空母隊の艦載機や基地航空隊の戦闘機も使いながら、米駆逐棲姫の行方を追っていた最中、その戦闘機が撃ち墜とされてしまったと報告を受けた、
イリスの目を使うためにカメラを搭載していたそれが墜とされたため、その瞬間は映像としてしっかりと残っている。それを墜とされる寸前までを確認出来ていた伊豆提督は、その怒りをほぼ隠さずに通信で伝える。
『一瞬見えたわ。対空砲火をしたのは、防空棲姫……おそらく、
深雪はそれを聞いてゾワリと感情が溢れそうになった。梅に続いて秋月まで犠牲になっている事実を知ったことで、怒りや憎しみ、悲しみまでもが一気に渦巻いた。
「早かったな……もう少し時間をかけてくると思ったが」
『トシちゃんが基地航空隊を使ったことで焦ったのかしらね……撃ち墜とすために秋月ちゃんの艤装が欲しかったから、忌雷を使ったと考えるのが妥当かしら』
「どんな力を得るかわかってんのか奴らは」
『どうなのかしらね。元が防空駆逐艦だから、防空が強い変化が起きるんじゃないかと憶測でやったかもしれないわよ』
「……あり得るから困る。別に失敗してもそれならそれて戦力は増えやがるしな」
軍港鎮守府の空からの監視が強くなったことを受けて、米駆逐棲姫はその対策として秋月を使ったと予測。
今米駆逐棲姫の手中にいる者達の中では、対空砲火の技術が高いのは間違いなく秋月。今でも側に侍らせていたというのなら、躊躇なく忌雷を寄生させる選択をするのも、嫌だが理解出来た。
忌雷を寄生させた際に手に入れる力は、その製作に使った
ならば、梅に使われたのは松型の魂、秋月に使われたのは秋月型の魂と考えるのは妥当ではあるのだが、それにしてもピンポイントで適応した魂を用意出来るわけがない。
そこから考えられるのは、艦娘の魂すら使わず、
既に技術を持つ者、適合が確定している者を強化し、洗脳し、その在り方すら変えてしまう悪行。今を生きる艦娘を、道具としか思っていない手段。
「本当に、腐った連中だ」
『そうね……利用することしか考えていない、唾棄すべき最悪の兵器よ』
伊豆提督も、保前提督も、そうとしか言えない。嫌悪感を隠さず、敵のやり方を非難する。
深雪達も同じ気持ちだった。胸糞悪いと顔を顰めつつも、一様に深呼吸をして心を落ち着ける。
「秋月も、梅と同じように何かしらの力を手に入れてしまっている可能性は高い。どういう基準で、どういう才能を開花させるかはわからないが、そこだけは気をつけろ。未知の能力に関しては、俺達でも何も言えない。暁、慎重に分析をしろ」
「了解」
その辺りは旗艦として仲間達から満場一致の意見を受けた暁の仕事。綾波すらも頼るその索敵と分析で、敵の曲解をいち早く判断する。
『あと、丹陽ちゃんからの伝言を伝えておくわね』
怒りを噛み殺しながら、しかしこの戦いを確実に終わらせるための後押しとして、伊豆提督は語る。
『梅ちゃんは丹陽ちゃんが見てくれているわ。万が一のことがあったら困るから、一応ベッドに拘束している状態ではあるけれど……また目が覚めたら連絡する』
「よろしく頼む」
『その上で、丹陽ちゃんは、梅ちゃんなら大丈夫と言ってくれているわ。だから、深雪ちゃん、電ちゃん、それにみんな、アナタ達は、思う存分やってきなさい。アタシ達の気持ちも、ぶつけてきてちょうだい』
通信の向こう側で、伊豆提督が微笑んでいるのが見えたような気がした。心強い言葉に、深雪達はグッと力が入る。
この戦いを終わらせるため、まずは秋月を救う。そのためにも、ここからの戦いはあくまでも冷静に。
鎮守府から再出撃した深雪達は、イヤホンから流れてくる伊豆提督や保前提督の指示に従って、一直線に秋月の居場所へと向かっていた。
早く向かいたいという気持ちはあるが、体力をなるべく消耗しないように、全力でダッシュするわけでもなく、しかしのんびり歩くわけでもない。必要最低限の速さで、最短距離を歩き続ける。
その先頭を歩くのは暁。旗艦としてもあるが、指示を聞きながら最短距離を選択して、全員を秋月の場所へと導くために、既にモードに入っていた。
「川内さんの形跡があるわ。あちらも最短距離を把握してるみたい」
暁が話す通り、その方向に向かうにつれ、
それをやったのは、現在単独行動中の川内。深雪達に余計な戦闘をさせないように、その暗殺術を使って先んじて始末しているようである。
「すげぇな……忍者っていうだけある」
「川内さん、本当にスニーキングミッションが得意なのよね。暁もアレだけは真似出来ないわ」
「身軽じゃないと出来ませんからねぇ。綾波は一応出来ますけど、性に合わないんですよぉ」
確かに綾波はこそっと近付いてさくっと終わらせるというのは好まないように見えた。暁はそれを理解しているため、適材適所だとフォロー。綾波は、よくわかってくれているとニコニコである。
川内にも既に秋月の情報は行っており、場所も既に把握済み。路地ではなく屋根の上を飛び回っているため、深雪達よりも迅速に行動が可能ではあるが、秋月自体をどうにか出来るとは思っていないため、そこまでの道を整備するために動いていた。
その結果が、徘徊する妹達を退かすこと。そこで余計な戦いが起きたら、嫌でも消耗させられる。秋月もそうだが、なるべくここからの戦闘は万全にこなしたい。
「電、もしこの戦闘で何かあったら、暁達の修理って出来る?」
