後始末屋の特異点   作:緋寺

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ケッコンカッコカリ

 強くなりたいが練度が限界に達しているため、技術を磨くしかないと考えていた深雪だが、グレカーレから朗報が届いた。とあることをすれば、99という練度の限界を超えることが出来るのだという。

 しかし、その名称が非常にインパクトが強いモノであり、それもあってか深雪や電には伝えられなかったのではと思えるほどである。

 

 その手段の名は、『()()()()()()()()()』。

 

「ケッコンって、あのケッコンか? 男と女が結ばれる」

「聞こえ方はそうだよねぇ。また詳しいことはテートクに聞けばいいと思うよ?」

「ハルカちゃんの許可が必要みたいなこと言ってたもんな。よし、じゃあこれからすぐに聞いてみよう」

 

 それさえすれば今より強くなれると聞いたら黙ってはいられない。深雪は早速、伊豆提督に話を聞こうと動き出した。

 

 

 

 

 伊豆提督は今は執務室で作業中。ここまで規模の大きい後始末なんてうみどりが活動を始めてからも初めてのこと。艦娘達が後始末をしている時からずっと書類仕事は進めて来たが、後始末が増えればその分こちらも増える。

 その結果が、執務室にいるカテゴリーY達の数。書類仕事ならば手伝えると、平瀬や手小野が机に向かっており、黒井兄妹と桜がちょっとした雑務をこなしているような状態。

 

 出来れば軍港都市に到着するまでには終わらせたいということで、現在ラストスパート中。

 

「うわ……忙しそうだな」

「お話を聞けそうな雰囲気じゃないのです」

 

 執務室を覗いた深雪と電は、ケッコンカッコカリの話をしようと思ったものの、今の状況で聞くのは流石に抵抗があった。ただでさえ忙しいところに、自分が強くなりたいからと言ってその作業を中断させるのはダメだろうと、そっと執務室から離れる。

 

 そして振り向いたところに、満面の笑みを浮かべた丹陽が立っていた。

 

「うぇえっ!?」

「た、丹陽さん!?」

「部屋の前でうろうろしてたらダメですよ? ハルカちゃんに何かお話があるんですか?」

 

 そう言ってはいるものの、おそらくこの丹陽は深雪達が聞きたいことをもう理解している。何も言わずとも説明出来そうな雰囲気を持っていた。

 そのため、深雪も何か隠すことなく素直に答える。

 

「ああ、さっき風呂でグレカーレから聞いたんだけどさ、練度の限界を超えることが出来るって」

「はい、そうですね。ケッコンカッコカリ、そのシステムを使えば、99に達した練度を更に上げることが出来ます。うみどりの方々は基本全員が施されているみたいですけど」

「そ、そうなのか!?」

 

 これは初耳である。深雪がうみどりに所属するまでは一番の新人であり、その時は80くらいだと言っていた梅も、今は既にケッコンカッコカリをされ、練度限界を超えているという。

 そんな簡単なことだし、気付かないうちにさらりとやれてしまうような処置なら、是非ともやってもらいたいと思う。

 

「とりあえず部屋を変えましょうか。ここで騒いだら、執務室に逆に迷惑ですからね」

「あ、そ、そうだな、うん。流石にここにいることもわかってると思うし」

 

 丹陽が執務室にスッと入って伊豆提督に話すと、説明をよろしくと頼まれた様子。チラリと目が合った時、ゴメンねと苦笑しているのも見えていた。

 

「それじゃあ行きましょうか。説明なら私でも出来ますし、ちょっとは詳しく話せますから」

「ん、頼んだ」

 

 このまま丹陽の部屋へ移動し、ケッコンカッコカリについて説明を貰うこととなった。

 道中、食堂でお茶などまで貰って行ったため、少し長い話になるのかと身構えるものの、丹陽はそういうわけじゃないから安心してほしいと付け加えた。

 

 

 

 

 丹陽の部屋に入る深雪と電は、促されて腰掛ける。出されたお茶を口に含み、一旦落ち着いた後に話が始まった。

 

「さて、お二人は今よりも練度を上げたいということで、ケッコンカッコカリの話を聞いたんですね」

「ああ、どういうことかはわからないけど、それをすりゃあ練度が上がるって聞いてさ」

「その通りです。ケッコンカッコカリをすれば、練度の上限が99から180になります。その分当たり前ですが強くなれますね。それに、いろいろと()()がありますから」

 

 その特典というのが、怪我をしにくくなるとか、疲れにくくなるとか、実戦的なところに関わってくるモノ。直接的に強くなれる部分でもあるため、システムとして考えるのならば、しない理由が無いのである。

 長く戦い、鍛え、その限界まで訪れた者に対する新たな境地といってもいい。そこからさらに成長出来るのだから、強くなりたい者にとっては願っても無いことである。

 

 しかし、その名称から、いろいろと考えてしまうところはある。ケッコン──結婚と言われてしまったら、どうしても躊躇ってしまうだろう。

 

「これは、私達の時代からの慣わしみたいなモノなんですよ」

「丹陽の時代……ってことは、やっぱりそんな昔からあったんだな」

「そうですね。艦娘が生まれて、少ししてから判明したシステムです。私達が、人間との繋がりを濃くすることが出来る手段、みたいなものですから」

 

 少し懐かしむような丹陽の表情。それが表しているのは、丹陽もその経験があるということ。

 

「ああ、私もケッコンカッコカリはしています。()()()()()で」

「当時の……ってことは、今は違うってことか?」

「はい。第二次から少しずつ変わっていきましたね。特に、今の艦娘は元人間ですから、私達とは勝手が違いますよ。そもそもケッコンの意味が違いますから、それらしくしなくてもいいんです」

 

