後始末屋の特異点   作:緋寺

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行方不明の2人

 休暇2日目の夜、休暇を終えた艦娘達が帰投しているのだが、梅と秋月がまだ戻ってきていないことが判明。伊豆提督とイリスが鎮守府に戻ってこないところからして、まだ出入り口のところで待っているのだろうが、音沙汰が無いように思える。

 今このような状況になると、どうしても事件性を疑ってしまうもの。この軍港都市は鎮守府の管理があるとしても、広い分、敵の侵入にはどうしても弱いところがある。基本的には許可なき者は入れないようになってはいるが、抜け道をいくらでも用意されそうである。

 

「ちょっと心配だな……ハルカちゃんのところに行ってみるか」

「なのです。何も無ければいいのですけど……」

「だな。もう外も暗いってのに……」

 

 夕食時ということもあり、外はもう夜の帳が下りている。軍港都市はまだ店が閉じるようなことはなく、電飾で煌めいているものの、裏路地に入ればもう暗いような時間だ。そんな中で事件だとなれば、探すのも一苦労。

 本当にまずいならば、仲間達総出で探すことになるだろう。広い都市の中で探し出すのは骨が折れるが、人海戦術が出来る今ならば、そこまで時間をかけずとも探し出すことが出来るはずだ。

 

 深雪達は、心配になって鎮守府から出ると、やはり伊豆提督とイリスが2人が持つ携帯端末に連絡を入れていた。

 簡易に作られている携帯端末であるが故に、GPSなどはついていない。連絡を取ってもらうことが全てなのだが、それすら出来ないとなると、本当に行方不明になってしまう。

 

「困ったわね……電波が届かないなんてことはないし、壊れてる……なんてことも無いはずだけれど」

「どうしても取れない状態か、自分から取らないようにしているか、よね。だとしても、どうしてそうしているかが見当もつかないわ」

 

 伊豆提督もイリスも、こんなことは初めてなので困り果てている。流石に外も暗くなってきているので、探しに行かなければまずいかと思えるくらい。

 

「ハルカちゃん、イリス、梅と秋月はまだ帰ってこないのか?」

「そうなのよ。端末にも繋がらなくて、何処にいるかもわからないの」

 

 深雪達がやってきたことで、そろそろまずいと思ったか、これまでやったことを伝え始めた。と言っても、こちらからやれることは、持たせた携帯端末に連絡を入れ続けることだけ。何度かけても出ることはなく、この時間になってしまった。

 こうなってしまっては、人海戦術で探し出すしか無いだろう。原始的ではあるが確実と言える。

 

「アタシとイリスは戻ってくるのをここで待つわ。杞憂だったらいいし、入れ違いになったら困るもの」

「わかった。あたし達だけじゃなく、みんなに手伝ってもらった方がいいよな」

「そうね。申し訳ないけれど、みんなに声をかけてきてちょうだい。トシちゃんとマークちゃんにも伝えておいてもらえるかしら」

「了解。すぐに行ってくる」

 

 ここから、梅と秋月を捜索するために一斉に動き出すことになる。

 基本はうみどりと潜水艦勢。軍港鎮守府の艦娘達は、夜間哨戒や既に夜間警備に向かっている者もいるというのもあるのだが、うみどりの問題はなるべくうみどりで解決する方向。

 

 

 

 

 何があるかわからないので、何人かで組んで軍港都市を捜索する。深雪は相変わらずいつものメンバー。深雪、電、白雲、グレカーレ。事件性も考えて、私服ではなく制服に着替えての捜索。しかし艤装まで装備することはしていない。艤装を装備したまま街中を歩き回るのは迷惑になる。

 暗くはなっているものの、軍港都市は人通りが多少減るだけで客はまだいる。24時間営業の店だって存在している、()()()()()だ。だからこそ、梅と秋月の痕跡を街の人間達に聞くという手段も取れる。

 

「すんません、あたし達、人を……艦娘を探してて」

「髪の毛ピンクで、やたらおっぱい大きいメガネの子、見なかった?」

 

