深雪達が軍港都市散策で楽しんでいる頃、軍港鎮守府では次の戦いの準備も進められていた。必要なのは情報共有。そして、多人数の頭脳。集まったのは、各組織のトップ。うみどりの伊豆提督とイリス、おおわしの昼目提督、軍港都市の保前提督、そして潜水艦の丹陽。このいつもの5人である。
それ以外の者は全員が休暇に入っているか、各々の業務に努めている。秘書艦であっても例外ではなく、鳥海も能代も今はここにいない。鳥海は休暇だが、能代は街の見回り。軍港都市への侵入者を未然に防ぐため、秘書艦も総出で見回りを続けているとのこと。
丹陽の付き人である明石は、工廠の方へと顔を出している。なんでも、ここの工廠は、他の鎮守府とは少々違うところがあるらしく、工作艦としてもそこには顔を出しておきたいとのこと。休暇として街に行かないのは、丹陽がここにいるから。万が一の時にどうにか出来るのは、明石だけである。
ちなみに、後始末まで手伝ってくれた榛名の友軍艦隊は、今日1日を休暇として軍港都市に滞在し、夜のうちに陸路から撤収するとのこと。現在の海路は少々危険であり、余計な燃料を使うことはないという判断をされたからである。
孤島や移動鎮守府にいるわけではないのならば、艦娘とて陸路を使う。特に、どちらも同じような時間ならば、陸路を選択することの方が多いくらいである。
「まずは島の調査が先決じゃあないですかね。オレ達が島に突撃かましますよ」
話はトップの会談に戻る。こう発言するのは昼目提督。調査隊の長として、戦いを有利に進めるにはそれが必要だと真っ先に提示した。突撃なんて物騒な言い方をしているが、まず調査隊が島付近にまで向かい、そこの状況を確認すると言っている。
次の目的地は、黒井兄妹が身体を変えられたという島。そこが出洲一派の本拠地かどうかはわからないものの、今持っている唯一の手がかりであるため、まずはそこに向かうことが一番である。
とはいえ、後始末屋の本業は後始末。今は他の鎮守府にも手伝ってもらい、なるべく残骸が海に残らないように対処してもらっているくらいだ。それを全て片付けなければ、島への襲撃は出来ない。
ならば、おおわしがまず先行して島の様子を確認する。ぱっと見で危険だと判断出来るのならば、早々に撤退する。そうでなくても、不用意に近付きはしない。
「それも大切なことだけれど、アナタもあちらに面が割れてるのよ?」
「まぁ……あの海賊船では暴れさせてもらっちまってますからね」
「だったら、警戒されるでしょ。間違いなく。むしろ、誘い込まれて敵の思うツボになるかもしれないわよ」
ここにいる者達は、ほぼ出洲一派に顔を知られている。伊豆提督は言わずもがな、昼目提督も海賊船で大暴れした。保前提督は出洲一派の地下施設が長い年月潜伏出来ていた軍港都市の長ということで。
そういう意味では、全員が警戒されて然るべきだった。丹陽だって、第一世代である上に、一度命を搾り取られそうになっているのだから、向こうが知らないわけがない。
そんな面々を、出洲一派が警戒しないわけがない。特に伊豆提督は、出洲本人と互角にやりあえるだけのパワーを、生身の人間だというのに持っているのだから、余計に警戒される。そんなところに調査とはいえほぼ無計画に突っ込むのは自殺行為。
強いて言えば、あちらに面が割れておらず、かつあちらのやり方を全て見抜くことが出来るイリスという超例外がいるのだが、目以外は一般人なのだから、それこそ返り討ちに遭う。もし島に上がれる状況まで行けたとしても、そんな危険なことは任せることは出来ない。
「ホームに突っ込まないといけないってのは変わらないんだよな。結局のところ、敵が島を陣取ってる上に、潰さなくちゃいけないモノがそこにあるんだから」
「そうね……それはそうなのよね。誰がどう近付いても、こちらがアウェーであることは変わらないから、万全の準備をしたとて返り討ちに遭う可能性はあるわよね」
ただでさえ海賊船を潰したうみどりとおおわしだ。発見次第、容赦なく攻撃を受けてもおかしくない。
