後始末屋の特異点   作:緋寺

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各々の癒し

 休暇2日目も、空が夕焼けに染まるくらいの時間になってきた。深雪達は本当に目的もなく軍港都市をブラブラしていただけ。目について気に入ったモノがあれば手に取り、本当に欲しいと思ったら買ってみたりもした。美味しそうなモノがあれば、みんなで食べてみんなで味の感想を話すだけでも楽しい。

 グレカーレが話していた通り、昨日と違う服を着て、昨日と違う場所に行き、昨日と違う楽しさを知ることで、心はまたもや癒される。疲れも心地よいものである。

 

「やぁ、2日目もしっかり楽しめたな」

「なのです。昨日と違うところですから、見られるモノも大分違ったのです」

 

 深雪も電も満面の笑みである。道中に見つけた甘味処でおやつを食べたり、初めてゲームセンターに入ってみたりと、また昨日とは違う楽しみを満喫出来ている。グレカーレが操作の方法を知っていたお陰で、4人揃った写真シールを撮影し、みんなで持ち寄っているくらいである。端末に貼っていいかは迷ったので、ひとまずは持ち帰って何処かに貼るつもり。

 白雲もこうなると笑顔を絶やさなかった。カテゴリーM、呪い持ちとは思えないくらい、軍港都市に馴染んでいる。勿論、ツノを見られるような失態もしていない。

 

「みんなも楽しんでたみたいだしな。ああいうの見ると、あたしも楽しくなっちまう」

「とても良いことだと白雲は思います。お姉様は仲間の笑顔で癒されるのでしょう」

 

 午後からの散策でも、仲間達と顔を合わせていた。その筆頭は、やはり潜水艦勢。

 

 その中でも特に印象深かったのは、スキャンプである。おおわしも一緒に休暇に入っていることから、当然のように海防艦の3人がスキャンプに付き従い、一緒に街を回ろうと騒ぎ立てていた。結果、最後はスキャンプが折れ、子供達の行きたいところに保護者のような雰囲気でついていかされることになっていた。

 深雪がそんなスキャンプを見つけたのは、おそらく海防艦達が行きたいと言ったであろう猫カフェ。窓が外側にあり、通行人から中の様子が見えていたのが運の尽き。海防艦がキャッキャと楽しんでいるところと、なんだかんだ癒されているスキャンプと目が合ったことで、それが判明した。

 スキャンプ的には一番見られたくない相手だっただろうが、その時にはもう遅い。顔を真っ赤にしていたが、海防艦が一緒にいる手前、叫ぶことも暴れることも出来ず、しかし小さく溜息を吐いた後にシッシッと離れるように手振り。

 

「スキャンプって意外と面倒見いいよな。苦手だ嫌いだ言いながらも、ちゃんとああやって一緒にいてやるし」

「なのです。それに、あまり疲れた顔をしてなかったのです」

 

 電が言う通り、海防艦の保護者として街を回っているスキャンプだが、それによって余計に疲れているとかストレスが溜まっているとかの雰囲気は無かった。休暇を休暇として受け取り、心身共に癒されているのも顔を見ればわかる。

 あんなことを言いつつ、子供達に振り回されるのを受け入れていた。それで癒されているのだから、なんだかんだ今の状況を楽しめる程には心に余裕が出来ている。

 

「スキャンプって昔すごいことになってたわけでしょ? そこから解放されてさ、ここで割と自由に過ごせて、ユーダチじゃないけど心に余裕が出来たんだと思うよ。ギャーギャー言いながらも楽しそうなところあるし」

 

 グレカーレがニコニコしながら話す。過去の辛い悪夢から解放されているわけではないにしても、今を楽しめているのならば、まだマシだろう。それに、今のスキャンプには気になる艦娘(酒匂)もいる。

 

「なら良かった。ここで癒されないってことは無くて」

「だね。流石にこんな楽しい場所で嫌なことは起きてほしくないよ」

「ホントな。前回のココでは出洲の野郎に攻め込まれたからな……もうあんなことは起きてほしくはねぇ」

 

