後始末屋の特異点   作:緋寺

369 / 1158
儀式

 身体の検査を終わらせ、普通の艦娘とはやはり違うモノが発見されはしたものの、それで止まることはなく、ケッコンカッコカリを実施することになった深雪と電。

 時間としては夕食後の夜なのだが、そのままやってしまうことになった。儀式自体もそこまで長々とやることではなく、艤装もこれからすぐに切り替えられるという。

 

「工廠でさらっとやれることなのか?」

「ええ、やること自体は結構あっさりよ」

 

 伊豆提督の説明によると、本人と艤装の結びつきを強くするための儀式は、サポート妖精さんを介して行うこととなり、身体に大きな影響などが残るようなこともすることはない。

 強いて言えば、繋がりを意識するため、基部の接続部分──深雪ならば背中に、サポート妖精さんが何かを施すということになる。服の上からでは出来ないので、素肌に対して触れて、それこそ()()()()()のようなものを施すことになる。

 

 指輪を贈っていた第一世代とは打って変わって儀式的な様相が強くなっているのだが、これはあくまでも心理的に繋がっていると自覚出来る方法であれば、実際どんな手段でも構わないのである。指輪だった当時も、それ自体が装備の一部というわけではなく、()として必要だっただけ。

『艤装の接続部分に』『妖精さんが』『おまじないをかける』。この3つの要素が、施される本人に自覚を齎すには充分なのである。

 

「自覚が必要だから、眠っている間に終わってるとかそういうのじゃ無いわ。ただ、どうしても脱ぐ必要が出てきちゃうから、やるならこことは別室。それに、アタシは同伴出来ないから、そこはごめんなさいね」

「え、司令官なのに見ていてくれないのか?」

「そりゃあね。こんなでもアタシ、男だもの。女の子が脱がなくちゃいけないんだから、抵抗を感じる子だっているわ。だから、工廠担当の艦娘と、妖精さんだけでやるの。ちなみに、うみどりで同じことをするなら、イリスと主任がちゃんと見ていてくれるわ」

 

 あまりにも一緒にいても気兼ねないため、深雪としても少し異性であることを忘れかけていた。羞恥心とかそういったモノは無くとも、伊豆提督の世間体とかに関わるのだから、その意見は呑む必要があるだろう。

 指輪を渡すとかならそんなことは無いのだろうが、それはそれで今度はカテゴリーCのメンタルに影響が出てしまうのだから、今のこの手段が最善。

 

「だから、アタシはここで待ってるから、しっかりやってきなさい」

「ああ、わかった。軽く終わらせてくるよ。な、電」

「なのです。何事も無く終わらせるのです」

 

 にこやかに、深雪と電は工廠の奥へと向かった。

 

 

 

 

 ケッコンカッコカリ、儀式と言っても、やる場所はそこまで大それた準備が必要なわけではない。そのために用意された部屋というわけでなく、艤装と本人が一緒に入ることが出来るくらいの広さがあり、寝そべることが出来る簡易ベッドが置かれている程度。儀式という大事な言葉を使っている割には、この空間は何処にでもありそうな部屋。

 しかし、これからやるのは艦娘達の限界を越えるための、非常に重要なこと。部屋がどうであれ、その艦娘にとってはここからが新たな道の始まり。

 

「まずはどちらがやる」

 

 2人分の艤装をここまで運んできた冬月が問う。ケッコンカッコカリの儀式の際には、すぐ近くに受ける者の艤装を置く必要があるらしく、2人同時にやるということも出来ないらしい。

 

「なら、あたしからやるよ。電、見ておいてくれ」

「なのです」

 

 先にやるのは深雪。もし何かがあった時のための()()となるため。電に同じようなことが起きないようにという配慮。

 

「なら、上を脱いでそこに寝てくれ。うつ伏せだ」

「あいよ」

 

