後始末屋の特異点   作:緋寺

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慣らし

 本来、ケッコンカッコカリには、練度の限界を越えることによる基礎能力を向上させる効果しかない。止まっていた成長が再び始まり、次の限界までさらに強くなることが出来るようになるだけだ。

 そのため、ケッコンカッコカリをしたところで、艤装の性能が()()されるなんてことはあり得ないことである。

 

 しかし、カテゴリーWである深雪と電は、ケッコンカッコカリを施されたことにより、練度の限界を越えるだけでなく、艤装にまで影響を与えていた。正確に言えば、儀式の後に艤装を装備したことによって、2人の艤装が()()()()()()とも表現出来る。

 

「あたしのスロットが増えるってのは、単純に装備出来る武器が増えるってことでいいんだよな?」

「ああ、簡単に言えば、接続口が増えたということだ。装備1つにつき1つの接続口を使うわけだからな。君の場合、主砲を2つと電探、そこにさらに魚雷が扱えるようになったみたいなものだ」

 

 今のは単純な例。それこそありったけの主砲を持ってみてもいいし、ありったけの魚雷を装備してみてもいい。種類を散らして万能になってもいい。スロット1つで戦略の幅は非常に拡がる。そこに練度限界の突破も加わるのだから、深雪の底上げは普通よりも大きい。

 

 だが、電はそれどころではなかった。

 

「あ、あの、電はどういうことなのです?」

「言った通りだ。艦種に囚われず、あらゆる兵装が装備出来る。君の接続口は、全てに対応していると考えてくれればいい」

 

 言ってしまえば、これまで装備出来ていた駆逐艦の主砲や魚雷から始まり、戦艦の主砲、はたまた空母の艦載機まで、多種多様な装備が可能。とはいえ、深雪のようにスロットが増えたわけではないため、装備出来る数は限られてくる。

 だが、電のやりたいことがやれるようになったのは非常に大きい。

 

「試しにいろいろと接続させてもらったが、大発動艇も、艦艇修理施設も、洋上補給も、全て可能だった。むしろ、主砲のような攻撃的な兵装よりも綺麗にハマったな」

 

 その優しい心がそのまま再現されているかのように、仲間達を癒すための兵装すら装備可能。むしろ、電的にはそちらが一番喜ばしいことである。

 

「な、なんかすげぇことになっちまったな」

「嬉しいのです! これでもし深雪ちゃんが怪我をしちゃっても、すぐに治してあげられるのです!」

 

 全力でサポートに徹し、深雪と共に戦う力。深雪の()()()()となれるだけの力。それが手に入ったようなモノだ。

 暁ではないが、一歩後ろで視野を拡げ、的確なサポートをするためには、工作艦や補給艦の力が扱えることも重要。

 

「で、だ」

 

 冬月の表情が変わる。電は妙な寒気を感じた。

 

「そこまでいろいろと装備が出来るのならば、()()()()()()()()について調査がしたい。使い心地は本人にしかわからないからな」

「し、しなじー……?」

「相乗効果のことだ。1人に載せられない兵装が同時に載せられるんだ。大口径主砲を放ちながら強力な魚雷を放つことも出来る。艦載機を飛ばしながら、爆雷で対潜も出来る。本来なら噛み合わない兵装であっで同時に運用出来るということに他ならない。ならば、今後のためにもあらゆる組み合わせを試した方がいいと思わないか」

 

 冬月が一歩電に近付く。それに伴い、電も一歩退く。そして、また一歩近付いては、一歩退く。一進一退の攻防になりそうだったため、深雪がいち早く動き、冬月の前に躍り出た。

 

「電が怯えてるからやめてくれ。お前がそれだけ興味があるのはわかるが、それとこれとは話が違う」

「おっとすまない。少しテンションが上がってしまった。君の艤装もかなり珍しいことになっているから、より深く調査がしたいんだが」

「それは慣らしの後で頼む。強くなれてることはちゃんと知りたいしな」

「了解した。では早速慣らし運転と行こう」

 

