後始末屋の特異点   作:緋寺

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妙高の得た力

 軍港都市の港。そこでついに米駆逐棲姫の撤退に追いつくことが出来た。しかし、その時には既に妙高と神威が忌雷によって深海棲艦化。姉を護るため、最後の壁として前に出る。

 

「この世の悪たる魔王、特異点は、この妙高が始末致しましょう。何やら特異点が増えているようですが……どちらにせよ、ここで始末することは変わりません」

「魔王を討伐し、この世界に平和を。正義は私達にあります」

「ええ、では参りましょう。特異点も、それに従う者も、全てここで終わりです」

 

 おおよそが覆面で隠された顔でも、強く輝きを見せる瞳で深雪を睨みつけたかと思えば、のたうち回るように暴れた下半身に脚の代わりに生える2体のウツボ型生体艤装が同時に深雪に照準を合わせた。

 重巡の持つ三連装砲とは一線を画した火力を持つ深海の主砲。当然ながら実弾が装填されているため、直撃しようものならひとたまりもない。

 

「避けたらうみどりに当たりますよ」

 

 港での戦闘はそういうことだ。ここにはまだ停泊中のうみどりやおおわし、潜水艦もある。現在も絶賛修復中なのに、ここで妙高の砲撃を回避したら、せっかく修復が進んでいるのにまた破壊されてしまう。

 深海重巡水姫の砲撃の威力は、姫級の例に漏れず並ではない。いくらうみどりであっても、直撃を受ければ無傷とはいかないだろう。

 

「そういえば避けないと思ってんのか。で、避けたら避けたで特異点のせいでうみどりが壊れたって言うんだろ。もうわかってんだよ」

 

 深雪は苛立ちを隠さずに言い放ちつつ、避ける気満々でかかってこいよと挑発までする。

 相手が妙高であっても関係ない。目上という気持ちなんて最初からない。治療はするが、それまでは()()()()として認識し、何を言われても気にしないことにしている。

 

「芸が無ぇんだよ! 米野郎のド低脳がうつっちまったかぁ!?」

 

 ここまで挑発したら、妙高もギラついた瞳で睨みつけて砲撃を放つ。深雪はそれを軽々回避するが、宣言通りその砲撃はそのままうみどりの側面へと向かっていき、大爆発を起こした。

 

「そういう手段しか取れねぇんだよなぉお前らはよぉ。クソ雑魚だからあたしの心にしか攻撃が出来ねぇんだ。正々堂々戦おうとは思えねぇのか? 思えねぇか、(こす)いことしねぇと勝てねぇもんなぁ!」

 

 少々強めの言葉を使い、わざと米駆逐棲姫を乏しめる発言も加えていく。

 

 暁の分析の結果が正しければ、米駆逐棲姫は量産化を施された誰よりも弱い。故に、()()に自分を守らせる。弱さを自覚しているのならば尚更だ。そして、それを実現させるために全ての妹に姉至上主義を植え付けた上で、思考能力を自分と同程度から下まで落とす。謀叛を起こそうと思わせないために。

 そこから考えるに、こういった()()に対しての耐性が極端に下がっているのではないかと分析していた。至上主義を拗らせているが故に、姉を乏しめられる怒りが先立つ。理性を失い、ただでさえ単調な攻撃がより単調になる。それを狙った。

 

 深雪自身の鬱憤を晴らすという狙いもあったりする。溜まりに溜まった苛立ちを口にすることで、一度スッキリすることも目的の一つ。

 

「実力が無ぇからあたしの仲間にしか手が出せねぇんだろ。モノにあたって、それもあたしのせいにするしか出来ねぇんだろ。あたしにゃもうそんなバカみたいな精神攻撃は効かねぇ!」

 

 妙高からの砲撃を回避した直後に両手の主砲──高圧水鉄砲を構える。狙いは妙高の顔面。頭を冷やせという思いを込めつつ、その衝撃で一度脳を揺さぶり、戦闘不能に陥らせるため。

 

「全員元に戻してやるから覚悟しとけ!」

 

 そして、放つ。砲撃は真っ直ぐ妙高に向かう。しかし、妙高は()()()()()()()()()()()()()

