後始末屋の特異点   作:緋寺

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久々の軍港

 超規模の後始末を終えて、ようやく軍港都市への航路に戻れたうみどり。曳航も順調に行き、予定通りに深夜の航行を進めていた。ここまで来るともう妨害も無く、潜水艦もこれ以上壊れることはない。

 おおわしも共に航行出来ており、うみどりと同時に軍港に停泊出来るように状況を進めている。うみどりは先の戦標船改装棲姫との戦いで探照灯が破壊されてしまっているため、どちらかといえばおおわしの方が先行しているカタチに。

 

「見えてきたわね」

 

 軍港に近付いたことを最初に知るのは、やはりイリスである。誰よりも早く起床し、それを確認することで、ようやく安心することが出来た。

 軍港からはうみどりからもわかるように灯りが照らされ、うみどりを操艦している妖精さんがそれに返答するように灯りを点滅させる。

 

「……なんだか、いつも以上に長かった気がするわ」

 

 いつもならそんなことは言わないようなイリスも、思わず口にしてしまうくらいグッタリしていた。

 

 補給も兼ねて、軍港に向かうことが決定して、かなり長くの時間が経過していると錯覚してしまう。それだけ濃厚な時間だった。

 それがいい方向で濃厚ならばいいのだが、全てが出洲一派との戦い。この航行を邪魔するように立ち塞がり、その度に誰かの──特に深雪(特異点)の心にダメージを与えてきている。

 

「余程特異点が怖いのかしらね……軍港で何かあったら困るのだけれど」

 

 これまでのペースからして、これからも深雪を狙って行動されることは目に見えている。場所を問わず、時間も問わず、周囲の被害まで考えない。

 一度軍港都市では戦闘が行なわれてしまっているのだから、同じようなことが二度も三度も起きてもらいたくはない。深雪の安全もそうだが、そろそろ保前提督のストレスも危険水域に達しかねない。

 

「ここでは出来る限り落ち着きたいところだけど、どうなるかしらね」

 

 小さく溜息を吐くも、ようやく辿り着いた軍港での休息に思いを馳せて、ひとまず入港の準備に取り掛かった。

 

 

 

 

 朝、イリスの総員起こしによって目覚めることになる。長丁場だった超規模後始末で蓄積した疲労は相当だったようで、それが無くなった今、誰も彼もが気が抜けたようである。いつもなら総員起こしよりも早く起きるような者であっても、今回はこの時間までグッスリである。

 深雪達も例に漏れず、しっかり総員起こしまでグッスリ。むしろ、総員起こしがあっても最初は目が覚めなかったほど。白雲に起こされて初めて朝の支度が出来たくらいである。

 

「いやぁ、ここまでグッスリ寝ちまうとは」

「戦闘が無くて良かったのです」

「お姉様、電様、お召し物を。もううみどりは動いていないようですし、朝食後は軍港都市へと降りることになるかと」

 

 最初はどうなるかわからないので、まずは制服を。軍港鎮守府との兼ね合いもあるので、休息で都市散策をすることになるのは今すぐではないかもしれない。私服を着るにしてももう少し後。

 

「そうだ、白雲はどうするんだろうな」

「白雲ちゃん、ツノがありますからね……街に出られるのでしょうか」

 

 着替えながらそこに気付いた深雪と電。白雲は見た目からして深海棲艦の姿に変えられてしまっているため、人間の住まう街を散策するのは非常に難しい。髪や肌の白さは誤魔化しが利くが、ツノだけはどうにもならない。

 白雲は頻繁に折ると言っているのだが、それが何を意味するのかがわからない以上、それによって最悪な結果に繋がる可能性を考慮すると、折ることは流石に出来ない。

 

「そのことなのですが、イリス様からお衣装を戴きました。その中に、これが」

 

 そう言いながら白雲が見せたのは、ツノを隠すための緩めな帽子。ツノがあることによって、まるで猫耳のように盛り上がるような作りである。いわゆる猫耳ニット帽みたいなもの。

 こういった帽子を被る者はいないわけでは無く、街に紛れ込んだら目立つこともない。流石に帽子を脱いだらバレてしまうので、街にいる間は絶対に外さないというのがルールになってしまうのだが、被るだけで深雪達と散策が出来るなら充分であると許容。

 

「これに合わせたお召し物も戴いてしまい、感謝してもしきれませぬ」

「はは、そりゃあよかった。じゃあ、白雲も一緒に遊びに行けるな。人間の文化、知ればもっと好きになれるぜ」

「なのです。美味しいモノを食べて、楽しいモノを見て、ここを満喫するといいのです」

 

 白雲を()()()()にするようなことが無くて一安心の2人。むしろ、その白雲の私服というのも気になり、事が済んだらそれを見るためにも散策に出かけたいと思うほどであった。

 

 

 

 

 朝食後、すぐに手続きが始まる。保前提督が秘書艦の能代と共に港まで出向き、その被害状況を見ながら今後について話をしていた。

 

「うちの空き部屋は使ってくれて構わない。能代、全員収容出来るくらいは空いていたよな?」

「はい。余裕がありますね。うみどり、おおわし、潜水艦の全員を収容出来るかと思います。1人1部屋とは行きませんが」

 

 軍港鎮守府は何かと他の鎮守府からの来客──休息を兼ねた演習の申し込みなどが多い場所である。その際に余裕を持って対応が出来るように、来客用のスペースは大きめに取っているのが、他の鎮守府とは違うところ。

 それこそ、今回のうみどりのように、急遽住まう場所が奪われた者達を匿うためにも使っているため、都市の住人にも開放されているくらいである。

 今回はそのスペースを借りることで、うみどり修復中の住居を確保させてもらった。幸いにも今はその居住スペースを使用する者はおらず、全面的に使わせてもらえるとのこと。

 

