艤装の慣らしに関してはこれで一旦終了。電の追加兵装は冬月が宿題として持ち帰り、この休暇中にカタチにしてみせると躍起になっていた。
相手をしてくれていた綾波と夕立は、各々
「お姉様、電様、演習お疲れ様でございました。白雲は見ているだけではありましたが、とてもためになる戦いを見せていただきました。今後に活かし、お姉様達のために精進させていただきます」
「ためになったならよかった」
「その上で、失礼になるかもとは思っているのですが、白雲が感じたことをお伝え出来ればと」
今回は当事者になることがなかった白雲も、演習を見届けたことで深雪達と合流。敗北を喫したことには触れず、深雪のとった行動に対しての意見を共有し、より強くなる方向へと持っていく。
深雪にとっては願ったり叶ったりである。完全な第三者として見届けてくれた白雲の意見は、何かしらの役には立つだろう。戦場に立たない者であれば、その視点からわかるものもある。
深雪に対しての全肯定をするようなところはあるが、今の深雪が強くなりたいという意志を持っているのだから、そのためには心を鬼にして欠点なども伝えようと心に決めていた。
「じゃあ、今からちょっと休むことになるだろうし、その時に聞かせてくれよな」
「かしこまりました」
こういうところからも、有意義な演習となった。深雪も電も、これまでよりずっと強くなっていく。
「っと、すまない! 忘れていたことがあった!」
それじゃあ一度戻るかと思った矢先、工廠の奥へと駆けていった冬月が、そのままの勢いで深雪達の元へと戻ってくる。
「何のためにグレカーレをここに呼んだと思っているんだ。その身体を調査して敵の対策について練らなくてはならないじゃないか。むしろそれも電の特殊兵装に繋がる。だから、兵装の開発よりも前に君の身体を調べなくてはいけない」
「あ、思い出したんだ」
「演習の結果に興奮していて、頭の中からすっぽ抜けていた。涼のおかげで思い出せたぞ」
工廠の奥に向かっている間に涼月がボソリと呟いたらしい。電の特殊兵装に、グレカーレのような寄生された艦娘を感知する機能もつけたいと。妖精さんに話しかけているような口調だったようだが、冬月にもしっかり届いており、そこで初めて思い出した。
深雪と電の演習を真剣に眺め、今後の戦術の礎を作り上げることに専念しようとした結果、電のための兵装開発に目が行き過ぎてしまい、他に目が向かなくなってしまっていたらしい。直情的というわけではないが。
頭は回るが、少々抜けているところがある。冬月にはそういうところがあるようで、涼月がその辺りの軌道修正を担っているようである。全肯定を貫くけれど、何か忘れていることがあればそれとなく伝えるというのが基本。冬月はそれに気付いていないようだが。
「なーんだ、このまま何もしないのかもって思ったんだけどなー」
「呼び出しておいて何もしないというのも失礼だった。申し訳ない」
「身体弄くり回されるよりはいいけどね」
ただでさえ変化の影響で敏感にされた身体を、調査という名目で触れられるのは、グレカーレとしてもあまり嬉しいものではない。調べられないなら調べられないでまぁいいかという気持ちではあった。
ただ、自分のような犠牲者が今後増えないように事前に対策出来るのならば協力するし、自分も含めて身体が治せる手段が見つかるのならば尚更だ。そのためなら身を差し出すことも厭わない。
「じゃあ、さっさとやろうよ。あたし、焦らすのは好きだけど焦らされるのはそんなに好きじゃないんだよね」
「別に焦らしているわけではない。忘れてしまったのはすまないと思っている」
「真面目ちゃんだなぁ。まぁいいや。ミユキ、どうする? 付き合う?」
「ああ、乗り掛かった船だ。最後まで見ていく」
グレカーレが調査される流れで、白雲も調査される流れにもなるだろう。結局、行動するならここにいる4人であるため、何か調べ物があるのならそれに付き合うことにする。
グレカーレの身体の調査は、深雪と電がケッコンカッコカリをする際に行なったモノと同じ。ドックに入ってもらい、妖精さんの力を借りて、グレカーレの身体に何が起きているかを確認していく。
深雪達の他にも、今回のこの件を把握しておくために、トップ陣は同席している。丹陽は夕立を説教中であるため、代理として明石が参戦。こういう時に純正の工作艦の知見は役に立つはず。
「深海棲艦の身体をこうやって調べるのは初めてだ。なかなか興味深い」
冬月がデータを細かく分析しているが、深雪達は少し不安もあった。グレカーレの身体の状況次第では、もう二度と元には戻らないという確証になってしまう。その事実を知ることが怖かった。
特に白雲は、自分の身にも同じようなことが起きているのだから気が気でない。これで残念だがと切り出されたら、自分ももうこの身体で一生を終えないといけないことを確定されるようなモノ。
「妖精さんの見解をお伝えしますね」
調査をしている間にも、妖精さんからの情報を纏めている涼月からまず報告されることになる。
妖精さんとの関係を円満にしている涼月は、今はうみどりからこちらに来ている主任とも仲良くしていた。そのおかげで、唯一の
