後始末屋の特異点   作:緋寺

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新たな兵装

 艤装を慣らすための演習は一旦終了。綾波と夕立による相手は、誰がどう見ても慣らしのために動いていたとは思えないモノだったが、深雪も電も戦いの中で多少は感じるモノがあった。

 夕立以外は痛みすらなかった演習後、そのまま軍港鎮守府の工廠へと戻ると、その光景を見ていた上位陣が待ち構えていた。わかりやすく表情が違うのは、保前提督。

 

「綾波……お前……」

「ちゃんと加減しましたし、深雪ちゃんは喜んでくれてますよぉ?」

 

 呆れたような声色で綾波を問い詰めるが、綾波からは深雪もあのやり方を喜んでくれていると胸を張った。

 

 現に深雪はあの状況であってもポジティブである。そのおかげで、敗北を喫した今の戦いの反省点を電と話しながら、次はもっと上手くやるんだと気が逸っているようにも見える。

 

「……全く。こういう時は、俺が言うよりも()()奴に言ってもらうことにしよう。提督としてどうなんだって話だが」

 

 後ろに向かって手を振ると、工廠にツカツカと入ってきたのは暁である。綾波のことを最も知り、影響を与えることが出来る数少ない人物。

 そんな暁も、綾波が演習参加のくじで当たりを引いたことで嫌な予感はしていた。しかも、その相手のうち片方は純粋種とはいえ自分の妹艦である電。心配やら不安やらが一気に過ぎった。

 そのため、この演習は見学させてもらう方向に持っていき、保前提督も万が一を考えて快く許可を出している。そもそも相方が鎮守府にいるのだから、外へパトロールに出るわけにもいかない。

 

 綾波も暁登場には少しだけ表情が変わった。だが、笑顔はそのままである。

 

「深雪も電も艤装の調整のために今回の演習をしたのよね。なのに綾波、調整も何もなく自分のやりたいようにやったでしょ。特に最後」

「そう見えましたぁ?」

「見えるも何も、最初から最後まで好き勝手やってるようにしか見えなかった」

 

 綾波は暁に対して絶対的な信頼を寄せていることもあり、暁の言うことに対しては余程のことが無い限り反発しない。全肯定とは言わずとも、基本的には間違ったことは言っていないのだから。その暁が困った顔をしていると、綾波も少し困ってしまう。

 

「はぁ……続きはお部屋で話しましょ。ここで話しててもキリがないから」

「あ、は、はーい」

 

 綾波は暁によって連行。困りつつも楽しそうにしていたのは気のせいだと思いたいと、深雪は眺めていた。

 

 綾波がこうならば、夕立もそうなるのだろうと考えていたら、ほぼ待つこともなく前に出てくるのは丹陽。

 

「夕立さん、貴女もですよ。電さんは慣らしも何もあったものじゃなかったでしょう。それなのに、自分のやりたいようにやって、電さんのことを何も考えていませんでしたね」

「だ、だってこれは演習っぽい」

「深雪さんと電さんのための演習です。貴女が楽しむための戦いじゃありませんよ。ここで()()()を覚えた貴女ならわかると思っていましたが……戦いになるとまだダメですね。ちょっとお説教しましょうか」

 

 ニッコリ笑った丹陽が夕立の手を掴んだ。もう逃げられなかった。

 

 

 

 

 綾波と夕立がそれぞれの保護者に連れていかれた後、深雪と電は冬月からのメンテナンスを受けることになった。

 かなり強引な演習となってしまったものの、その効果はしっかりとあり、どちらの艤装もすっかり2人に馴染んでいた。強力な相手とやり合ったことで、妖精さんも気合が入ったか、強くなった繋がりがより強く結びついたかのように思える。

 

「ふむ、過程はどうであれ、結果は想定通りになった。これでまた、君達はスムーズに練度を上げられるだろう」

「そ、そうか……あんなことになっちまったけど、それはそれで良かったのか」

「もう少し加減はしてほしかったが、まぁ良しとしよう。結びつきが強くなった分、出力の安定にはそれなりに濃い戦いは必要ではある。濃すぎるのは考えものだが」

 

 綾波と夕立という狂犬を相手にするのは、個人的な負荷がかなり大きい。だが、その分艤装の出力はそれに対応しようとするため、安定に持っていくには思った以上に適してはいた。

 勿論、相手の2人はそんなこと考えていないので、どう取っても結果オーライなのだが。

 

「深雪、君は時間がある時は複数個の艤装を同時にコントロール出来る練習をするといい。幸い、うみどりでは仮想空間での技術鍛錬が出来るだろう。ここでいちいち兵装を付け替えるより、技術を学ぶならそちらの方が手っ取り早い」

「だな。さっきやっただけでも、かなり難しかった。艤装の慣らしより、あたしの慣れの方が重要だって気付いたよ」

「少し違うかもしれないが、同じ立ち位置にいるのはタシュケントだ。一度聞いてみるといい」

 

 艤装の装備スロットが多い駆逐艦といえばタシュケント。これは今の世界でも常識である。深雪は特殊ケースではあるものの、装備スロットが4つという点ではタシュケントと同じであるため、その操作方法は近しいものがあるだろう。ならば、話を聞く価値はある。

 深雪の成長は、練度よりも技術。冬月はそう判断した。

 

「電、君は得手不得手がハッキリしている。やらせてしまって申し訳ないが、主砲を大型化して装備するのはやめよう。中口径でそれなら、大口径なら上半身を持っていかれる」

「なのです!?」

「使える使えないではなく、単純に慣れるまでに身体が壊れかねない」

 