「とりあえず3日ということにしておくな。少なくとも、うみどりの修復が完了するまでは大丈夫だ。ありがたいことに他の予定も入っていないからな」

「いつもありがとうねトシちゃん。本当に助かるわぁ」

「こういう時は助け合いだ。こっちも前回は色々救われてる。恩を返してるだけだし、お前に貸しが作れるなら願ったり叶ったりだ」

 

 昔からの友人ということもあり、非常に気やすい。これくらいの仲だからこそ、互いに頼れる。

 

「ただ……侵入者がいるかどうかがわからないのは辛いな、うちの艦娘達を総動員で警備にあたらせてはいるんだが、見えない聞こえない機材を欺くと言われたら、神経を使ってもどうにもならない」

「そうね……イリスの目は誰にもないイリスだけのものだからねぇ」

 

 それこそ、『迷彩』の曲解を突き抜けることが出来るイリスの目を全員が持つことが出来なければ、それを看破することなんて出来ない。もし妖精さんの力を機材に移植出来たとしても、その機材を欺かれる可能性があるのだから、結局のところイリスの裸眼しかやれるところがないというのが実情。

 

「私も多少は手伝わせてもらうわ。どうせ街を見せてもらうんですもの。その時におかしなものを見つけたらすぐに連絡する」

「ああ、頼んだ。頼りにしてるぜ」

「プレッシャーをかけないでもらえる? 私、一般人なんだから」

「そうだったな。ハルカとまともに付き合えてるから、どちらかといえば一般人ではないと思うんだが」

「ちょっとどういうことよ」

 

 そんな軽口を叩けるのも昔馴染みだからである。

 

「とりあえず、手続きはもう済んでるから、中の必要な荷物を全部持ち出してくれ。デッキが壊れてるってことは、割と大掛かりな作業になるだろう。中がどうなっても知らないからな」

「ええ、勿論。まずはそれをやらせてもらうわ。部屋も用意してもらっているんだもの。一時的に借りるためにもね」

 

 まずやらねばならないのはそこ。うみどりの修復のせいで部屋の中のものが壊れたと言われても困ると、保前提督は愚痴るように語った。以前にそういう事があったようである。

 

「っと、そちらとは初顔合わせだな。第一世代の艦娘で、カテゴリーBの統率者」

「はい、丹陽です。少しの間、よろしくお願いします」

「これはまたご丁寧に。俺の知ってる雪風とは違うな」

「80年も生きていれば、大概の艦娘は落ち着くものですよ。お婆ちゃんですから」

 

 潜水艦のトップとして、丹陽も保前提督に挨拶をする。潜水艦の最終的な処置は軍港都市に一任し、オーバーホールしても直せないくらいならば解体、そして新たな移動鎮守府として生まれ変わらせるという手筈になる。

 カテゴリーB達は潜水艦生活に戻りたくないと思う者が多数いるため、やはり丹陽が言い出したうみどりの分隊としての生き方を選択するようだった。そのため、潜水艦よりは、小型なうみどりとなった方がいいと考えているらしい。

 そのためにはそれなりの時間がいる。うみどりが2〜3日で修復が可能であるとしたら、潜水艦の移動鎮守府化はその数倍は時間がかかるだろう。そのため、代案として別の艦を用意するということにもなる。

 

「人間不信だと聞いていたが……その、すまないな。俺達もその人間だし、この軍港はそれと知らずにお前達の仇とも言える連中を匿うみたいなことをしてしまっていた」

「いえいえ、隠れ潜んでいたところにあてがわれたんですよね。それは流石に貴方の非ではありません。何かあったら瀬石さんには私も口出ししますよ」

 

 すごいことを言い出したため、伊豆提督にこそっと聞く。

 

「な、なぁ、ハルカ。この丹陽マジで何モンなんだよ。元帥閣下に口出し出来るって普通の艦娘じゃないぞ」

「第一世代なんだもの。丹陽ちゃん、元帥よりも歳上よ? それに、元帥も負い目があるから……」

「すごいなこの婆ちゃん」

 

 それはそれとして保前提督も結構な言い方だと伊豆提督は苦笑した。丹陽としては、婆ちゃんと呼ばれるのは結構嬉しいらしい。

 

「私は潜水艦のボスで、提督みたいなものになってしまっていますが、艦娘は艦娘です。他の艦娘と接するように接していただいて結構ですよ。お婆ちゃんなので、何かあったら助言させてください。年の功を披露しますよ」

「そりゃあ頼もしい。よろしく頼むよ」

 

 しっかり握手して親交を深めた2人。丹陽がこういうところで軽い雰囲気を出すので、接しやすさも相まってすぐに友達のようになれた。

 

「あ、でも私はもう老朽化が酷いので、戦場には出られないんです。そこはごめんなさい」

「いやいや、それで戦えって方がダメだ。身体は大事にしてくれよな」

「はい、仲間達から嫌というほど言われているので、勿論控えますよ」

 

 後ろから明石の強い視線を感じたために苦笑した。そうでも言わないと、何かしら理由をつけて艤装を装備したがるため、誰もが念を押している。丹陽も流石にここまで言われたら折れるしかないが、本当にまずい時は出撃する気満々。

 

「よし、それじゃあ準備を頼む」

 

 これで顔合わせは終わり。次は昼目提督の方に向かった。

 

 

 

 

 軍港での休息が始まる。心身共に癒されて、次の戦い──黒井兄妹の故郷である島での戦いの準備を進めることになるだろう。

 




白雲はまだ私服が出てないんですよね。季節グラが浴衣だったし。
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