 

「当たりませんよ」

 

 宣言通り、狙いを定めたはずの深雪の砲撃は当たることなく後ろに飛んでいき、何もないところに着弾。そこを水塗れにした。

 

「深雪、()()()()()()()()()()()?」

 

 暁がすぐさま問う。分析のために常に神経を張り巡らせているため質問は端的だが、それは今一番聞きたいこと。

 深雪には質問の意図が掴めなかったが、暁なりに何か思うところがあるのだろうと、正直に答える。

 

「当たり前だ。ちゃんとあのツラを見て、あそこにぶち当ててやるって考えて、妖精さんとも息が合ってたはずだ」

 

 深雪の肩に立つサポート妖精さんも頭を強く縦に振った。いつものように砲撃を放っている。少々雑だったかもしれないが、だからといって動かずにあんなにすっぽ抜けることはない。回避しやすい砲撃であっても、回避せずに当たらない砲撃ではなかったはず。

 

「私のことを忘れてもらっては困ります」

 

 しかし、そこを考えている暇などない。眼光鋭い妙高の隣で、今度は神威がそのガントレットに包まれた手をパンと合わせてから、ゆっくりと広げる。すると、その隙間から溢れ出すように、深海の艦載機が次から次へと発艦し始める。

 艦載機と言っても、ほぼ生体艤装。艦娘達の扱う戦闘機とは違い、自らの意思を持つドローンのような存在。それ自身が浮遊しながら行動するため、その場に留まることから、急加速急停止まで、やりたい放題の動きをする非常に厄介な兵器。

 

「行きますよ。避けたければ避ければいいですが、その分港は傷付きますよ」

 

 深海艦載機が一斉に飛び立った。真正面の深雪を狙うだけでなく、その仲間達も同時に。射撃と爆撃を織り交ぜながら、全方位に向けてほぼ無差別と言っていいくらいの攻撃を続ける。

 今回の戦いは、深雪達からは街を傷付けることが無いようにと、実弾は使わない方針。それもあって、対空砲火などの装備も誰もしていない。そのため、航空戦が若干疎かになってしまっている。艦載機の対策はほぼしていないようなもの。

 

「あーっと、一応上にも撃つよ!」

 

 高角砲でも両用砲でも無いが、やらないよりはマシと、グレカーレが上空に飛び上がった艦載機に向けて砲撃を放つ。剛腕に接続されているわけではないため、かなり無理のある砲撃にはなっているのだが、全く対処が出来ないというわけでもない。水鉄砲であっても、直撃すれば狙いは外れる。

 しかし、その艦載機も一筋縄ではいかない。それ自体が意思を持つように動く上に変則的な挙動で動くせいで、砲撃を見てから本来出来ない軌道を描いて回避することも普通にやってのける。

 

「本体叩いて!」

「ですよねぇ。なら、まず手近なところから行ってみましょう……って、フーミィちゃんズルいです!」

「遅いのは嫌い」

 

 グレカーレのお願いを受けた綾波が動き出すよりも前に、伊203が地を蹴っていた。狙いは目の前、厄介な艦載機をばら撒く神威。

 最低限、気絶させるくらいの攻撃をぶつければ、この艦載機の群れは無くなると考えたか、艤装のパワーアシストもうまく使って跳び、彼女の持つ唯一の()()()()である拳銃を撃ち放つ。

 伊203としての兵装であるそれは、純粋な格闘タイプである彼女には異例の、間接的な殺傷武器。海中以外にある、素手で破壊出来ないモノに対してしか使わない、裏技のようなもの。それを使って、神威のガントレットを破壊しようと銃撃を放つ。

 

「当たりませんよ」

 

 だが、神威ではなく妙高がその発言をするや否や、伊203の攻撃はあらぬ方向へ。先程の深雪の砲撃と同じように、すっぽ抜けたかのような軌道を描いた。流石にこれには伊203も眉を顰める。

 

「……考えていたより()()……? いや、()()()()()()()()()

 

 深雪の砲撃だけならともかく、接近して放った伊203の銃撃すらもあらぬ方向に飛んでいったのは、間違いなく何かされている。

 