 冬月に言われるがままにし、上を脱いでベッドに横になる。ここには女しかいないため恥じらいなどは無いが、風呂でもドックでもない場所で半裸になるというのは少々不思議な気分になる。

 ベッドはひんやりとしていて声をあげそうになるが、ひとまず指示通りのうつ伏せになることは出来た。

 

「深雪さんのサポート妖精さんは、こちらでよかったですね」

 

 冬月が艤装側につくため、涼月が妖精さん側につく。工作艦の補助として妖精さんのケアをしている涼月には、深雪のサポート妖精さんも気兼ねなく接していたようで、その手の上に胸を張って立っていた。

 

「ああ、よろしく頼むぜ」

 

 いつも通り指先を伸ばし、妖精さんとグーパン。ニッと笑えば、妖精さんもニッと笑う。深雪の性格が妖精さんにも影響を与えているかのように、その笑顔もそっくりだった。

 

「サポート妖精さんと仲がいいのでしたら、この儀式は簡単に終わります。幸い、お二方とも妖精さんとの仲はとても良好な様子。これなら心配はありませんね」

 

 ケッコンカッコカリの儀式は、妖精さんの塩梅にも影響が出てくる。基本的には無いのだが、妖精さんが嫌々やる場合は、簡単に結びつきが強くならない。

 それは当然、妖精さんが艤装運用に密接な関係を持っているから。艦娘は自分だけの力で艤装をコントロールすることが出来ないということがわかる。

 とはいえ、練度が限界になるまで共に戦い、妖精さんとの関係が悪い者なんてそうそういない。余程()()使い方をしていない限り、妖精さんは非常に友好的な存在である。

 

「儀式の方法は、先に教えました。あとはやってもらうだけです。少しくすぐったいかもしれませんが、妖精さんのためにもあまり激しく動かないでくださいね」

「ああ、背中で何かされるってことだよな」

「はい。貴女の背中を舞台にされると思っていただければ」

 

 儀式という体裁がわかる、()()による接続の強化。背中の上でステップを踏まれるので、どうしてもくすぐったさを感じてしまうらしいのだが、それは仕方ないこと。それを何時間もするわけではないので、そこは我慢してほしいと念を入れられた。

 

 この我慢するという行為も、艤装との接続を強める一因となる。されているという自覚に繋がるからだ。

 

「では始めようか」

 

 冬月の合図と同時に、室内が静まり返る。途端に緊張感が駆け巡り、深雪は生唾を呑み込んだ。

 すると、背中に何かを乗せられた感覚。涼月が妖精さんをそっと背中に下ろしたようだった。いつもは肩や頭の上に乗っているサポート妖精さんが、背中に、しかも素肌の上に乗るというのは初めてのこと。確かにくすぐったさを感じた。

 

 妖精さんは艦娘の身体の構造をよく知っている存在。サポート妖精さんは、他の艦娘はわからずとも、自分のサポートする艦娘のことは誰よりも理解している。

 そのため、()()()()()()()()()()()は、アドリブでも手に取るようにわかった。その結果、艤装との接続部を中心に、ステップを踏んだ。その舞踊は、巫女の舞のような厳かさはありつつ、深雪らしく伸び伸びと動き回っているかのような足捌き。

 それが少しむず痒いが、動かないように我慢する。そうすれば、この儀式は完璧に終わるのだと信じて。

 

「接続が強まった。練度が拡張されるぞ」

 

 冬月が言うが早いか、深雪の身体に小さな異変が起きる。艤装との繋がりが強くなったことが理由か、トクンと心拍数が上がった。同時に、妖精さんが踊る背中に熱を感じた。接続口が拡張されたような感覚。

 同時に、身体中に力が湧くようなイメージ。漲るという表現が最も適切なのだろうが、深雪にはそれを言葉として表現出来るほど語彙力が無かった。

 

「艤装も安定した。儀式、終了だ」

 