 冬月は早くやりたいとうずうずしているようだった。見たい、知りたい、()()()()が顔に出ている。

 そんな冬月を、涼月は止めることなく後ろからニコニコ笑顔で眺めているだけ。ストッパーではなく、共に歩いてしまう全肯定者なので、何か問題があったとしても、常に冬月の行動を肯定し続けるだろう。電が怯えていても、冬月の行動は間違っていないと追い討ちをかけそうである。深雪の妨害に何も言わなかっただけでも救い。

 

「グレカーレ、君の身体も後から調べさせてもらう。あと一緒に来てくれたなら、白雲も調べさせてもらいたい」

「はぁ、白雲もですか」

「グレカーレは忌雷によって変えられたと聞いているが、君の場合は違う手段……外科手術か何かによって変えられたのだろう。グレカーレとの身体の違いはハッキリと知っておきたい」

 

 そう言われて白雲は深雪の方を見る。本当にこの冬月を信じていいか。身を委ねるというわけではないが、何の警戒も無しに従ってもいいか。

 

「……とりあえず、グレカーレが何をされるか見てから決めればいいんじゃねぇかな。あまり酷いようなら突っぱねればいい」

「ちょっとちょっと、あたしは人柱ってこと?」

「お前なら何かあっても切り抜けられるだろ。白雲は言ってもまだ生まれてからそんなに時間が経ってないんだぞ、大先輩」

 

 そう言われてしまっては仕方ないと、グレカーレも珍しく溜息を吐いて、冬月の調査に乗ることにした。

 

「提督、こんな感じに進めているが良かっただろうか」

「ダメっつっても強行するだろお前」

 

 呆れている保前提督だが、冬月の行動に本当にまずいモノは何一つとしてないため、許可出来る範囲なら全て容認している。今回の件も、いつか必要なことであるため、早めに済ませた方が今後のためだと許可。

 勿論コレに関しては伊豆提督なども許可を出している。ケッコンカッコカリをして艤装性能が変化するだなんて前代未聞。やれることはまずやってみなくては、今後の対策は出来ない。

 

「深雪ちゃん、電ちゃん、これはアタシ達でも知らないこと。だから、絶対に無茶だけはしちゃダメよ。キツイと思ったら、異常が出る前にやめるようにね」

「うす、勿論だぜ。あたしだってこんなことでぶっ壊れるほど暇じゃあねぇからな。もしまずいことがあったらすぐに調べなくちゃいけねぇだろうけど、それをどうにかしてくれるのがコイツらなんだろ?」

「ええ、トシちゃんもこの辺りは信用出来るって話してくれたわ。だから、大船に乗ったつもりでやってみなさいね」

 

 伊豆提督からの後押しもあったため、深雪と電はより気合が入ることになった。

 

 

 

 

 まずはケッコンカッコカリによって変化を遂げた艤装の慣らし。深雪と電は改めて艤装を装備し、そこから兵装を選んでいく。

 

「4つ装備出来るんだよな。じゃあ、主砲2本と……電探、あとは無難に魚雷か」

「いや、あえて大発を装備してくれないか」

「大発? ああ、確かにそういうことをしなくちゃいけない時もあるよな。救護しながら戦うとか」

 

 これまででも出来た組み合わせではあるのだが、主砲2本からの電探と大発動艇となると話が変わる。3つが4つになるだけで、本人にかかる負荷は間違いなく上がるからだ。

 

「電はどうすればいいのです?」

「君は本来装備出来ないモノにしよう。中口径主砲と水上機というのはどうだろうか」

「わかったのです。まずは慣れてないところ、からですね」

 

 こちらは軽巡洋艦のような配置。最終的にはその辺りは使わなくなるとは思われるが、何が出来るかは知っておいた方がいい。全ての装備が使えることによって、電自身に何処まで負荷がかかるか。そして、緊急事態の際に何処までの戦いが出来るか。

 

「やってもらうことは単純だ。演習をしてもらう。いつも通りに身体を動かしてもらえればいい」

「演習に大発いるか……?」

「少し考えていることがあるんだ。だから、深雪の場合は大発に攻撃を受けてもいけないというルールにしよう」

 

