後始末屋の特異点   作:緋寺

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情に流されず

 米駆逐棲姫捜索の間、僅かながらの休息を経て、深雪達は再出撃の準備を整えた。次の戦いで決着をつけようと、全員気合が入っている。

 与えられたのは、量産化の曲解対策としての新品のラバースーツ、街の中での戦いに重きを置いた()()()()()()()()()()、そして──

 

「全員、これを身につけろ」

 

 保前提督が全員に渡したのは、片耳のみのイヤホン。軍港鎮守府ではかなりの頻度で使われるアイテムらしく、これ1つだけでインカムとしての役割からGPSの役割まで満たしている優れ物。軍港都市の見回りをしている艦娘達は基本的には全員これを身につけており、何かあった場合はこれによって連絡が取り合えるとのこと。

 しかし、既に敵の手に堕ちた者達は、自分の居場所を知られないように全員捨てている上に壊してしまっているらしい。そういうところは周到。それに、それがあるという情報も向こうには行ってしまっていると考えるべき。

 

 この反応を見ながら、鎮守府からの情報を逐一教え、米駆逐棲姫の居場所まで案内してくれると保前提督は説明した。鎮守府側からも動きが見えているのは、作戦が立てやすいというのもある。

 

「耳に入れたら、軽くつついてみてくれ」

「あいよ。こうすりゃいいのかな」

 

 言われた通りに耳に装着し、トントンと軽く小突いてみる深雪。すると、プツッと何処かに繋がったような音がしたかと思うと、何かこことは違う場所の音が聞こえ始めた。

 

『深雪ちゃんね。聞こえているかしら』

「ハルカちゃん! ああ、ちゃんと聞こえてるぜ」

『よかった。緊急時はこうやって連絡させてもらうわね。こちらでもちゃんとそちらのことを見ているから、安心してちょうだい』

 

 イヤホンの向こう側にいるのは伊豆提督。こういうカタチでも、鎮守府待機の伊豆提督と話が出来るのは心強い。

 

「なるほどな、この中じゃあ、綾波と暁しかこの街に詳しい奴がいないもんな」

「いや、もう1人いる」

 

 保前提督が通信機を取り出すと、そこからいきなり声が聞こえた。そこそこ大きな声だったため、深雪達は驚いて後ずさってしまう。

 

『はーい、川内参上! 声だけだけどね』

「川内さん! 無事だったのかよ!」

『ありがたいことにね。夜間哨戒のために寝てたのが功を奏したよねぇ』

 

 川内はいわゆる夜型。今日も夜間哨戒を優先的にこなすために、昼はしっかり眠っていたらしい。そしていざ夜となり、夜間哨戒だという時にこの大事件である。哨戒よりもこっちの方が確実に()()()()()()()が出来ると、哨戒を交代してもらってこちらに残ったという。

 保前提督も川内の優秀さは理解しており、言わずとも哨戒ではなくこちらに入ってほしかったとのこと。夜戦夜戦と喧しいがと苦笑するものの、今回はそのスキルが存分に活かされる時。

 

『基地航空隊と艦載機が出てるのは知ってる。でも、屋根のあるところはうまく見えないでしょ。監視カメラにも限界があるし。そこを私が探るってワケ』

「任せたぞ。お前のフットワークの軽さには期待している」

『了解! 夜戦忍者にお任せあれってね。ライブ感を楽しんでよ?』

 

 通信はここで途切れる。現在、川内は単独行動中ではあるが、その装備は隠密に長けた忍者の装備。高性能な電探にタービンによる高速化。そして、その手には洗浄液が装填された水鉄砲と、自分の視線の位置を映像に収めるためのカメラという、今ここに一番欲しい状態で動き回る。勿論ラバースーツも完備。

 艤装のパワーアシストを使いながら、一時期の伊203のように屋根から屋根へと飛び回って、敵の様子を確認しながら逐一報告。空の目から見えない部分、街の監視カメラでは捉えきれない部分を確実に伝える。特にカメラは重要であり、鎮守府で待機中の伊豆提督とイリスにその情報をラグ無しで伝えるためには必要不可欠である。

 

