後始末屋の特異点   作:緋寺

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反撃に備えて

 少なくとも被害を受けていない者達が鎮守府に集結。取っ捕まえた量産化を受けた者達は鎮守府外の壁に置かれ、定期的に洗浄液をぶちまけられることで無力化を延長されることになっている。

 その大事なお役目を貰ったのが、調査隊の子供達、海防艦の3人である。軍港鎮守府から提供される、普通ならば無害な洗浄液入り爆雷──水風船──を時間になったら投げつけるというとても簡単な作業。しかし、子供達は夜の仕事を与えられたことでテンションがMAXである。

 昼目提督は伊豆提督からさんざん言われていたため、健康にはかなり気をつける。そして、海防艦の子供達には、早寝早起きを徹底しており、今のこの時間は既に就寝時間なのだ。それなのに、今回は()()()()()()()が可能。楽しくないわけがない。

 

「すきゃんぷぅ、悪いことしたら、()()()()でっすー」

「て、テメェ、いい加減にふべっ!?」

 

 文句を言おうとしたスキャンプの顔面に、第四号海防艦が水風船を投げつけた。子供にしてはなかなかのコントロールで、綺麗に顔面に直撃した後に破裂。目から鼻から洗浄液が入り込み、痛いやら力が抜けるやら酷いことになっていた。

 妹にされたとしても本質は変わらず、子供が苦手であることはそのまま。それもあってか、一番喧しかったスキャンプの()()()、海防艦を配備したと言える。

 

 むしろ、昼目提督の意地の悪さが出ており、子供に御される屈辱を与えて後悔させるという手段を選択していた。伊豆提督は溜息をついたが、保前提督はケラケラ笑っていいぞもっとやれと煽るほどであった。

 

「変なこと考えちゃダメだよー」

「ごめんなさい、みと達のお役目ですので」

 

 第四号海防艦と同じように、第二十二号海防艦や第三〇号海防艦も定期的に水風船を当てることでしっかりと無力化。ブーイングを黙らせる程のコントロールで、最終的には誰も何も言えなくなるのであった。

 

 だが実際、海防艦達も心を痛めてはいる。ついさっきまで仲良くしてくれた者達が、突如敵に回っているという事実は、少なからずショックを受けている。

 だが、そこは3人とも艦娘、しかも調査隊の一員だ。子供ながらに気丈に振る舞い、苦痛を隠して作業をしていた。この水風船の仕事も、やるかと言われた時に()()()()()()()()()()

 

「無力化がいつまで続くかはわからねぇ。念入りに濡らし続けておけよ。何かあっても、オレは鎮守府防衛でココにいるからすぐ言えよ」

「はぁい、マークのあにき、よつたちに、お任せでっすー」

 

 第四号海防艦がビシッと敬礼。こういうところは子供であっても艦娘としてしっかりしていた。

 

 

 

 

 深雪達は一時的に休憩。こうしている間にも米駆逐棲姫が軍港都市から逃げ果せようとしているかもしれないと思うと気が急いてしまうものだが、深呼吸をして気持ちを落ち着かせつつ、こういう時こそとセレスが軽食を用意。甘味で疲れを取り除く。

 

「神風、大丈夫か?」

 

 そんな中、少々心配なのが神風。ここまでの撤退で消耗した体力をこの休息で少しでも回復するため、深雪達と同じように甘味を摘みながら身体をやすめていた。

 顔色が悪いとかそう言ったことは無い。しかし、生身の状態で動いているにもかかわらず、鉄の棒で風を起こしたり、高速で動くオート三輪に飛び乗ったりと、かなり人間離れした技をいくつも披露していた。いくら艦娘になる前から人間を辞める程の鍛え方をしていたとしても、今回はかなり無茶をしているのが深雪からしてもよくわかる。

 それに、艦娘として艤装を装備した状態であっても、あまり無理をしすぎると翌日に響くのが神風だ。今回は響くことが確定。なんなら、今回の件が何事もなく終わったとしても、明日はガタガタで丸一日を寝て過ごすことにもなるだろう。

