後始末屋の特異点   作:緋寺

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定係工作艦冬月

 最低限、『迷彩』の曲解を持つ敵が見えるようにならねば、これからの戦いはかなり厳しい。敵の島に強襲を仕掛けることはおろか、今でも見えない敵が軍港都市に侵入している可能性すらある。

 まずはそれをどうにかするために、軍港鎮守府の工廠で対策を考えることとなった。今はうみどりの工廠担当妖精、主任も来ており、丹陽の付き人である明石もいる。

 

「それで、どんなものがお望みかな」

 

 軍港鎮守府の工廠担当艦、定係工作艦でもある防空駆逐艦、冬月が、訪れた提督達に用件を聞く。

 ここに揃って来たということは、工作艦としての実力を使うような用があるからとしか思えない。

 

 そんな冬月に対して、直属の上司となる保前提督が話す。

 

「今後の戦いのために、必要な装備が作りたい」

「ほう、どんな装備があるといい? 駆逐艦でも扱える強力な火力を誇る主砲かな? 放てば必ず当たる魚雷かな?」

「そういうのも欲しいところだが、まだ設計段階だったろう。今はそれは置いておいてもいい」

 

 夢物語のような兵装の話をしているが、保前提督は一旦その話題は次の機会にと中断させ、すぐさま本題に入る。

 

 まずは今回の敵の凶悪な能力から軽く説明し、うみどりがそれをどのように対処したかを説明する。その後、許可を取った上で、イリスの能力について知ってもらい、そこから妖精さんならばどうにか出来るのではないかというところまで来たことを伝えた。

 冬月は不思議そうな表情を見せつつ、興味深そうに聞いていた。小さく頷きつつも、わからないところはしっかり質問して、自分なりに噛み砕いて理解しようとした。

 隣の涼月も、冬月と同じように頷きながら聞いていた。理解力は冬月よりも高いらしく、時々冬月にもわかりやすいように掻い摘んで説明をするくらい。

 

「なるほど、見えない敵、か。しかも、そちらのイリス嬢にしか見えない。その見える理由が、妖精さん由来の力……」

「ええ、実際に遭遇した私からも話をさせてもらうわ」

 

 ここからはイリスからもいろいろと付け加える。敵の特性について多少は細かく。

 

 その中でも冬月が興味を持ったのが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というところ。

 イリスの目が妖精さん由来であり、しかし艦載機の妖精さんには見えないとなると、妖精さんだけでも目の造りが違うということに他ならない。役割分担がはっきりしているのは周知の事実なのだから、そういうことがあってもおかしいことではないが、身体構造がこうも違うのかと考え込む。

 

「ふむ……確かに、一番目がいい妖精さんは、熟練見張員になるだろう。何せ海上からでも秋刀魚の群れが見えるような目をしている。裸眼なのに海面の光の反射すら貫いて確認しているくらいだ」

「でも、今回の目の良さはそういうのでは無いと思うのだけれど……どうなのかしら」

「本人に聞いてみるしかないだろう。幸い、今はそちらの主任も来てくれている」

 

 そう言いながら、冬月は工廠の奥へと向かった。熟練見張員を連れてきてくれるらしい。

 その間に、話を聞きつけたようで、主任もこの場に現れる。妖精さんの言葉の通訳を買って出てくれたようだ。

 

 少しして、冬月が妖精さんを手に戻ってくる。提督達の前に出てもらうと、熟練見張員はビシッと敬礼。主任と顔を合わせても一礼をした後、握手をしていた。礼儀正しい妖精さんのようである。

 

「貴女達の目、私の目と同じような力があるのかしら」

 

 イリスが問うと、熟練見張員は首を横に振った。そこから主任を介して詳しく聞いていくと、またわかることが出てくる。

 

 イリスの目は、あくまでも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()である。その目に特化した力は、イリスの母の体内に留まった妖精さんの力が、胎児に流れ込んだ結果生まれたモノ。その際に、本来の人間としての能力と混ざり合ったことで、普通とは違う能力に変化してしまった。それが、彩として見る力である。

 いわゆる『共感覚』の妖精さんバージョン。妖精さんの目で見える範囲のモノを、よりわかりやすく彩として感じ取る。

 

 ならば、その妖精さんの目で見える範囲とは何か。主任の持つ目は、白雲やグレカーレの中に潜んでいる曲解の力の源まで看破しているが、熟練見張員には何が見えているか。

 それを主任に通訳してもらうと、こうなる。

 

「せいぶつの」「おーら」

 

 生きているモノであれば発しているというオーラ的なモノを、熟練見張員は裸眼で確認が出来るというもの。そのおかげで、海の上から海の中まで見えていたり、深夜の戦いで敵の位置を把握出来たりする。

 ちなみに熟練見張員の視力は、人間の視力に換算すると10.0は軽く超えていたりする。妖精さんだからと言ってしまえばそれまで。何処までも不思議な生き物である。

 

 そのオーラを色覚で彩としてカテゴリー分けしているのがイリス。だが、逆に言えば、熟練見張員ならばどのような状況であってもオーラを見分けることが出来るということ。

 それこそ、『迷彩』の曲解によって姿形はおろか、その周囲すら辻褄を合わせて見えなくするトンデモ能力すら看破出来る可能性はある。

 

「盲点だったわ……あの戦いの時はイリスに任せっきりにしちゃってたけど、ウチでもある程度の対策は出来たってことじゃない。ごめんなさいねイリス、あんな危ない目に遭わせちゃって」

 

 伊豆提督の謝罪に対して、イリスは大丈夫だとすぐに返答。むしろ、自分があの場に出られたことで良かったことの方が多いと返す。

 

