後始末屋の特異点   作:緋寺

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過酷な戦いへ

 襲撃を受けたものの、その全てを洗浄液によって無力化し、特に力を持つものは気絶させるまで持っていった。そのおかげで撤退はしやすくなる。

 艤装を装備している珍妙な姿の2人(夕立と綾波)は、この場にさらなる増援が来ないかを見張るために一度待機。この後3台目の車両、今回はオート三輪ではなく、今あの現場に倒れている者達を全員収容するための車両が向かっているため、そこに全てを詰め込んだ後、2人はその車両で撤収する。涼月はそこには参加せず、明石の運転するオート三輪の荷台に乗り込み、撤退へ。

 

 先んじて撤退した冬月のオート三輪は、スピードを落とすことなく鎮守府への道のりを爆走中。今は狙われている深雪を鎮守府に送り届けることが最優先。この後また出撃するにしても、まずは鎮守府で万全の準備が必要である。

 

「よし、そろそろ鎮守府だ!」

「お、ああ、わかった」

 

 冬月の声に反応はするものの、その運転の荒っぽさにより、深雪はあまり顔色が良くなかった。電も深雪に掴まりながら俯いているほどである。吐きそうというわけではなくとも、気分は悪そう。

 白雲とグレカーレは深海棲艦の身体だからかケロッとしたもの。体幹が艦娘とは違うのかもしれない。

 

「何度も言うようで悪いが、上だけは気をつけていてくれ。最悪、()()()()()()()()()()()()()()

「それだけは絶対見たくねぇよ」

 

 これも不安要素の一つであるため、冬月が選択する道は必ず大通りである。建物の上から量産化を施された何者かが飛び降り奇襲を仕掛けるなんてことだって充分あり得るのだ。一般市民を使った自爆のような戦術だとしても、あちらには自己修復があるため、相当な無茶も出来てしまう。

 ただでさえ今は夜。正面はよく見えても、上はなかなか見えないモノもある。当然冬月も気をつけてはいるが、それこそ何が起きるかわからない。

 とはいえ、街中で空爆をしていた艦載機が数機、冬月の車両を見守るように追従しているため、上の視線も一応はある。

 

「あの艦載機……誰のだ?」

「君達のところの加賀だ。敵にやられることなく鎮守府にいてくれたのでな。今も手伝ってくれている」

 

 加賀を含む航空戦力、翔鶴と祥鳳は、加賀と共に鎮守府に残ってくれていたらしい。梅と秋月を捜索するとなった時、自らの足で出向くのではなく艦載機を使った上からの視点で探そうと考えていたようだ。結果的に、その3人は確実に量産化を施されていない保証がある存在として、鎮守府から援護をしてくれている。

 現在、深雪達を見守ってくれているのは、まさに加賀の艦載機。夜間戦闘機によって視界も広く何かあったらすぐに連絡が出来るように冬月と通信を繋いでいる。オート三輪に通信設備まで載せているので抜かりない。

 

「……まだ何も終わってねぇよな」

 

 深雪が苛立ちを隠さずに呟く。

 

 あの現場から撤退することが出来たものの、現状は何も変わってはいない。量産化を施された仲間達は、無力化は出来ていても元に戻すことは出来ていないのだ。それに、元凶である米駆逐棲姫は未だにピンピンしているし、そもそも最初にやられたであろう梅と秋月はあの後から姿も見ていない。

 今回の戦いは、仲間達を全員元に戻した上で、憎き米駆逐棲姫を始末することが最終目的だ。しかし、その目的を達成出来る要素が、未だ何一つとして見つかっていない。特に、元凶たる米駆逐棲姫を攻撃したくとも、現段階ではあの廃ビルに再突撃する余裕すら無い。

 

「一度戻ったら、また行くのです。みんなを助けないと」

「ああ、勿論だ。全員救うのが最優先だ。ハルカちゃんだってそう言ってくれる」

「なのです。そのためには、艤装がないとどうにもならないのです」

 

