軍港都市を散策する深雪達は、目につく興味のあるモノを手当たり次第見て回っていた。美味しそうだと思える食べ物は食べてみる。遊べそうなモノは遊んでみる。お土産みたいなモノも眺めてみる。やれそうなことは全てやってみようという意気込み。
電は以前に犬の写真集を買ったことがあるということで、本屋に立ち寄ってみたら今度は猫の写真集を購入。前回にそんなことを言っていたので、有言実行となった。
グレカーレがアクセサリーがどうのこうのと言い出し、そういう店を見に行ったりし始めると、深雪や電は全くついていけないものの、グレカーレが楽しそうにしている姿は、それだけで心を穏やかにしてくれる。
「白雲、お前は何処か行ってみたいところはあるか?」
三者三様に行きたいところに行き、欲しいものを買ってみたりと楽しんでいるところで、深雪が白雲に尋ねた。
白雲は人間の社会には疎いため、深雪についていくというカタチでこの散策を楽しんでいた。深雪が楽しければ自分も楽しいと笑みを浮かべながら。
しかし、白雲自身が何に興味が出たか、どんなものが楽しいと思えたか、そういったモノが知りたいと深雪は思っていた。
「白雲の行きたい場所……でございますか?」
「ああ、これまでに何かいいなって思ったモノとかないか?」
「……そう、ですね……今のところは」
甘味を食べれば、人間は侮れないと美味しそうに食べるし、本屋でもこういう文化があるのかと興味を見せたりしていた。アクセサリーに関しても、煌びやかなモノを前にして、ほうと目を輝かせていたりもしている。
だが、白雲が前のめりになるようなモノは今のところ見えていない。適当にブラついていたら、何かしらにぶつかると思っていたものの、まだ
「何か気になったモノがあれば、何でもいいから言ってみてくれよな。こういうのは、そうやって楽しむもんだ。白雲だって、我儘になってもいいんだからな」
「我儘に……ですか?」
「ああ。それが悪いことだったら、あたしが全力で止めるだけだ。でも、お前はそんなことしないだろ。なら、好きに言ってみてくれよ」
ニカッと笑ってサムズアップする深雪。電も微笑み、グレカーレもニッといい笑顔を見せた。
白雲は3人の思いを受け、小さく微笑むと、頭を下げる。
「気遣っていただき、ありがたく存じます。気になるモノがありましたら、すぐに言わせていただきます」
「おう、我慢するなよ。あたしは白雲にも目一杯楽しんでほしいんだからな」
「はい、重ね重ね、ありがたく存じます」
口調が固いのは仕方ない。それが白雲の持ち味なのだから。しかし、表情はこれまでよりもまた明るくなっていた。
こうして見れば、それが深海棲艦化させられたとは思えない。それに、人間に対して怒りと憎しみを持つ呪いに蝕まれているようにも見えない。艦娘白雲としての本来の姿を垣間見ることが出来たかのように思えた。
昼食は軍港都市でも話題の喫茶店で軽食を摂ることにしていた。食べ歩きをしている時点でガッツリと食べるようなことはしないため、それこそその喫茶店でも特に人気の高いハンバーガーやサンドイッチなどで済ませていた。
話題になるだけあってその味は絶品の一言に尽きた。伊豆提督が作るモノと比べても負けず劣らず、むしろ雰囲気なども相まって、勝る部分が多いとまで思わせるモノ。
だからだろう、この店にはしっかりと
「流石だよな……セレス」
「なのです。探究者って自分で言ってるだけあるのです」
優雅にお茶を飲みながらしっかりと堪能しているセレスの姿がそこにあった。深雪達と目が合ったために、小さく手を振ってくれたので、それに返すように軽く手を振る。
名物と呼ばれるモノは全て食べて味を知り、そしてそれを
ツノの存在が深雪の煙幕により掻き消されているため、そこにいるのが深海棲艦であるなんて誰も思わない。話し方が片言なので、観光に来た外国人にしか見えなかった。
その上、イリスのコーディネートによって美女に拍車がかかっているため、周囲の注目を集めているほどである。特に男性客の視線が向いているようだが、セレス自身はまるで気にも留めていない。
「時間全部使って、行けるだけ行くんだろうな。ここには美味いモンも沢山あるし」
「全部お腹に収まっちゃうのが、流石戦艦って感じだよねぇ」
それだけ食を探究するが、全てしっかり美味しく食べ終えているのだから、そもそも胃が大きいというのもある。今のセレスにはうってつけの身体と言えよう。
最終的にどれだけ食べたのかはわからないものの、ここを出たらまた別の店で探究するのだろうと予想がつく。まだまだ食べ続けるのだと思うと、自然と笑みが溢れた。
喫茶店を出て適当にブラつくだけでも、最初に時雨達と合流したように、割と仲間と顔を合わせることが多い。
軽く話してその場で離れるということばかりであるが、各々がしっかり楽しんでいるのがわかる。
「遠目でもわかりやすいな」
などと深雪が苦笑したのは、外に出られるようになったことを一番喜んでいたであろう黒井兄妹である。
港湾水鬼という深海棲艦の中でも特に長身なモノに変えられてしまっているため、街の人の群れの中でも頭ひとつ飛び抜けているのではと思えるくらいに目立っていた。しかもそれが双子で、どちらも同じなのだから、それはもう周囲からの視線を集めている。
勿論、あの長く鋭いツノは見えていない。しかし存在はしているので、見えずとも何かに当たらないように注意だけはしているようである。高身長なお陰で他人を傷付けるようなことはないようだが。
「あ、深雪ちゃん達だ。やっほー♪」
「こんにちは」
テンション高めの蛍と、落ち着いた透。双子でもこうも違うかと周囲に思わせるのが、さらに魅力的なようで、より視線が強くなったようにも思えた。
加えて、セレスと同様に港湾水鬼も美女と呼べるタイプの見た目。特有の人相の悪さも、性格によって緩和されているおかげで、怖がられることすらない。
結果、非常に魅力的な高身長の双子姉妹というわかりやすいコンビとして見られていた。否定的な部分が何処にもない。
「いやぁ、どうしても注目集めちゃうね。こんなに背が高くなりたかったわけじゃないんだけど」
「そりゃあ仕方ねぇよ。でも、すげぇ楽しんでるみたいじゃん」
「当然だよ!