 しかし、戦標船改装棲姫という前例が出てきてしまった以上、この楽しく騒がしい軍港都市に潜まれている可能性はある。それこそ、今もすぐそばにいるなんてことがあってもおかしくはない。

 街中で市民への被害も考えずに襲いかかってくる可能性も無くはない。自爆出来る出来損ないを伊豆提督達に嗾けている前例もあるのだ。そのため、こんな街中でも何が起きるかわからない。

 

「平和を謳っているのならば、民草を巻き込むような行いは慎むべきなのですが……彼奴らはその平和を履き違えているのでしょうか」

「ああ、本当に平和を目指してるなら、人体実験なんてしねぇよ。それも平和のためって言うなら、とっくにぶっ壊れちまってんだろうぜ」

 

 神妙な表情になってしまうが、これでは休暇の意味がないと頭を振り、気を取り直そうと手を叩く。

 

「しんみりするのはヤメだヤメ。今は身体も心も休める時間なんだからな」

「なのです。みんなで楽しんで、次の後始末に向けて頑張るのです」

「そうそう。この休暇の後は溜まりに溜まった後始末が来るんだからな。下手したら前よりも酷いことになってんぞー?」

 

 1週間を単調に過ごしていた時のことを思い出し、苦笑しながら白雲とグレカーレを脅した。そんな仕草も、ケラケラと笑いに繋がるのだから、今は充分に癒されていると言えるだろう。

 

 

 

 

 鎮守府に戻ると、昨日と同じように伊豆提督とイリスが待っていた。全員の帰投と、念の為の彩の確認。何かあったら困るため、しっかりと見定める。

 

「お帰りなさい。今日も楽しんでこれたかしら?」

「ああ、昨日とはまた違うところに行ってきたんだよ」

「ふふ、それはよかったわ。ここではしっかり癒されないとね。癒されることは()()だから」

 

 冗談交じりに言う伊豆提督。軍港都市に来て癒されないなんてあってはいけないこと。笑って騒いで楽しんで、身体も心もしっかり癒されて、次の戦いに向けて英気を養う。そのための場所なのだから。

 

「彩も大丈夫。むしろ前より眩しくなっているくらいね。心の調子がいいのがわかるわ」

 

 イリスも4人の彩を見て少し安心していた。特に白雲は初めての人間社会。そこでちゃんと楽しめているかは若干不安だったが、それも杞憂だったようである。

 

「ハルカちゃんとイリスは遊びには行かないのか?」

「アタシ達は夜に出てるのよ。お昼はまだまだやることがあるからね。イリスは明るいうちからある程度は見て回っているのよ?」

「ここに住む人達の彩を一応確認しようと思ってね。少なくとも、私の見た限りでは()()()()は交じっていなかったわ」

 

 イリスは1人しかいないし、目は正面に2つしかない。見落としなんて大量にあるだろう。丸一日かけても全部見て回れるかわからないような広い場所で、敵の痕跡を持つ何者かが潜んでいるかどうかなんて簡単には見つけられないだろう。

 とはいえ、やらないよりはマシ。こういうことが出来るのだから、動かない理由はない。ちなみにその時は、護衛がついていたりする。夜に出る時は、伊豆提督や昼目提督。昼に出る時は、神風を筆頭とした生身でも強い面々。特に後者は重要で、伊203すら速さより慎重さを重視していたくらいである。手早くやりすぎて見逃した方が、結果的には遅くなるため。それでも歩くスピードが他より速いのはご愛嬌。イリスは自分のペースを変えないのだが。

 

「見えない敵だとか、小型の忌雷だとか、注意深く見ないといけないところが多いから大変だけれど、必要最低限はやっているつもり。でも見落としはどうしてもね」

「だから今、イリスの目と同じようなことが出来る兵装を開発しているんだもの。……全部並行でやってるのよねあの子達」

 