 グレカーレの身も蓋もない聞き方ではあるのだが、梅の特徴を的確に捉えている質問であるため、見覚えがあるものならばスッと思い出せる。

 明るいうちに見たという者は、大概が雑貨店や本屋の近く。あの2人の趣味を知る者なら、そこにはいるだろうという場所の情報は手に入る。しかし、ついさっき見たという者はなかなか見当たらない。

 

 歩き回っていると、他にも捜索に出ている班ともかち合う。しかし、成果はないとのこと。

 調査隊も動いているのだが、それでも見つからない。そうなると、足が向かないようなところにいるとしか思えない。

 

「よし、もうこれはあそこ行くしかないっしょ」

「あそこ……って、まさか」

「あのピンク色の路地の向こうだよ。あそこしか無いって」

 

 グレカーレがただ行きたいだけなんじゃないかと勘繰ってしまうのだが、確かにその方向には行かないようにはしていた。

 深雪達は行っていなくても、他の者達は向かっているかもしれないため、まず一度そちらの方に近付いてみて、周辺に聞き込みをしてみることに。

 

「え、見た!?」

 

 相変わらずのグレカーレの聞き方ではあったのだが、それが功を奏したのか、そんな艦娘の姿を見たという有力な情報を得ることが出来た。

 しかも、よりによって2人は()()()()()()()()()()()()()()()()()姿を見られている。普通ならば、軍港鎮守府の艦娘が止めるはずなのだが、その行動を止めることもなかったという情報まで。

 

 ちなみに、情報提供者は近くのバーの女性売子だったのだが、艦娘に強引な押し売りは法で厳しく禁じられているため、深雪達には優しく情報を教えてくれている。この街に住む者は、艦娘とも正しく共存している証拠である。

 

「……怪しすぎないか」

「なのです。梅ちゃんも秋月ちゃんも、自分からこんなところには入っていくことは無いのです」

 

 酒を飲める年齢ならまだしも、見た目だけで言えばそこからは程遠い女学生。普通ならば入ること自体が禁じられているのに、自分から向かうこと自体がおかしい。

 

「というかさ、あたし達が入るの止めた軍港の艦娘が通したって言ってたよね。それがそもそもおかしくない?」

「ですね……。何故梅様と秋月様のみを通したのでしょう……」

 

 情報提供者に他にも聞くと、2人以外にも誰かがいたらしいのだが、やはり髪色が目立つ梅の印象が強く、そこしか覚えていないとのこと。だが、さらに有力な情報。

 それを見たのが、()()()()だったこと。それならば、軍港鎮守府に連絡することで、その時間にここに誰がいたかくらいはわかるはず。

 

 早速携帯端末を使い、伊豆提督へと連絡。手に入れた情報を伝え、今後の行動を決めてもらう。いくらなんでも、許可なくこの路地の向こうに向かうのは抵抗があるし、何かあった時に言い逃れが出来ない。

 

『増援を送るわ。その子達と一緒に入ってちょうだい』

「了解。それまではここで待ってる。というか、誰もこの辺来てなかったのか」

『近くに行った子はいるけれど、聞き込みまでしてそういう情報を手に入れた子がいなかったの。アナタが話しかけてくれた人が、まだ外に出ていなかったのかもしれないわ』

 

 どうであれ、ここで情報を手に入れることが出来たのは僥倖。増援を待ち、ピンク色の路地へと突入することになる。

 

 

 

 

 伊豆提督が送ってくれた増援は、緊急時に近接戦闘が得意であることを考えて、神風と伊203。前者はともかく、後者は街中を制服(スク水)で出歩くことは憚られるため、専用の耐久力の高い服装での参戦。

 

「じゃあ行く」

「ええ、今回は仲間の命もかかっているかもしれないわ。迅速に行きましょう」

 

 伊203がまず突き進み、神風がそれを止めることなくついていく。こういう時の伊203の即断即決は頼りになるものである。

 

