後始末屋の特異点   作:緋寺

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最低最悪の曲解

 行方不明になっている梅と秋月を探すために、うみどりと潜水艦勢の面々を使った人海戦術に打って出た。それには深雪達も参加し、グレカーレの思いつきなどから、ピンク色の路地の向こうに向かったことを突き止めることに成功する。

 増援として神風と伊203を加え、歓楽街の奥、廃ビルに突入したところ、そこには目的だった梅と秋月の姿があった。

 

 しかし、2人が深雪を見る目は、睨みつけるような、怒りを持っているような、そんな感情が見えた。しかも、その瞳は青く輝いていた。

 

「梅、秋月、こんなところで何やってんだ。ハルカちゃん達心配してんぞ」

 

 深雪はまずそう話しかける。なかなか戻ってこない2人を心配して、みんなで探しているのだと。伊豆提督達も心配しているのだから、早く帰ろうと。

 しかし、2人は周囲にいる女性達と同様に、深雪を睨みつけるのみ。よく見れば、周りの女性達も瞳が青く輝いていた。

 

「……どうしたんだよ。何かあったのか?」

「ミユキ、ちょっと下がった方がいい。様子がおかしいよ」

 

 グレカーレが深雪の手を引いた。ここにいる者達は全員が何かおかしい。嫌な空気が流れている。

 

()()()()()()は何処」

 

 感情が乗っていない声色で伊203が尋ねる。梅や秋月に見向きもせず、真っ先にこの事態を引き起こしているボスを探すために周囲を見回した。

 しかし、その答えは無い、むしろ、言葉ではなく行動で示してきた。相手が艦娘であることを理解しているにもかかわらず、一般女性であろう者達が襲いかかってきたのだ。まるで、この空間にいられることを拒むかのように。

 

「……仕方ない。こっちも丸腰だけど、向かってきたのはそちらだから」

 

 小さく溜息をついた伊203は、すぐさまそれに対応。同時に何をされても、まるで意に介さないかのように、軽く捌いては膝から崩してから殴っていき、身体に傷をつけないように気絶させていく。

 だが、ここで違和感に気付いた。

 

「……普通の人間じゃなくなってる? 力がおかしい」

 

 それでもちぎっては投げを繰り返しているのだが、明らかに常人とは思えない力を振るっているらしい。そうなると、体術の心得がある深雪達ならまだマシな方だが、普通の艦娘だと対抗が出来ない可能性がある。

 そういう意味では、今ここにいる6人は人選として大正解だったと言える。白雲が少々難しいが、あちらの女性達がいくら強くても、どうとでも出来るはずである。

 

「ストップ、一度引きなさい」

 

 だがここで、女性の1人が声を上げる。すると、立ち向かっていた他の女性達がすぐさま行動をやめ、後ろに下がった。

 どう見ても一般人にしか見えなかったのだが、おそらくこの女性陣を操っているボスがこの女性。

 

「いくら戦っても無意味そうですし、もう少し──」

「遅いのは嫌い」

 

 それがボスだとわかった瞬間、伊203が恐ろしいスピードで前へと躍り出た。狙いは一点、ボス狙い。

 しかし、そう来ることはわかっていたと言わんばかりに動いたのは、睨みつけたままの梅と秋月である。ボスと思われる女性の前に立ち塞がり、手刀を突き立てるように殴りつけた。

 

「っ……」

 

 流石に仲間は殴れないか、他の女性達への行動とは違い、足を止め、その手刀を回避するようにバックステップ。空振りさせることは出来たが前には進めない。下がる瞬間に小さく舌打ちしているのが聞こえた。

 

 深雪達は何が起きているのかがさっぱりわからなかったが、神風は道中で拾った鉄の棒を構えて、この空間全体に対して警戒を強めている。

 

「ありがとう、ウメ、アキヅキ」

「いえ、()()()を守るためですから」

()()()のためなら、身体を張りますよ」

 