それに、ただでさえホームならば、あらゆるバックアップがあるのだ。これまでのような隙は、より一層無くなると思われる。それこそ、未知の力を持つ敵が1人2人じゃない可能性が非常に高い。
戦標戦改装棲姫の時は、『迷彩』の曲解のせいもあって、たった1人に8人使っている。それでイリスの目と暁の分析、そして深雪の煙幕を使ってようやく勝てたくらいだ。あちらも単独で突撃した挙句に撤退など考えずに戦い続けてくれたから勝てたようなモノ。
「でも、突っ込まない限りは何も状況が動かないんですよね」
丹陽も口を挟む。潜水艦のトップとして、犠牲者の弔いのためにも出洲一派は全滅させたいと考えていた。ただし、焦ってはいけない。急いては事を仕損ずるという言葉もある。
「あちらから本体を引き摺り出す……のは現実的では無いわね。そもそも本拠地かもしれないというだけで、絶対に奴らがいるとは限らないんだもの。それでも行かなきゃいけないというのが厳しいけれどね」
島に行くだけ行って、本当にどうにかしなくてはいけないモノは何もない、なんてこともあり得る。それこそ軍港都市の地下施設のように、行くだけ行っておしまいという不完全燃焼は普通に考えられた。
だとしても、行かなければ始まらないというのも困ったモノである。罠であっても踏み込まねばならないとなると、それ相応の準備は必要だ。
「ここで心身共に休んで、万全な体調で向かうのは確定なんだけれど、それだけじゃ足りなすぎるのよね……。せめてあの見えなくなる敵の力くらいはどうにかしたいところよ」
「それは俺も思ってる。だが、イリスの目でしか見えないとなると、流石にどうにも……いや、ちょっと待てよ」
保前提督が少し頭を捻る。
「イリスのその目は妖精さん由来って言ってたよな」
「ええ、ウチの主任に聞いたことだから間違いないわ」
「じゃあ、妖精さんもイリスと同じ目を持ってるってことか?」
少なくとも、妖精さんが絡んでいる力であれば、目にすればそれがどういう力なのかを判断することが出来ている。白雲にはボイラーの冷却、グレカーレには羅針盤の力が入っていることを、主任は看破していた。
戦標船改装棲姫の力も、明確に迷彩と判断出来ていたことから考えると、妖精さんには見えない敵も見えていたと思われる。しかし、それをすぐに伝える手段がないため、戦場でのサポートは難しい。
「妖精さんの意思を即座に言語化出来るモノがあれば、もしかしたら見えない敵も打倒出来るかもしれないな」
「言語化……トシパイセン、むしろ妖精さんの見えているモノを映像化すりゃあいいんじゃないですかい?」
昼目提督もその案を拡張し始めた。
妖精さんには、特に目が良い存在がいる。それが、いわゆる熟練見張員。艦娘の視野をサポートし、偵察や索敵に大いに貢献する。熟練見張員の力を借りれば、小柄でやたらと攻撃を回避する小鬼相手にもまともに戦いが挑めるようになったりする優れモノ。
そんな妖精さんなら、イリスと同様に彩も見える、もしくは彩は見えずとも
「……そっちの方向で考えてみるか。妖精さんに協力してもらって、妖精さんの裸眼で見えた映像をダイレクトに画面に映し出す……なんてモノが出来れば、少なくとも見えない敵の脅威は薄れるはずだ」
「でもそんな簡単に作れるものかしら。前にこちらで戦った時は、妖精さんはその案を出すことも無かったけれど。むしろ、『イリスなら見える』って言ってきたくらいよ?」
「イリスは特に特化してるから準備が要らなかったってことじゃないか? その時はすぐにその力が必要だったんだろう?」
つまり、妖精さんからしてみても、そのシステムを作ろうとしたら時間がかかるということ、もしくは妖精さんとしてもそのシステムは
「ひとまず、妖精さんにいろいろと聞いてみよう。今はそっちの主任も来てくれたんだろ?」
「ええ、うみどりの妖精さん達は一時的にこちらに来てもらっているわ」
ならば、人間と文字による意思疎通が出来る主任を介して、イリスの目に匹敵する何かを作ってみようという方向でまずは舵が切られる。
