後始末屋の特異点   作:緋寺

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まだ慣れぬ拡張

 ケッコンカッコカリによって拡張された艤装を慣らすため、深雪と電は演習に取り組むことになった。

 深雪の変化──装備スロットの増加を慣らすための特殊な演習、大発動艇に仲間を乗せた状態での戦い。電はおおよそ軽巡洋艦相当の装備という、これまた普通ではない状態で挑むことになる。

 

 しかし、その相手が問題だった。くじ引きで決めたということらしいのだが、よりによってその相手が綾波と夕立。狂犬2人である。

 綾波の実力は言わずもがな。深雪はその戦いを目の前で見ているのだから、その脅威を嫌というほど理解している。夕立も綾波には負けているようだが、その実力は充分過ぎるほど高い。

 そして厄介なのが、()()()()()()()()()()()()()タイプであること。一番の問題は全てそこである。

 

「いざって時は大発から飛び降りるから。むしろアイツら迎撃するから」

 

 演習の敗北条件にもされているグレカーレが、艤装の剛腕で自分を守るように構える。敗けも何もあったものじゃない。いざという時は迎撃に出ると言い切った。

 

「とりあえず、あたしと電に任せてくれ。敗けるにしても、お前には被害がないように頑張る」

「なのです。深雪ちゃんとグレカーレちゃんを守ってこそなのです」

「それに、当たり前だけど敗けるつもりはねぇよ。()()綾波相手だってな」

 

 強いことはわかっていても、最初から敗けるつもりで戦うつもりはさらさら無い。あの2人を相手にしても、何とかして勝てるように立ち回る。

 

「最悪、接近戦もやってやらぁ。綾波に通用するかはわからねぇけど、あたしにだってやりようはある。それに……」

 

 深雪は少しだけ笑みが溢れていた。

 

「あたし達が強くなるために、アイツらが来てくれたんだろ。いいじゃねぇか。気合入ってきたぜ」

「あはは、ミユキってば相変わらず面白いねぇ。じゃあ、あたしは大発の上で応援してるよ。期待してる」

「おうよ。じゃあ、行こうぜ電」

「なのです!」

 

 

 

 

 演習の開始は、見守る者達の中の1人、丹陽から宣言された。今回は状況が状況だけに、ここには各組織のトップが揃っているのだが、その中でも丹陽は少し前のめりにこの演習を眺めていた。

 丹陽ではなく雪風の特徴でもある双眼鏡まで持ち出し、その視線は深雪へと向かっている。特異点の異常な進化は、第一世代からしてみても非常に興味深いようだ。

 

 大発動艇を動かしながら、両手に構えた主砲のトリガーに指をかけ、電探を起動する。本来出来ないことをしているからか、サポート妖精さんも慣らしに入っており、いつも通りではあるものの少しだけ動きが大きかった。

 大発動艇に乗せられているグレカーレも、普段よりも揺れたことで、少しだけ体勢を崩したものの、すぐに元に戻る。

 

「まず行くのです!」

「あいよ、頼む!」

 

 電は早速、新たな力である甲標的を発射。使い方は事前に聞いており、妖精さんの力も借りながらその力を使ってみた。

 

 通常の魚雷とは違い、潜航艇という名をしっかり体現するように、深く潜って相手の方へと真っ直ぐ突き進む。

 通常の魚雷ならば、主砲による砲撃で破壊してしまうという簡単な対処法があるのだが、甲標的はその手段をも乗り越える。何せ、魚雷ではなく妖精さんが操縦する潜航艇。砲撃を放たれても、ある程度ならば回避するし、そもそもがそれなりに深めの位置を潜航しているため、砲撃の威力が分散される。

 

「当たってくれりゃあ御の字だけど……っ」

「あちゃあ、流石だねぇアイツら」

 

 大発動艇に乗るグレカーレにも、それは見えていた。甲標的による先制雷撃の狙いは、横並びだったこともあって、近い方──今回は綾波に対して魚雷が放たれたのだが、さも当然のように雷撃を飛び越えると、甲標的ではなく放たれた魚雷の方を軽々と破壊してのける。

 甲標的は隠密に動くのだが、()()()()()()()()()()()()()。綾波は砲撃ですら、撃たれた後に避ければいいと思っているタイプなので、反応速度が普通では無い。

 