 ボスに対しては、仲間に向けるような笑顔を見せる梅と秋月。しかし、その言葉に違和感を覚える。ボスのことを()と呼んでいた。

 梅には姉妹艦が2人いるが、秋月は長女。姉と呼ぶ相手はいない。それに、2人が揃って姉と呼ぶべき相手は誰もいないし見当もつかない。

 

「貴女達の情報は、この2人から全て聞いているよ。うみどりと特異点について」

「……でしょうね。その口振りだと、その子達を洗脳したみたいだけれど」

「洗脳というのは聞こえが悪い。そんな考えは古いよ」

 

 ボスの女性の姿が、まるでバグっているかのようにブレたかと思うと、その本来の姿が表に出てきていた。

 

 黒から白に変化するグラデーションのかかった長髪と、一般人とはかけ離れた白い肌を持つ眼鏡の少女。それならまだ外人であると通せるし、ここにいる白雲やグレカーレがその手段を使って街に溶け込んでいるのだからまだわかる。しかし、見る者が見れば、それが明らかに()()()()()()()()()であることがわかった。

 やけに露出度が高く、上は身体のラインをやたら見せる黒のトップス、下はビキニショーツだけという街中にいたら確実に誰もが振り返るような見た目の女。だが、膝から下は艤装のような装甲に包まれているあたり、ここでも戦うつもりであることが目に見えた。

 

 米駆逐棲姫。それがこのボスの真の姿。これまでは『迷彩』の曲解の亜種のような力で姿を変えていたようである。

 

「テメェ……深海棲艦……じゃねぇな。出洲の仲間か」

 

 深雪のその言葉には反応しない。フンと鼻で笑うような仕草で眼鏡をクイッと上げる。

 

「この子達から聞いているよ。君の仲間には、今の私のような偽装が通用しない目を持つ人がいるんだってね。本当はこの子達も一度帰してやろうと思ったんだけれど、それが出来なくなってしまったよ」

 

 間違いなくイリスのこと。何かされたことであちら側に下ってしまった梅と秋月に、うみどりのことが全て筒抜けにされてしまっているようだ。

 彩を見るイリスの目ならば、米駆逐棲姫の偽装であっても、梅や秋月の異変であっても、全て見透かすことだろう。それを知ったことで、2人をここに置いたままにしている。

 

 ある意味、イリスのおかげでこの梅と秋月を鎮守府内で暴れさせることなく終わっている。それだけは救いかもしれない。

 

「だから、逆に誘き出させてもらったよ。これなら、私の出来ることが思う存分出来る」

「何をやろうってんだこの野郎」

「すぐにわかる」

 

 米駆逐棲姫が指をパチンと鳴らすと、前に立ち塞がる梅と秋月の身体がビクンと震える。そして、次第に恍惚とした表情に。

 

「っは、はぁあああ……」

「私の、()()()姿()にぃ……」

 

 何度か震えたことにより、梅と秋月の姿が変貌する。それは、その後ろに立つ米駆逐棲姫と全く同じ姿。目立つ髪の色も同じように染まり、服装すらも黒のトップスとビキニショーツという同じモノとなった。違うのは、脚に纏うのが艤装ではなくオーバーニーソックスというだけ。艤装は生成出来ないためか、その代わりなのだろう。

 梅と秋月だけではない。ここにいた他の女性も、伊203が薙ぎ倒した倒れている女性も、全てが同じ姿へと変貌した。しかも、倒れていた女性達は意識を取り戻し、当たり前のように立ち上がっている。その全員が、梅と秋月のように恍惚とした表情を見せていた。

 

 米駆逐棲姫の持つ力は、『量産』の曲解。一定の条件によって、対象を自らと同じにする。

 深海棲艦と化しているようなものである上、米駆逐棲姫の実力をそのまま()()()しているため、一般人であっても膂力は通常とは比べ物にならなくなる。元が艦娘であれば尚更。