「あの時、私だからみんなに指示が出来たわ。妖精さんに任せてもよかったかもしれないけれど、やっぱり私よりもタイムラグが出ちゃうと思うもの」

「……言葉に出来るかどうかの違い、よね」

「ええ、だから、あの時の最善はアレよ。でも、このおかげでまた一歩進めたじゃない。次の課題は、熟練見張員の見たモノを、なるべく遅れなく共有出来る手段ね」

 

 妖精さんの仕事は、あくまでも艤装や兵装の管理運用である。電探などは、それそのものの設備の力があり、それを艦娘に見やすく制御しているのが妖精さん。そのため、妖精さんの感覚が艦娘達に共存されていることは一つもない。

 熟練見張員は、そこにさらに踏み込んだ力を持っている。電探の精度を上げるという能力と共に、その裸眼で確認したモノを()()()()()こと。肩や頭に乗って観測を続け、何かを発見したら艦娘に合図を送る。頭に乗っているなら頭頂部を叩いたり髪を引っ張る。肩に乗っているなら顔をつついたり服を引っ張る。そういうカタチで意思疎通をしていた。

 だが、当たり前だがそれはタイムラグが激しい。酷い時だと、艦娘側が気付けないという時がある。必死に戦っている時、違うことに集中している時などは、どうしても反応が遅くなる。

 

「出来ないことはない」

 

 冬月が軽く言ったのけた。それに一番驚いたのは、この冬月を手元に置いている保前提督。

 

「そんな簡単に言えることなのか?」

「皆の艤装と兵装を全て整備している私だ。妖精さんとも仲良くさせてもらっている。故に、私は少しだが()()()()()()()()()()()()()()を垣間見た。いや、そこに造詣が深いのは私より涼だ」

 

 兵装の整備は、当然ながら兵装そのもののチューンナップも必要だが、同時に妖精さんのケアも必要。

 その一番早い手段が、甘いモノをあげること。伊豆提督は、その手段をよく使っている。感謝を込めて作った甘味を振る舞って、その心を癒していた。

 軍港鎮守府では、その役割を担っているのが涼月。工作艦としての力をもっているのは冬月であり、涼月が持っているのはあくまでも知識のみ。艤装を調整することは出来ないため、()()()()()調()()()()方向に舵を切っていた。

 

「はい、お冬さんと一緒に作業をしているからこそ、私にも見えるものがありました。熟練見張員さんは単独で行動する妖精さんですが、兵装側にその受信機構を作ることは可能だと思います。妖精さんの在り方は、どの妖精さんも総じて同じ。熟練見張員さんは、()()()()()()()()()()()()()というだけで、使ってもらうことは可能です。専用の機構は必要ですから、それはお冬さんにお任せしますが」

「ああ、問題ない。涼がサポートしてくれるならば、その程度、容易いことだ。受信機構に関してはアタリもついている。そこを妖精さんと共に整備したこともあるくらいだ。だから、少し時間を貰うが無理な話ではないぞ」

 

 冬月も涼月も、それが出来ないとは言わなかった。むしろ、出来ると断言するまである。しかし、時間はかかるかもしれないと釘だけは刺した。

 

「そもそも、それで敵の力を看破出来るかわからない。しかし、その機材をも欺くという力とやらは、間違いなく貫通する」

「断言するのね」

「当然だ。我々がやろうとしているのは、妖精さんとの接続だ。その力を持つモノを直接見ているわけじゃない。直接見ている者の視界を、我々に拡げるだけなんだからな」

 

 直接見ようとすると、全てを欺かれるが、見ることが出来る者を見ることで、欺かれずに済むという、かなり言い訳がましい理論。

 しかし、それが一番的確であり、一番効率がいい。欺かれない唯一の手段とも言えよう。

 

「……例えばだけれど、私と兵装の接続というのは出来るのかしら」

 

 イリスがおずおずと話すが、それは流石に無理だと冬月も涼月も首を横に振る。

 

「貴女は、人間ですから。やろうとすると人体実験になってしまいます」

「妖精さんの目を持っていても、兵装へアクセスする力は持っていないんだろう?」

 

 妖精さんの力を持つ人間。その『人間』という部分が、全てに引っかかっている。

 もしイリスと接続が出来れば、オーラだけでなく、カテゴリー分けも誰もが出来るようになるのだが、流石にそれは叶わぬ夢だった。

 カテゴリー分けが出来るようになれば、戦いの中で、始末出来るモノと出来ないモノの区別が誰にでも出来るようになったのだが、諦めざるを得ない。

 

「しかたないわね、うん。諦めるわ」

「そうしてほしい。だが、手段が見つかったら頼めるか」

「勿論。何かあれば力になるわ」

 

 話は一旦ここで切り上げ、冬月と涼月は、早速その兵装の開発に向かう。大忙しだと笑う冬月と、頑張りましょうと甲斐甲斐しく従う涼月。その姿はまるで、夫婦のようにも見えた。

 

「トシパイセン、あいつらいつもあんな感じなんスか」

 

 昼目提督が聞くと、保前提督は首を縦に振る。

 

「モチベーションが高くて助かっているよ。ただ、あまり目を離してはおけないけどな」

「どういうことっスか」

「冬月は割と無茶をする。涼月はそれを全肯定する。つまり」

「あー……なるほど、ぶっ倒れると」

 

 保前提督は身も蓋もない言い方をするのだが、冬月も割と()()()()()()と言い切った。それこそ、工作艦になった綾波みたいなものだと表現したことで、全員が納得した。

 

 

 

 

 ここから冬月の兵装開発は凄まじいモノへと進んでいく。

 




冬月は開発担当。整備だけでなく、明石と同じことまで出来る程の実力者。これで防空駆逐艦としての力を持っているのだから、インチキにも程がある。
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