 

「大丈夫よ。いきなりガス欠なんてことは無いわ。すこぶる快調とは言えないけれど。それ言い出したら貴女達もでしょうに」

「まぁ、確かにな。撤退戦もしてるし、ここでも戦わさせられてるわけだし、疲れはあるぜ。でも、まだ救えてないみんなを救わねぇと」

「なら私もよ。みんなを救うために頑張らないとね」

 

 自分の身体のことはよくわかっていると神風。もしダメだと思ったら、みんなに任せて撤退させてもらうと語る。

 だが、誰もが既に勘付いている。神風はこんなこと言いながらも限界まで戦い続けるのだろうと。だから、そうならないように自分達も頑張らねばならない。

 

「神風、邪魔だと思ったらすぐに帰すから」

「ええ、それでいいわ」

 

 こんな物言いが出来るのは、同じように人間を辞めている伊203しかいない。合理的に、速さが維持出来ないとわかったら、すぐにでも文句を言うと釘を刺した。

 神風も、ダメだったらすぐに言ってほしいと伊203にお願いしているくらい。このおかげで、余程の無茶はしないだろう。

 

 そんな伊203は既に出撃の準備が完了。爪が刺さらないように、首から下はラバースーツを着用しているのだが、問題はその上。

 

「フーミィ、その格好で行くのか?」

「ん、一番速くて戦いやすいカッコ」

 

 ラバースーツの上に制服の水着を着ているという、なかなか素っ頓狂な見た目になっている。夕立や綾波のようにフルフェイスのヘルメットは身につけないようだが、なるべく身軽に自分の持ち味を出すために選択したのがこの姿だという。

 神風もいつもの制服、袴の下にインナーとしてラバースーツを纏うことになるのだが、伊203ほど割り切った姿にはなれない。

 

「動きやすさは重要っぽい」

「そうですよぉ。街中で戦うんですから、なるべく身軽の方がいいですねぇ」

 

 夕立と綾波も合流したが、こちらは相変わらずラバースーツのみというよりおかしな状況である。せめて上に何か着たらどうだと言われても、あるより無い方が素早く動けるからとそのままを貫いた。むしろ、着るなら伊203のような水着の方がいいとまで言い出す始末。

 ちなみに綾波の()()()的立場である暁は、普通に制服を着ている。当然といえば当然。

 

「……私も脱いだ方がいいかしら」

「動きやすさとかあるなら、あたし達は何も言えねぇけど」

「それはまぁ、インナーだけの方が動きやすいわよ。余計な布も無いし。空気抵抗とかいろいろ考えたら、脱いだ方が素早く動けるわね」

 

 格闘戦を主にするならば、服が邪魔と思えることもあるかもしれない。しかし、深雪と電も治療のために関節技(サブミッション)を極めるわけだが、服が邪魔とは思っていなかった。なので、ここは人それぞれということでお茶を濁す。

 

「加賀さん達はどうしてんだ?」

「今でもお外で哨戒機を飛ばしているのです。敵の発見を、基地航空隊と一緒にやってるらしいのです」

 

 空母隊はまだ休息を取らず、保前提督の指示の下、艦載機を街中に散らして飛ばすことで、米駆逐棲姫の行方を追っている。実際は既に保前提督は鎮守府に戻ってきており、軍港鎮守府の基地航空隊を指揮してさらに多くの戦闘機によって街中を包囲している状況。

 

 基地航空隊の戦闘機は、艦娘には装備出来ず鎮守府からしか飛ばせない専用のモノ。その代わりに性能が非常に高く、航続距離さえ確保してしまえば、どの空母よりも強力な空襲や制空権争いが出来るという強力な戦力である。