 

「私の力を宿した()()、特異点を始末するんだ。丸腰の特異点くらいなら、数で押せばどうとでもなるだろう?」

「勿論です、姉さん」

「ウメ達が、特異点を始末します」

 

 変貌した2人が深雪を改めて睨みつける。仲間からの視線に、深雪はあの時──グレカーレが寄生された時のことを思い出してしまった。

 

 自らの意思で出洲に屈し、人間を辞めたような者を始末することには躊躇が無くなった。それは全て、その人間の選択であり、どうにかしない限り仲間が不幸になるからだ。

 だが、自分の意思に関係なくあちらに屈することになってしまった者に関しては、手を出すことが出来ない。グレカーレの時は、それが芝居であること、そして、それに神通がいち早く気付いてくれたことで事無きを得たが、今回はどうにもならない状況。

 

「くそ……どうすりゃいい……っ」

「梅ちゃんも秋月ちゃんも、正気に戻せないのです!?」

「すぐにわかれば苦労はしないんだけどさ、あたしの時とは勝手が違うみたいだよ」

 

 グレカーレも嫌な汗をかき始めていた。対策方法がわからない。米駆逐棲姫本体を斃せば全員が元に戻るかもしれないが、それが正解かはわからないが量産化を施した一般市民を守りにつけることで、伊203にも手出しさせないようにしてしまっている。

 ここにいるだけでも10人以上。それも、強力な力を持っているのに始末をすることは許されない。出来ることなら傷すらつけてはいけない。

 

「今は撤退するしかない」

 

 ここで伊203が英断する。どの選択が一番速いかを考えた結果、このまま戦闘を続行することの方が危険と考えた。

 むしろ、米駆逐棲姫はこちらが無理にでも自分を斃しに来るように仕組んでいるようにも見えた。自分が傷を負ってでも、本体さえ斃せばどうにかなると見せつけているかのよう。

 

「梅と秋月から情報を聞いているなら、私と神風は慎重に行かないとまずい。どちらか片方でも()()なったら、本当の終わり」

「そうね……『力を宿した妹』なんて言っているくらいだもの、何かあったら()()されるってことだものね。最悪、私達でも回避出来ないようなことかもしれない」

 

 あまりにもまずい状況に、神風も一時撤退を選択する。この2人がその選択をしたというのなら、深雪達もそれに乗るしかないだろう。自分よりも明らかに実力を持つ2人が、そうしないとどうしようもないと考えたのだから。

 梅と秋月と同じように、神風か伊203が量産化を施された場合、人並み外れた力を米駆逐棲姫のために振るうことになる。それだけは避けねばならない。そして、そういう存在であることを梅も秋月も知っているのだから、真っ先に狙いを定めるだろう。

 

 撤退したらまず、伊豆提督に連絡。状況を把握してもらって、作戦を練ってもらうしかない。その間に対処出来るなら、安全第一でどうにかする。

 

「……逃げるよ」

 

 伊203が合図を出した瞬間、一斉に全員が後ろへと走る。同時に梅と秋月を筆頭に量産化された女性達が深雪達を追い始めた。

 

「まずは振り切らないといけない。歓楽街から出るよ」

「ああ、それしかないならそうする。まずはハルカちゃんに連絡しねぇと」

「逃がしませんよ特異点」

 

 やはりと言ってはなんだが、量産化を施された一般人より、梅と秋月の方が速い。追いつかれるわけではないが振り切ることは難しそうだった。

 

 

 

 

 これまでとは違う、本体以外は絶対に斃せない戦い。しかも、一般市民まで巻き込んだ、最低最悪の敵。仲間すら堕とされ、深雪は冷静さを保ちつつも、怒りが込み上げてきていた。

 




補足説明として、米駆逐棲姫は24年冬イベE2-2の新規ボスです。続くE3では量産型まで現れる、量産化の申し子。モチーフはフレッチャー級。
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