 電も俯いてはいるがこの戦いを終わらせたいと前を向いていた。ここまで嫌なモノばかりを見せられたが、希望は失っていない。不安はあれど、為す術もなく敗北なんて絶対にしないと、表には出さないが沸々と湧き上がっている。

 深雪は怒りと苛立ちが強いが、電は悲しみが強い。深雪と同じ、何故仲間ばかり狙うのだという気持ちを、味方に向けるか敵に向けるかの違い。

 

「よし、見えたぞ!」

 

 冬月の声で、全員が荷台の上から正面を見た。そこには、念願の鎮守府。よく見れば、伊豆提督とイリスの姿も目に入った。その後ろには、この艦載機を飛ばしている加賀達空母隊の姿も。

 

「やっと戻ってこれたねぇ。カガからも連絡無かったってことは、鎮守府に誰か差し向けるなんてことは無かったってことかな」

「そうだと思いたいですが……いえ、今は戻れたことに安堵致しましょう。ここからが、本当の戦いなのですから」

 

 白雲の言う通り、鎮守府に戻ってこれたら終わりでは無い。むしろここからが始まりだ。これでようやく敵と同じ場所に立てたに過ぎず、それでも仲間を人質に取られているようなもの。

 ただ撤退するだけのこれまでとは違う、()()()()()()()()をどうにかする手段を考えながらの戦い。量産化が不可逆だったとしても、諦めるわけにはいかない。

 

 

 

 

「よく戻ってきてくれたわ! 大丈夫だった!?」

 

 鎮守府入口に急停止したオート三輪から深雪達が飛び降りると、伊豆提督が抱き締めそうなくらいの勢いで駆け寄ってきた。それだけでも、やっとここまで戻ってこれたのだと実感が湧く。

 

「あたし達は何もされてない。あとは神風とフーミィが後からの車で戻ってくる、と思う」

「あちらからも連絡があったわ。明石ちゃんの運転で、大急ぎでこちらに戻ってきてる。あと、護送車も現場に到着してるわ」

 

 その護送車を扱っているのは、調査隊一同。昼目提督が運転をし、神通を筆頭に倒れた仲間達を次から次へと荷台に運び込む。洗浄液が通用することがわかっているため、それを併用しながらの作業。

 調査隊一同も、当然ながら艤装を装備している。また、制服の下にラバースーツも完備。爪で刺されないように、万全の対策をした状態。

 

「マークちゃんからは常に連絡を貰いながら進めているけれど、今のところはあちらにも何も起きていないみたい。今は様子見されているのかもしれないわね」

 

 仲間をあれだけ嗾けられたが、それを容赦なく対処したことに対して、あちらも多少は危機感を持っているのかもしれない。

 

 しかし、あの場に誰にも気付かれずに監視をしていた者がいたことは、誰も知らなかった。空母隊の3人からも見えない場所、死角を渡り歩いて米駆逐棲姫の元へと戻っている。

 今頃は、あの戦場の情報を取り入れて、次の策に出ようとしているところだろう。

 

「あたし達はどうすりゃいい。こんな言い方したくねぇけど、戦力になれるの、あたし達くらいしか……残ってないよな」

「……そうね、残念ながら」

 

 うみどりと潜水艦勢の面々で残っているのは、今深雪達も把握している者以外は、鎮守府で待機しているカテゴリーYとセレス、それと戦力にならないと自ら一歩引いている丹陽くらいである。その丹陽もどちらかといえば渋々。夕立に説教した手前、自分が暴走するような真似は()()()()出来ないと自重している。

 その夕立も、丹陽から説教されていなかったら、梅と秋月の捜索に参加していたはず。説教が半日続いたわけでは無いのだが、鎮守府で反省させたことが功を奏していた。夕立まであちら側だったら、こうも上手くいっていなかったかもしれない。

 

 また、軍港鎮守府の面々も一部があちら側に行ってしまっている。基点となっているのは、歓楽街の監視をしていた艦娘。それが未だに戻ってきておらず、今は街中の艦娘を全員量産化の餌食に遭わせていると考えられる。

