後始末屋の特異点   作:緋寺

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後押し

 敵になってしまった梅から、こうなったのはお前のせいだと言われ続けていた深雪は、そんなわけがあるかと思いながらも、ほんの少しだけでも、実はそうなのではないかと思い始めてしまっていたのはあった。

 ただ攻撃を受けているだけならば、そんな言葉も世迷言だとスルー出来ていた。自分が被害を受けるだけならば、突っぱねることが出来た。仲間達が共に戦ってくれているのも、この戦いをどうにかするために協力していると考えることが出来たからまだマシ。

 しかし、この場所が破壊され、非戦闘員であるイリスが傷付いたことによって、()()()()()がどうしても出てきてしまっていた。自分がここで戦っていなければ、イリスが傷付くことはなかったかもしれないと、そんなことを思う必要がないのに思ってしまった。実害が出てしまっていたのだから。

 

 周りがそれを虚言だと言い、自分でもその通りだと言えても、心の何処かでは本当にそうなのかと、自分の存在にすら疑問を持ってしまっている。自分でもよくわからない特異点という存在であるせいで、本当に迷惑をかけてしまっているのではないかと。

 そもそも特異点とは何なのだという疑問もあるのだから、そんな()()()()()()()()()()は人間にとって善の存在なのか悪の存在なのかも見当がつかない。自分は一体何なのかという疑問すら浮かんでしまいそうだった。

 

 だが、梅を論破していく冬月のおかげで、深雪は自信が取り戻せそうだった。梅が盲目的に深雪を悪だと論じているのが丸わかり。その理由が全く出てこない。納得の行く説明が返ってこない。

 悪だ悪だと罵ってきた者が、それが上っ面だけであったことがわかったことは、深雪のメンタルを大きく変えようとしていた。

 

「……ヒトのことをさんざん悪だの迷惑だの言ってくれたけど、その理由が言えねぇのかよ」

 

 怒りを通り越して、呆れていた。冬月の言葉に対して、()()梅が言い返せないところからして、本当にただただ感情的に特異点という存在を批判しているだけの者に()()()()()ということが透けて見えた。

 

 量産化を施されるということは、その元になった者と同じになるということ。米駆逐棲姫を量産しているのだから、考え方まで同じにされていてもおかしくはない。

 今の梅は忌雷によって深海棲艦化してしまっているが、まだ米駆逐棲姫のことを姉と呼んでいるところからして、量産化の影響をモロに受けたままと考えられる。その上で特異点批判をしているのだから、その思考は米駆逐棲姫と同じと考えてもいい。

 つまり、米駆逐棲姫自体も、ろくに理屈もなければ説明も出来ないのに、特異点だからという理由で深雪を狙い、周りの迷惑も省みない存在であるということ。

 

 そんな奴らのために、自分が傷付く必要があるのかと自問してみれば、答えは否だ。まともな論法も持ち合わせていない者の発言など、気に留める必要すらない。伊豆提督が言う通り、虚言だ。

 

「答えられないという時点で、君はもう正義では無くなった。つまりは、この街を荒らしているだけのテロリストということになる。こちらには反論はあるか」

 

 冬月の言葉はまだ続いた。先程までの梅の言動──反論もなく苛立ちを顔に出していたことで、冬月は今の梅をテロリストとして認定している。

 平和のために行動していると言っている者に対して、これ以上ない屈辱を与える言葉。故に、梅はより一層怒りを露わにする。

 

「真に必要なこともわからない愚か者だから、貴女は梅達のことをテロリストだと思ってしまうんですよ。無知な者には、正しいことを教えてあげなければなりません」

「ほう、正しいことか。ならば、その正しさはどう決まっているものなんだ。まさかそこも感情論では無いだろうな。自分が正しいと思っているから正しいなんて、今時道徳でも習わん。子供でもわかる我儘だぞ」

 

 冬月の声色は何も変わらない。常に梅を見下し、何を言ってもしっかりとした反論をぶつけるだけ。

 それがもう気に入らないのだろう。言葉を切り上げ、梅は主砲を冬月に向ける。

 

「いいのか? 言葉に言葉を返さず、暴力で返すということは、私は間違ってましたと行動で示すようなものだ。暴力による言論統制なんて、わかりやすいテロだろうに。それを君自身が証明するのか」

「馬鹿は死ななきゃ治らないと言うでしょう。この正義を理解出来ない愚か者は、死を以て償ってもらうことにします」

「なるほど、確かにわかりやすい」

 

 くははと冬月は笑い、叫ぶ。

 

「深雪! 君の正義は証明されたぞ! 特異点はこの世界に無ければならない存在だ! 何も気にすることはない、君が正義で、奴らが悪だ! やられたことは、()()()()()()()!」

 

 冬月の叫びは、深雪の心に大きく響いた。特異点という存在は間違っていない。それを、このやりとりで全て証明してくれた。

 ただそれだけで、深雪は力が湧いてくるように感じた。あまりにも強い後押し。存在の証明を言論だけで成立させてくれたことが、深雪は泣きそうなくらいに嬉しかった。

 その後押しは、ここまで徹底的に痛めつけられていた深雪の心を癒やしてくれる。そしてそれは実際に()()()()()()

 

「……深雪ちゃん」

 

 最初に気付いたのは、深雪では無い。手を重ねていた電。その手に力が入ったこと。そして、()()()()()()()()

 

「いい加減、その愚かな口を噤んでくれますか。貴女の高圧的な物言いも聞き飽きましたよ」

「そっくりそのまま返してやろう。今自分が高圧的に話をしていることがわかっていないのか。君は鏡というモノを知らないようだ」

「減らず口を。貴女のような者がいるから特異点がつけあがるんですよ。まずは貴女を始末してあげます」

 

