後始末屋の特異点   作:緋寺

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街を愛する者

 冬月と涼月、そして謎の珍妙な格好をした艦娘、3人の()()()()()の乱入のお陰で、最悪な状況からは脱することが出来た深雪達だったが、量産化を施された仲間達も続々とこの場に押し寄せていた。

 

 鎮守府に向かう路地で数的優位を保ち、最後は全員で押し潰して深雪以外を引き込み、特異点を圧倒的絶望の中で始末しようという策。量産化により手段を選ばなくなった妙高のやり方にしては、圧倒的に粗暴。しかし、()()()()()()という精神的な優位を活かした、現状では最も効率の良い策でもある。何せ、反撃がほとんど無いようなものなのだから。

 現に、深雪達は冬月達が到着する前は拮抗がギリギリ。三隈達が到着した時点では完全に敗北ルートまっしぐらだった。冬月達が駆けつけていなかった場合、あのまま電も白雲も量産化を受けてしまっていただろう。グレカーレは『羅針盤』の曲解のおかげで正気ではあっただろうが、餌食になっていたことは間違いない。最悪の場合、電に絞め殺されていた。

 

 そう考えれば、この乱入は九死に一生を得たようなもの。精神的優位を覆すどころか、最初からハッキリ敵認定して容赦なく攻撃をしてくる者がいると思っていなかった妙高と三隈に落ち度がある。

 立場を利用しようとして、それを逆に利用されたようなものだ。艤装無しでも勝てる相手だと侮ったら、艤装を持ってこられたのだから。

 

 軍港鎮守府の者も手中に収めているにもかかわらず、そこに目が行かなかったのは、あちら側の大失敗。

 元々仲間であっても割り切ることが出来る者というのは、意外と何処にでもいるものである。理性的にも、狂気的にも。

 

 

 

 

 冬月に続き、2台目のオート三輪が戦場に乱入。それを運転するのは、潜水艦勢の苦労人、明石。

 

「運転なんて30年以上やってないんですよぉ!」

「ペーパードライバーじゃない! 冬月は何でこんな人に任せてんの!?」

 

 その明石の運転するオート三輪の助手席には、暁が控えていた。涼月と同じように到着したら降りて艤装を装備する気満々のようだが、それ以上にこの明石の運転にハラハラしていた。

 とはいえ、これだけの暴走行為だからこそ、敵陣に突っ込むことでしっちゃかめっちゃかに出来る。冬月の轢殺に何の躊躇いもない運転ではなく、躊躇いも何も考えることが出来ない必死な運転の方が危ない。

 

 そして、その餌食となるのが案の定時雨である。戦っている位置が悪いというのもあるが、まるで吸い寄せられるようにオート三輪は向かっていく。

 

「……僕に恨みでもあるのかい?」

「時雨はそうなってもお笑い要員っぽい」

 

 珍妙な格好の艦娘が思い切り蹴り飛ばしつつその直線上から退避。逆に時雨はふらつかされたことで走行車線上。

 

「くっ……これだから特異点の仲間は……っ」

 

 轢かれるわけにはいかないと、時雨は体勢を立て直すこともなく地面を蹴って無理矢理回避。

 

 しかし、それが命取りである。

 

「はぁい、この街に蔓延る悪い人は、全員始末しまぁす。あっちをよろしくしていいですかぁ?」

「オッケー。そこのバカ時雨をどうにかしてね」

 

 明石の運転するオート三輪の荷台に、もう1人の珍妙な格好の艦娘がいた。フルフェイスのヘルメットとラバースーツというぱっと見で危ない存在とわかる姿だが、その手に持つのは鋭利なコンバットナイフである。

 顔は見えないが、時雨に対して明確な殺意を持ったその艦娘は、オート三輪の爆走を回避するために転がった時雨に対し、荷台から降りると同時に、その身体にナイフを突き立てようと振りかぶる。

 

「なっ……!?」

「市民にも手を出したんですよねぇ。じゃあ、許しておけません」

 

 突き立てられるナイフは、間一髪で避けた時雨の真横の地面に刺さっていた。その深さたるや、喰らったら確実に死ぬのではという威力。確実に殺すという気持ちが、嫌というほど乗っていた。

 いくら量産化を受けている時雨とて、これにはゾッとした。ついさっきまで特異点側にいたことで、常に訴えかけながら有利に進めてやろうと画策していたのに、情もへったくれも無い乱入者には動揺を隠せない。

 

「君は動揺も何も無いのかい!? 反吐が出るけど、僕は元々君達の仲間だったんだけど!?」

「でも今は敵ですよねぇ。この街を壊そうとする、敵ですよねぇ? なら、死んで詫びるべきなんですよぉ」

「これだから特異点の仲間は! 君、綾波だろう!?」

「だからどうしたんですかぁ? 命乞いですかぁ?」

 