 本来使えない兵装を使った電に対しての反動は皆無。そこは妖精さんと意気投合出来ているだけあり、しっかり自分のモノにしている。

 

「なら迎撃させてもらうぞ」

「演習用でもあんなバ火力(ばかりょく)出るのかな」

「試したことは無ぇけど、演習弾にしてるから大丈夫、だと思う」

 

 そこは若干の不安要素。深雪専用の主砲は残骸すら残さない消滅の砲撃を放つわけだが、その火力は演習弾にも付与されてしまっているのか。

 深雪自身、個人的な事情もあって演習は初めてのこと。殺傷力がない弾を撃つこと自体が初めてである。これまでと勝手が違わないように設計はされているが、()()()()()()()()()()()は考慮されているかはわからない。

 

 そして、その深雪の心配は杞憂。殺意の籠らない仲間との競り合いに、命のやり取りを持ち出すことはない。それが実弾ならば話は変わるだろうが、そもそも当たっても致命傷には届かないペイント弾。激しい威力は持っていても、死に至ることは無い。

 深雪はまだ気付いていないが、この主砲の威力向上も、その力が発現した結果。いわば、()()()()()()()()()()()()()()()。演習を演習と思っている時点で、相手の命を奪うことは絶対に無い。

 

「電、同時に行けるか!」

「なのです! 初めて撃ちますけど、何とかして見せるのです!」

 

 深雪はまだ手慣れた自分の主砲だが、電は初めて扱う中口径主砲。火力がいつもよりも高い分、反動も相当に強くなる。

 艤装に接続したそれを、脳内でトリガーを引いて放つとはいえ、その衝撃はどうしても警戒すべきモノ。艤装がそう出来るように変化しているのだから、電にもそこまで酷いことにはならないだろう。

 

 だが、その考えが甘かった。

 

「あうっ!?」

「電!?」

 

 砲撃を放った瞬間、照準がブレた。小口径主砲を放つのとはやはり違っていたのだ。

 そもそも冬月は、電の艤装にはサポートの側面を持つ兵装の方が接続が綺麗にハマると言っていたくらいであり、逆に言えば攻撃的な兵装に関しては普通かそれ以下と考える方が妥当。

 結果、放った瞬間に小さくのけぞることになってしまった。今までとは勝手が違うため、これまでのトレーニングではまだ足りない、または慣れていないために咄嗟に反応出来なかった。

 

「ちょ、ちょっとビックリしただけなのです」

「いつもの調子で撃ったらダメってことだな。慣らしなんだし、しっかり覚えていこうぜ」

「なのです!」

「アイツらがそれを許してくれるかわからないけどねー……」

 

 グレカーレの忠告は、すぐに思い知ることになる。

 電の砲撃は本来狙っていたところとは違うところに飛んでいってしまったために、避けるまでもなかったが、深雪の砲撃はまともに狙いが定まっている。両手の砲撃はどちらも強力な火力を誇り、それを綾波と夕立のどちらにも向けていた。大発動艇をコントロールしつつも、電探を同時に装備出来ているため、その照準も完璧。これが的当てならば間違いなくど真ん中に命中するような砲撃。

 だが、それこそお手本のような砲撃であるため、回避するのも容易。撃たれてからでも回避出来る綾波は、笑顔を崩さず余裕で避け、夕立もかなり余裕がある回避を見せる。

 

「まぁ、そうだよな、うん」

「イナヅマ、夕立見ておいた方がいいよ。あの子、綾波にあたし狙わせて、外からこっちに向かおうとしてる」

 

 要救助者想定のグレカーレが普通にアドバイスしている状況がいいのかどうかはわからないが、まだ艤装に慣れていない電相手ならばこれくらい許されるだろうと躊躇せず動く。

 グレカーレが危惧したことは大正解で、深雪の砲撃と同時に散開した2人は、綾波は深雪を、夕立は回り込んで電を相手取ろうとしていた。綾波は一応加減をしているのがわかり、この状況でもまだ砲撃を放ってこないが、夕立はテンションが上がっているのか、既に主砲を電に向けて構えている状態。しかも、避けたらグレカーレに当たるような射線に立っていた。

 