「なのです。修理施設は使えますから、小破くらいなら大丈夫なのです」
「了解。確か応急処置も出来たわね。万が一の時はお願い」
電はマルチツールもしっかり装備。今でこそ何もしていないが、修理施設と煙幕、そして夜偵まで積み込んでいるおかげで、この戦いでも何かしら役に立つはず。
暁は念のためそこまで視野に入れた状態で戦いを組み立てる。最悪な場合、多少傷付くことも考慮する。それが一番合理的な場合は、傷付くことも厭わない。
『暁、こちら川内』
「ん、どうかした?」
『こちらは秋月を発見。ちょっと近付かない。周りに護衛が2人いる。非武装だけど、気付かれないように撃ち抜くことも難しいね』
防空棲姫と化した秋月を発見した川内から連絡が届いた。その近くには、当然情に訴えかけるように護衛としてうみどりの艦娘をつけている。
情報から、その2人は睦月と酒匂であることも確定。2人に近接戦闘があるわけではないのだが、その存在そのものが盾として優秀過ぎた。
綾波や夕立は一切の容赦がないし、倒すことに躊躇がないが、2人の本質を知っている分、攻撃するのにどうしても抵抗が出てきてしまう。うみどりの中でも救護班として特に優しい酒匂が敵に回っているという事態も、それに拍車をかけている。
「護衛が護衛になってないけど、そこにいるだけで抵抗力がある人材ってことね。川内さん、暁達が到着したら、制圧手伝ってくれる?」
『あいよ。任せな。でもその前に、秋月の能力をちょっと割り出しとく』
「うん、お願い。多少は見当つけられるといいけど」
先行している川内は、見つからないように様子を見ている状態。あちらの電探のことも気にしてなるべく近付かずに、しかし広い視野を使って見続けている。
あちらも気付いている可能性はあるが、互いに牽制し合う状況にはなっているため、戦いには発展していない。
「道は開いてくれてるから、そのまま行くわよ」
「おう。秋月を……みんなを救わないとな」
「司令が言ってた通り、酒匂さんと睦月は無力化して放置。秋月だけを治療。深雪、電、そこだけは忘れないで」
冷静に暁が説明し、深雪も電も悔しいながらも納得する。
戦いは秋月を止めるだけでは無いのだから、保前提督の言っていた
暁はそういうところもちゃんとしようと動いている。保前提督がここにいて指示を出しているくらいに。戦闘モードの暁はそれだけ冷静沈着な
「わかってる。あたし達が本当にやらなきゃいけねぇのはアイツだ」
「なのです。流石に……電ももう許さないのです」
負の感情ではあるものの、深雪と電は確実に前を向いている。
暁の案内により最短距離を進み、まだ秋月を見ていないところで川内と合流。あっちにいるからと言われたところで、また屋根の上に上がっていくところを見届けて、路地を曲がる。
そこには、大きな艤装の上に腰掛けた、
「来ましたね特異点。姉さんのところには行かせませんよ」
脚を組み替えながら鼻で笑うような仕草で見下した視線を送るそれは、深雪や電はわからずとも他の者が何者かがわかる存在。防空棲姫である。
しかし、本来の防空棲姫とは少々違った。梅の時と同様に、量産化を受けていることをそのままにしたようなアレンジが加えられていた。
本来の防空棲姫と違う点は、秋月のように髪を結び、ポニーテールにしていること。それ以外はおおよそ同じであり、羊のような雄々しいツノ、レオタードのようなボディスーツに身を包んだ、やけにスタイルを誇示しているような姿。そこに、量産化の証であるオーバーニーソックスを履いていることで、それが何者かを嫌というほど見せつけてきていた。
「よう……秋月。梅は救ったぞ」
「そうですか。なら、彼女はそれまでだったということですね。神の導きまで貰っておいて、何たる体たらく」
普段の秋月なら絶対に言わないようなことを言っているのが、また心に刺さる。だが、やはり冷静さは失わない。救えるということが自信に繋がり、こんなことを言っている秋月を止めなくてはいけないと俄然やる気が出る。
「話はもう聞いています、そんな冗談みたいな格好で量産化を防いでいるなんて、笑いを通り越して呆れたものです」
「好きに言ってろ。実際これで防ぐことが出来てるんだ。もう誰もお前らに奪わせねぇ」
「どうだか。特異点なんぞに付き従うことがどれだけ愚かであるかを、ちゃんと教えてあげますよ」
そう言いながら秋月が指を鳴らすと、護衛のように立つ睦月と酒匂は、何処から持ち出したのか、ナイフやら何やらを取り出していた。
明らかに爪対策のラバースーツを破るためのアイテム。そこまでして量産化をしたいかと失笑してしまうが、確かに確実ではあった。
「では、やりますか」
腰掛けていた艤装が変形し、背中に背負うタイプに。バケモノのような4つの頭が、背中から深雪を睨みつけ、そこから生えた両用砲が全て深雪に向く。
「貴女のせいで、この街は壊れます。貴女がいなければ、こんなことにはならないのに」
「……バカの一つ覚えみたいに言うんだな。聞き飽きたんだよ、あたしのせいだっていうふざけた言葉は」
これ見よがしに溜息を吐いた。そして、深雪は秋月を睨み付ける。
「痛い目を見るのはお前だ、秋月。痛くしたくは無いんだけどな」
「秋月ちゃん……必ず救って見せますから」
深雪の左腕から、そして電の右腕からも、煙がちらつき始めた。