 後から来た珍妙な格好の艦娘──綾波は、地面に刺さったナイフを握り直し、抜きながらも時雨に向けて一閃。

 紙一重のところで回避はしたが、腕に切り傷がついていた。それも自己修復によってすぐに無くなるが。

 

「あらぁ、血の色は赤いんですねぇ。変えられているのはガワだけって感じでしょうかねぇ」

 

 一瞬は残った傷跡からそれを確認することは出来た。今の時雨の、他の量産化を受けた者達の血は赤。つまり、身体は深海棲艦そのものにはなっていないということ。

 爪で刺しただけでだからこれだけなのかはわからない。とはいえ、力は深海棲艦そのものなのだから、油断は出来ない。

 

「さっきのは夕立だろう。まぁ君達はあんな特異点に従うような愚か者だ。こちらに来た方が世界のためだと」

「世界の前にこの街の平和を守るのが綾波のお役目なんですよぉ」

 

 時雨に全てを言わせる前に、攻撃再開。余裕なんて与えず、まるで愉しむようにナイフを振るう。

 

「愚かなのは貴女なんですよ。ここで暴れるだなんて言語道断。そもそも市民を傷付ける輩に平和だのなんだのとやかく言われる筋合いは無いんです。いいですかぁ? この街は、争いも諍いも何もなく、ただ心を休めるための場所。笑いを生み、喜びを分かち合う、素晴らしい楽園でなければならないんです。それを貴女達は、そんなくだらないことで壊そうとしているんですよねぇ。何がお姉さんですか。綾波からしてみれば、ただのテロリストで犯罪者、平和と最も程遠い、ここから消えて然るべき……()()()()です♪」

 

 顔は見えない。声色も変わらない。しかし、明らかに綾波はこの現状に怒りを持ち、その元凶である米駆逐棲姫を消し去りたいと願っている。そして、それに付き従う者はどうであれ罪を持つとまで。それが元々の仲間であろうとも。

 

 綾波はそれくらい、この軍港都市を愛していた。

 

「姉さんを侮辱するのか」

「侮辱どころか、そもそもそんな立場にすら立っていませんよぉ? ゴミクズが人間様に勝てるとお思いですかぁ? 吹かれて散って、何処かに消えるのがオチの、そこにいる理由すら無い存在ですからねぇ。だから貴女も、同じように散っちゃってくださいね。綾波は、この街を愛してくれる特異点(深雪ちゃん)の方が、万倍億倍大好きですから♪」

 

 

 

 

 一方、綾波に時雨を任せたもう1人の艦娘──夕立は、獣のような身のこなしで明石の運転するオート三輪の荷台に飛び乗った。周囲に次々とやってくる量産化された仲間達を蹴散らしながら、神風と伊203を回収するためである。

 

「暁、こっち来れる?」

「無茶苦茶言うわね!?」

 

 しかし、爆走状態のオート三輪の扉を開くと、夕立が引き摺り出すように荷台へと移動させる。その際にも量産化された仲間が近くにいたものの、あまりにも無茶苦茶すぎるために、あちらも迂闊に近付けない様子。暁に爪を立てたくても、オート三輪の暴走は止まらずそんな余裕すら与えない。夕立もしっかり牽制しているのもある。

 

「し、死ぬかと思った……」

「じゃあ艤装装備して、はい、じゃあサポートよろしくっぽい!」

「あ、アンタねぇ!」

 

 やることの一つ目は出来たと、次は明石へ指示。暁は周囲の()に対して確実に砲撃を放っていく。

 暁の主砲に装填されているのは、涼月と同様に水鉄砲。周囲で動揺している()()に対して、それこそ顔面にぶち当たるような精度で撃ち続ける。

 

「近いのはフーミィっぽい! あっちに突っ込んじゃえ!」

「ええい、もう何があっても知らないですよぉ!」

 

 かなり無茶な運転ではあるものの、ペーパードライバーな割にはモータースポーツでもやっていたのかと思える的確な走りを見せる明石。夕立の指示により、オート三輪は爆走を続けながら次のターゲットをタシュケントに決める。

 伊203を拾うという体裁はありつつも、やってることは2人まとめて轢いてしまうというとんでもない作戦である。

 

「ちょっ、何してんのさぁ!?」

 

 タシュケントは大慌てである。伊203の圧倒的な力を自分に引きつけながらも、あわよくば爪を突き立ててやろうと拳を振るっていたが、伊203の実力はタシュケントでは測れるものでは無かった。

 確実に手加減をされているのに、伊203に触れられるどころか、間合いを詰めることすら出来ない。素早さならば自信のあったタシュケントだが、伊203のそれはあまりにも度が過ぎていた。生身だというのに、艤装を装備している者よりも速いのではないかと錯覚するほどに。

 それ故に、タシュケントの援軍として乗り込んできた()()も手をこまねく事になる。ただでさえ空爆が止まない状態もあり、水浸しになりながら前にも進めない。

 