 綾波と暁がまだ味方でいてくれているのは、これも夕立と同じ理由。暁が綾波を説教し、そのまま昼も反省の意を込めて鎮守府で待機させていたのが功を奏した。夕立以上にあちら側に行かれたら困る存在である綾波が味方なのは、本当に助かっている。

 

 軍港鎮守府所属の艦娘は、念のため現在外に出ないようにされていた。短時間ではあるが、イリスによってチェックされ、彩に変化がないことは確認されている。

 彩に影響があるかどうかはわからないものの、これまでの情報から、量産化と穢れに密接な関係があり、姿形が深海棲艦となっている以上、何らかの変化があってもおかしくはないため、ひとまずは安心出来ることではある。

 これによって判明しているのは、これを真とした場合、軍港鎮守府の艦娘が量産化を施されたのは今日が初めてであり、米駆逐棲姫が活動を始めたのは今日からと考えるのが妥当。

 

「アナタ達のスーツももう準備はしてあるわ。また向かうなら、絶対に着ていってちょうだい。それだけでも、爪の餌食になることはなくなるでしょうから」

「ありがてぇ」

 

 深雪達にもう一度出撃させなければならないのは悔しいものの、頼らざるを得ないというのもある。軍港鎮守府の艦娘達にも手伝ってもらっているものの、あちらはあちらでやらねばならないことが多い。夜間哨戒もあれば、この軍港都市の治安を守るための活動も並行してやる必要があるのだ。

 そのため、米駆逐棲姫についてはうみどりの面々と志願者──綾波と暁がメインとなって片付ける。当然、この街には傷をつけないように、細心の注意を払って。

 

 しかし、それがすぐに出来るとは限らない。艦載機を飛ばしている加賀の表情が歪む。

 

「……手薄なところを狙ってきたわね」

 

 綾波や夕立が出払い、神風や伊203がまだ戻ってきておらず、特異点が鎮守府に到着したこのタイミング。最も守りが薄くなっている状態。そこに狙いを定めて、新たな軍勢が鎮守府へと近付いてきていると加賀は伝える。

 こうなるともう、死角をついて向かうなんてことすらしてこない。正面からこちらに向かってきている。まだ深雪達は艤装を装備出来ていないというのに。

 

 その他の艦載機からも連絡が来ていた。明石の帰路を遮るように、量産化を施された艦娘や一般市民が立ち塞がっているようで、そのことごとくを暁がヘッドショットで黙らせているとはいえ、明石に轢き逃げするほどの度胸はなく、どうしても遠回りをさせられているらしい。離れてはいないが、近づくことも出来ないという絶妙な時間稼ぎ。

 

「加賀ちゃん、誰が来ているかはわかるかしら」

「梅よ。秋月と米駆逐棲姫はいないみたいだけれど、艦娘をそれなりに連れてきているわ」

 

 これまで姿を見せていなかった梅が、このタイミングで姿を現して攻撃に参加しようとしていた。

 確かに今の鎮守府に残っている戦力は、軍港鎮守府の面々が一部というところだ。当然それを全てつぎ込めば、梅を圧倒することは不可能では無い。あちらはスペックアップはしているものの、艤装を装備していない生身だ。対してこちらは、艤装を装備した万全の状態で迎え撃てる。

 

 だというのに来るということは、何か策があるということに他ならない。これまでの精神攻撃に特化している行動から考えるに、今回もそれが根幹にありそうではあるが、間違いなく不利な状況であっても覆すことが出来る何かを持っているということか。

 

「加賀ちゃん、すぐに空爆。梅ちゃんは()()()()()としているわ」

「わかってるわ。もう指示は出してる」

 

 ここで近付かれるのはまずい気がした伊豆提督は、せめてもの時間稼ぎとして空爆を指示。その間に深雪達に艤装とスーツを装備してもらい、迎撃の態勢を作り上げる。何かあったとしても、艤装さえ装備しておけば、ある程度は対抗出来るはずだ。

 

 

 

 

 ここから再び過酷な戦いが始まる予感があった。

 

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