後始末屋の特異点   作:緋寺

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叶う願い

 軍港鎮守府への移動は、なんのアクシデントも起きることなく、予定していた時間通りに完了。深雪は初めて軍港都市に来たときにも鎮守府には来ているが、電や白雲は当然初めてのこと。

 潜水艦勢も、陸の鎮守府に来るのは30年ぶりであり、自分達が現役で艦娘として活動していた頃と比べると、殆ど変わっていないということに逆に驚いていた。

 

 それもあるからか、鎮守府にいい思い出のないスキャンプは、軍港鎮守府を見たことで顔を顰めていた。当時のこと──慰み者にされていた時のことを思い出してしまい、気に入らなそうにしていた。

 スキャンプだけではない。鎮守府に裏切られ、素材にされかけた者もいれば、鎮守府のせいで姉妹を失った者もいる。そういう者達は、()()()()()()()()()()()()に思うところがあるため、少々厳しい顔をしていた。

 

「すきゃんぷぅ、どうかしたんです?」

「なんか難しい顔してるじゃん」

「スキャンプさん……鎮守府好きじゃないですか……?」

 

 そんなスキャンプにべったりなのが、相変わらずの丁型海防艦の面々。所属は違えど、今は共にいられるため、陸に上がった途端にスキャンプの側に来たレベル。

 

「……何も無ぇから気にすんな。テメェらはテメェらで自分のところのAdmiralんとこ行け」

 

 丁型海防艦達は、おそらく潜水艦勢が長年潜水艦で生活し続けていた理由は知らない。特にスキャンプの理由は、今回の事件とも関連性がないため、余計に伝えることもない。むしろ、スキャンプのような理由を丁型海防艦のような幼い艦娘に伝えることの方が憚られる。

 そのため、スキャンプは素気なく対応。その感情は悟られていたとしても、思い出したくないことも話したくないこともある。

 

「スキャンプもいろいろあるんだよ。お前達は部屋割りとか決めなくちゃいけないんだろう? ほら、司令官んとこに話聞きに行ってきな」

 

 スキャンプに助け舟を出した深雪。丁型海防艦達は少し残念そうな顔を見せるが、昼目提督の指揮で軍港都市での部屋割りなどが決まるため、一時的にスキャンプから離れた。

 事が済んだらまた来るかもしれないが、今よりはマシになっているだろう。それまでに気持ちの整理をしておけばいい。

 

「お前の過去は話さなくていいと思うけど、嫌な事があったってことくらいは教えといてもいいんじゃないか?」

「んなこと言ったら、あんなガキ共が余計な心配かけてくるだろうが。あたいはそういうのが嫌なんだよ」

「でも、何も言わなくても心配してくるぜ? うまいこと折衷案を見つけといた方がいいんじゃねぇか?」

 

 スキャンプは口籠る。何を言っても心配されるのなら、一番心配をかけないところに行きたいところ。

 そういった心配が出来るくらいには、スキャンプはあの丁型海防艦達のことを気にかけていたりはする。変に泣かれたりすると鬱陶しいというのが本人の言い分ではあるが、その奥にはやはり純粋種故の優しさが見え隠れ。

 

「まぁ無理は良くないと思うけどな。ただ、この鎮守府はお前の思ってるようなことは無いから安心しろよ」

「なんで言い切れるんだ」

()()綾波や暁が何もしないでこの鎮守府を自分の居場所にしてるから、かな。なんかアイツら、特に綾波だけど、気に入らない事があったら真っ先に動きそうじゃないか? 司令だろうがなんだろうが、いきなりぶん殴りそう」

 

 スキャンプは綾波とあまり接していないため、そうなのかとしか言えなかったが、知る者が聞いていたら思い切り首を縦に振るほど同意していただろう。

 

 

 

 

 艤装などを積み込んだトラックは鎮守府の奥の方へと入っていき、工廠の近くに直付け。そこから妖精さんや工廠担当の艦娘の力を使って、全て降ろして格納。それと同時に降ろされたのは、普通よりもかなり大きめなコンテナである。

 その中に何が入っているのかは、ここにいる者がよくわかっている。そうやって運ばれてくるというのは、鎮守府に残っている者達もしっかり把握している。

 

「うあーっ、こんなところに押し込められるのは最悪だよもう!」

 

 真っ先に声を上げたのは、黒井兄妹の妹の方、蛍。長いツノのせいで外を出歩くことが出来ず、市民に見られたら間違いなく騒ぎになるために、コンテナに入って移動せざるを得なかった。

 見せ物になるのも嫌だが、その存在を隠されることも嬉しくない。そのため、蛍は到着早々声を上げるに至った。

 

「蛍……仕方ないでしょ。今の僕達は人目についちゃいけないんだから……」

 

 そんな蛍を兄の透が宥める。透もコンテナの中でここまで運ばれてきたが、非常に落ち着いていた。コンテナの中の方がむしろ安心出来るという表情。周りの目を気にしなくていいということが落ち着けるようである。

 

「透だって、せっかく病気が治ったのに外でのびのびと出来ないって嫌じゃないの?」

「……否定はしないよ。これまでずっと何も出来なかったんだし、理由はどうであれ、()()()()調()になれたなら、街中に遊びに行ってみたい気持ちはあるけどさ」

 

 透もこれまでの不治の病から解放されているということもあり、多少はアグレッシブに行動したいという欲はあるようである。これまでがこれまでだけに消極的なところはあるものの、蛍相手にはちゃんと本音で話している様子。

 

 勿論、そんなことをここで話していたら、みんなの耳にも届く。せっかく解放されたのに、自由に動けないというのは可哀想な話だ。

 トラックの後から続々と到着する艦娘達は、黒井兄妹のこの会話を同情するような表情で眺めるしかなかった。

 

