軍港都市が夕日に染まろうとする時間帯。散策に出ていたうみどりの面々が、少しずつ鎮守府へと戻ってきていた。
深雪達もその中の1組であり、行きたいところを次々と行って、大満足の中で帰ってきたところである。
「いやぁ、楽しんだな」
「なのです。欲しいモノも買ったし、食べたいモノも食べたのです」
深雪は食べ歩きから始めて、手元には残らないが思い出に残ることを沢山こなしてきた。そのおかげで、精神的な癒しは今回で万全と言える状態に。
電も同じように散策し、前回に話していた猫の写真集も購入したことで、ホクホクの笑顔を見せていた。
「あたし的にはもう少し行きたいところがあったんだけどねぇ。ほら、あのピンク色の路地の向こうとかさぁ」
「あれ、ハルカちゃんがダメっつってた場所だろ」
「
グレカーレはそこだけは名残惜しそうにしていたが、禁止されていたために足を踏み入れることは無かった。そもそも、そこに入ろうとすると、警備をしている軍港鎮守府所属の艦娘にやんわりと追い返されるようにもなっている。
「白雲も楽しめたか?」
「はい、思う存分。白雲も心が温かくなったように思えます。それに……コレも手に入れましたから」
白雲が取り出したのは、一本の簪。この散策の中で、唯一
深雪に言われて、自分の意思で行きたいと思える場所を考えていた白雲だが、深雪達の向かうところでは自分の欲しいと思えるモノはなかなかなく、楽しんでいる深雪達を見て一緒に楽しむ方向を続けていた。
しかし、和服などを取り扱っている店を見たことで、白雲の心の中に温かいモノが芽生えた。人間の作り出すモノに対して、素晴らしい、手に入れたいと思えるモノが目についたのだ。
結果、白雲は初めての買い物をすることとなり、それを大切そうに携えていた。
本当ならすぐにでも髪を纏めて身につけたかったのだが、帽子の都合上、すぐというわけにはいかなかった。ちゃんと束ねるためには帽子を脱がねばならず、そうすると街中でツノを曝け出すことになる。
そのため、まずは買っただけ。また散策する機会があるなら、帽子を被る前に結ってからにしようと考えた。
「とりあえず今日はこれでおしまいだ。まだ2日はあるだろうからな。鈍らないように身体動かしておきたいとは思うけど、まだ行きたいところがあったら行こうぜ」
「ありがとう存じます」
明日の予定は明日決めればいい。今日はひとまずこれで休暇は終わりということで、あとはやることをやって眠るのみとなった。
軍港鎮守府での夕食は、うみどりとはまた違ったモノである。この鎮守府の食堂には専属の艦娘である給糧艦間宮と伊良湖が配備されており、いつでも食事を提供出来るようになっている。
うみどりの面々が休暇で使わせてもらっている時も例外ではなく、忙しそうではあるが恐ろしいほどに迅速な動きで、そこにいる者達全員に食事を提供していた。
その姿をじっと観察しながらも、提供された食事を頷きながら食べているセレスの姿は、誰もが注目していた。受け入れているとはいえ、深海棲艦が料理に対して物凄く真剣に探究を続けている様は、やはり物珍しさがあった。
「ここの飯も美味いな……流石は給糧艦ってことか」
「なのです。ハルカちゃんさんのご飯に負けず劣らずなのです」
深雪達も舌鼓を打ちながら満足げ。いつもと違うモノというだけでも、感じる味は変わるモノ。環境は調味料になる。
他のうみどりの面々も戻ってきており、伊豆提督が点呼をして、全員帰投したことを確認していた。
もし街で何かあったらと考えたら、今はこれくらいしか出来ることはない。全員いること、そしてイリスによる念のための彩チェックもして、戻ってくる者に僅かにでも違和感がないことを確認している。
全員が全員、この休暇を有意義に使い、楽しんでいるのがわかった。過酷な超規模後始末の後はどうしても疲れた顔になってしまっていたものの、メンタルリセットが出来ているのが誰の顔を見ても明らか。
特にわかりやすいのは、趣味を公言している梅と秋月。案の定、今回もそれに繋がるモノを購入している。梅は特にニコニコしていた。
「やっぱり、適度に休みは必要だな……。これまでが正直酷すぎた」
「なのです……。酷い敵も出てきて、心休まる時が殆ど無かったのです」
その一因が自分であると電は理解しているが、深雪が触れようとしないので、図々しいかもと思いながらも何も言わなかった。
事実、深雪は電のことをストレスだとは思っていない。確かに仲違いはしたが、今また仲良くなっているのだから、あの時のことはもう忘れた。今がいいなら前のことはもう考えない。
「ここで英気を養い、次の戦いに備えるのですね。ここでもまた、お姉様を狙う不届き者が現れる可能性があるのでしょう。今の白雲は、これまで以上に戦えるでしょう」
「はは、頼んだぜ白雲。あたしも自分だけでどうにか出来るとは思ってないからな。みんなに守ってもらうぜ」
「お任せください。その白雲、お姉様を守るために、この命」
「命懸けんな。みんなで生きて終わるんだよ」
白雲が感激したような表情を見せつつ、くすりと笑みを浮かべて小さく頭を下げた、