 鎮守府から軍港都市なんて航続距離だの一切考える必要が無いような距離だ。保前提督が是とすれば、その最大戦力をいくらでも投入出来る。

 その分資源も食うのだが、今の保前提督にその辺りの心配は頭の中にはない。資源の損など考える暇があったら、街を滅茶苦茶にした米駆逐棲姫をいち早く始末する方にオールインである。予算だとか始末者だとかは全て二の次。全ては街のため。

 

「……なんとも小柄な部隊となりましたね」

 

 白雲がボソリと呟いた。自分も含めて、今回の出撃メンバーは伊203を除けば全員が駆逐艦。除かれた伊203も潜水艦であり、見た目だけで言えば子供だけの軍勢。

 しかし、街中での戦いとして考えるのなら、これ以上に適した部隊は無いだろう。機敏で小回りが利き、かつ()()()()()()()立ち回れる者達を多く取り揃えた、優秀な部隊である。

 

「旗艦は暁ちゃんにやってもらいますけど、よかったですかぁ?」

「ああ、文句無しだ。この中じゃあ、暁が一番周りが見えるだろ」

「わかったわ。じゃあ、暁がこの部隊を受け持つわね……大丈夫かな……」

 

 少し不安そうに部隊を見回す暁。ただでさえ制御するのが難しい綾波に加え、同じくらいに暴れ回る夕立。速さを追求するが故に稀に話を聞かない伊203までいるのだから、不安になるのもわからなくも無い。

 しかし、この中ではその全てを御せるのは暁くらいしかいないだろう。そもそも狂犬綾波を完全に制御下に置ける暁でなければ、おそらく回らない。

 

「ユーダチ、ちゃんとアカツキの指示に従うんだよ。一番いい指揮してくれると思うから」

「ぽい。期待してるっぽい」

「なんでプレッシャーかけるのよ!」

 

 グレカーレのちょっとしたおふざけによって、ここの空気は和んだ。これからの戦いは、誰もが怒りを込めたモノになることが目に見えているため、こういう時くらいは多少ほのぼのとしておいた方がいい。これもグレカーレなりの気遣いである。

 

 

 

 

 一方、伊豆提督とイリスは保前提督に執務室へと連れてこられた。イリスは応急処置はされているものの、あまり無理はさせられないということで、伊豆提督がなるべく側で支えている。

 

「基地航空隊からの映像は、全部ここで見えるようにしてある。上からだけだと足りないだろうから、出撃する連中にも小型のカメラを使わせる。うちの暁ならいいところを映してくれるだろ」

「わかりやすくて助かるわ」

 

 うみどりとはまた違ったシステムで、壁一面に街中を映す映像が展開。基地航空隊や、加賀達空母隊からの映像が逐一流されている。

 また、街中に設置された監視カメラの映像もひっきりなしに映し出され、路地裏などの情報もある程度は把握出来た。

 

「これでもまだ死角はあるけど、動き回ってくれるから問題ない。カメラを破壊するならするで、場所が特定出来る。意地でも追い込んでやるぞ」

「トシちゃん……もう少し冷静にね?」

「わかってる。でも、お前も今回ばかりは穏便に済ませようなんて思ってないだろ」

 

 保前提督に言われ、伊豆提督はまぁねと苦笑する。目の前で梅が豹変するところを見せつけられ、米駆逐棲姫に対しての怒りは今やこれまでに無いほどにまで膨れ上がっている。冷静に努めてはいるものの、報いを受けさせようという気持ちはかなり強い。

 

「アタシだって、ここまでされて黙ってられるほど人間デキてないわよ。人の人生を滅茶苦茶にしておいて、これが平和の道だなんて絶対に言わせない。結局は自分勝手、独りよがりの思想なんだもの。今までも酷かったけれど、今回は輪をかけて酷いわ」

「ああ、だから後悔させてやる。この街を敵に回したことをな」

 

 

 

 

 米駆逐棲姫を追い詰めるための包囲網が出来つつある。ここにいる者達全員の怒りを買った米駆逐棲姫に、もう逃げ場など無い。

 

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