後始末屋の特異点   作:緋寺

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街のひととき

 早速、軍港都市の散策を開始した深雪達。共に行くのはいつもの面子、電、白雲、グレカーレである。

 最初に向かおうと思ったところは、やはり食べ歩き。街ならではの甘味などを真っ先に味わうのが定番のルート。

 

「港から行くわけじゃないから、前に行ったところはちょっと遠回りになるんだな」

「なのです。こうなると、また違った場所を堪能するのもいいかもって思うのです」

「だな。こっち方面にもいろいろ出てるみたいだし」

 

 初めてではない深雪と電でも、初めて通る道であれば少し目的になりそうな店を探しながらの行動になる。初めてである白雲とグレカーレは、ただただ後ろからついていくのみ。

 とはいえ、初めてここまで人間がいるようなところを歩く白雲と、つい最近まで人間不信だったグレカーレだ。賑わう街中を歩くのは、少々緊張する様子。

 

「いやぁ、こんなに人間を見るのは久しぶりだから、なんか変な気分」

「お前の時からは変わってるか?」

「そりゃあもう、随分と変わってるよ。30年だよ30年」

 

 こういう話を堂々と街中ですることがいいかとかどうかはわからないものの、賑わっているところでこれくらいの些細な話ならば、余程大きな声で話さない限りは誰も気に留めない。

 

「でも、変わってないところもある」

「へぇ、何がだ?」

()()()()()()()()()()()ってところかな」

 

 軍港都市の住人は、みんながこの街を満喫していると言える。人間であっても、艦娘であっても。ここは休暇のために来る場所なのだから、心が癒され、羽を伸ばす必要がある。それが実現出来ているから、笑顔の者ばかりなのだ。客もそうだが、店側も。

 この戦いの真っ只中でも、悲観せずに明るく生きている。これは、第二次の時も同じ。戦争という昏い状況にも負けずに、今を精一杯良くしようと努めていた。

 

「そういうところがカワイイんだけどね、人間って」

「カワイイ、か」

「健気でさ。だから、守ってあげたいって思えるんだよ。あたしだけかもしれないけど」

 

 ニッと笑みを浮かべるグレカーレには、もう人間不信なんて何処にも見えなかった。

 

 

 

 

 宣言通り、まずは甘味。グレカーレはまだまともに活動が出来ていた時に食べたことがあるのだが、白雲は当然ながらこういった甘味は食べたことがない。うみどりで伊豆提督やセレスの料理を食べているため舌は肥えているが、街中で仲間達と共に食べる店の味というのは、また違った良さがあることを知る。

 

「これは何と……侮れぬ味。電様が絶賛するのもわかります」

「ですよね。こうやって食べるのが美味しいのです」

 

 クレープを小さな口で頬張る電と白雲。その美味しさに舌鼓を打ちながら、早速この軍港都市の楽しみ方を覚えて行った。

 

 帽子のおかげで注目を浴びることもない。私服姿の艦娘だという認識で、街中も店も扱ってくれている。クレープ屋の主人も、相手が艦娘だとすぐに理解し、オマケと言いながらトッピングを増やしてくれたほどである。

 

「……人間とは、艦娘をここまで信頼しているのですね」

 

 白雲がボソリと呟く。生まれたばかりの頃は、カテゴリーMの呪いによって、あらゆる人間に対して敵意しか感じなかったが、今は一極化によってそこの感覚はかなり変化している。人間を区別出来るようになり、軍港都市の人間に対しては呪いを振り撒くことはない。

 その結果が、人間から向けられる感情の精査が出来るようになった。本心はさておき、少なくともクレープ屋の店主は、艦娘に平和を守ってもらえていることに感謝を示しており、採算を考えることなくオマケを付けることを選択するくらいには信頼をしている。そこに嘘偽りは無いようにしか見えなかった。

 あちらは深雪達のことを他の艦娘と同じ、元人間と思っているだろうが、どうであれ感謝の気持ちは変わらない。

 

「ああ、だからあたしらは、人間を守るんだ。感謝されるためってわけじゃあないけどさ、感謝してもらうなら思いに応えねぇと」

「……そう、ですね。お姉様の仰ること、この白雲、ハッキリと理解出来ました」

 

 小さく微笑む白雲に深雪は満足した。人間社会に紛れ込むことにストレスを感じていないかと不安になっていたものの、この軍港都市でそれを感じることは無さそうである。

 勿論、ツノがバレないようにするという配慮は常に必要だが、それだけで済むのなら仲間達も気にかければまず最悪の事態になるようなことはない。

 

 白雲も、本心から軍港都市での休暇を楽しむことが出来そうだった。

 

「おっと、やっぱり同じところに居れば顔を合わせることくらいはあるね」

 

 なんてことを言いながら深雪達に声をかけるのは、少し早く散策に出ていた時雨。一緒に行動をしているのは、夕立、子日、そしてZ1である。

 子日が加わっているということで、こちらのチームも食べ歩きスタートをしていたようで、夕立がニコニコしながらからあげ棒を食べているのが非常に印象的。Z1も勧められたか、カップのアイスクリームを手にチビチビと口に運んでは、その美味しさに目を細めていた。

 

「おう、時雨。そっちはそっちで楽しめてるか?」

「そうだね、前に来た時よりは、純粋に楽しめてるかな。あの時よりは人間のことを疑ってないからね」

「そりゃあよかった。でも保護者はどっちかといえば子日だよな」

 

 この中で唯一のカテゴリーCである子日。カテゴリーBやMと共に行動しているが、人間社会に最も精通しているのは間違いなく元人間であるため、いざという時にブレーキ役になるのは子日だろう。

 その子日も先程深雪達がクレープを買った店でしっかり注文しているのだが。緊張感が無いというか、豪胆というか。

 

