後始末屋の特異点   作:緋寺

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港へ

 回収隊によって秋月達が運び出され、改めて米駆逐棲姫を探すことになる深雪達。ここまではイヤホンから来る通信に従ってきたため、ここからも鎮守府側からの指示を貰い、それに従って行動する。

 秋月に基地航空隊は墜とされたものの、航空戦力はそれだけではない。そもそも基地航空隊もまだまだ残っているし、加賀達空母隊の艦載機も健在である。

 

 今も軍港都市全域を飛び回っており、上空からその動向を監視し続けていた。一番警戒しなくてはならないのは、港から撤退されること。秋月に時間を使わされているため、こうしている間にも距離を離されている可能性は高い。

 とはいえ、あちらもただ撤退出来るとは思っていないだろう。少なくとも基地航空隊に発見された場合、ただ場所を教えられるだけで無く、水風船とはいえ爆撃を受けることになる。

 

『奴らは思ったよりも慎重なようだが……やはり港に向かっているようだ』

 

 航空戦力による監視網に引っかかったようで、保前提督からの報告が部隊に入った。

 

 秋月を囮に使って大急ぎで脱出を狙っているかと思われたがそうでも無く、なるべく迅速にというスタイルで隠れ潜みながらの撤退をしているらしい。

 ここで特異点と決着をつけるつもりでいたのかはわからないが、少なくとも現状は直接やり合おうとしているわけではなさそうである。

 

『暁、最短距離で港に向かえ。逃がしたら終わりだ』

「了解。川内さんには」

『川内は先行して足止めもしてくれている。今から急ぎ向かえば落ちあえるはずだ。おそらくすぐに通信が来るだろう。詳細は川内から聞いてくれ。奴なら交戦しながらでも情報を話してくれる』

 

 通信はここまで。今は全戦力を使って米駆逐棲姫の行動を止め、この港から一歩たりとも外に出さないようにすることに尽力する。

 

 そこにトドメを刺すのは深雪達に任せざるを得なくなるのだが、保前提督としてもこれは仕方ないものだと感じていた。空襲も全て実弾でやれれば、おそらく今頃は米駆逐棲姫を始末出来ていただろう。しかし、街中に水風船以外を落とすのは流石にまずい。裏路地ばかりを選択されているなら尚更だ。街への被害が洒落にならなくなる。

 それに、未だに量産化を施された一般市民も戦列に加わっているのだ。そちらは軍港都市を管理する者として、簡単には切り捨てられない。そのせいで実弾が使えないと言っても過言では無かった。

 

「今ならまだギリギリ間に合うと思うわ。一気に走りましょ」

「あいよ。案内頼む!」

 

 暁を先頭に、港までの最短距離を走る。あちらには回り道を、こちらは真っ直ぐを。こうするだけで距離は詰められるはずだ。

 

『こちら川内。米駆逐棲姫と交戦中』

 

 ここで先行する川内からも通信が届く。保前提督が言っていた通り、米駆逐棲姫の足止めを続けてくれているようだ。

 高圧の水鉄砲の他にも、忍びとしての暗器も隠し持っている川内ならば、真っ直ぐ港に行かせることなく回り道を誘発させることが出来る。たった1人ではあるが、無理して始末するのでは無く、時間をかけて仲間と合流出来るように行動することを選択しているため、より安全に、通信しながらでも戦えているようである。

 

『米駆逐棲姫以外に……ああもう、あいつら……っ!』

「どうかしたの?」

()()()()()()()()()()!』

 

 あまり聞きたくない報告に、深雪達は顔を顰める。梅、秋月と来て、あちらにはまだ深海忌雷のストックがあるのか、3人目の犠牲者が出てしまった。

 そうでなくても、まだ顔を見ていない仲間達もいるくらいである。そこにも忌雷を使われたら、より酷いことになってしまうだろう。

 

『うわ……エログロってヤツかな……気分悪ぅ……』

「川内さん、妙高さんは……何になったの」

『ありゃあ、深海重巡水姫だ。一度退避する!』

 

 名前を聞いてもピンと来ない深雪達のために、神風が端的に説明した。

 

 深海重巡水姫はどちらかといえば海外艦の様相が強めな深海棲艦であり、その名の通り重巡洋艦。航空甲板も携えているため、航空巡洋艦としての性質も持っている難敵。妙高がそれになるのは意外性があったものの、重巡洋艦としての矜持が、水姫としての強さに繋がったと考えられる。

 その大きな特徴は下半身にある。本来の人間の脚がついているのかもわからず、そこには巨大なウツボのような生体艤装が()()()()()()()。当然、それは質量兵器としても扱える他、頭部には三連装砲まで接続されているため、砲撃だけでも異常な威力を誇る。

 これがあるから川内は一時撤退していた。そうで無かったら、所詮は艤装を装備していない()()()()()()()()程度。米駆逐棲姫の実力は未だ未知数ではあるが、ここでも戦闘を挑んでこなかったらしく、露払いのために妙高を使ったようにも見えたらしい。

 

『ヤバいな……神威も深海棲艦化してる。あの個体は……水母棲姫!』

 

 更なる情報として、米駆逐棲姫に付き従っていたのは妙高だけでなく神威もであり、そちらにも忌雷が使われてしまったことが川内の口から語られる。

 こちらは()()ではなく()()()。既に4人目の犠牲者も出ていることに、悔しさが止め処無く溢れるような気分だった。

 

 水母棲姫はその名の通り水上機母艦の深海棲艦。つまり、()()()()()()()ということになる。基地航空隊を撃ち墜とす方向の秋月とはまた違った航空戦対策とされた可能性が高い。

 現にこの段階になって途端に制空権の確保が難しくなっていた。艦載機による拮抗に加え、水母棲姫としての力である防空性能も加わったことで、そちらでの足止めがいきなりやりづらくなった。