今から作り出したら遅いかもしれないが、無いよりあった方がマシというのもあるため、やらないという選択肢は何処にも無かった。
軍港鎮守府、工廠。場所が場所だけに、うみどりのそれよりは規模が大きく、うみどりの面々の艤装も当たり前のように格納されていた。それもそのはず、港なのだから、艦娘がどれだけ来ても許容出来るくらいの規模は持っておかねばならないとしているからである。
「明石さんがお邪魔しているんですよね。大丈夫だったでしょうか」
「大丈夫だよ。むしろ、第二世代の工作艦の意見が聞けるのはありがたい。工作艦は常に人員不足だからな」
うみどりに工作艦がいないのもそういうところ。工作艦である明石や、もう一人の工作艦、朝日の素質を持つ人間も数が限られているため、配備されていない鎮守府もそれなりにある。今では主任のような妖精さん主体の工廠も普通となっていた。
軍港鎮守府には工作艦が配備されているのだが、明石ではない。そして、もう一人の工作艦である朝日でもない。
「いつ見ても思うんだけれど、トシちゃんのところはちょっと珍しい配備よねぇ」
「よく言われる。でも、本人がそういう
工廠に入るや否や、丹陽の姿を目にした明石がすぐに駆け寄った。自由に動いていることに対しては別にいいとしても、無茶をしていないかを心配していた。大丈夫だと話しているものの、最近の丹陽のそれはあまり信用出来ないらしい。
そしてその後ろ。そこにはこの軍港鎮守府を任される工作艦……ではない、違う艦娘が立っていた。しかも、2人。
丹陽からしたら、非常に珍しい人員配備であるため、わぁと普通に声を上げていた。
「お二方、工作艦じゃないですよね?」
「いや、私は一応だが工作艦の経験があるんだ。故に、この工廠を任されている。基本は妖精さんだがな」
そう話すのは、本来の艦種は防空駆逐艦である冬月。うみどりに所属する秋月の妹艦である。
艦娘冬月の素質を持つカテゴリーCだが、その性質の中に、
普通ならばそんな配備はしない。しかし、保前提督はあえてその方式を採用していた。冬月の信念が、『戦闘も大事だが、護るべきモノを見失ってはいけない』というもの。艦娘を守るならば、その艤装をも完璧に整備することであると、工作艦の仕事をやる気満々だったというところにある。
「冬月さんはわかります。でも、涼月さんは本当に工作艦ではないですよね」
「お冬さんがこちらにいるのなら、私はそのサポートをするのが務めですから」
にこやかに話すのは冬月の姉にあたる艦娘、涼月。見た目はかなり似ているが、要所要所で差がある。双子に近いかと感じるところ。
「彼女達の知識はホンモノでした。私が保証するので安心してください」
そこに純粋種の明石からのお墨付きが入ったのだから、受け入れても問題ないだろう。
「それで、提督共々こちらに来たということは、我々に用があるということだな。うむ、何でも言ってくれ。どんなモノでもカタチにしてみようじゃないか」
ここの冬月のノリはこういうものなのだと、丹陽は刻まれることになる。
工廠での動きが、今後の戦いに大きな影響を与えることになる。少なくとも、ここで行われる開発は、間違いなく仲間を護るために行われているのだから。
定係工作艦といえば北上が有名なところだと思うのですが、冬月もその経験があったりします(wiki参照)。今回はその要素を取り入れて、軍港鎮守府の工作艦を冬月に、そして、冬月がいるのならば涼月も必要ということで、この配備となりました。珍しいシフトとなりましたが、この世界はこういうもの。
支援絵をいただきましたので、紹介させていただきます。
【挿絵表示】
https://www.pixiv.net/artworks/116114855
1周年記念ということで、主要な純粋種3人のサムズアップをいただきました。みんなで1を立てて、1周年を喜んでくれています。この身長差、本当に解釈一致。時雨も改三になったらこうよね。