 自ら高次の領域に足を踏み入れた者は、そんじょそこらの艦娘ではどうにもならないのである。互いに艤装を持っていないのならば尚更。

 

「フーミィ! 乗って!」

「ん、ナイスタイミング」

 

 夕立が手を伸ばすと、タシュケントの爪を綺麗に払いつつ足払いをし、華麗にステップを踏んでから車体を避ける。そして軽く跳んだことで夕立の手に掴まり、そのまま荷台へと乗り込んだ。

 

「神風は?」

「次はそっちっぽい! 暁、牽制お願い!」

「滅茶苦茶言うわね!?」

 

 そんなことを言いながらも、オート三輪はタシュケント目掛けて突撃中。途中で急カーブを仕掛けてドリフトし、車体をぶちかまそうとしていた。

 足払いの後の崩れた体勢では、これは簡単に回避することは出来ないため、タシュケントは仲間に強引に引っ張ってもらって辛うじて避けることに成功していた。

 

「な、何をするんだい君達は!」

「ちょっと黙ってて」

「うべっ!?」

 

 憤慨するタシュケントだが、その顔面に水鉄砲を直撃させる暁。こちらも涼月と同様、ついさっきまで仲間だった者であっても、敵対した時点で容赦なく攻撃が出来るタイプの様子。

 そういった割り切りが出来るから、綾波を御せるというのもあったりする。綾波に対して説教が出来るくらいに肝が据わっているからこそ、こういう普通とは違う戦場でも普段通りに戦える。

 

「フーミィ」

「涼月のところでしょ。先に行って牽制しておいて。神風拾ってから向かってもらうから」

「そろそろ運転手のこと視界に入れてもらっていいですかね!?」

「りょーかいっぽい!」

 

 叫ぶ明石を無視して、夕立は走り回るオート三輪から当たり前のように飛び降り、今度は大人数を迎え撃つ涼月の撤退をサポートする。

 

 伊203がその場から消えることが確定したことで、体勢を立て直しているタシュケントは、すぐに触れられそうな涼月を狙うだろう。神風の回収が成功したら長門の方も。しかも、今の涼月はその手広い攻撃方法と容赦ない攻撃で複数人を相手取っているような状況。

 涼月はいつもの見た目のように見えて、制服の下に着込んでいるインナーが夕立や綾波と同様にラバースーツにしてあるため、顔面に直接爪を打ち込まれない限り、量産化を施されることはない。だが、人数で押し込まれると、無理矢理脱がされるなんてことだってあり得てしまう。

 それを避けるためにも、夕立は涼月に近付く者を蹴散らし、荷台がギリギリ限界の冬月のオート三輪の荷台に運び込みたい。

 

「逃げるの手伝うっぽい!」

「助かります。正面のあの方を」

「うわ、那珂ちゃんっぽい。面倒だけど、逃げる時間は作るっぽい!」

 

 涼月の猛攻は相当なモノであり、子日もスキャンプも近付くことが出来ず、舞風と清霜は爆雷を喰らって水浸し。さらには艦載機による爆撃がそこかしこで行われている状態。そんな中でまだそういったダメージを受けていないのは、軍師として一歩引いている三隈と、なんだかんだ誰よりも戦闘能力が高い那珂くらい。増援すら艦載機の爆撃を受けている最中、殆ど無傷という恐ろしさ。

 とはいえ、この涼月の猛攻は那珂ですら攻めあぐねる程のモノ。これが生身か艤装装備かの違い。そして、涼月の容赦の無さ。

 

「わぁ、変態さんかな?」

「夕立が変態なら、那珂ちゃんは痴女だね」

 

 後ろ手に涼月から爆雷を受け取ったかと思った瞬間、それを野球のボールのように那珂に向かって全力投球。艤装のパワーアシストも加えているため、生身では絶対に出ないようなスピードが出てしまっていた。プロ野球の投手ですら出せない速度。

 ただ爆雷を放るだけではなく、スピードを乗せた投擲であるため、那珂であっても回避が精一杯。だが、回避したことで那珂よりも後ろにいた()()の1人に見事に直撃。強化されているおかげで死にはしないし自己修復もするのだが、直撃した瞬間に爆雷そのものが爆発するため、その周囲が一気に水浸しになる。

 

「うぇえっ!?」

 

 ただでさえ水浸しになっていた舞風が、その余波を受けてより濡れることになった。

 ダメージになるわけではないが、この水には何かあると三隈は踏んでいる。そうでなければ、ここまで頻繁に濡らしに来ない。だから三隈は観察するために避け続けてきた。

 

「もう一発ぅ!」

 

 涼月の支援は完璧。もう夕立は目はおろか顔すら見ず、手を後ろに差し伸べるだけで次弾を置いてくれるのだから、やりたいようにやってしまう。

 

 そして、この辺りからあちら側にも異変が起き始める。

 

 

 

 

「あ、あれ……力が入らない……」

 

 最も濡れているであろう舞風が、そんなことを言い出した。

 

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