 

『残りはまだ忌雷は使われてないね。ニムとレーベ、あとうちの一般市民かなアレは。んなろう、やりたい放題してんなぁ!』

 

 残りの戦力は全てが米駆逐棲姫に付き従っており、川内も迂闊に攻撃が出来ない状況となっているらしい。街中で夜戦というホームグラウンドであっても、相手が姫級3体に加え、傷付けてはいけない者ばかりという部隊を相手にするには、川内1人というのは流石に無理。

 

「そのまま港までうまく向かわせて。暁達は真っ直ぐ一番短い距離で港に向かうから」

『了解! 決戦の場は港ってことね。こっちもなるべく人を減らしながら行くから!』

「お願い。特に街の人達を」

『だね。他ならヤンチャ出来るからね! 水鉄砲は市民優先!』

 

 せめて一般市民の妨害が無くなれば、まだ比較的戦いやすくなると踏んだようで、川内もそれを優先して実行する。

 

「……くそっ、あいつ、いくつ忌雷を持ってんだ」

「でも、深雪ちゃんと電なら、元に戻すことも出来るのです。辛いですけど、悔しいですけど、もうどうにもならないというわけじゃ無くなったのです」

「ああ……そうだな。許せねぇだけだ!」

 

 何人も犠牲になっているのは気に入らないが、どうにか出来る手段が見つかっているのだから、まだ折れずにいた。これで誰も戻せなかったら、今頃深雪はどうなっていたことか。

 

 

 

 

 そして、深雪達が港に到着した時、川内による足止めがうまく効いたようで、米駆逐棲姫一行も港に辿り着いてしまった。

 

「ったはぁ! 1人で足止めするのも限界!」

 

 そこに川内も合流。これによって、現状の敵味方全ての戦力がこの港に集結することとなった。

 川内の奮闘は凄まじく、量産化を施された一般市民は全て無力化済み。ここにいるのは、全員うみどりの艦娘となる。

 

 軍港鎮守府の艦娘を優先的に妨害に使った、むしろ自分の近くにうみどりの艦娘を使っているのは、こうなった時に深雪(特異点)に対して大きな精神ダメージが見込めるからか。

 実際、今の光景を見て、深雪は非常に複雑な気分になっている。深海棲艦化した妙高と神威、まだそうなってはいないものの敵意と殺意をまるで隠していない伊26とZ1の姿は、見ていて苦しくなる。

 

「姉様、お下がりを。特異点は我々が始末しますので」

「うん、任せたよ」

 

 米駆逐棲姫を下がらせ、一歩前に出たのは妙高。しかし、その姿は見るに堪えないものになっていた。

 

 深海重巡水姫の特徴である三日月型の巨大なツノを生やし、顔のおおよそ半分を覆い隠す覆面をつけたその姿からは、とてもではないが妙高とは思いにくい。そうだとわかるのは、髪型くらいである。

 しかし、本来の深海重巡水姫ならば真っ白なワンピース姿なのだが、量産化の名残かそれは真っ黒に染まり、地面を擦る程の丈のはずが、それも妙に短い。しかしそのせいで、下半身が完全な異形になっているのが嫌というほどわかる。

 

「では私も前へ出ましょう。妙高さん、援護します」

「ええ、よろしく神威さん」

 

 その隣に立つ神威も、やはり妙高と同様に異形と言わざるを得なかった。水母棲姫の特徴的である下半身──大きな口と、一本の巨大な腕で身体を支えるだけという恐ろしい姿。

 こちらもやはり量産化の名残が残っており、リボンやフリルがふんだんに使われた衣装ではなく、相変わらずの妹仕様のトップス。そういうところで自分の妹であるところを誇示しているかのようだった。

 

「……電、あれ、思ったより厄介じゃないか」

「なのです……脚が無いので……」

「ああ、どうやってひっくり返すよ」

 

 これまでは、深雪が頭を、電が脚を極めることによって、白で黒を挟むという状況を作り出していた。しかし、今回現れた妙高(深海重巡水姫)神威(水母棲姫)は、共通して()()()()のである。

 神威の方はまだいい。剛腕が一本脚のように見えるため、そちらをロックすればひっくり返すことは可能であろう。しかし、妙高の方が非常に厄介である。脚の代わりに生えたウツボのような生体艤装は、ロックすることがほぼ不可能。しかも艤装であるため、それを使ってひっくり返すことが出来るかもわからない。

 

「あの艤装は、私が輪切りにしてあげる。その後に考えて」

 

 ここで神風が刀を鞘に納めてから2人の前に出る。最低限、その兵装を取り除かなければ、やりたいこともやれない。当然自己修復もあるだろうが、完全に修復されるまでにはラグがある。その隙をつくしかない。

 

「2人いるなら2人分の能力を割り出さないとダメね。分析を続けるから、うまく動かして」

 

 暁も分析のために心を落ち着かせた。状況は悪いが、勝ち目は充分にある。その能力の強さに関わるが。

 少なくとも川内の足止めの間にその能力は使ってこなかったようで、それはここぞという時にしか使うつもりがないのか、それとも使用に制限があるのか。

 何が起きても初見で対処しなくてはいけないのは間違いない。『迷彩』の曲解のような異常事態も、今は無いはずである。

 

 

 

 

「この世の悪たる魔王、特異点は、この妙高が始末致しましょう。何やら特異点が増えているようですが……どちらにせよ、ここで始末することは変わりません」

「魔王を討伐し、この世界に平和を。正義は私達にあります」

「ええ、では参りましょう。特異点も、それに従う者も、全てここで終わりです」

 

 妙高と神威の瞳が一層強く輝いた。

 

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