反撃の戦い第一戦は、忌雷によって防空棲姫と化した秋月。護衛に酒匂と睦月をつけている上に、爪対策のラバースーツをどうにかするために刃物まで持ち出してきていた。
深雪達がそういう対策をとっていることが敵サイドにも知られているようで、それをすぐさま対応してきたところは、あちら側のフットワークの軽さを思い知ることになる。鎮守府サイドの作業を何処かで見られていたとしたら、時雨達に足止めされたあの時だろうと深雪達は勘付いた。
だが、そうされたとしても、暁は冷静なまま、溜息を吐きながら普通に一言言い放つ。
「情報が古い」
ただそれだけ言った瞬間、いきなり睦月が吹っ飛んだ。その衝撃で持っていたナイフすらも弾け飛び、為す術なく武器すら失う。
「にゃしっ!?」
「睦月ちゃん!?」
驚く酒匂だが、その酒匂も間髪容れずに吹っ飛ぶ。当然のようにナイフが手から離れ、何もさせずに無力化した。
「それくらい予想が出来ないと思ってるのかしらね。だから、すぐにでも無力化出来るように、水鉄砲の出力を上げてきてるんだから」
2人を無力化したのは、屋根の上を陣取る川内と、元仲間を撃つことに何の抵抗も持っていない綾波。暁が溜息を吐いた時点で撃ってヨシと判断したようで、まるで躊躇なく無力化を選択。即座に実行した結果、情に流されることもなく、2人の護衛を瞬殺した。
聞いていた以上に水鉄砲の威力は高く、小柄な睦月に至っては、喰らった時点で路地の端まで飛ばされている。酒匂も耐えきれずに地面に転がっているくらいであり、まずその威力だけで息も絶え絶え。自己修復が利いているものの、そもそもダメージを与えるのではなく、体内を揺らすために使っているようなものなので、立ち上がろうと思っても立ち上がれない。
そして、立ち上がれない内に効いてくるのが洗浄液の効果である。衝撃によるフラつきが治ってきたと思えば、穢れを洗浄されることによって力が抜け、結局その場から動けなくなるだけ。頑張って身体を動かそうとしても、その場でもがくことしか出来ない。
護衛があまりにも簡単にやられたことで、秋月は目を見開いていた。ラバースーツ対策をするにあたって手に入れた情報の中に、元仲間でも一切躊躇しない者がいるということも聞いていたが、だとしてももう少し抵抗出来るものと思っていた。
「あのぉ、もしかして護衛がいたら何もされないと思ってましたぁ?」
そんな秋月の顔を見て、綾波がニコニコしながら秋月に言葉を投げかける。
「そんなことは無いと思っていましたよ。先に情報は貰っていましたから。ただ、あまりにも野蛮過ぎて驚いてしまいました」
「あらぁ、野蛮ですかぁ。確かにそうかもしれませんねぇ。ですがぁ……
綾波は笑顔を絶やさない。しかし、目の向こう側にある感情は、間違いなく怒り。
「まぁ、愚かで脳味噌小粒な貴女達は、自分以外が全部野蛮に見えるのでしょうねぇ。自分が偉い、自分が正しい、だから何を言われても他がぜーんぶ間違い。そうやってしか、自分の誇りを保つことが出来ないんですよねぇ。間違いと弱さを認めちゃったら、前を向けなくなっちゃうんですもの」
相変わらずの煽りを展開する綾波だが、秋月はもう聞く耳すら持とうとしなかった。何を言われても、綾波が言う通り、自分が正しく相手が間違っているという考えを変えることが出来なかったから。
米駆逐棲姫の考え方を量産されていることによって、その辺りは全て
「もう結構です。貴女も所詮は特異点に付き従う愚か者。その言葉も愚の骨頂。聞く理由のない囀りです。死にたくてここに来たのでしょう。ならば、お望み通りにこの街と一緒に死になさい。姉さんの道を阻むのならば」
「お断りしまぁす」
秋月の持つ艤装、4基8門の両用砲が、一斉に火を噴いた。狙いは正面にいる者全て。目に入る者全てを薙ぎ倒すため、異常な密度の弾幕が放たれる。
真正面にいたら蜂の巣どころか肉片すら残らなそうな砲撃の
「結局逃げることしか出来ないじゃないですか。大見得を切っておいてコレとは、高がしれていますよ」
秋月の砲撃は止まらない。撃ちながらも主砲は意思を持つかのように別方向を向き始め、連射をしながら右へ左へと弾丸をばら撒いた。