 遊びによって心の余裕を取り戻した夕立は、戦闘でものびのびとしている。いつもは少々幼い言動を見せるものの、こと戦闘の際には途端に類い稀なるセンスを見せつけた。

 それもこれも、まず時雨に喧嘩で負けて、神風に仮想空間でボコボコにされ、トドメは綾波にも完膚なきまでに敗北したため。負けることでムキになるのではなく、冷静に物事が判断出来るようになっていた。

 

「甲標的さん、お願いするのです!」

 

 その夕立には、先に放っている甲標的を嗾けることで、足止めをしつつも砲撃の狙いを定めやすく持っていく。主砲の反動が軽減しきれないのは仕方ない。この演習の中で慣らし、少しでもうまく戦えるように身体に刻みつけるべき。

 

「グレカーレ、動かすぞ!」

「あいよー! そこそこ強引でもいいからね!」

「気を回すのが難しいな!」

 

 綾波から視線を外さず、電探でその行動を確認し、両腕の主砲で確実に狙いを定めながら、大発動艇も気にせねばならない。

 大発動艇が無ければ集中出来るだろうが、今はそうはいかない。しかも、本来の兵装とは違い、全てが深雪自身に負荷をかけてくるため、どうしてもパワーバランスがうまく取れなかった。大発動艇に気を回すと、砲撃が疎かになるし、砲撃に気を回すと、大発動艇の操作が疎かになる。電探が追加されていることで綾波の動きがどうしても気になるため、そちらにも出力を回していることで、均等に乗せることが難しくなっていた。

 

 スロットが1つ増えるだけで、深雪の中で混乱が発生してしまっている。全てをバランスよく使うには、まだ慣らしが足りない。

 

「あはは、本当に手加減が必要みたいですねぇ」

 

 綾波は笑顔を崩さず、かなり避けやすい砲撃を放つ。正面が見えていれば誰でも避けられるが、大発動艇に意識を向けていたら回避が難しい絶妙な位置。

 

「うおっ!?」

 

 そこは咄嗟に回避。大発動艇にも急減速をかけて、砲撃をかろうじて避ける。

 乗っているグレカーレは最初から構えていたため、急減速の衝撃にも耐えている。とはいえ、体勢が全く崩れないわけではなく、艤装の剛腕で自分を支えていた。

 

「装備されている武器は、全部手足のように使えるようになるはずなんですけどねぇ。急に()()1()()()()()()、慣らすのも必要でしょうかねぇ」

 

 そこをすかさず狙う綾波。宣言通りの手加減なのだが、その砲撃は深雪の余裕を奪うには充分すぎた。

 ケッコンカッコカリを終えたとしても、やはり綾波の方が上手。完全に遊ばれているのがわかる。

 

「次は大発狙いますよぉ」

「せ、宣言してもらえるのは助かるな!」

「演習ですからねぇ。でも、簡単には避けられないようにしますよぉ?」

 

 放たれたのは、砲撃と雷撃。どちらも大発動艇狙い。

 雷撃は深雪自身が砲撃で破壊し、砲撃は大発動艇を動かして回避させるのが必要。今まさにやれるようにならないといけない動き。

 

「くっそ!」

 

 どうにか頭を働かせ、大発動艇を強引に動かしながら魚雷を破壊する。おかげでグレカーレは無傷ではあるものの、急な動きで揺さぶられたか、完全に体勢を崩していた。

 

「怪我人だったらダメージ増えてるねぇコレは」

「わ、悪い」

「いいよいいよ、これはこうやって慣らす演習だもんね。綾波も本当に容赦ないなぁ」

「本気でやってたら、グレカーレちゃんはとっくに海の藻屑ですよぉ?」

 

 演習なのに命の危機を感じてしまった。冗談が冗談じゃなくなくなりそうで、グレカーレは少し表情が引き攣る。

 

「それじゃあ、もっとやってみましょうねぇ。いやぁ、たまにはこういう戦いも面白いものですよぉ。深雪ちゃんが強くなってくれたら、もっと楽しい戦いが出来るようになるはずですもんねぇ」

「期待しといてくれよなチクショウ!」

 

 まだまだ余裕は無い深雪だが、綾波はその内に秘める実力を見抜いているようだった。

 艤装に慣れたら、これは相当なモノになると確信していた。

 

 

 

 

 演習は続くが、慣れるまでにはまだまだ時間はかかりそうである。

 




狂犬の演習だけれど、綾波はちゃんと加減してくれています。今は深雪を育てるフェイズ。最高の戦いのための料理中。
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