雨が降り風が吹く深夜、目的地に向かううみどりを、突如深海棲艦が襲撃。うみどりの面々はすぐさまそれに対応し、まだまだ素人である深雪も後始末のために工廠に向かった。
戦闘自体は長門、妙高、那珂の3人がこなし、襲いかかってきている深海棲艦を終始圧倒していたが、その時に新たな反応をイリスが確認した。最初は敵の増援かと考えたものの、その
『カテゴリー……
工廠内が騒然とした。カテゴリーWは、呪いによって敵対している純粋な艦娘とは違う、人類との仲間意識を持つ
それを確認したイリスですら、おそらく深雪くらいしか見ることは無いだろうと思っていたくらい。それなのに、この短期間で二人目が現れてしまった。
「カテゴリーWって……あたしと同じってことか!?」
「対話出来る純粋な艦娘ってことよ。まさか2人目が出てくるなんて、想像出来ないわよ」
神風すら、その状況に驚きを隠せない。神風がこれなら、他の者は尚更である。睦月と子日はキャーキャーと叫び、梅と秋月は声が出ず。酒匂から上の比較的年齢が高い層ですら、カテゴリーWと聞いたら騒つく。
深雪が発見された時は、これ以上に騒然としたと神風は語る。深雪という前例があったからこそ、2人目の出現はこの程度で済んでいるが、また出てくるだなんて誰も考えていなかったため、このように騒ついていた。
「ど、どうすんだ? そりゃあ救うのはわかってるけど、すぐに行ってもいいもんか!?」
今のところ世界に自分しかいないカテゴリーWがそこに現れたのだから、すぐにでも救いたいと思うのはわかるが、まだ実力が伴っていない状態で、後始末だけでなく戦闘にまで参加するのは厳しい。
何もいないのなら真っ直ぐカテゴリーWに向かえるのだが、そもそも工廠からはその姿すら見えないのだ。おそらく戦いのさらに向こう側にいる。そのカテゴリーWが何者なのかは、工廠にいる誰の目にも入っていない。
「私が行ってくる。カテゴリーWの艦種次第だけど、駆逐艦なら私が運べるし、戦艦だったとしても引きずってくるわよ。それに、深雪みたいに気を失ってるわけじゃないかもしれないわ」
そういうのは、やはり神風だった。筆頭駆逐艦であり、うみどり最古参としての誇りにかけて、この戦場に迷い込んでしまった純粋な艦娘を、この場から救い出してくると工廠の外へと向かう。
結果的に後始末のために外に出ることになるため、先に出ようが後に出ようが雨風で荒れる海に向かうのは変わりない。神風は先に出ることを選択しただけ。
『神風が迎えに行こうとしているわね。なら気をつけてちょうだい』
それを何処かから見ているイリスが、一方的な放送というカタチで注意喚起。行くなとは言わない辺り、神風の実力を把握している。
『私に見えているカテゴリーWは、深雪と違って
深雪は海上で気を失っているところを発見されたため、敵性艦娘かどうかは判断出来なかった。しかし、今回現れたカテゴリーWは、気を失っているわけではなく、フラフラとこの海域、イリスの索敵範囲に入り込んできたという。つまり、意識があって明確にここに来たか、意識が無く夢遊病のように迷い込んできたかのどちらか。
前者である場合、深海棲艦を斃すためにわざわざここに来たか、
「じゃあ、すぐに行ってくるから」
それだけ言い残して、神風は外に駆け出していった。
現れた深海棲艦との戦いは、苦戦することもなく終わりを迎える。しっかりと砲撃や雷撃を直撃させ、その命を奪った。
工廠から見ていても、その鮮やかさは目を見張るものだった。大型艦であり、妙高や那珂よりは確実に鈍重にならざるを得ない長門も、その力強さが存分に発揮されていた。
後から片付けがあることまで考慮して、なるべく亡骸が散らばらないように高火力で噴き飛ばすというのも控えている辺り、流石と言える。以前の装甲空母姫の亡骸のように急所を一撃というのは難しいかもしれないが、肉片を拾うようなことは極力少なめになるようにされているのは、技量あってのモノ。