 時雨の表情は、前にここに来た時よりも晴れやかではある。呪いを持ったまま散策をさせられ、懐疑心に苛まれながら娯楽を楽しめと言われても無理な話。

 しかし、本当の悪を知り、呪いを出洲一派に一極化出来たことで、時雨も軍港都市散策を楽しむことが出来ていた。

 

「ハルカちゃんのも美味しいけど、ここのもすっごく美味しいっぽい! レーベももっと食べるっぽい!」

「そ、そう言われても、すぐにお腹いっぱいになっちゃうよ」

「動いてるうちにお腹なんて空くっぽい」

「そんな無茶苦茶な……」

 

 こういう時の夕立の押しの強さは長所でもあり短所でもある。Z1も言われるがままに、しかし量は考えながら、少しずつ少しずつ食べているようである。

 そこにクレープを手に持つ子日も登場。

 

「はーい、レーベちゃん。甘いモノ好きみたいだし、これもオススメだよ♪」

「あ、あの、ネノヒ、僕はまだアイスクリームを」

「召し上がれー」

 

 口元にクレープを持っていくことで、食べざるを得ない状況にされてしまったZ1は、仕方ないと口をつける。そして、その美味しさに目を見開いた。こちらも美味しいと食べ比べ状態。

 

「まぁ、こっちはこんな感じさ。そっちは……聞く必要は無いみたいだね」

「ああ、白雲も楽しんでくれてる」

「それなら、それを収めさせてもらおうかな」

 

 そう言いながら時雨は、首にかけていたカメラでクレープを食べている白雲を中心に写真を撮影。周囲にいる電とグレカーレも入っており、グレカーレに至っては撮られるとわかったか、小さくポーズを取っていた。

 

「ん? お前、そんなの持ってたか?」

「借り物だよ。ちょっと興味があってね」

 

 なんでも、呪いが薄れたことで人間社会への興味も出てきた時雨は、その営みを写真として収めることにも興味を持ったらしい。それを話したところ、お古でよければと伊豆提督からカメラを借りたのだという。

 カメラに興味を持ったのは、前回の散策の時。白雪が熱弁するのも聞いていたが、カメラそのものを興味深そうに眺めており、そこから自分でも撮影してみたいと思ったらしい。

 借り物はその時に見た軍事用のモノではないが、手に馴染むようで時雨は喜んで使わせてもらっているという。

 

「せっかくだから、人間の営みをいつでも見られるようにしようかなと思ってさ」

「なんでまた」

「また人間への信用が無くなった時、こういう人間もいるんだと思い出すため、かな。結局仲間達の記念撮影にしか使わなそうだけど」

 

 時雨は時雨なりに、呪いに対してケジメを付けている。人間全てが悪いモノでは無いとわかれば、守るべき人間を区別することは容易なのだろう。思い出として美化するわけではなく、記録として正しいモノを残すために使う。

 

「変われば変わるもんだな」

「僕だって成長するんだ。生まれたばかりの頃は誰だって無知だろう。知って大人になる。君だってそうじゃないかい?」

「そう、かもな。ちょっといろいろありすぎだけどな」

「はは、それは言えてるね。嫌なことばかり起きたけれど、それを乗り越えることが出来たのは、成長の証じゃないかな。実際、僕は身体も成長しているしね」

 

 言いながら第三改装によって膨らんだ胸を張る。深雪は確かにと苦笑した。時雨は見た目からして成長しているため、説得力が違った。深雪も第二改装により少しは成長しているが、ぱっと見ではわかりにくい。

 

「君はちゃんと成長しているかい? またウジウジするようなことをしてもらっちゃ困るんだけどね」

「ああ、大丈夫だ。神風や丹陽のお陰でいろいろと吹っ切れられてる。それに、今はみんながいるからな」

 

 成長が出来ているかは自覚出来ない。だが、もうメンタルがやられても、ウジウジするようなことはしないと決めていた。すぐにでも話せる相手がいる。頼れる者がすぐ傍にいてくれるのだから。

 

「それならいいさ。君は僕の好敵手なんだ。やり甲斐がないと困る」

「期待しておいてくれよ。また訓練でも何でもやろうぜ。まだまだ強くならなくちゃいけねぇからな」

「ああ、期待しておくよ」

 

 もう何枚か写真を撮った時雨は、そろそろ次に行こうと子日に話し、深雪達と別れた。あれはまだまだいろんなところを食べ歩いていそうだと苦笑する。

 

「楽しめてるならそれでいいよな」

「なのです。電達も楽しいのです!」

「じゃあ、もっと楽しまねぇとな。白雲、グレカーレ、次はどんなところ行きたいよ」

「あたしは適当にぶらつくだけでもいいよぉ? 目についた気になったところを手当たり次第入っていくでもいいしね」

「白雲はお姉様と共に行くのならば何処へでも。今も存分に楽しませていただいております故、お姉様の選択は間違いないと確信しております」

 

 目的もほぼなく、適当にぶらついているだけでも、休暇の時間を楽しむことが出来ている。合間合間に今のように仲間達と会うこともあるだろう。そうしたら、互いに楽しんでいることを示し合えば、それでまた楽しさが増す。

 

「んじゃあ、ブラブラすっか。またなんか美味そうなモンあったら食えばいいし、面白そうなモンがあったら覗いてみよう」

 

 

 

 

 今だけは戦いを忘れて、心を癒すために楽しむ。身体よりも心が整わなければ、これからの戦いは進めていけないだろう。

 




時雨はスタイルが大幅に良くなっているので、前回とはまた違う私服を貰っています。改三になった途端に私服が増えてましたもんね本家でも。三越や佐世保で。
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