後始末屋の特異点   作:緋寺

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最強の裏方

 深雪と電のコンビプレーによって、梅は治療され、艦娘としての姿を取り戻すことが出来た。しかし、イリスの目で見た時、そのカテゴリーはCではなくW。深雪や電と同じ、特異点の彩となっていた。

 また、姿は元に戻せてはいるが、今は気を失っているためわからない部分、心への影響が掴めていない。これまでのやらされていた悪行を省みたことで、心が耐えられない可能性もあれば、その記憶すら失われてしまっている可能性もある。

 

「さて、ひとまず梅ちゃんは鎮守府の部屋に運んでおくわ。あとグレカーレちゃん、着替えてきなさい」

「あー、これ? そだねぇ、寒いもんね。ほーら、ヒーラヒラ」

「遊んでるんじゃないの。身体はもう傷はない?」

「自己修復がしっかり効いててね、もう痛くも痒くもないんだよね。服ごと治ってくれればいいのに」

「本当にね。こういう時にアタシはこの場にいづらいもの」

 

 この戦闘によって、梅は確保され鎮守府で保護。グレカーレはボロボロになった服を着替えるために少し時間を使う。未だに戦力は少ないまま。1人削れるだけでも厳しくなるため、グレカーレの着替えの時間だけ休憩として、それが終わり次第、また軍港都市へと繰り出すことになる。

 

 今回の戦いは、軍港都市に侵入した米駆逐棲姫を斃すことによって終わりになる。今は梅が敵の使者として襲撃をしてきたものの、本来どうにかしなくてはいけないのはあちらだ。

 最後に見たのは歓楽街の廃ビルだが、今頃は移動していると考えた方がいい。勿論そちらを見には行くが、もぬけの殻となっている可能性の方が高いだろう。

 

「イリス、怪我の方は大丈夫?」

「骨とかが折れているわけじゃないからまだマシね。大分汚れてしまったし、そこら中が痛いけれど」

 

 それともう一つ。米駆逐棲姫は一般市民に化ける能力も持っている。軍港都市がやすやすと奴を侵入させたのは、それが原因。

 それを完璧に判別出来るのは、今この場、下手したらこの世界に、イリスしかいない。そしてそのイリスは、先程の戦闘で負傷してしまっている。

 

 服は至るところが破れ、ところどころ生々しい傷が見え隠れ。綺麗な顔にも擦り傷が出来てしまっており、爆風に煽られたこともあって髪の先端も焦げてしまっていた。

 そういうところから、今回の戦いで一番大きな被害を受けてしまったのはイリスだと言える。本当はグレカーレなのだが、本人は自己修復によってピンピンしているので、そんな感じはしない。

 

「あ、あの、イリスさん、応急処置するのです」

「あぁ、確かにそうね。電、お願いするわ」

「なのです。痛いところがあったら教えてくださいね」

 

 そういうと、電はマルチツールの中を確認する。艤装に接続された盾の裏側に備え付けられている艦艇修理施設。そこには、艤装を修理するシステムだけで無く、()()()()()()()()()()()()も少量だが格納されていた。

 出来ると言っても消毒と止血くらい。本当に多少の怪我ならその場で治すよというレベル。そもそもの艦艇修理施設が小破までしか直せないというのもあり、こちらも治療に限度があるということである。

 

 今回のイリスの怪我は、骨が折れたりしているような重傷ではない。自分の足で歩くことが出来るため、軽傷といえば軽傷。艦娘で言えば、小破と言ったところ。そのため、電でも応急処置が出来た。

 

「イリスも休んだ方がいいわね」

「いや、私も行くわよ。私にしか米駆逐棲姫が判別出来ないんだもの。危険かもしれないけれど、どうにかするわ」

「そうは言っても、街中でも砲撃をしてくるような輩よ?」

「わかってる。でも、姿()()()()()()()()()()()()。見てそこにいることがわかるんだもの」

 

 戦標船改装棲姫との戦いを思い返しているようだが、今回はそれどころではない。姿は確かに見えているが、イリスが量産化されたら真におしまいである。ここからの敵は、全員がその力を持っているようなものなのだから、イリスにとっては危険極まりない場所になる。

 深雪と電の力によって、何かされても元に戻れるかもしれないが、それを過信しすぎたら確実に悪い方向に行ってしまう。ただでさえ、あちらには既にイリスの情報さえ行ってしまっているのだから、特に守らねばならない存在。

