時間は経過し、昼。深雪達は軍港鎮守府の食堂で昼食を終え、午後からどうするかを考える。
一応うみどりの面々は今日も休暇扱いであり、余程のことがない限り自由時間。今日も軍港都市の方へ散策に出ている者も多数いる。特に潜水艦勢は、これまでの30年を払拭するためにか、やりたいようにやっているようだ。
「午後からだけでも遊びに行くか? 誰にも咎められないぜ?」
深雪からの提案は、昨日と同じようにまた散策に出ること。時間的には少ないものの、昨日はまだ行っていない方向へ行って、何があるかを見てくるだけ。
軍港都市そのものが広く、簡単に全てを見て回れるものではない。行ってない場所に行けば、新たな娯楽が目白押しである。
「演習の感想戦も終わっております故、白雲はそれでも問題ありません。お姉様はお疲れではございませんか?」
「多少疲れてはいるけど、そこまでって感じだな。午後出掛けることくらいは出来るぜ」
「左様ですか。でしたら、白雲もお供させていただきます。無論、ここでお休みになられるとしても、何ら問題はありません」
白雲は深雪のやりたいことをやってくれればいいと語る。その上で、自分もそれに便乗すると。
今のところ、どうしても行きたくないという場所はなく、その逆も然り。出ていかないなら出ていかないなりに何も問題はなかった。
「電、グレカーレ、どうするよ」
深雪に問われ、頭を捻る電。欲がないために、こういう時に何をしていいかが言い出せない。昨日におおよそ見たいものは見たこともあって、特別やりたいことが無かった。
グレカーレに目配せすると、そちらもうーんと考える素振り。あまり先を考えていなかったというのがよくわかる。
「適当にブラつくだけでも楽しいから、それでいいんじゃない? あたしは昨日と違う服着て、昨日と違う場所をみんなで歩いて、昨日と違う楽しさを知れればいいよ」
ニカッと笑うグレカーレに、深雪達はとても温かな気持ちになれた。散策という行動はただの手段であり、目的はみんなと一緒にいること。欲しいものなんてなくても、やりたいことがなくても、ただ共に歩くだけでいい。そう伝えている。
「よし、じゃあ身体の休憩の後は心の休憩だな」
「なのです。適当に歩いて、適当にそこにあるものを楽しむのです」
「そだね、それが一番癒されるよ」
「自由であることが最も癒されるのでしょう。白雲もそれで」
4人が4人、グレカーレの意見で満場一致。適当にブラついてそこにあるものを楽しむだけの半日を過ごすこととなった。
深雪達がまた軍港都市に向かった頃、軍港鎮守府では、新たな兵装の開発が進められていた。
冬月と涼月だけでは手が足りないだろうと、潜水艦勢の明石も手を貸している状態。丹陽は今でこそ単独で行動しているが、いろいろと気が合っている神風が明石に代わって共にいるため、少しは安心して作業中。
むしろ、明石は明石でここで少し解放されたかのようにのびのびと開発に勤しむことが出来ていた。
これまでは工作艦の中でもメンテナンスのことばかりをしていたため、開発なんて本当に久しぶり。工作艦の本領発揮と、これまでのストレスを発散するかのように作業していた。
「やはり
「大分ブランクはありますけどね。それに、貴女方の突飛なアイディアは私としても目を見張るものがありますよ。なんですか電さん用マルチツールって。全部装備出来るとわかっても、それを作ろうとは思いませんよ」
言いながらも手を止めることはなく、まずは最も効率のいい接続の図面から書いていた。いきなり艤装を弄るのは流石に無茶であり、しっかり確実性のある設計図が出来上がってから開発に進まなくては行けない。
直感だけで突き進んで、逆に退化するようなことがあったら、それを使う者には迷惑極まりない。いくら猪突猛進に突き進む冬月であろうとも、その辺りは慎重だ。
「1つの装備に全機能を詰め込むとなると、2つの問題がありますね。1つはサイズ、もう1つは処理系統です」
「ああ。前者が特に問題だ。後者は電の艤装が勝手にどうにかしてくれる上に、妖精さんも問題ないと言ってくれている」
この図面には、電のサポート妖精さんも手を出していた。ここは出来る、ここは出来ないと、まるで
「……あまりこういうことを言うのは良くないと思うのですが」
作業をしながら明石が呟く。冬月と涼月はその言葉に耳を傾ける。
「深雪さんは特異点です。それはわかります。彼女には異常なことが多い。海上で自発的に第二改装が行なわれたのは目を疑いました。失われた腕も取り戻してる。挙句、あの主砲です」
「ああ、深雪専用主砲だな。あれはもう、誰も装備出来ない。深雪にしか接続が対応しなくなっていた。整備は出来るのにな」
「我々で、あんな主砲作れると思います?」
駆逐艦とは思えないほどの超火力。放てば残骸どころか体液すら残さず消し飛ばすというのは、最大の火力を以てしても不可能だ。どうしても爆発を引き起こし、燃やし尽くす前に周囲に散らばる。艤装であろうと、肉片であろうと、残さないことがあり得ない。
