後始末屋の特異点   作:緋寺

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羽を伸ばして

 深雪の煙幕──願いを叶える力によって、目立ちすぎていたカテゴリーYのツノに、『迷彩』の曲解と同様の見えなくなるという処置が施された。深雪自身も何故そうなったのかはわかっていないが、感謝されたのでひとまずは良しとした。

 ツノが見えなくなったのは、港湾系にされている平瀬と黒井兄妹、そして純粋種であるセレス。この4人である。

 

「なんでこうなったのかはわかんねぇけど……まぁみんなが喜んでくれてるならいいか。あたしの特異点としての力なのかな」

 

 深雪は自分の左手を見ながら呟いた。今はもう煙は出ておらず、誰がどう見ても普通な腕。グーパーをしても何も変わらない。

 これが特異点としての力なのかと疑問を持つものの、じゃあそれが明確に何なのかというのはわからず。蛍が願いを叶えてくれたと喜んでいたものの、ならば自分の力がそういうものなのかという実感があるかと言われれば全く無い。

 

「お願い事が叶う、ということなのです?」

「だったらあたしはそもそも身体が元に戻れって願ってる。でも、それは叶ってないだろ」

「……確かに。じゃあ……どういうことなのです?」

「わかんねぇ……でも、なんかこれ、あまり深く考えない方がいいんじゃないかって思うんだよな」

 

 直感的に、この力のことは追求するとドツボにハマりそうだと感じた深雪は、不思議ではあるもののそれ以上考えるのをやめることにした。

 願いが叶うなら全部叶って欲しいのに、叶うときと叶わないときがあるなんてことがあるのだから、そもそもこの力を信用しきるのはよろしくないことである。

 

 奇しくも伊豆提督が危惧している状況に、深雪自身が辿り着き、そして自重を選択した。自分の力を深く知ろうとしないことが、吉と出るか凶と出るかは、今はまだわからない。

 

 

 

 

 軍港鎮守府で与えられた部屋は、大きさ自体はほとんど変わっていないのだが、最初から2人部屋として作られているため、ベッドが2つ置かれている。言ってしまえば、ビジネスホテルを拡張しているようなモノ。クローゼットなどもあるため、少し長い期間滞在することも考えられている。

 艦娘以外の人間も使うことが視野に入っていることから、部屋ごとに風呂が用意されているところがまさに宿泊施設というイメージである。そういうところは、うみどりとはまるで違った。

 

「少し住ませてもらうなら充分すぎる部屋だな」

「なのです。荷物も置けますし」

 

 2人部屋ということで、深雪と電が相部屋となっている。しかし、この相部屋に関してはほとんど見せかけだけ。何故なら、

 

「失礼致します。お姉様、電様、此度は白雲も招き入れていただき、ありがたく存じます」

 

 白雲も添い寝必須のメンタルであるため、2人部屋と言いつつ3人で使うからである。

 ありがたいことに、用意されたベッドはうみどりで使っているモノとほぼ同じ。駆逐艦3人ならば、密着すれば横並びに眠ることが出来るくらいの大きさはある。それで白雲のツノが刺さりかけているので、いいところも悪いところもあるのだが。

 

 ここにさらにグレカーレも入ることもあるのだが、身体的な問題──布団との衣ずれだけで小さく声が上がるほど敏感にされている肌──のせいで、添い寝はかなり厳しい。

 でも一緒にいたいというのもあったりするので、3人が添い寝が1つのベッドで行われることを考えて、空いているもう1つのベッドで寝かせてもらうということも考えているようである。寂しそうではあるが、同じ空間にいるだけでもグレカーレ的にはいいことらしい。

 結果、2人部屋を4人で使うということになりそうだった。推奨はされていないが否定もされていないため、誰も文句は言わない。時雨が冷やかすくらいはしているが、そうでなければ心が保たないこともまた理解している。

 

「それじゃあ、ここからは自由時間だったな。着替えて街の散策だ」

「白雲ちゃんにも、人間さんの良さを知ってもらいたいのです」

「お二方が熱弁されるのですから、ここの人間は信用に値する者達なのでしょう。直にこの目で見て、それが真なのかを見定めさせていただきます」

 

 こうは言っているものの、今の白雲は呪いの一極化もあり、人間に対してそこまで不信感を抱いていない。さらに深雪と電がいるのだから、街中で突然問題を起こすようなことはないだろう。

 

 たった1つ心配点があると言うならば、ツノの問題。深雪の煙幕による迷彩は、カテゴリーYとセレスにしか施されておらず、白雲には影響をあたえていなかった。

 その理由は本人達も理解していないが、白雲がそれを心から望んでいなかったからというのが最も妥当な答え。平瀬と黒井兄妹は、邪魔なツノが無くなることを望んでいたし、セレスは出来ることなら街を散策して食の探究を続けられることを望んでいた。

 だが、白雲は帽子で隠せるということもあって、そこまで強く望んでいない。深雪を傷付けるツノは折りたいほどにいらないと思っているところもあるが、他ならぬ深雪にツノが好きと言われたのもあって、失いたくないという気持ちも芽生えているため、迷彩までは不要と思っていたところもある。

 

「荷物は後で片付けるとして、今はとりあえず遊びに行こうぜ。みんなも待ってるからさ」

「なのです! すぐに着替えていきましょう!」

「かしこまりました。白雲もお供致します。よろしくお願い申し上げ奉ります」

 

 せっかく軍港都市まで来られたのだ。訓練はするが、最初はまず娯楽を楽しもうというのが深雪の考え。電も白雲も、その考えについていく。まずは心を癒さなければ始まらない。

 

 

 

 