「カテゴリーW、まだ見えねぇのかな」
ソワソワし出す深雪。初めての
神風が向かった先は戦闘から更に向こう側。雨と風、そして夜の闇に加えて、深海棲艦との戦闘の爆発などもあり、未だに工廠からはそのカテゴリーWが目視出来ない状況にあった。
神風がすぐに行くと言ってから少し時間がかかっている。何か連れてくるのに不都合があったのかもしれない。例えば、うみどりに来るのに抵抗しているとか。
「長門さん達もすぐに戻ってきませんね……。何かあったんでしょうか」
秋月がボソリと呟いた。戦闘自体は終わっているのだが、神風に加えて戦いに向かった3人もなかなか戻ってこなかった。
「カテゴリーWに何かあるとしか思えませんね……深雪さんとは何か違うとか……?」
梅もこの状況は少し心配になってきたようである。そう聞くと、深雪も不安な気持ちが湧いてきた。
同じカテゴリーWかもしれないが、在り方は人それぞれだろう。深雪は今のように人類の味方として活動しているが、もしかしたら現れたカテゴリーWは
「あたし、ちょっと行ってくる。もう戦闘も終わってるんだし、どうせ後始末で外に出るんだから、もういいよな」
「ちょ、ちょっと待ってください。指示を待った方が」
「あたしと同じカテゴリーWなんだろ? だったら、一緒にいられるかもってことだよな。せっかくの同類なんだから、絶対に救ってやらなくちゃ」
言いながらも飛び出そうとする深雪を、睦月と子日が食い止める。両サイドから腕を掴んで、その動きを完全に止めた。いくら深雪でも、2人から止められていると振り払うことは出来ない。
「ダメにゃし。深雪ちゃん、落ち着いて、深呼吸するぞよ」
「なかなか帰ってこないってことは、子日達だとどうにも出来ない何かがあるってことだよ。焦っちゃダメだよ」
睦月に言われて深呼吸。頭に血が上っていては、まともな判断は出来ない。怒りだけでなく、単に同類の登場に興奮してしまっているというのもあるだろう。
ちゃんと呼吸をすれば、頭に酸素が回って多少は落ち着ける。とはいえ、この興奮が簡単に冷めるわけがなかった。
「でもよぉ」
「待ってればこっちに来るんだから、待ってればいいのね。子日ちゃんも言ったけど、すぐに帰ってこないのはそれ自体が緊急事態ってことなんだと思うのね」
何度戦場を見ても、こちらに戻ってくる気配がない。むしろ、戦っていた3人も含めて、現れたのかカテゴリーWを取り囲んでいるようにも見えた。それだけ対処に困る存在なのか。
そうこうしているうちに、那珂だけが工廠に戻ってきた。他の3人はまだカテゴリーWの対処中。
雨に打たれて頭から爪先までびしょ濡れ状態の那珂ではあるが、アイドルと自称するだけあって笑顔は欠かしていない。
「那珂ちゃん、見つかったカテゴリーWに何かあったのか!?」
深雪の叫びに、那珂は少しだけ困った表情を見せる。それだけで、余程困った状況であることが頷ける。
「うーん、那珂ちゃん達からするとそこまで大きな問題じゃあないんだけれど、
わけがわからなかった。深雪とは違うタイプのカテゴリーWであるということなのか。
「あたしは大丈夫だから、早く会わせてくれよ。あたしと同じカテゴリーなんだ。それとも何か、そいつはあたし達の敵になっちまってるとかなのか?」
「そういうわけじゃないよ。ただ、意識は朦朧としてる感じ。ここまでフラフラ来ちゃったみたいな感じだから」
つまり、そのカテゴリーWが生まれたのはこの海域から少し離れたところであるということ。そこから意識がハッキリとしないまま、
戦闘があったからここに来たのか、はたまた別の要因があるのかは、すぐにはわからない。だが、予想だけは出来た。