「ん、あれ……?」

 

 そんな透の言葉が聞こえた辺りから、深雪の左腕からふわりと煙幕が漂い始める。これまでは、()()()()()()()()()()戦場でしか発生しなかった煙幕が、突然溢れ出したので、驚きを隠せなかった。またもや発煙装置すら装備していないのに発生したからである。

 

「な、なんだなんだ」

「深雪ちゃん、またなのです!?」

「いやマジでどうなってんだコレ!?」

 

 テンパる深雪と、近くにいた電。何故そんな事が起きているのかがわからず、あたふたするしか出来なかった。

 その煙幕はゆっくりと黒井兄妹の方へと漂うと、頭の方に纏わりつくように浮かび上がる。深雪の意思なんて一切関係無し。しかし、何が起きようとしているのかが何となくわかってきた。

 

「え、な、なになになに!?」

「煙……?」

 

 黒井兄妹もいきなり煙に巻かれて驚いてしまうが、煙なのに咽せるようなこともなく、視界が変に遮られることもない。

 

「……あ、あれ? 透、()()()!?」

「えっ……!?」

 

 ここで気付く。蛍から見て透のツノが突然消えたのだ。

 

「蛍も……ツノが無くなってる……」

「ええっ!?」

 

 そして、蛍のツノも同様に消えた。本来ツノがあった額の部分は、まるで周囲の肌がそのまま伸びてきているように違和感がない。最初からツノが無かったかのようにしか見えなかった。

 

「な、なにこれ、ツノが……ってあるじゃん!?」

 

 実際にツノがあるところに手をやると、見えていないのにしっかり触ることが出来た。ぐっと握りしめるようなポーズなのだが、誰の目にも握られているモノがわからない。()()()()()()()()()()()という、なんとも不思議な感覚。

 

 このような状態、ついさっき深雪が話していた状況にそっくりである。『迷彩』の曲解をツノだけに有効にする事で、それだけを見せなくする上に、違和感すらなくなるというインチキ機能。

 

「え、えぇー、どういうことコレ。あるのに無い……」

「け、蛍……そういう触り方はあんまりオススメ出来ないよ……」

 

 ここにツノがあるのにと表現するように、蛍は自分のツノを握っては手を前後させるような動きをする。そういうのはあまりやらない方がいいよと透は頬を赤らめて呟いた。

 

 それはさておき、その煙幕は後からコンテナから出てきた平瀬やセレスの方にも漂っていき、顔を覆ったかと思えば、目立っていたツノが綺麗さっぱり失われていた。平瀬もセレスも、驚きを隠せない。

 しかし、黒井兄妹と同じような、それはただ見えていないだけ。触れればそこにある。触った感触もしっかり手に伝わってくる。

 

「え、えぇと……これは……」

()()()()()ナノカシラ」

 

 セレスがハッキリと特異点の力を意識していた。どういったモノかどうかはわからずとも、煙幕が漂ってきた上に、その瞬間不思議な事が起きたというのならば、それは深雪が何かしたとしか言いようが無い。

 セレスは本人に煙幕の力が入っていることはおそらく気付いていない。しかし、自分の中にあるからか、ピンと来たのかもしれない。

 

「わ、悪い、勝手に煙が腕から出て……」

「問題ナイワ。トイウカ、貴女ノ煙幕、役ニ立チ続ケテイルンダカライイジャナイ」

 

 セレスも自分のツノに触れて驚きつつ、深雪の煙のおかげでツノのことを考える必要がなくなったのは喜ばしいようである。

 

「コレデ街中ノ食文化ヲ何モ抵抗ナク見テ回ルコトガ出来ルワ。ソレニ、コノ鎮守府ニハ間宮トカイウ()()ガイルコトモ聞イテイルモノ。有意義ナ休日ニナリソウダワ」

 

 少しテンションが上がっているセレス。本来なら難しいと思えた食の探究が自らの足で出来るとなれば、こうなって然るべきである。

 

「これ、深雪ちゃんのおかげなの?」

「い、いやぁ、わからないんだけどさ」

「ありがとう! これなら自由に歩き回れるよ!」

 

 今度は蛍が大喜びで深雪に詰め寄った。満面の笑みなのだが、港湾水鬼の人相でコレだと、若干怖くなるというのがあるのだが、喜んでいるのならそれはそれでいいこと。

 

「深雪ちゃんは私達の願いを叶えてくれるんだねぇ。ツノ無くなれーってずっと願ってたもん。寝返り打つと枕を引き裂くようなツノはダメだって」

「お、おう……確かにそれは不便だけど……。そもそも無くなったわけじゃないんだよな?」

「……確かに! 何も変わってない! あ、でもとりあえず街中を歩けるようになったのは嬉しい! 変に背が高くなったから、ツノが誰かにぶつかっちゃうなんてことも殆ど無いだろうし、見えなくなっただけでも充分充分!」

 

 深雪の手をとって、ぶんぶん振り回すように握手をした。勢いが凄すぎて、深雪も圧倒されてしまっていた。

 

 この蛍の言葉、願いを叶えてくれるというモノで、いろいろとピンと来る者が多かった。

 特に伊豆提督。深雪の力を願いを叶えるものなのではと予想していたため、今回の件でハッキリと理解した。こういうカタチでも力が発揮されるのは想定していなかったものの、それがそういうものということがわかっただけでも問題ない。

 

 

 

 

 だが、それに頼るのはよろしくない。伊豆提督はそこまで理解している。故に、まだこのことは口外しないことにした。

 




白雲のふと考えた曲解の活用法を、タイミングを合わせて瞬時に実行する煙幕さん。すぐに出なかった辺り、深雪は無意識に今なら出せると思っているかもしれない。
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