後始末屋の特異点   作:緋寺

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拓かれる道

 休暇の今ならば伊豆提督にケッコンカッコカリの話が聞けると思った深雪は、早速行動に移した。その結果、夜ではあるのだが、軍港都市の設備を借りることで精密検査を実施し、その結果で練度限界の突破を施されることとなった。

 ケッコンカッコカリを望む深雪と電は、この世界に現状2人しか発見されていないカテゴリーW。しかも、深雪に至っては敵から狙われるくらいの()()()なのだ。もしかしたら、今人間の持つ常識が通用しない可能性がある。

 

 伊豆提督が保前提督に話をしに行き、そして帰ってくると、伊豆提督以外にも保前提督、秘書艦能代、そして工廠担当の艦娘である冬月と涼月もついてきていた。

 

「カテゴリーWの精密検査だ。流石に俺も確認しておきたい」

 

 又聞きよりも、やっている今すぐに聞きたいということで、この場に登場した。この鎮守府を統括する者として、工廠で行われるいつもと違うことは、しっかりと見届けようという考え。

 

「そっちの司令官と能代さんはわかるんだ。あたしも最初に会ったからな。そっちの2人は?」

「ここの工廠担当の艦娘よ」

「へぇ……」

 

 チラリとそちらを見ると、冬月と涼月はそれに気付き、一歩前へ。

 

「防空駆逐艦、兼、定係工作艦の冬月だ。妖精さんにおんぶに抱っこの状態ではあるが、艦娘としてはこの工廠を任されている。よろしく頼む」

「そのサポーターの涼月です。艤装の整備は出来ませんが、妖精さんのケアを担当させていただいております」

 

 丁寧に挨拶されたことで、深雪と電も丁寧に返す。頭を下げながら、よろしくと握手をした。

 

「ケッコンカッコカリをするにあたり、カテゴリーWの精密検査が必要と聞いた。ならば、工廠設備を取り仕切る私の出番だろう。一切の不備が無いようにこなしてみせようか」

「ああ、頼んだ。あたしも電も、今以上に強くなりたい。何か他にわかることがあったら教えてくれよな」

「任せてくれ」

 

 自信ありげな冬月に、笑顔を絶やさない涼月。正式な工作艦とは違うものの、その実力はホンモノであることは明石の保証もあるため、任せても問題はないだろう。そもそも、鎮守府の統括である保前提督が何も言わないし、伊豆提督も容認しているのだから、不安になる理由もなかった。

 

 

 

 

 精密検査はカテゴリーCと同じ内容が行われる。言ってしまえば健康診断みたいなものなのだが、見ているのは艦娘としての練度や特性。

 妖精さんの手にかかれば、簡易ドックに入るだけで、艦娘のあらゆる情報が読み取れる。損傷部分をいち早く理解し、その修復方法をすぐさま実践するための、人間にはない能力を、検査にも使っているというわけである。

 

「身体は基本的には現在の艦娘と大差無いな」

 

 今ドックに入っているのは深雪。そのまま入るわけにもいかなかったため、運動に使うようなインナーに着替えての検査中。

 妖精さんが割り出した値に目を通しながら、小さく頷く冬月。深雪の身体の構成を確認しているようだが、そこで出ている値はおおよそカテゴリーCと同じと見ている。勿論細かな差異はあるものの、基本的には艦娘と言い切れる身体。

 

 ちなみに、鎮守府には純粋種のデータもあったりする。今は基本的に使われていないものの、第二次の際に集めたデータが残っているため、そことの照らし合わせも出来るのだ。

 カテゴリーCがカテゴリーBに限りなく近付けるように、こういったデータとの照合が必要というのもある。あまりにも値と差があるようなら、それは艦娘としての適合があまりよろしくないということにも繋がるため。

 

「こういうことを聞くものでは無いのかもしれないが、特異点というのは()()()()()()()()()()という考え方で相違無いか?」

 

 冬月の疑問に、伊豆提督はおそらくとしか答えられない。細かく調べることがなかったが、イリスの目を通して見たイメージは、全ての要素を持っているという見解であるため、艦娘であり人間であると言われたら、答えはYESと言える。

 少なくとも見た目は艦娘そのものだ。使っている艤装も艦娘のそれである。特殊なモノといえば、出所不明の発煙装置と、異常な火力を誇る専用の主砲。そちらも解析をしなくてはいけないが、今はそれより本人の調査。

 

「ケッコンカッコカリに必要な要素は全て満たしているよ。練度は勿論のこと、身体構造も問題ない。純粋種ではあるようだが、ところどころ人間だ」

 

 しかし、()()()()()()()()()()というのが無いかどうかは見ておかなければならない。何せ、深雪は特異点。丹陽は人間や艦娘だけでなく、深海棲艦の要素も持っていると言い切っているし、イリスに至っては、そこに妖精さんの要素も入っていると予想している。

 うみどりでの調査では、深雪は艦娘であるという結論である。妖精さんから見ても、深雪は艦娘。何か別の要素が入っているようには思えない。

 

「うみどりでは調べられないことも、ここでなら調べられるわよね」

「ああ、ある程度は可能だ。もう少し踏み込んた精密検査をしてみる」

 