その速射性能は異常としか言えない。4基の主砲を再装填の間を繋ぎながら連続で撃つのではなく、4基の主砲がそれぞれ間隔を置かずに撃ち続けているのだ。
撃たれれば撃たれるほど、当然ながら街に傷が付く。路地が抉られ、建物が壊され、それでも主砲をあらゆる方向に向けて、逃げ回る敵を一掃しようと砲撃を止めることをしない。
「……流石にこの撃ち方はおかしい。多分アレ、
たったコレだけの情報で、暁は秋月の得た能力の詳細に当を付けた。
連射をすることは誰にだってある。特に秋月のような対空砲火を得意とする防空艦は、空の艦載機に向けて両用砲による弾幕を張る。その際に、それこそガトリングのように次から次へと弾薬が再装填されては連続で撃ち続ける。それだけ無茶な砲撃をするものだから、砲身がすぐに焼き付いてしまうため、秋月は替えの砲身を何本も身につけていつでも交換出来るようにしていた。
だが、今の秋月は防空棲姫、そこに深海棲艦化によって与えられた能力も加えたことで、その全ての面倒が解決してしまっている。砲身は焼き付かない。再装填の必要もない。そして暁が睨んだ通り、
秋月の得た力は、『連射』の曲解。連続で撃つという言葉の意味をまさに曲解し、弾という制限も、砲身の劣化という抑制も無く、延々とひたすらに撃ち続けることが出来る能力。
海賊船で現れた外南洋駆逐棲姫の持つ『装甲』の曲解と同様に非常に単純明快な能力だが、それ故に非常に厄介な力でもある。何せ、今の戦場は街。撃てば撃つほど建物に当たり、それを破壊しても砲撃は止まらず、『連射をし続ける』という最終目的のために全てのデメリットを完全に無効化しているのだ。
まさに攻撃は最大の防御。撃ち続けることが出来るだけで、近付けず、攻撃もされない。厄介極まりない力。
『暁、ヤツの背後には回れるか』
ここで通信越しに保前提督からの指示が飛ぶ。暁や川内に身に付けさせたカメラから戦場を見て、これを打開するにはまず、秋月の死角を見つけるところからだと判断した。
「川内さんが回れるかもしれない。川内さん」
『ちょっと厳しいかな。曲がりなりにも秋月は防空駆逐艦でしょ。回り込むにはアイツの上通らなくちゃいけないから、避けられずに蜂の巣だよ』
その連射を避けたとて、建物ごと破壊されて逃げ場を無くされるのが関の山。やれるのは動き続けて照準を取らせなくすることだけなのだが、そもそもが路地での戦いというのがその行動を邪魔する。
砲撃を防ぐ場所も破壊されてしまうし、その瓦礫自体が回避を邪魔する悪循環。そこまで大きな建物が近隣には無かったため、上から瓦礫が降ってくる、むしろ
「特異点がここに現れなければ、ここまで壊すことは無かったんですがね。その存在そのものが破壊に繋がっていますよ」
相変わらず特異点を貶め、自らの行動に正当性を与えている。だが、深雪にはもうそんな言葉は通用しない。鎮守府前の戦いで、冬月が全て論破しているのだから、言葉そのものに意味がない、
だから言わせておけばいい。深雪は至って冷静である。電も、深雪と共に行動しているというのもあり、これだけ秋月が深雪のことを言っていても、怒りも悲しみも無かった。
「本当にそれだけしか言えないんですねぇ」
そして、ここからは綾波が反撃。止まらない連射を回避しながら、瓦礫を登り、壁を蹴り、少しずつでも近付いている。弾幕を真正面から突き抜けるという神業みたいな動きで。
「冬月ちゃんから聞いてますよぉ。自分が攻撃するのはぜーんぶ特異点のせいだって、自分の行動を棚に上げているんですよねぇ?」
「事実でしょう。特異点がここにいるからこそ、私達はここを戦場にせざるを得ない。死んでくれればこんなことをしなくて済む。つまり、特異点がいるせいでこうしている」
「論理が破綻してるんですよぉ。我慢出来ないお子ちゃまにはわからないかもしれませんけどねぇ」
少しでも近付く綾波は、秋月にも脅威としか思えない。何故この弾幕の中でも進んでこれるのだと。しかも、笑顔で。
「では聞きましょう。貴女はこの街を壊したくないと?」
「そうですね。特異点がそこにいるからここで戦わざるを得ない」