 電の華奢な身体では、大口径主砲の反動には耐えられないというのが冬月の見解。中口径でコレだし、そもそもの電との相性が悪いというのもある。

 だが代わりに、サポート役としての戦い方に専念出来るように持っていく案があると言い出す。その時の表情は、()()()()()()()()()()()()()という感情を隠していない。

 

「電、サポート役として一味も二味も違うモノになれるんだが、どうだろうか。今設計している兵装も電向きだと思っていたんだが、一言いいと言ってくれれば、君の専用兵装として組み込みたい」

 

 深雪が技術を磨くことで強くなれるならば、電は兵装による強化で強くなれる。冬月の見解はコレだ。

 ただ、圧が凄まじいため、電は一歩引いてしまった。この光景、前にも見たことがあるぞと深雪がまた一歩前に出る。

 

「その電専用の兵装ってのは何なんだ。モノによってはお前をぶっ飛ばさなくちゃいけなくなるぞ」

 

 深雪が少し睨むように言うが、冬月は素知らぬ顔。むしろ、どんな兵装かと聞かれてキラキラした表情で説明を始める。

 

「電は全ての兵装が扱えるというのは昨晩の調査でわかったことであり、今それを中口径主砲や甲標的が扱えることで証明したわけだが、同じように補助艦艇の機能も全て扱えることも確実だ。艦載機も装備は出来ることは確認出来ているからな。故に、電には()()()()()1()()()()()を持ってもらおうという算段だ」

 

 何を言ってるんだと首を傾げる深雪。電も頭上にハテナマークを浮かべている。

 

「十徳ナイフというのはわかるだろうか」

「まぁ、一応は」

「電の兵装はそれにしたいと思っている」

 

 簡単に言ってしまえば、1つの兵装に複数個の機能を持たせようというとんでもない案。

 普通ならば、噛み合わない兵装を1つに組み合わせても、使えるモノ使えないモノが混合状態になり、装備した者に悪い影響を与えかねない爆弾兵装になりかねなかった。空母に主砲を装備させても、扱えずに下手をしたら暴発をしてしまうということ。

 だが、電はその相反する爆弾を全て無効化出来るという凄まじい特殊能力に目覚めている。この複合兵装が唯一扱える、一種の技術的な()()()となっていた。冬月はそこに目をつけている。

 

「電の艤装には盾があるだろう。これを利用させてほしい」

「これ、なのです?」

 

 電は自分の艤装の盾に触れる。先程の演習で夕立の砲撃をしっかり防いだそれではあるが、それを盾としてだけではない性能にしたいと言っている。

 

「詳しく教えてもらえますか?」

「ああ、手短に、な」

 

 ここで冬月が提示した電の兵装の改造案はこれである。

 

 盾に新たな接続口を増設し、補助艦艇が扱える全ての兵装を小型化して接続。その全てを戦場で扱える、十徳ナイフ的な兵装に生まれ変わらせる。

 補助艦艇と簡単に言っているものの、基本となるのが工作艦の持つ艦艇修理施設。そこに、水上機母艦が装備出来る水偵、補給艦が装備出来る洋上補給設備、さらには深雪のお株ではあるが発煙装置や、対地攻撃用の三式弾、探照灯から照明弾までと、ありとあらゆるモノを詰め込み、さらには積載量の問題も解決した至高の一品を作り出すと息巻いている。

 

 そんなことが出来るのかと懐疑的な表情を浮かべる一同だが、冬月は出来ると胸を張る。その後ろでは涼月が小さく拍手していた。やはり全肯定。冬月が出来ると言えば出来る。

 

「そ、その……出来るのなら、出来てほしいのです。特に、修理施設と洋上補給……電はそれが欲しいのです」

「ああ、それは最優先だな。電の性に合っているモノは全部詰め込む。だが、自分の身を守ることも必要だ。ある程度の攻撃の手段も積み込むぞ。片方の盾の裏は補助艦艇用で、もう片方の盾の裏は攻撃用だ。せっかく装備出来るんだからな。甲標的はそのまま使ってもらいたい。それに、今考えている手段が成功したら、中口径だろうが大口径だろうが使えるはずだ。まぁそこは電と相性が悪いから控えておこうとは思っているが」

 

 冬月はよりノってきていた。意欲がどんどん湧いてきているようで、電を最高の存在に持っていくための案を次々に書き出し、それを実現しようと興奮していた。

 だがその前に、兵装を弄り倒すということは、それに繋がる妖精さんにも許可を取らねばならない。

 

「電さんのサポート妖精さんにも、ちゃんと許可を貰わなくてはいけません。お冬さんが考えている兵装は、おそらく電さんだけでなく、妖精さんにも負荷がかかります。なるべくその辺りは軽減するつもりですが、もしものことがあります」

 

 涼月はそう言いながら、電のサポート妖精さんに問いかける。こんな急な案だが大丈夫かと。

 すると、電のサポート妖精さんは、ほんの少しだけ考えたが、思いきりサムズアップをした。電が望んでいることもあるため、妖精さんはその思いを全力でサポートする。

 

「そうですか、よかった。ではお冬さん、早速作り始めましょう」

「そうだな、涼。必ず電を最高のサポート艦にするからな」

 

 いい笑顔で工廠の奥へと駆け出した冬月と涼月。先日徹夜をしていると聞いているのだが、まだまだ元気いっぱいなようで、逆に心配になった。

 

 

 

 

 電の新たな兵装、十徳ナイフ。これが、今後の戦場では猛威を振るうことになるかもしれない。

 その前に、まずはまともに完成するかという問題が出てくるのだが。

 




冬月発案、十徳ナイフ風電専用兵装。マルチツールとして戦場で活躍出来るようになるかもしれないけど、積載量問題はどうするつもりなのか。
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