 私服に着替えて鎮守府の出入り口までやってきた深雪達。そこでは既に散策に向かおうとしている仲間達が集まっていた。全員がいつもの制服ではなく街に出るためのモノであるため、ぱっと見では艦娘とは思えないような華やかな集団。

 うみどりの面々もそうだが、潜水艦勢にも全員分の私服が用意されている辺り、既にいろいろと準備はされていたようである。元々持っていたモノもあるらしく、久しぶりに出したと楽しんでいる者も多数。

 

「ジャーン、実はあたしもこういう()()()()は持ってたりしたんだよね」

 

 グレカーレも私服を持っているタイプの艦娘。髪型まで少し変えて、オシャレに決めていた。それを使っていた当時と違うのは、見た目の色合いがまるっと逆転してしまっていることくらい。とはいえ、深海棲艦化させられていても、全く問題ないくらいの見た目であるため心配はない。

 

「お、いいじゃん、似合ってんぜ」

「ふふーん、そうでしょそうでしょ。あたしってば、ファッションセンスあるんだかんねー」

 

 深雪に褒められ鼻が高いグレカーレ。あまり知らない者が見たら、グレカーレの今の服装は()()()()なんて形容しそうではあるが、本質を知る者からしてみれば、その明るさを全身で表している可愛らしいものである。

 

「わ、シラクモも()()()()したんだ」

「はい、お姉様と並び立つのならば、それなりの見た目でなくてはなりませぬ。用意してくださったイリス様には、感謝しております」

 

 そんな白雲は、実益も兼ねた深窓の令嬢スタイル。ロングスカートにしているのは、なるべくその白い肌を見せないためというのもある。ツノを隠すための猫耳のような帽子を被っていても、それもまた合うように全身をコーディネートされていた。

 見えている肌は顔と手だけ。髪の白さもそのままではあるが、艦娘が普通に歩いているのならばそこまで目立たない。それとやはり、深海棲艦が街中を歩いているとは思えないので、少し変わった姿ならば艦娘であると認知されている。

 ツノさえ隠すことが出来れば、まず深海棲艦とは思われない。それが今の軍港都市。艦娘も当たり前のように娯楽を楽しみに来る場所。住んでいる人間も、そんな光景に慣れたものである。

 

「みんなで集まってるのって、何か理由あるの?」

「そりゃあな。全員分の端末配らねぇと」

 

 潜水艦勢にもある程度の金銭が使えるように電子マネーが入れられた連絡用端末が配られていた。

 所属ではないとはいえ、潜水艦勢も後始末に参加しているということで、()()が発生している。その分を使えるように既に手配されているということになった。

 

「え、じゃあ、あたしにもお金貰えるの?」

「そりゃあな。グレカーレだって働いたじゃねぇか」

「わぁ、ちょっと嬉しいなぁ。ちゃんと自分のお金で買い物出来るなら、後腐れとかもないもんね」

 

 ニコニコしながら伊豆提督から端末を貰いに行くグレカーレ。深雪達もここからの行動のためには必要なため、一緒に向かう。

 

「んふふ、お金ありがとうパパ〜」

「こら! パパはやめなさい。せめてママと呼びなさい」

「そっち!?」

 

 そんな冗談みたいなやりとりを交えつつ、端末を受け取る。

 

「グレカーレちゃんは特に頑張ってくれたものね。これで楽しんできてちょうだい」

「うん、ありがとねテートク。なんかあったら、これで連絡をしたらいいんだよね?」

「ええ。何も無いことを祈っているけれど、まずいと思ったらここまで逃げてちょうだい。わかっていると思うけど、アナタ達は今非武装なんだもの。何も出来ない一般人だと思うのよ?」

「勿論。あたしは身体は深海棲艦かもしれないけど、艤装も持ってないならただの非力なお子様だもんね」

 

 そこはしっかり自覚している。グレカーレだけでなく、潜水艦勢全員がちゃんと理解している。

 

 純粋種といえど、見た目通りの非力な子供になるのはカテゴリーCと変わらない。ただでさえ今、軍港都市では狙われる可能性があるのだから、楽しみたいけれど警戒は必要。

 万が一のことがあったら、深追いせずに連絡、そして撤退。これがベストである。

 

「心の底から楽しめなくなっちゃっているのは本当に残念だけど、羽を伸ばしてちょうだい」

「ん、そうするね。ミユキ達とゆっくりしてくるよ」

 

 ニッコリ笑って端末を貰い、手をヒラヒラさせながら深雪の方へと戻った。

 

「深雪ちゃん、くれぐれも気をつけてちょうだいね」

「ああ、見えない敵に関してはどうにもならないかもしれないけど、何かあったらすぐに逃げるし連絡する」

 

 深雪も自分が狙われていることは嫌というほど理解しているため、この注意を心に刻んだ。

 

 

 

 

 軍港都市での休暇は、最初と比べるとどうしても心の底から楽しむことが出来ないというのはある。

 だが、全く楽しめないというわけでもないため、まずはやりたいことをやっていきたいと考えた。

 

「まずは子日じゃないけど食べ歩きだな。あといろんな店見て回ろうぜ」

「なのです! 電はまたあのクレープが食べたいのです!」

「白雲はお姉様の行きたい場所で楽しませていただきます故」

「あたしもー。エスコートしてよね♪」

 

 深雪はこの4人で行動することとなる。いつもの4人ではあるが、深雪が3回目ということもあり、ひとまずは大丈夫だろう。

 

 神風や丹陽が目を光らせそうではあるが。

 




グレカーレはちょうど今あるバレンタイングラだと思ってください。白雲は結局私服が出なかったのでオリジナル。イメージ的には、佐世保の冬月みたいな感じで、猫耳帽子でツノを隠してるという見た目。
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