「なら何故移動しないんです? 特異点も街を壊したくないと思っていますよ。貴女と同じ考えを持っています。なら、壊れない場所に移動しましょう。それなのに、何故ここを戦場に選んだんです? 貴女は特異点のせいだと言っていますが、その特異点は移動を提案されたら間違いなく乗りましたよ。特異点だけじゃありません、綾波達全員が移動に賛成していました。なのに、ここから移動せず、わざわざ護衛を前に出して、この場を破壊することで精神的にもダメージを与えてる。何故です?」
秋月へ取り繕おうと言葉を選択しているが、やはり愚かになってしまった思考では言葉が紡げなかった。ここも梅と同じ。
さらに綾波は追い討ちの言葉を放つ。
「引き金を引いているのは貴女の指です。行動を起こしているのは貴女の考えです。ここを戦場に選んだのは紛れもなく貴女です。その全てが、貴女のせいです。
秋月が数歩引く。そうするだけで街への被害はさらに拡大する。綾波にはそれが一番気に入らない。
さらには、その連射は近寄らせたくないという気持ちを強く含むようになり、目に入る場所全てを破壊するかの如く撃ち続けられる。そのせいで、最初に無力化した酒匂や睦月をも巻き込みそうになっていた。
水鉄砲の衝撃で吹っ飛ばされ、路地の端に追いやられた上で、洗浄液による無力化を受けたことで動くことも出来ず、崩れる瓦礫を回避することも出来ない。だが、秋月はそれを助けようともせず、自分の身を、心を守ることに手一杯。仲間だというのに、仲間として認識していない。妹達をただの壁か何かとしか思っていない。
「くそっ、あのままじゃ潰れちまう!」
それに真っ先に気付いたのは、綾波でも暁でも川内でもない。ここまで散々なことを言われ続けている深雪だ。
今は敵ではあるが、元々は仲間。何を言われても救う。それが深雪の考え。そう考えたことで、身体は勝手に動いていた。
深雪の今の装備は、その覚醒して増加したスロットも込みにした仕様。高圧の水鉄砲2基に電探、そして、より高速移動出来るように積んだ缶とタービン。本気を出せば誰よりも速く動ける仕様にしてある。
だからこそ、今は動けない酒匂と睦月をこの連射の被害から救うために、躊躇いなく動いた。地を蹴り、弾幕を潜り抜けると、まずは睦月の側へ。
「にゃっ、特異点!?」
「おう、特異点様だ。ここにいたらお前も死ぬぞ。んなもん見たく、ねぇんだよ!」
この戦場に秋月がいる限り、安全な場所なんて存在しないだろう。だが、なるべく崩れゆく建物の瓦礫から回避出来る場所は何処だと考えた結果、
深雪には艤装があるが、睦月には艤装はない。代わりに自己修復がある。ならばと、深雪は心を鬼にし、決死の手段に出る。
「死ななきゃ安いだろ!」
睦月の身体を両手で持ったかと思えば、軽く放り投げ空中へ。そして両手に握り直した水鉄砲を同時に放ち、睦月の腹に直撃された。
「うぼっ!?」
「吹っ飛べ!」
その水圧は1基でも充分すぎるのに、2基分を同時に放たれればとんでもない衝撃となる。しかし、それがあればこの場から離脱するほど吹っ飛ぶことも出来る。
睦月はあっという間に秋月の連射の被害範囲外に吹き飛ばされたかと思うと、遠くの壁に激突。それでも壁にヒビが入るようなことすらなく、無力化も相まって気を失うだけで留まった。衝撃で骨も数本イカれてしまったものの、自己修復でたちまち元通り。
「次だ!」
さらにはその勢いをそのままに酒匂の方へ。同じように持ち上げて軽く投げた。
「ぴゃあっ!?」
「悪いな酒匂さん。今ここにいられると、あたし達も困るんだ」
そして、再装填が済んだ水鉄砲を放ち、戦場の外へ。睦月とほぼ同じところに飛ばされたところで壁に激突し、ぐったりと横たわる。自己修復のおかげで無傷になっていくことで少しだけ安心出来た。
「っし、これで不安が無くなったぜ!」
「深雪ちゃん! 避けてぇ!」
睦月と酒匂の無事がほぼ確定したものの、そんな救助活動をした深雪に対して、秋月の両用砲は容赦なく狙いを定めていた。弾幕はそのままに、既に深雪に放った後。
「特異点がわざわざここまで近くに来てくれるだなんて思いませんでした。甘ちゃんで助かりましたよ。こちらを救うために命を投げ出すなんて。余程特異点の方が愚かでしたね」
そして、深雪のいた場所は弾幕に包まれる。