 何を考えているかはわからないが、大発動艇には救助した誰かが乗っている場合もあり得る。その時に襲撃を受け、動けない怪我人などに被弾してしまったら大問題だ。

 そのため、このルールでの演習は非常に実戦的でいいかと思い承諾。より臨場感を持たせるために、グレカーレか白雲に乗ってもらうことを提案したところ、ならばと艤装装備状態のグレカーレが乗ることになった。

 

「んふふ、ミユキ、あたしのことちゃんと守ってよね」

「わかってるっての。でもまぁ、顔面とかぶち込まれても文句言うなよ」

「まぁそこは自分の身は自分で守るよ」

 

 背部から生えている剛腕がダブルピースを決めていた。何かあっても、コレがあればある程度は守れる。

 

「電は大丈夫……か……?」

 

 軽巡洋艦と同等の装備をした電を見る深雪だが、言葉を失った。

 

「いや、あの、これは流石に無理なのです」

「そもそもが駆逐艦の艤装だから仕方ないか。電専用の甲板から作る必要があるな。考えておこう。都合がいいことに、君の艤装には盾があるからな。それを甲板に見立てて扱えるようにしてみようか」

 

 甲板が無いところに水上機をどうしろとと、電はその掌に艦載機を乗せるだけで終わってしまっている。中口径主砲は艤装側に本当に接続されており、コレまでと同じように脳内でトリガーが引けるようだ。

 

 艦載機は断念し、ここで装備することになったのは、最初に例にも出されていた甲標的。妖精さんが乗り込む潜航艇であり、そちらが魚雷を放つために艦娘側での管理が不要で負荷が少なく、かつ隠密に動けることもあって命中率も艦娘が放つより高いという優れ物。

 しかし、装備出来る者がかなり限られているというのもあり、駆逐艦には装備出来る者は誰一人としていない。これが扱えるというだけでエースになることすらあった。

 

「これなら大丈夫なのです。妖精さん、よろしくお願いしますね」

 

 甲標的の妖精さんに笑顔で挨拶すると、そちらも笑顔で敬礼をした。駆逐艦に使われることなんてあり得ないことではあるのだが、電相手だとそのあり得ないが無くなっているため、妖精さんもすぐに受け入れたようである。電の肩に乗っているサポート妖精さんも、ケッコンカッコカリをした後はすぐに現実を受け入れているくらいだ。

 

「相手は誰になるんだ? 白雲か?」

「白雲でもよろしいですが、お姉様や電様に手を上げるのは少々気が引けますね……」

「いや、そこはこちらで用意させてもらった。提督、頼んでおいたはずだが、よかっただろうか」

「ああ、だけど……深雪、電、先に謝っておく。すまない」

 

 この演習の相手を用意した保前提督が謝罪。何のことかと思っていたが、それもすぐにわかる。

 

「演習相手でぇす」

「ぽーい!」

 

 綾波と夕立。狂犬(綾波)と、狂犬(夕立)である。

 

「ちょっと待ってくれ。いやホント待ってくれ。こっちは慣らしなんだよ。わかってるよな?」

「カテゴリーWとの演習と聞いて全員立候補したんだ。そこまではよかったんだが、選出に公平にクジを使ったらだな……」

「いいじゃないですかぁ。当然、手加減しますよぉ」

「するっぽーい」

 

 綾波の手加減がどんなものかはわからない。しかし、夕立は間違いなく手加減という言葉を知らない。言葉とは裏腹に、全力投球を強いられる。

 特に綾波はまずい。ただでさえ軍港鎮守府のエースであり、こと戦闘に関しては抜群のセンスを見せる。

 

「なっちまったものは仕方ねぇ。グレカーレ、覚悟だけはしておいてくれ」

「……嫌だなぁもう……」

 

 グレカーレはもう諦めの境地に足を踏み入れていた。

 

 

 

 

 艤装慣らしの演習、相手は2人の狂犬。深雪も電も、正直勝てる見込みはないと思っていた。夕立はまだマシでも、綾波がまずい。

 




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