 この路地はいわゆる歓楽街だ。昼より夜の方が賑わっているくらいであり、先程の売子の女性が勤めているバーのような、酒を提供する店が多く存在している。漂う空気にも少しアルコールが混じっているように感じた。

 あまり気分の良いものではないが、やはりこういう場所には付き物の、性風俗産業もチラホラ見える。神風的にはそういうのは深雪達には見せたくないようで、なるべく注視させないように通り過ぎた。

 

 そもそも歓楽街に艦娘が入ってくること自体が非常に珍しいらしく、ここでの聞き込みはヒットするものが多い。

 こちらでもやはり目立つ者、梅の存在が大きかった。これが秋月だけだったら話が違ったかもしれない。

 

「……本当に怪しいわね。嫌々連れてこられたわけじゃなくて、自分から進んで来たみたいに見られているなんて」

 

 その聞き込みの情報を纏めると、神風が言う通り、梅も秋月も()()()()()()()()()()()()()()()()と考えられた。

 そう思わせる証言が、ここを歩いていた梅の表情。どう見ても嫌そうではなく、淀みなく誰かについていっていたと断言出来るくらいだったらしい。

 

「そこから考えられるのは……?」

「敵の存在を突き止めて、自分の意思で追った? いや、それなら真っ先に連絡をするでしょ。何のための携帯端末かって話だし」

「だよなぁ。あの2人がそういうの怠るなんて思えない」

 

 探し回りながらも頭を捻る。

 

「誰かを人質に取られたとか。それこそ、こういうところの一般人を」

「あり得るわよね。解放してほしかったら……って脅されて、渋々ここまで来たっていうのもあるとは思う。だったら見た目は嫌々じゃなくてもおかしくはないか」

 

 なら、人質とは誰かというのもある。仲間の艦娘か、それとも人間時代の親族や友人か。

 深雪は梅と秋月の過去は聞いていない。過去を詮索することが禁じられているのだから、本人が自主的に話してくれない限り知ることはないのだが、もしかしたらこの軍港都市にどちらかと深い関係の誰かがいて、それを調べられた挙句に人質に取られたとかはなくはない話。

 

「聞いてる感じ、こっち」

 

 考えている間に、伊203が聞き込みから何から全てをこなして、梅と秋月の行き先に見当を付けていた。

 歓楽街の中でもさらに奥まった路地裏となると、薄暗く何があるかわからないような場所になる。そういうところは人の気配も少なく、わざわざそちらの方に向かう者は皆無。民家なども無いため、誰かがそこに入っていったら否が応でも目立ってしまうもの。

 

「……一応ね、一応」

 

 路地裏に入る前に、念のためと神風はその辺に落ちている鉄の棒を拾い上げた。適当な武器があれば、ここにいる全員を守ることが出来るのが神風の実力である。伊203も交戦を考えたか軽く指を鳴らす。

 

「……こういう街にも、こういうところはあるのね」

 

 その路地裏から抜けたところにあったのは廃ビル。何かに使われているわけでもなく、薄暗く聳え立っているだけ。とはいえそんなに大きな建物であるわけでもなく、何かの店だったが閉店した結果、未だに他の店舗が入っていないというだけだろう。

 いくら軍港都市といえど、全ての建屋に店舗が入っているわけではない。光があれば、闇もある。ひっきりなしにここで店が入るわけでは無い。

 

 よくよく考えれば、歓楽街では無いところでも、平瀬が空家を使って特異点を待っていたという前例があるのだ。歓楽街でも同じようなことは出来る。

 

「ここにいる。突入するよ」

 

 一切躊躇しない伊203についていき、廃ビルに侵入する深雪達。先頭は伊203、殿(しんがり)は神風。強者で挟み、緊急事態に備えた。

 

 

 

 

 そこは、店があったであろう大きな空間。しかし、そこにいたのは、何故かそれなりの人数の女性達。その中に、梅と秋月もいた。

 

「梅! 秋月!」

 

 深雪が叫ぶが、返ってきたのは意外な反応だった。

 

 睨み付けるような、怒りを持っているような、そんな表情。そしてもう1つ。()()()()()()()()()()()()

 

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