 梅はもう止まらない。特異点を始末するよりも、目の前で全てを否定した冬月を消すことの方を優先した。

 

 冬月も持っているのは水鉄砲。どれだけ砲撃したところで殺傷能力はなく、避けなくても梅が不利になることはない。衝撃はあれど、ただそれだけ。

 対する梅は、一撃があまりにも重く、直撃しなくても命を奪うことが出来そうなほどの威力。さらに、戦場が戦場だけに、避けたところで街の一部が破壊される。避けたら避けたでお前のせいだと罵ることが出来る、徹頭徹尾梅に有利な現状。

 

 だが、戦場にいるのは冬月だけでは無い。

 

「何しようとしちゃってるわけ?」

 

 動き出したのは、グレカーレ。修復が完了した剛腕も使い、その砲撃を阻止するべく突撃していた。

 主砲そのものを破壊してしまえば砲撃は出来ない。そしてそれが出来るのは、直接的な攻撃が可能なグレカーレ。

 

「見てわかりませんか。貴女達に後悔させてあげようとしているんですよ」

 

 避けられない程に接近したことをいいことに、梅は咄嗟にターゲットを冬月からグレカーレに変えた。この距離、ほぼゼロ距離ならば避けられまいと。

 

「バカだねぇ。本当に」

 

 しかし、グレカーレもそうされることは予想済み。狙いが梅ではなく主砲なのだから、自分の方に向くのも考えてこの距離まで詰めている。剛腕で届く位置まで。

 

「あたし達に最初から後悔なんてあるわけないでしょ」

 

 故に、その剛腕で主砲を()()()殴り飛ばす。砲撃は放たれたが、それはグレカーレでも街でもない、遥か彼方の空へと撃ち放たれた。砲撃の衝撃に襲われてグレカーレは顔を顰めるものの、僅かに含んだ笑みは崩さない。

 

「自分で選んで特異点(ミユキ)についてるんだから。その選択に後悔なんてない」

「そうですか。なら後悔を知らずにここで死ねばいいですよ」

 

 主砲は弾かれたものの、まだもう片方の手は空いている。すぐさまグレカーレの剛腕に触れたことで、主砲を殴り飛ばした方の腕は即座に解体。またもや肘から先が千切れ飛んだ。

 だが、同じことを二度も三度も喰らうようなグレカーレではない。逆側の剛腕で千切れ飛んだ腕の先をキャッチした瞬間、梅の艤装に接続されている大型魚雷に叩き付けた。

 腕を破壊してそのままグレカーレを絞めようとしていたようだが、その魂胆が根底から覆される。

 

「なっ」

「再装填出来てるんだろうけど、撃たせないよ。今のアンタ、自棄になってぶっぱなしそうだったからね」

 

 衝撃によって魚雷は破壊される。しかし、当然ながら破壊の仕方が乱暴であったため、その場で大爆発を起こすことになる。こんな身近で魚雷が爆発したら、艤装だってひとたまりもない。グレカーレのもう片方の剛腕も木っ端微塵に破壊され、梅の艤装は根本から粉々に砕け散った。

 本体だって影響を受けないわけがない。グレカーレは身体の前面を、梅は背中を大きく焼かれ、衝撃で吹き飛ばされる。

 

 しかし、互いに自己修復持ち。焼け爛れた肌もすぐに修復が始まる。グレカーレも幸い基部がやられるようなことが無かったため、まだ力は発揮出来る。

 

「グレカーレ様、少しだけでも痛みを」

Grazie(ありがとう)、シラクモ。火傷だから冷やされるの気持ちいいよ」

 

 その修復の間の痛みを緩和させるため、白雲が冷却の力を使って身体を冷やした。今は攻めるよりもこちらでサポートに回った方がいいとその場で判断して。

 深雪には電がついている。自分はそこに加わる必要はない。だから、間接的に深雪が望みそうなもの、仲間の無事を優先する。

 

「この……っ」

「傷口に染みるわよ」

 

 苛立ちをもう隠さない梅に対して、次の一手、いや、()()を放ったのは、加賀達空母隊である。多少怪我を負っていても、弓が壊れていないのだから攻撃は可能である。

 翔鶴も祥鳳も、加賀に倣って躊躇なく矢を放つ。本当なら梅の額を貫くくらいしたかったが、それではダメだ。こんなカタチであっても、仲間を失うわけにはいかない。

 

 そのため、命中するギリギリで矢が艦載機へと変化し、ぶち撒けるように洗浄液の爆撃を放った。

 いくらそれが水風船だとしても、一斉に直撃したら、その衝撃で足下がぐらつく。その上、修復中の傷に洗浄液が染み込み、少しだけ動きが鈍った。

 

「意味のないことを……!」

「あるわよ。私達がこうしているということ自体に意味がある」

 

 加賀達が見せたいのは攻撃の意思ではない。深雪に味方する意思。

 

 ここにいる誰もが深雪を後押しする。誰も梅の虚言を信じる者などいない。特異点の存在に間違いはないと、心の底から信じている。

 

「みんなが、深雪ちゃんを信じてくれているのです」

「ああ……あたしはここにいていいんだな」

「当然なのです。深雪ちゃんが悪いわけがないのです」

 

 最後は電の言葉で、深雪はもう後ろを向かなくなった。

 

 

 

 

 煙は、より強く、より濃く漂い始める。電もそれを心地よく感じていた。

 

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