 現在工廠で開発や研究されているのは3つ。電が扱う特殊兵装(マルチツール)、見えないモノを見る見張員の目、そして、深海棲艦化を治す手段。

 そのうち、最優先は見張員の目。軍港都市の平和にも繋がることもあり、これは早急に必要な兵装。今の冬月と涼月が何処に目を向けているかという不安はあるものの、頭から抜け落ちてはいないと信じたい。

 グレカーレの調査を忘れていた前例があるため、そこは明石あたりがどうにかしてくれているはずである。

 

「彩が見えるのはイリスだけだから、こればっかりはもう賭けに近いけれど」

 

 妖精さんの力を以てしても、イリスの目のコピーは出来ていない。彩の精査は、どうしてもイリスがやらねばならないことである。

 

「あたし達も怪しいヤツみたいなのは見てないぜ、なぁみんな?」

 

 深雪の言葉に全員が首を縦に振る。何処で何をしていても、今のところおかしなモノは見ていない。街中では楽しめることばかりであった。

 それに、この4人は基本一緒に行動している。1人になるタイミングは一度たりとも無かった。そのため、突然何かされているなんてこともない。

 

「なら今日もひとまずは安心ね。じゃあ、今日もお疲れ様。昨日と同じようにもう休んでちょうだいね。アタシ達はここで全員が戻ってくるのを見届けなくちゃいけないから」

「ああ、それじゃあ、先に戻るぜ」

 

 手を振って2人と別れる深雪達。元気そうに楽しんでいる姿を見て、伊豆提督はほっこりした気持ちになる。

 

「ホント、こんなところで攻撃してくるような無粋な真似はしてほしくないわね」

「ええ……せめてここでくらいは伸び伸びと楽しんでほしいものね」

 

 2人して穏やかな気持ちになる。こんな毎日が続かないことがわかっているのだが、だとしてもずっとこうしてほしいと願った。

 

 

 

 

 深雪達はそのまままったりとした時間を過ごし、夕食時だと食堂に向かう。だが、珍しく伊豆提督もイリスもまだ鎮守府に戻ってきていない。

 まだ外で仲間達の帰投を待っているのだろうが、それにしても時間が遅い。昨日ならばこの時間には既に全員が帰投済みであり、鎮守府の広い食堂では全員の顔が見えてもおかしくはなかった。だが、深雪でも思い当たるところがある。

 

「あれ……まだ帰ってきてないヤツいるのか?」

「みたいなのです。えーっと、足りないのは……」

 

 食堂を見回して確認していくと、誰がいないのかはすぐにわかった。

 

「梅ちゃんと、秋月ちゃんなのです」

「あの2人、趣味もあるから一緒に行動してたよな」

 

 読書が趣味の梅と、手芸が趣味の秋月。向かう店も同じようなところが多いので、今回の散策でも一緒に行動していた。

 おそらく今日も、本屋と雑貨店を見て回っていたのだろうが、それにしても帰ってくるのが遅い。

 

「……まさか、まずいことに巻き込まれたのか?」

 

 嫌な予感がどうしても過ぎる。敵がいるいないの話をしたばかりであるため、何かあった場合はそういう方向に考えが向かってしまう。

 

「確かアレだよね、あたし達が貰ってる端末で、ハルカちゃんに連絡出来たよな」

「なのです。だったら連絡くらいしていると思うのですけど……」

 

 伊豆提督とイリスが鎮守府に戻っていないところからして、連絡も無さそうなのが怖いところ。本当に()()()()という可能性すら出てきてしまう。

 こんな広くて楽しい場所で、そんな事件が起きるのは許されないこと。そして、そういう事件が起きるのならば犯人は決まったようなモノ。

 

「……何が起きてんだ……」

 

 

 

 

 楽しく終わりそうな休暇2日目、不穏な空気が漂い始める。

 




そりゃあね。
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