 

「悪い、こっちも手間取った」

 

 そんなことを話している内に、鎮守府から保前提督も現れる。少々顔色が悪く見えるのは、現状に胃を痛めているからであろう。

 保前提督だけでは対応しきれなかった部分は、今回も提督から離れなかった能代も手伝っており、ようやく表に出ることが出来たらしい。

 

「……くそ、とんでもないことしやがって。音はずっと聞こえていたからな、魚雷でもぶちかましやがったのか」

「ええ……トシちゃんは何を?」

「んなもん、街の全員に通達していたに決まってるだろ。今の状況で市民が外に出てきたら、お前達の邪魔になるだろうが」

 

 戦闘に気を取られていて全く気付いていなかった深雪が、保前提督の言葉でハッとなった。深雪だけではない、伊豆提督ですらああと手を打つ。

 

 夜と言っても、今の時間はまだ就寝時とは言えない。子供でも起きていてもおかしくない時間帯である。そんな時間に街中でこれだけの音がしているのだ。そういうところに野次馬が湧いてきてもおかしくない状況。老若男女誰だって、何が起きてるんだと家から出たり、窓から外を眺めたりするものである。

 だが、これまで一度もそういう者を見ていない。外にいる一般市民は全てが米駆逐棲姫からの量産化を施されている者であり、それ以外は全員、家の中に引きこもってくれている。冬月や明石がオート三輪で暴走していても、それを咎める者もいなければ、好奇心で出てくるような者もいなかった。

 

 それは何故か。既に裏で保前提督が手を回していたからである。

 

 この軍港都市は港ということもあって、深海棲艦からの襲撃を受ける可能性が無いとも限らない場所だ。砲雷撃戦の流れ弾が飛んでくる可能性も無くはないし、空襲が街まで流れてくる可能性だって無くはない。安全性は勿論徹底的に確保しているものの、万が一を考えたらいくら準備をしていても足りないくらいである。全ての店舗、市民の家屋に、地下シェルターが備わっているレベルであり、家や店が戦いによって潰されたとしても、鎮守府、延いては国からの補償が約束されているのである。

 今回はそれを活かして、保前提督が軍港都市内の全ての住民に対して緊急警報を出していた。夜に深海棲艦が発生し、居住区や繁華街、歓楽街に至るまで、侵入してくる可能性を伝えている。この軍港都市に住まう者の家屋には、その全てに鎮守府から一方的に連絡が出来るようにスピーカーを備え付ける義務があるため、それを聞いたら何も文句を言わずに地下シェルターに避難するように命じてあるのだ。

 これを無視して外に出て、万が一怪我をした、命を落としたとしても、それは自己責任。やめろと言ったことをやっているのだから、再三忠告しても無視した者に責任がある。補償もその時点で打ち切りになり、艦娘の行動を邪魔したものとして怪我をした側が罪に問われるまであるため、住民は素直に言うことを聞く。

 

「悪いが、今回の件は住民に全部話している。そうでもしないと納得しない輩が出てくるだろう。ただでさえ、一部の住民に被害が出てるくらいだ。そこの説得もした。嘘偽りなく納得してもらうためにな」

 

 既に量産化を施されたせいで家にいない者もいただろう。そういう者達に対しては、実際に鎮守府に連絡させ、全てを包み隠さず話している。今回の深海棲艦は異常な力を持っており、市民であっても人質にするほどの知性を持ち合わせているのだと。

 普通ならそんなことを言われても納得出来ないだろう。だが、それで住民の全てが外に出てこなくなり、何も文句も言わないのは、ひとえに保前提督の努力の結果。全住民から信頼を得ているというのは並ではない。

 前回の失態──長年地下施設に気付くことなく、最終的には港での戦いに発展してしまったことも、保前提督は全て話している。非難も受けたが、住民に一切被害が出ていないこと、また、その誠実な態度で、信頼を勝ち取っているおかげで、大多数の住民が保前提督を擁護し、今の立ち位置から変わることがなかった。嘘をつかないという最も大きな信頼の得方をしているのが、この時も有効だった。

 

 それ故に、いつも胃を痛めているのかもしれないのだが。今日ももう胃薬を飲んできているくらいである。

 