 ここからは、軍港鎮守府ならではの、さらに深い調査を開始。僅かな差異も見逃さずに確認するため、妖精さんも総動員。

 見た目だけはケッコンカッコカリの条件を満たしているとはいえ、これで未知の要素がそれを邪魔してきた場合、困るのは誰よりも当人、深雪だ。ただ出来ませんでしたで済むならいいが、ケッコンカッコカリを施したことによって、艤装がまともに動かなくなったとか、深雪自身に悪い影響を与えたとかあったら、今後が非常に困る。

 

「ふむ……確かに、()()()()()()()()()()()を発見した」

 

 冬月がそう言っているのは、本来は人間を艦娘にする際に確認する適合率の部分。最初に見たら確認はしないし、確認したところで最初から変わらないというのが普通。逆に言えば、今計測しても最初を知ることが出来るということ。

 こういった精密検査でも確認しない部分ではあるが、やれることは全てやってみようということで確認したところ、そこに明確な違いを発見した。

 

「どうズレているの?」

「適合率が、()()()()()()()()。憶測ですまないが、これは艦娘としての適合と、()()()()()()()()()()が、重複しているんじゃないだろうか」

 

 本来の適合率というのは、その人間に対して適している艦娘が誰かという指針に使われるモノ。その値が95〜100%になっていることが絶対条件であり、これは人それぞれな部分がある。稀に複数の艦娘と適合率が高くなる人間もいるものの、この値がより高い方の艦娘へと変化してもらうのが通例。

 つまり、適合率は最大でも100%になる。これが当たり前であり、この世界の常識。何度も何度も計測するようなモノではないが、稀にこの適合率が()()()ということが発生するため、違和感を持ったときの最終手段として計測される。

 

 この値が、深雪はおかしな値を示していた。

 

「100%が上限のはずの適合率が、200%になっているんだ。妖精さんが気を利かせて、本来測れないところまで見せてくれている」

「に、200%……? それは盲点だったわ……」

 

 うみどりでも、流石に深雪の適合率なんて計測していない。純粋種に適合も何もあったモノではないのだから、測る必要すら無い。

 未知の艤装である発煙装置も、理解出来ない火力を出すようになった専用主砲も、それが本来のモノと差があるかは確認しているが、深雪との適合率なんて見ていなかった。

 

「これでもまだ見えないところはあるな……。特異点というのは、艦娘ではあるが未知の部分が多い。こうやって調査をしても、艦娘と同じ身体を持っているということしかわからないな。数値上では行けるとしか言えん」

 

 冬月の見解はここまで。ケッコンカッコカリは可能であろう。しかし、実施した後に深雪に何処まで効果を及ぼすかは、()()()()()()()()()()()()()としか言えない。

 

「なるほど……深雪ちゃんはやると言うでしょうね。アタシとしては、後のことを考えると慎重に行きたいけれど」

 

 伊豆提督はこういう時は慎重派だ。だが、艦娘の意志も尊重するため、最終的にはやることになるだろうと考えていた。

 

 

 

 

 深雪の調査の後は、電の調査。同じカテゴリーWであるため、調査の結果は同じようになるだろうという認識だったが、やはり同じであった。適合率が200%、艦娘としてだけではなく、深海棲艦としての適合率が重複しているだけ。

 結果、深雪と同じ見解とされた。ケッコンカッコカリは出来るが、その後どうなるかがわからない。

 

「と、いうことなんだけれど……それでもやるかしら」

 

 2人に話す伊豆提督。他の艦娘と明らかに違うところが適合率という部分にあり、練度限界を超えたところで何か影響を与える可能性が無くはないこと。それを聞いた深雪と電は、少しだけ表情を曇らせる。

 カテゴリーWということで、やはり他の艦娘と比べると特殊な部分が見つかってしまった。しかも、出来ないとかではなく、何が起きるかわからないという、不明瞭かつ不安を煽るような状況。

 

 だが、顔を見合わせた深雪と電は、小さく頷いた。

 

「やるよ、あたし達」

「お願いするのです」

 

 その不安を振り切り、強くなることに自分の身を置く。これで恐怖を感じている暇なんてない。ただでさえ敵は想定外のことしかしてこないのだ。

 ならば、こちらも想定外を呑み込むくらいしなければ、勝ち目なんてないのではないか。

 

「本当にいいのね?」

「念を押すなぁ。でも、それだけあたし達のことを心配してくれてるんだよな。でも、大丈夫だ。あたし達は、何かあっても絶対乗り越える」

「なのです。電達はずっと大変だったのです。もう苦難は飽きるほどしているのです」

「だな。だからさ、心配かもしれないけど、やらせてくれ」

 

 2人とも、その目には強い力が宿っていた。ならば、もう何も言うまい。本人の意志を尊重する伊豆提督ならば、ここまでされたら否定はもうしない。

 

「わかったわ。じゃあ、早速やりましょうか。ケッコンカッコカリ」

「ああ、頼んだ」

「よろしくお願いするのです」

 

 

 

 

 まだ未知の要素はあるものの、2人はここで練度限界の突破を試みる。これによって、また新たな道を拓くことになるだろう。

 




深雪と電の深海棲艦要素が垣間見えた今回の調査。適合率が高ければ高いほど、艤装をコントロールしやすくなるので、ちょっとでも低いとラグが出ます。これが何を意味しているかと言うと、神風のガタですね。
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