しかし、深雪はそれを実現してしまっているのだ。残骸を残さない唯一の攻撃方法。それこそ、後始末屋としては最高最善と言える一撃。
「あの砲撃に覚醒した戦い……深海千島棲姫との戦いでした。その時、私はボスの身を守るためというのもあって戦場をずっと見ていましたが……あれは深雪さんの
明石の考えは、実に正鵠を射るモノであった。あの時の戦い──自らの左腕を焼き切られ、電と白雲の両脚を吹き飛ばされ、ただ救いたいと願った結果の具現。その願いの中には、深海千島棲姫の顔をもう見たくないというものも含まれている。
その願いが叶った結果、
「ふむ……なかなか面白い。だが、それとこれに何が関係しているんだ?」
「電さんは、特異点ではないんですよ。同じカテゴリーにはいるけれど、深雪さんは狙われて電さんは狙われない。あちらも深雪さんばかりを狙って、電さんを狙わない。その上、カテゴリーYの皆さんから聞いてますが、特異点の後光みたいなもの、深雪さんはハッキリと見えるけど、電さんはかなり小さいらしいんです。そんな電さんの艤装、ぶっちゃけ深雪さんのそれよりも特異点じゃないですか?」
全てを扱えるという自由すぎる能力は、技術的な特異点と言えるとんでもないものだ。そんな能力を、特異点たる深雪ではなく、いわば
結果的に電はやりたいことがやれるようになるし、そんな電が喜ぶ姿を深雪と喜んでいた。流れ流れて、
「だから、私は少しだけ仮説を立てました」
「仮説……ですか?」
涼月も明石の仮説には興味深そうに身を乗り出す。
「電さんは、
「……少し荒唐無稽すぎませんか」
「私だってそう思いますよ。でも、そう考えると意外と納得出来るんです。進化のきっかけは必要かもしれないですけど、そのきっかけさえあれば、電さんは特異点のように振る舞える
つまり、深雪が電ならやれると思ったことを、電は本当にやれるようになってしまうということ。意識していても、意識していなくても、それを実現してしまう。今回の電のこれは、深雪の中にある願望──共に戦い、支えてほしいという強い思いが、ケッコンカッコカリという限界突破をきっかけに発現した。
「……納得は、出来ますね。理解は出来ませんが」
「でしょう? そもそも特異点は謎が多すぎる存在です。これからもこんなことは何度も起こるでしょうね」
「そうかもしれないが、彼女らは我々の仲間だ。謎だらけであろうと、その力になることは変わらない」
冬月はそう断言した。涼月も当然ですとそれを肯定する。明石はクスリと笑い、小さく頷いた。
「まぁ仮説の話はここまでにしましょう。夢のマルチツールの設計、こんな感じでどうですか?」
「話しながらしっかり書いていたのか……どれどれ」
明石が書き上げた電専用装備の図面を見ながら、冬月は目を細めた。まさに理想的な図面、自分の頭の中にぼんやりと浮かんでいた構想を、一から十、むしろ十二までカタチにしてあるようなそれに、冬月は驚きを隠せなかった。
純粋種、しかも30年選手の第二世代の工作艦。その実力を、恐ろしいとまで感じた。これまで燻っていたモノを吐き出していたとも言える。
「いやぁ、ちょっと張り切ってしまいました。あらゆる兵装の小型化、それをなるべく十全に使えるようにするシステム、妖精さんのサポートありきとはいえ、なるべく早く切り替えられるようにする機構、そして積載量問題。その全てを解決するための案、冬月さんから提示された案も組み込んで、1つに纏めてみましたよ」
「……すごいな、想像以上だ。私の中ではここまで綺麗に纏まっていなかった。それに、簡略化までされている」
「当然、電さんへの負荷は極力抑えていますから。妖精さんにも負荷がかかりますし、そこはむしろ最優先です。その次が私達への開発負荷ですね」
久しぶりにやりたいことがやれているということもあり、明石も少々テンションが上がっていた。潜水艦が浮上し、陽の光を浴びることが出来るようになっていても、明石には自由に振る舞う時間が少なかったと言える。うみどりで工廠に入っている時も、整備などはしていても開発まではほとんどやっていない。
それが、ゼロから特殊な兵装を作り上げるというやり甲斐しかない仕事を任されたというのなら、張り切ってしまうというものである。
「とはいえ、貴女もなかなか無茶言いますね。これ出来るんですか」
「出来ないとは言わない。何せ、
「妖精さんにも許可済みです。可能であれば、使わない手はありませんね」
冬月も涼月もそう言っているし、サポート妖精さんすらグッとサムズアップするくらいである。ならば、それは無茶ではない。
「……本当に、どっちが特異点なんでしょうねコレ」
明石はもう驚きすらも通り越していた。
電の特殊兵装の完成は、もうすぐと言ってもいいだろう。工廠班の実力が、ここに来て爆発していた。
電だってカテゴリーW。特異点の要素を持っていてもおかしくない。でも、深雪とは性質が違うようです。