意識が朦朧としているからこそ、同類がいる場所を無意識に感じ取って、身体が動くままにここに来た。そう考えればいろいろと納得が出来る。
カテゴリーWはまだまだ未知な部分が多い。そういうカタチで集まりつつあるのもわからなくもない。
「うーん、まぁいっか。どっちにしろ深雪ちゃんとは顔を合わせることになるんだもんね。早ければ早い方がいっか」
少し考えたようだが、難しいことになりそうだったので、考えるのをやめたようだった。那珂の悪いところでもあるが、思い切りがいいところは良いところでもある。
今回は深雪と大きく関係すること。同類がどういう存在なのかは、さっさと知っておいた方がいいと独断で進めることにしてしまった。
「長門さーん、深雪ちゃんがどうしても見たいっていうから、連れてきちゃってくださーい。うん、覚悟の上っぽいのでー」
耳元の通信機で長門に現状を伝えたようだが、それは何処か曲がった内容。覚悟云々は何も話していないのだが、そういうことになったらしい。深雪は那珂の思い切りの良さに苦笑しつつ、睦月の子日に拘束を解いてもらう。
那珂は深雪の思いを鑑みた上で、少しだけ虚偽の報告をしていた。深雪はカテゴリーWに早く会いたい。それが
拘束が無くなった深雪は、すぐさま外に飛び出した。連れてこられるのを待っていられないと、雨の中、迎えに行く。
「あたしの仲間、どんな奴なんだ!」
あちらからも近付いてきているのだから、合流はすぐ。覚悟だってしている。それが敵対していたとしても、絶対に説得してみせる。そう思いながら、荒れる海を駆け抜ける。
「深雪、工廠で待っていてくれ」
長門がボヤくものの、深雪は聞く耳を持たなかった。
「見せてくれ。カテゴリーWなんだろ。あたしと同類なんだろ。ならきっと、いや、絶対仲良くなれる。あたし達の敵だとしても、説得するから、だから」
「……敵対はしていない。むしろ、君と同じで我々のことを仲間だと思ってくれている。朦朧としているが、武器をこちらに向けてくることも無かったし、そもそも敵意がない。だからその辺りは大丈夫だ」
話しながらも、長門はその姿を見せないように深雪をブロックしている状態だった。余程見せたくないのだろうか。
流石に深雪もそれには苛立ちを覚える。那珂にも覚悟があると聞いているのに、ここまで見せないようにする理由が、興奮している深雪には見当がつかない。
「なんでそんなに見せないようにするんだよ!」
「
即答だった。深雪のために深雪の同類の姿を見せることが出来ない。また理解が出来なかった。余計に頭に血が上る。
「いいから、早く見せてくれ! 説得が必要ならあたしが……」
どうにか長門を振り払おうとするが、練度が違いすぎてどうにも出来なかった。だから、怒りを露わにするしか深雪には出来なかった。何故ここまで隠すのか。何故訴えを聞いてくれないのか。全ては深雪のためだと言うが、深雪が顔を合わせることを望んでいるのだから、抵抗する理由なんて無いはずなのに。
「……長門さん、遅かれ早かれ見ることになるんだから、今から見てもらいましょ」
神風が諦めたように言った。ここで保護したら間違いなく顔を合わせる。ならば、早いに越したことはない。深雪がここまで来てしまったのだから、もう仕方ないと。
神風に言われたことで、長門も渋々承諾。しかし、妙高に深雪の傍にいるようにと指示した。もしかしたら深雪がこの場で何かしでかすかもしれないからと。
「心配しすぎなんだよ。あたしが顔を見ただけで何かするわけ……」
そして、そのカテゴリーWとようやく対面した。その瞬間、深雪の言葉は完全に失われた。
そこにいたのは、深雪とほとんど同じ制服を着た、小柄な少女。艤装も兵装も全て揃った状態で、雨の中でびしょ濡れになった艦娘。
深雪の