「お前達遊撃隊は、ある程度は俺達が指示を飛ばすが、いざ戦闘になったら自分で考えて処理をしてもらうことになる。それは大丈夫か」

「うす。いつもの戦闘の通りだから大丈夫だ。旗艦は暁だから、暁の指示にも従う」

「それでいい。暁なら安心して任せられる」

 

 保前提督に誉められたことで顔を赤らめるものの、それ以上に緊張が酷く、既に冷静な戦闘モードに移行しようとしているくらいだ。

 

「今回の作戦の大まかな部分を伝えておく。ハルカとは方針が違うかもしれないが、ここは俺の管轄する街だ。悪いが従ってもらうぞ」

「その辺はだいじょぶだいじょぶ。流石に弁えるよ」

 

 グレカーレが軽い口調で肯定。また、白雲と小さく首肯することで是としている。いくら伊豆提督では無い者に指示を受けることになったとしても、それに文句を言うほど荒んではいない。

 

「基本的には、米駆逐棲姫一点狙いだ。奴を始末することに全力を注いでもらう」

「ああ、そうすりゃみんなも元に戻るかもしれねぇもんな」

「そう願いたいけどな。俺達の予想では、戻らない可能性も考えている」

 

 ここは隠さずにハッキリと伝えた。保前提督だけではない、昼目提督も同じ意見だったということを。量産化されたモノがそのオリジナルを失ったところで元通りになるわけがない。米駆逐棲姫の能力もそれに準じている可能性である。

 植え付けられた敵対心、そしてあの姿形は、ああされた時点で元に戻れない不可逆の洗脳であった場合、目も当てられない。

 

「そうなった場合でも、少なくとも洗浄液で無力化は出来る。奴の仲間にされた連中は、見つけた時点で最低限無力化だけはしてくれ。野放しにはするな」

「……撤退されてしまうから、でしょうか」

「その通りだ。米駆逐棲姫の量産ということは、ここから逃げられたら奴の……出洲の本拠地まで向かってしまう可能性がある。そうなったら終わりだ」

 

 あちらの目的は特異点の始末かもしれないが、うみどりの戦力を奪うというのも考えられる。こちらは弱体化、あちらは強化と、うみどりからしたらいいことなんて1つも無い。

 本拠地を割り出すためにあえて泳がせることも考えたが、泳がせた時点で今以上にどうにも出来なくなる可能性すらあるので、そこは後の情報より今の救出。

 

「もし元に戻らなくても、あたしと電がひっくり返してやるさ」

「なのです!」

「いや、それは必要最低限だけにしろ。あの忌雷に寄生された奴だけだ」

 

 何故という表情を浮かべた深雪と電に、保前提督は簡単に説明する。

 

「梅がまだ目を覚ましてないからだ。特異点の力で元に戻せるのはわかったが、()()()()()()()()()()()()はちゃんと知ってからじゃないとまずい。最悪、アレですら()()()()の可能性がある」

「そうなってた場合……見た目は梅だけど、中身は敵ってことか」

「ああ、それが一番面倒だ。お前達のそのひっくり返すという力で、何が何処まで戻せているかを正しく知ってから多用した方がいいだろう。もし忌雷を寄生させて深海棲艦になった奴がいるなら、もうそれは緊急事態だ。その力を使うことを許可する」

 

 深雪と電ですら未知である能力。電がそれを理解したことで、『挟んでひっくり返す』という最大最高の力も、それを施されたことによる影響、特に精神に関わる部分が見えていないのでは、流石に頼ることは難しい。

 また、もう1つの懸念点。煙を注ぐのはいいが、それ自体が深雪と電に影響を与えていないか。今はピンピンしているが、後に戦場で倒れるなんてことがあったら目も当てられない。

 

 元に戻せるという一点だけで多用するのは、保前提督としては控えるべきだと考えた。これに関しては、伊豆提督や昼目提督とも意見が合い、なるべく使わせない方向で進めている。

 特異点というのはそれだけの強みはあるが、()()()()()()()()を考えるならば、そこは慎重に行きたい。

 

「敵になった仲間を見ているのは心苦しいとは思うが、今敵である者よりも、お前達の身体を優先する。この戦いが終わって、落ち着いてから治す手段を考えればいい。わかったな」