 背中の妖精さんを涼月が回収することで、ケッコンカッコカリの儀式は終了。それを聞いて、深雪は大きく息を吐いた。

 やってしまえば呆気ないモノ。それ自体が儀式と思えないほどに簡単なこと。しかし、これ自体が深雪を劇的に変化させている。

 

「上を着て、艤装を装備してみてくれ。変化を落ち着かせる」

「あいよ」

 

 ベッドから降りただけでも、その変化に気付けた。身体が軽い。これまで以上に動きそうに思える。そして、身体が熱い。

 言われた通りに上を着て、すぐに艤装を装備した。練度が上がったことの作用か、艤装との接続が深くなったように感じた。

 

「お、なんか違うな。艤装がしっかりくっついてるような感覚だ」

「身体的には何も変わっていないのだが、感覚的に変わっていてもおかしくないな。接続部分の範囲が拡がったように感じるのだろう。練度の拡張で、力の行き来の幅が同じように拡がったということだ」

「よくわからねぇけど、今まで以上に力を出せるってことでいいか?」

「ああ、それでいい。これまでよりも身体が動くし、これまでよりも体力が保つだろう。また暇な時に試運転してくれ。練度限界を超えた後、いつも通りに戻すのに少しだけ時間がかかるんだ」

 

 これは艦娘であれば誰でも通る道。ケッコンカッコカリをした直後は、また練度が伸びるようになるまでに、少しだけ時間がかかる。これは、拡張された艤装との接続が身体に馴染むのに少し時間がかかるからである。これはただ装備するだけでは馴染まず、演出なり何なりして、()()()()()()()()によって馴染ませる必要がある。

 都合よく今は鎮守府に滞在させてもらっている身。身体を動かそうと思えばいくらでも動かせる場でもある。演習相手を募れば、すぐにでも見つかるだろう。

 

「よし、深雪はこれで終わりだ。ご苦労様」

「おう、ありがとな。次は電だ」

 

 深雪の儀式を最後まで見届けていた電は、小さく拍手をしながら新たな深雪を迎え入れた。外見的には何も変わってはいないのだが、雰囲気が成長したような感覚。これまでとは違うのだと、空気が伝えてくるかのようだった。

 

「電、簡単だからリラックスな」

「な、なのです」

 

 言われる前に上を脱ぎ、深呼吸をした後にベッドに横になる。

 深雪は、自分もさっきこうだったのかと感心する。何処か現実から離れたような雰囲気になる。

 

 そして電のケッコンカッコカリの儀式が始まった。深雪は黙って見ているしか出来ない。どうしても空気は厳かなモノになり、見ている側も息を呑む。

 電のサポート妖精さんは、深雪とはまた違った舞を見せていた。そこは艦娘側に合わせたそれになるようである。

 

「ふむ、大丈夫だ。接続が強まるぞ」

 

 順調に儀式は進み、深雪と同様に接続が拡張。電は力が漲るような感覚に。小さく身悶えしかけたが、妖精さんのためにもどうにか身体を動かさないように耐えていた。

 

「よし、安定した。終了だ」

 

 電はホッとした表情で力を抜いた。

 

「艤装を装備してみてくれ」

「なのです」

 

 すぐに上を着て艤装を装備する電。その時の感覚が以前と違うとわかり、パァッと表情が明るくなる。

 

「電も強くなれたのです?」

「ああ、ここからまた強くなれるぞ」

「よかったのですー!」

 

 キャッキャッと喜ぶ電と、手を合わせて一緒に喜ぶ深雪。これによって今後の戦いを乗り越えられるのだと確信した。

 

 

 

 

 ケッコンカッコカリは無事に終了。練度の限界を超えることで、2人はカテゴリーWとしてさらに強くなっていく。

 その力の拡張は、他の艦娘とはまた違った方向になっていくことを、今はまだ知らない。

 




最初に馴染ませる必要があるのは、ケッカリ後の経験値の話。100→101は必要経験値が少し多めだけど、ここを乗り越えるとかなり軽くなるという部分ですね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。