「はい、この白雲、死ぬことなくお姉様の傍にいさせてくださいませ。それが白雲の喜び、白雲の道でございます故」
「ああ、頼むぜ白雲。こんなふざけた戦い、絶対に勝ってやろうぜ。電も、な」
「なのです。みんなで生きて終わらせたいのです」
この休暇で失われつつあった心の余裕が戻ってきたことで、改めて一致団結する。これからの戦い、さらに過酷になることはわかっているのだから、より気合を入れていく。
「あ、そうだ、忘れてた」
「何かあったのです?」
「アレだよアレ、ケッコンカッコカリ、だっけ。あの話、ハルカちゃんにまだ聞いてなかったじゃん」
そういえば、と電も手を叩く。聞こうと思った時に伊豆提督が忙しすぎるくらいだったので、その時はスルーしてしまっていたが、強くなるために2人には必要なこと。
今なら余裕があるのだから、話くらいは聞けるだろう。伊豆提督も今なら身体を休めているはず。それを邪魔することになりそうなら、また翌日に聞けばいい。
ということで、深雪と電は夕食後、風呂の前に伊豆提督にその相談に向かうことにした。ここからさらに強くなれるのならば、より生きて戦いを終わらせることが出来るようになる。
伊豆提督はその時間でも工廠の方でちょっとした作業をしていた。別の鎮守府に来ても提督としての作業をしているので、深雪は頭が下がる思いである。
「ハルカちゃん、ちょっと今いいかな」
深雪の姿を見て、伊豆提督は笑顔で手を振った。今は割と余裕がありそうであるため、すぐに話を切り出すことにする。
「練度の限界を超える方法があるって聞いたんだ。この前聞こうと思ってたんだけど、ハルカちゃん忙しそうだったから、丹陽から詳しいことも聞いたよ」
「ああ、あの時のことね。ケッコンカッコカリ……おかしな名前でしょ?」
「まぁね。でも、魂を結ぶって意味だって丹陽から聞いた。もうちょっと音をどうにか出来ないもんなのかな」
これには伊豆提督も苦笑。結婚を想起させる名前はどうしても思うところが出てきてしまう。元人間なら尚更。
伊豆提督もそれがあるから、なかなか話し出せなかったというのがある。純粋種がケッコンという言葉にどういう思いを持つかは少々わからなかったものの、同じ感性を持っているなら複雑な気分になるかもと思うと、なかなか伝えることは難しい、
「丹陽ちゃんから聞いたかもしれないけれど、昔は本当に結婚みたいな儀式だったのよ。指輪を贈り合うっていう、わかりやすく自覚しやすいことをすることで、心に刻む、みたいな感じね」
「ああ、丹陽もそんなこと言ってた。その時の指輪も見せてもらったよ」
「ロマンチックなのはいいんだけれど、その、今の艦娘って人間でしょ? たまにいるのよ……将来を誓い合った相手がいる子とか、そもそも既婚者だったりとか」
前者はわからないが、後者は深雪にもピンと来る者がいる。神風だ。
ここには神風の秘密を知らない者──白雲がいるため、その話は一応口に出さないようにしている。
「なるほどなぁ。なんか不倫みたいになっちまうもんな」
「身も蓋もないんだけれどね。第一世代にはそういう
苦笑しつつ、ケッコンカッコカリについてのことを続ける。
深雪と電の練度は、既に限界まで来ている99。ケッコンカッコカリをすることが可能な状態。それ以外の条件というのは基本的にはなく、この状態でサポート妖精さんの許可があればもう可能。これは第二改装と近しいものである。
ケッコンカッコカリによって艤装のリミッターが外されるということは、第二改装と同様、サポート妖精さんにも影響を与える。そのため、その是非はやはり妖精さんが担っていた。
「まずは妖精さんに聞いてみましょうか。あとは、アナタ達はカテゴリーWということもあるから、一度身体を調べた方がいいわね。大丈夫だとは思うけれど、何か悪い影響があるかもしれないから」
「ああ、今すぐ大丈夫かな」
「大丈夫……うん、大丈夫ね。特別な設備とかは必要ないし、ここならぶっちゃけうみどりよりもいいモノ揃ってるもの。トシちゃんにちょっと聞いてくるわ」
流石に軍港鎮守府の設備をうみどりの提督が勝手に使うわけにはいかないため、許可を貰いにそこから離れた。すぐ戻ってくるから待っていてほしいと。
「やったな電。あたし達、もっと戦えるようになりそうだぜ」
「なのです。ここから何をやっていくかはまだ見当ついていないですけど」
「まぁ、な。だから、まずは限界を超えて、そこからまた基礎とかやっていけばいいんじゃないか?」
「バレエとかまたやるのです?」
「いいかもな、それ」
深雪も電も、顔を見合わせてニッと笑った。
「白雲もここからお姉様と電様に追いつけるよう、精進いたします。基礎でしたら、白雲もお付き合いいたします故」
「ああ、白雲も一緒に強くなろうぜ」
白雲も揃って笑みを浮かべた。
夜ではあるのだが、ケッコンカッコカリの話を進めていくこととなった深雪達。これによってさらに力を得て、コレからの戦いを進めていくことが出来るはずだ。
白雲は勿論、練度だけでいえば全然足りていません。とはいえ、深海棲艦の要素を持っているとなると、ケッコンカッコカリ自体出来るかわかりませんね。何せ深海棲艦は基本練度1で完成されてしまっていますから。