「これが終わったらまた全部話すことになるだろうが、それは責任者である俺が全部やっておくから安心してくれ。むしろお前達には、この街を無茶苦茶にしたクソ共を頼みたい。まだまだ鎮守府はやることが多い」

 

 少なくとも住民の安全を確保したため、戦いもある程度は好き勝手やってもいいという保証を与えた。勿論、なるべく建物は壊さないでもらいたいという気持ちはあるが。

 

「ハルカ、一応俺がここの責任者だから、お前の行動も俺の指示に従ってもらうことになるが、よかったな」

「ええ。トシちゃんなら間違った選択はしないでしょ。大丈夫よ」

「なら話が早い。お前はイリスと鎮守府で待機。始末をつけるのは艦娘に任せろ」

 

 伊豆提督は頷くが、イリスはすぐに納得は出来なかった。

 

「イリス、まずお前は納得しろ。目はお前にしかないかもしれないが、それが無くなった時のことを優先するべきだろうが」

「でも」

「デモもストも無いんだよ。その代わり、お前にはやってもらわないといけないことがある。ハルカと一緒に鎮守府で街の中を全部見える場所を紹介してやる。お前の目はカメラを通して見ることが出来たよな」

「敵の迷彩はカメラも誤魔化すのよ」

「じゃあ試してみろ。ほら」

 

 こんなこともあろうかと、保前提督はイリスにカメラを渡した。都合がいいことに、今ここには洗浄液で無力化した()()が力無く寝そべっている。

 それをカメラ越しに見てみると、裸眼で見た時と同様、カテゴリーCの上に薄くRが重ね塗りされた、疑似的なKになっていることがわかった。

 

「おい、お前ら。一度姿を変えてみろ。俺達を騙すための姿にだ。出来るんだよな」

 

 そんな()()に近付いた保前提督が高圧的に言い放つ。当然、今は敵対しているのだから素直に言うことを聞くわけがない。

 

「姿を変えろ。今すぐにだ。早くやれ」

 

 だが、元々は保前提督が管理している艦娘だ。保前提督が相当怒りを持っていることは明らかであり、()()()()()()を理解しているせいか、数人がビクリと震えた後、渋々姿を艦娘に変えた。偽装状態であり、彩で見なければ間違いなく騙される見た目。

 

「イリス、どうだ」

「……彩の変化は無いわね。疑似的なK……塗り潰されていることがわかるわ」

「こいつらがそうということは、元凶の米野郎も同じってことだよな。元凶の量産型なんだから。つまり、住民に化けてたとしても、カメラ越しでもお前の目でわかるってことだ」

 

 ならば、わざわざ進軍する者に紛れて危険を冒す必要はない。そもそも応急処置を受けなければならないくらいの怪我をしているのだから、歩けるにしても行かせるつもりは無かったようだが。

 イリスもそこまで言われ、かつ軍港都市のトップに言われてしまっては、それ以上反発は出来ない。伊豆提督も納得しているのだから、それに従う方向で落ち着いた。悔しそうではあったが。

 

「それと、だ。向かうならまず全員戻ってきてからにしろ。忠犬も戻ってきてからだ。その間に休憩しておけ」

「そうね。一度纏まってから、ちゃんと作戦を立てた方がいいわね」

「時間はかけていられないけどな。今こうしている間に、米野郎だけは逃げ果せているかもしれない。それこそ、うみどりの何人かを()()()()してだ」

 

 梅を囮にして、特異点を始末することよりも先に一度逃げることを優先している可能性はある。そうされるのが一番厄介である。

 

「歓楽街にいたっつってたな。そこから軍港を出るなら、港に向かうか、陸側の入門口に行くしかない。だったらまだ時間はあるだろう。この街もそれなりに広いからな。簡単にはやらせないぞ。加賀達を一時的に借りていいか、目星がついている場所に艦載機を飛ばしてもらう。それに、基地航空隊も出してやる。絶対に逃がさない」

 

 米駆逐棲姫を徹底的に追い詰めるため、()()()()()が動き出す。街全土を戦場にした報いを受けさせるために、出来る手段を全て使って。

 

 

 

 

「いい加減、胃が痛ぇんだよ。この苛立ちを全部ぶつけてやるからな」

 

 物騒なことを言っているようだが、それは街のことを考えてのこと。これが軍港都市のトップであり、住民の信頼を集める者。

 

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