「グレカーレさんの身体は、
これは意外な情報だった。見た目は完全に深海棲艦であり、イリスから見てもカテゴリーM──艦娘と深海棲艦が混じったモノであることは確認しているのだが、涼月が妖精さんから聞いている情報からすると、深海棲艦というよりは艦娘であるという見解らしい。
「どういうことなのかしら」
「彼女の身体の中心……といえばいいのでしょうか。内部は全て艦娘だそうです。内臓とか、骨とか。脳だけは侵蝕を受けてしまっているようなのですが、基本的には艦娘であることは変わらないとのことです」
伊豆提督の質問にこう答える涼月。かなり深いところまで調査をした結果わかっているのは、
見た目は確かに深海棲艦だ。艤装まで改変され、その力は艦娘とは確実に逸脱している。だが、ここの妖精さんから見れば、それはまだ
うみどりでは調べられない、踏み込んだ精密検査の結果そうなったということで、主任は面目無さそうに頭を掻いていた。設備の違いはあれど、この違いがわかったのは軍港鎮守府の設備だからこそである。
「ただし、外見が深海棲艦となっている……つまり、今のグレカーレさんは、
細かいことを言えば、グレカーレの
こうなってしまっている理由は、当然ながらグレカーレが受けたあの侵蝕、深海忌雷による寄生が原因。あの時のアナウンスは、あの忌雷を『試作品』と言っていたが、それが影響している。
対人間ならば、おそらく内側までしっかり深海棲艦化させているのだろうが、純粋な艦娘であるグレカーレにはそこまで効かなかった。心を溶かすことを優先していたからであろう。
艦娘は、心だけでなく、
「なので、まだ手段はわかりませんが、グレカーレさんは艦娘に戻せる可能性が無いとは言えません。その皮を剥がす……という言い方では物騒ですが、艦娘の皮に変えてしまえば、また元通りになるかと」
言い方は難があるものの、グレカーレに関しては治せないことは無さそうというのが、今の妖精さんの見解である。ただし、無理矢理やった場合はグレカーレがタダでは済まないので、その方法はちゃんと考えていかなければならないが。
「これを踏まえて、事前対策に関しては現在考案中です。ただ、グレカーレさんとは違って、内側までしっかり深海棲艦となってしまっている場合は、その、
話しながら涼月は白雲の方へチラリと目を向けた。ドックでの調査をしていなくとも、それだけはわかってしまっているらしい。
グレカーレは忌雷によって変えられているが、白雲はあちらの組織によって改造されている。そこから考えられるのは、白雲は心ではなく身体を優先的に変えられた者。グレカーレと違って、内臓から骨から全てが深海棲艦のそれにされていると考えてもいい。
そうなってしまうと治す手段はかなり難しくなる。皮を剥がして貼り直すのとは訳が違うからだ。
「……そうですか、白雲はこの身体から艦娘へと戻る手段が無いと」
「グレカーレさんも同じですが、現段階では見当がつきません……申し訳ありません。ですが、何かしら手段があるはず。不可逆ではないことを突き止めてみせます。私とお冬さんで」
白雲に深々と頭を下げる涼月。白雲はそれに対して、嫌な気持ちはなかった。人間が自分の身体を元に戻すために動き、そして難しいとわかると投げ捨てるのではなく申し訳なさで謝罪までして、しかし諦めずに治す方法を考え続けてくれると言うのだから、それを蔑む理由は何処にもない。
「よろしくお願いいたします。戻れるものならば戻りたいというのが、この白雲の思いです。貴女方に任せます」
「はい、必ず辿り着いてみせます」
この問題は白雲だけの話ではない。今でこそ深雪の煙幕の力で外に出ることが出来るようになっているカテゴリーY達も、本来の姿に戻りたいだろう。まだ先が長い桜や黒井兄妹は特に。
「ふむ、調査でわかったこともあったぞ」
今度は冬月から。
「深雪や電の調査で確認した適合率があっただろう。グレカーレも通常とは違う値になっている」
深雪と電が200%となっていた適合率。純粋種であるグレカーレが、深海棲艦の艤装を手に入れてしまった結果、その値は100%ではなく、150%ほどになっているとのこと。
どっちがどっちかはわからないものの、艦娘と深海棲艦の力が両方あることは確実。ここからも、グレカーレはまだ艦娘に戻ることが出来る可能性が0ではないことを示していた。
「可能性は消えたわけではない、ということだ。これならば、意地でも戻す手段を探してやるぞ」
こちらもやる気満々な冬月。しかし、どれからやっていけばいいのかはまだ考えていないようである。
電の特殊兵装も開発したい。深海棲艦化を元に戻す手段も研究したい。やりたいことが多すぎて嬉しい悲鳴を上げていた。
工廠はここから、これまでにないレベルの大きな仕事をすることになる。冬月は燃え上がり、涼月はにこやかに微笑んだ。
グレカーレは深海棲艦の着ぐるみを着せられているようなものだけど、生皮剥がされて着てるから敏感になっている、というのが答えでした。それが快楽方面に行っちゃうのは、まぁ自己防衛じゃないですかね。