 

 非情のようにも思えるが、何度も治療を試みて、最も重要な米駆逐棲姫の撃破が不可能になっても困る。むしろ、治療は二の次にしても米駆逐棲姫を終わらせなければ、これ以上に被害者が増えてしまう。それこそ、今こうやって共に戦おうとしている仲間が、次の瞬間に敵になっている可能性があるのだ。

 それにいちいち構っていては、米駆逐棲姫に辿り着く前に力尽きてしまう。延いては、本来守れるはずだった者まで量産化を受けてしまいかねない。

 

「何も見捨てろ切り捨てろと言っているわけじゃない。優先順位をつけろと言っているだけだ。これ以上の被害を出さないために、今の被害者は一旦置く。元凶を始末してから改めて考える。それだけだ」

「了解。効率とかそういうことじゃあ無ぇってことだ」

「そうだ。ただ、奴は()()()()()()()()ことは間違いない。奴の思うツボになりたくなかったら、()()()()()()

 

 その極地と言えるのが、綾波と暁。これまで仲間だったとしても、この街を傷付けるのならば殺す、もしくは死にたくなるほどのトラウマを刻むのが綾波。情というものを一旦横に置いておけるくらいの冷静さを持って戦場に立つのが暁。

 この2人が敵の洗脳から逃れることが出来たのは、保前提督としても非常にありがたかった。特に綾波。

 

 うみどりの面々は、仲間意識が強い分、こういった精神攻撃が効きすぎるくらいに効いている。故に、保前提督は何度も言い聞かせる。情に流されるなと。

 

「米駆逐棲姫本体は、近接戦闘が出来る奴で叩け」

「ええ、私やフーミィ、綾波が妥当よね」

「そうだ。あとはグレカーレもいいだろう。米野郎は容赦なく握り潰せばいい。躊躇なんてするな」

「するわけないっしょ。あたしだってアレは気に入らないから」

「握るなら身体にしてくださいねぇ。アレの首、ここまで持ってきたいのでぇ」

 

 グレカーレが剛腕でサムズアップ。今回は役割分担も完璧。神風、伊203、綾波、グレカーレの4人が殺傷兵器を携えて米駆逐棲姫を肉薄。深雪、電、白雲、暁、そして夕立がそのサポートとして、水鉄砲を使っての牽制と、周囲にいるであろう()()の無力化。

 実際は全員で米駆逐棲姫を追い込んでも構わない。夕立辺りはぶん殴ることだって望むだろう。それをやるべきかどうかは、現地で暁が指示をする。その類い稀な索敵能力で、その時の的確を掴み取る。

 

「他は海戦と同じだ。主砲は今回も水鉄砲だが、威力を調整してある。無力化の前に衝撃で吹っ飛ぶくらいにはしてあるからかなり強めだ。あとは現地で考えてくれ。わからないことがあったら逐一教える。こちらでも見ながら進めるからな。暁、頼んだぞ」

「ん」

 

 暁は既にモードに入っているようである。集中し、冷静に、この戦力の把握と一番いい戦い方を考えている真っ最中。

 その頼もしさに、綾波は満面の笑み。深雪もすげぇと感嘆の息を漏らす。

 

 

 

 

 そして、ついにその時が来る。

 

『トシちゃん、報告するわ』

「おう、どうしたハルカ」

『基地航空隊のカメラが破壊されたわ。明らかに対空砲火。密度が異常よ』

 

 伊豆提督からの報告で、別の場所で戦場を見ていた伊豆提督からの連絡。街に飛ばした基地航空隊の一部が、突如墜とされたという。

 来たかと保前提督が深雪達に覚悟を決めるように促した。

 

「敵の姿は見えたか。対空砲火ってことは、ある程度予想は出来るが」

『ええ、腹立たしいことこの上ないけれどね』

 

 伊豆提督の声にも、怒気が感じ取れた。

 

 

 

 

『一瞬見えたわ。対空砲火をしたのは、防空棲姫……おそらく、()()()()()()()()()()()()()()

 




今回でこの話も400話となりました。まだまだ続きそうで、歴代最長話数を更新しそうです。今後ともよろしくお願いいたします。
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