軽く言うが、発言自体はかなり重いモノ。知らない者からしたら、深海棲艦の襲撃か何かで家を失ってしまったとか思うかもしれないが、実際は
とはいえ、黒井兄妹は港湾水鬼とされてしまった第二の人生をなるべく楽しもうとしていた。無くしたモノはまた手に入れればいい。今あるモノから伸ばしていけばいい。だから、ここでまず楽しむ。そんなポジティブでありアグレッシブな行動のおかげで、悲壮感なんて何処からも感じなかった。
そんな蛍のおかげで、透も前を向くことが出来ていた。無理矢理性転換までさせられてしまっているのだが、命あっての物種、しかも身体を蝕んでいた不治の病すら取り除かれてしまったのだから、控えめになってしまう要素はもう無いとすら言える。
「うみどりのお掃除用にメイド服買おうと思ったんだけど、透がすっごく否定してさぁ」
「い、いや、あれは蛍も悪いよ。蛍が選んだのはコスプレ衣装だから実用性皆無だし……何より丈が短すぎ」
「艦娘には似たようなの着てる子もいるんだから気にならない気にならない」
「僕が気にするんだって……」
相変わらずのパワーバランスではあるが、お互いに楽しんでいるようで何よりであった。
「下着は妖精さんが用意してくれるからとりあえずはいいんだけど」
「街中でそういう話はやめようよ……」
「大切なことでしょーが。私達、ちょっと意味わかんないくらい大きいんだから、気にしないとダメだよ透」
「わかった、わかったから。僕も最近はちゃんと気にするようにしてるんだから」
「当たり前だっての。ちゃんとケアしないと痛い目見るよ」
この2人の会話は、何処か漫才のように見えてきていた。
背丈が大きい者が目立つのもそうだが、そうでなくても
それが非常にわかりやすい例で見えたのが、平瀬達のグループ。子供らしく着飾ることになった桜が街でも注目を浴びていた。
何処かのチャイルドアイドルか何かかと言われるほどとなるのだが、桜自体に人見知りの気質が強いため、何かあるとすぐに平瀬の陰に隠れる。そしてその姿がまた可愛らしいと話題になる。
深海棲艦は揃いも揃って美形揃いであるとわかる。それが可愛らしく見えるようにされているのだから、注目を浴びない理由が無かった。
「なんか、すごいな」
「……予想外でした……」
桜の保護者である平瀬が疲れたように息を吐いた。実際疲れているようで、手小野が出店で買ったドリンクを渡すと、軽く飲んで息を整えるほど。
そんな桜は、電とグレカーレが面倒を見ている。桜もこの2人には気兼ねなく接することが出来るようで、あまり見せることのない笑顔を今は見せているくらいだった。
何かあってもグレカーレなら強く出られることから、平瀬や手小野的にも任せることが出来るようだ。
「桜ちゃん、楽しそうでは、あるよ」
「そりゃあ良い。せっかくなんだから楽しんでもらいたいもんな」
「わ、私達も、そう思う。だ、だから、行きたいところに、行かせてあげてる」
このグループは桜が主体で動いているようである。食べたいモノがあったら食べてもらい、見たいモノがあれば見てもらう。そうやってより多くの笑顔を見せてほしい。それが目的だ。
それなりの時間をうみどりで過ごし、気が許せる仲間もいるのだが、桜の失語症はまだ治っていない。ならば、少しでも穏やかに過ごせる時間を増やしてあげたいというのが
「……注目されるのは……ストレスになってしまっていそうですが……」
「それはまぁ、うん」
そこだけは否定出来なかった。人見知りに往来の視線は厳しいものである。
「……こんな時間が……ずっと続いてほしいですね」
「わ、私も、そう思う」
出洲一派が跳梁跋扈している今の戦いで、ここまで穏やかな時間が続くとは正直思えないのが現状。
でも望みを言うだけならタダだ。そんな気持ちすら無くなった時の方が精神的にキツい。なら今はまだ大丈夫。
街の散策に出ているカテゴリーYやセレスは、各々楽しむことが出来ているようだった。
これまで緊張感がありすぎるくらいの場所で生活していたのだから、ここでは伸び伸びとして、溜め込んだストレスを少しでも発散してもらいたいものである。
戦艦棲姫は深海棲艦の中でも私服が多い方がですが、その全てがオシャレで似合っているという、艦娘とはまた違った魅力を持つ存在。今回のセレスは1人で食べ歩きみたいなことをしているけど、見た目はツノのない三越棲姫みたいな感じですね。
本日、この後始末屋の特異点、1周年を迎えました。ここまで来るのに2回ほどお休みさせてもらっているのですが、ほぼ日刊。ありがとうございます。
話はまだまだ終わる気配が見えませんが、これからもよろしくお願いいたします。決着はいつになるかな?