげで私が生まれて、妖精さんの力まで貰っちゃって。今はみんなを守るために力を使える。妖精さんには感謝してもしきれないわ」

「そうね……イリスがいなかったら、今頃アタシ達は全滅していた。アナタのお母様を救ってくれた妖精さんが、今でもその力を残してくれていると思うと、本当に感謝しか無いわね」

 

 相当昔のことであっても、今まで影響を与える妖精さんの加護。それが今になってここまで仲間達の命を救うことになったというのは、イリスとしても喜ばしいことである。

 

「でも、ちゃんと休みなさいね。そういう意味でも、アナタが倒れたら終わりなんだから」

「ふふ、そうね。妖精さんが倒れるなんてあっちゃいけないものね」

「そうよ。妖精さんが倒れるなんて相当だもの。過労なんてダメダメよ」

 

 笑いながらイリスはデッキから離れた。身体を休めないと次に進めない。全員が無事であることで、初めてこの戦いは勝利となるのだから。

 

 

 

 

 ここからはイリスの力も使って先に進む。見えない敵という異常な存在であっても、妖精の目であれば看破出来るのだから、これによってより敵の思うツボから回避出来ることになるだろう。

 




妊っていない状態のイリスのお母さんが妖精さんに助けられ、その後妊った時に腹の中の子にその力が宿ったというイメージ。女神に救われた時に、妖精さんの力が身体に残ってしまった稀有な存在。
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