 ケッコンとは結婚のことではない。特に、元人間の今の艦娘ならば尚更もう片方の意味で取った方がいい。

 

 それが、『()()』。艤装と魂をより強く結びつけることにより、無意識にかけていたリミッターをより大きく外すことが出来るようになる、一種の儀式的なモノである。

 儀式という仰々しい言葉で表現はされているものの、やることはとても簡単で、まずは艤装側に妖精さんによる調整を加えること。これはモノの数分で終わるような処置。

 そして艦娘側にも少しだけ調整を入れる。それが、()()()()()()()()()()()()()()。艤装との接続部分に妖精さんから加護を貰うという体裁で、触れてもらったりするというだけ。

 実際やっていることはこの程度。後者はさておき、前者だけなら、スイッチを切り替えるという程度なのである。正しく自覚さえ出来ればそれで充分。

 

 ならば何故ここまでしなくてはいけないのかというところがあった。最初からリミッターを外しておけばいいじゃないかと。しかし、生半可な練度で同じことをすると、艤装からの力の流入に身体が耐え切れず、悪影響を齎してしまうのだ。

 元人間はそれが顕著であり、お手軽に強くなれるとスイッチを切り替えると、その時点で身体が壊れる可能性すらある。それこそ、それだけで再起不能になり、復旧に使う時間があまりにも勿体ない。

 

「その自覚という部分は思った以上に重要なんです。自分は魂を結びつけた、そう自覚するために、結婚と掛け合わせた儀式が行われました。それが私の時代ですね」

 

 そう言うと、丹陽は自分の胸元に手を突っ込み、何やらペンダントのようなものを引っ張り出す。そこには誰がどう見ても指輪と呼べるモノがあった。

 

「第一次世代は、こうやって儀式を結んだカタチを持つことで、より強く魂を結びつけたんです。私の場合は、この指輪ですね。当時の司令官から戴いた、練度上限突破の証です」

 

 むしろ、この指輪が一番結びついているのではということで、当時の大本営が用意したモノでもあったりする。

 これと艤装のリミッター解除の書類がセットになっており、それが婚姻届にも見えてしまったことから、結魂が本当に結婚に思われるようになってしまった。

 カッコカリという名前になったのは、勘違いされないようにという大本営側からの配慮。そもそもの結魂という名前をつけたことが問題だったわけだが、ある程度やってしまったことによって取り返しがつかなくなったパターン。

 

「今は違いますよ。こういった証も必要ないですし、練度の限界までいけば誰にでも出来るシステムです。かなりお手軽になっていますね。第二次の時の原さんがその辺りは変えたらしいんですが、名前だけはそのままになっちゃってるんですよ」

 

 つまり、何か必要な物事があるわけでなく、練度の上限までいけば何も問題なくリミッターを外せるということ。深雪にも電にも願ったり叶ったりの話である。

 

「ただ、これはちゃんと司令官からの許可が必要です。一度外したら戻せないモノなので、これで不具合が起きたら取り返しがつきませんからね。ケッコンしたことによって不調をきたす、なんてことも無いわけではないみたいですし」

 

 極端に少ない例ではあるらしいが、それまで艦娘として戦えていたのに、練度上限を外した途端に被弾率や大破率が上がる者もいたらしい。ケッコンという言葉に浮かれているからではなんて嘲笑されることもあるようだが、実際()()()()()()()というのも無くはないという。純粋種ならばそんなことはないようだが、カテゴリーCだと起こり得る本当にレアなケース。

 

「つーことは、あたしや電は割と考えることなく処置を受けられるってことでいいのか?」

「はい、おそらく。とはいえ貴女達はカテゴリーW、特異点です。もしかしたら、ケッコンを引き金に、何かが起きる可能性も捨てきれません。なので、そこはハルカちゃんとちゃんと相談して、然るべき調査を全部した後に処置をした方がいいと思います」

 

 ここに尽きる。深雪と電はこの世界でたった2人のカテゴリーW。想定されていることとは違うことが起きてもおかしくはない。むしろ、まずケッコンカッコカリが可能かもわからないのだ。

 

「よし、わかった。じゃあ、ハルカちゃんに余裕が出来た時に、一度確認してもらおう。今は無理だけどさ」

「なのです。忙しくなくなったら話をするのです」

「それがいいでしょうね。なので、今日はもう休んで、明日からの軍港に備えてください。まずは心身共に癒されてからです。訓練も大切ですけど、今のお二人、特に深雪さんは、誰よりも傷付いているでしょうから」

 

 訓練をしたいとは一度も言っていないのに、案の定丹陽には看破されていた。相変わらずだと苦笑して、説明に感謝しながら部屋を出た。

 

 

 

 

 2人が出て行った後、取り出した指輪のペンダントを眺めながら、過去を懐かしんでいた。

 

「ケッコン……当時は()()()()()()()()んですよね」

 

 丹陽のそれは、確かにケッコンカッコカリの証ではあるのだが、当時の提督が初めて手に入れたそれを丹陽──いや、雪風に贈った、()()()()()()()である。

 

「ジュウコンなんて不謹慎なことも言われましたけど、第二次からはシステム化されて、ケッコンも魂を結ぶ儀式となっただけ。当時の面影が無くなったのは……まぁいいことなんでしょう」

 

 指輪をキュッと握り、目を瞑る。

 

「……しれぇ、雪風はまだまだ元気にやっています。見守っていてください」

 

 ただそれだけ呟き、また服の中に仕舞い込んだ。

 




ケッコンカッコカリが身体に合わないというのは、ケッカリしたことによって耐久が4nになってしまい、大破率が少し上がるというゲーム内のシステムの話です。12nはさらにまずいんですよね。確か時雨とか夕立がそこに該当してたはず、
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