「暁ちゃん、もう少し情報が欲しいですよねぇ」

「ええ」

「じゃあ、綾波が見せてあげますねぇ。夕立ちゃん、一緒に行きますよぉ!」

「ぽーい!」

 

 この異常事態を分析させるため、次に動いたのは綾波と夕立。砲撃と銃撃がダメならば、ナイフを使った格闘戦ならばどうかと、伊203と同じように地を蹴って、瞬時に接近。今度は神威でなく妙高を狙う。

 艦載機も厄介だが、この()()は妙高が鍵となっていると直感的に勘付いたようであった。

 

「そんなちっぽけなナイフで抵抗など」

「これだけあれば、人の命は奪えるんですよぉ」

「そうでしょうね。でも」

 

 艦載機からの妨害もモノともせず、綾波と夕立は一気に近付いた。のたうち回る妙高の下半身のウツボも避け、もう手が届く範囲に。

 

 と、思った矢先──

 

「届きませんよ」

 

 綾波は妙高の首をとったと確信したにもかかわらず、その手は空を切った。瞬きした瞬間に、綾波は思っていた距離とは違う場所に妙高がいることに気付いた。

 

「ぽい!?」

 

 別の角度で跳びかかっていた夕立も、綾波と同じように妙高には届いていないところで攻撃が空振り。頭にはてなマークを浮かべながら着地する羽目となった。

 そこには蠢くウツボの生体艤装。それが猛烈なスピードでうねり、夕立と綾波を薙ぎ倒そうとする。流石にこれにあたってはまずいと、即座にバックステップをすることで辛うじての回避。風圧はモロに受けたため、思っている以上に飛ばされたが、その後の着地はしっかりと。

 

「暁ちゃーん、距離感がバグってますよぉ!」

 

 この綾波の発言で、暁はピンと来た。

 

「深雪、電、アレの時の煙幕!」

「アレって!?」

「見えない敵の時のヤツ!」

 

 つまり、あちらからは見えなくなり、こちらからは敵の場所が手に取るようにわかるようになるあの煙幕である。意図的に出せるかはわからないものの、暁がそれを指示するのだから、それが確実に突破口になるということ。

 

 しかし、それを簡単にやらせてくれるわけがなかった。

 

「特異点の煙幕が厄介なのは知っています。勿論、やらせるわけがありませんよ」

 

 神威の下半身、大口を開けている異形がガタンと歯をぶつかり合わせると、その内部から大口径の主砲が伸びた。尻尾のような2本のクレーンを地面に突き刺し、さらには脚の代わりに生えた剛腕で地を掴むと、その主砲は大きな唸りをあげて放たれる。

 明らかに妙高の砲撃よりも火力が高い。その上、弾速も考えている以上。それを地上で、そこまで距離が離れていない状況から放ってきたために、回避をしようにも紙一重。

 

「くっそ……!?」

「使わせてもらえないのです!?」

 

 せめて煙幕をばら撒くだけでも話は変わりそうではあるのだが、ただ撒くだけでは味方にも迷惑がかかってしまう。それに、規模が大きい煙幕を撒いたら、米駆逐棲姫に撤退のチャンスを与えてしまうことにも繋がる。迂闊に目隠しは出来ない。

 

「手の内が知られてるのが厄介ね……でも、ちょっとわかったかもしれない。私も行くわ。白雲、ちょっと手伝ってちょうだい」

「白雲がですか。了解致しました。何をすれば」

「その鎖を振り回して。長さを少しずつ変えてね」

 

 深雪達がその砲撃を回避出来たことを見届けたため、次は神風と白雲のターン。

 神風の指示は、白雲に凍結の力を浸透させた鎖を振り回させ、妙高の艤装を凍結させること。その際に神風も艤装の強度を確かめるために斬撃を放つ策。自己修復を止めることが出来る凍結は、この場でもやはり有効。しかし、凍結させるだけでは破壊は出来ないため、破壊してからの凍結が必要不可欠。今の戦力でその連携が可能なのは、神風くらいしかいない。

 

「タイミング合わせるわ。まずは振って!」

「かしこまりました。妙高様、凍っていただきます」

 

 鎖をブンブンと振り回しながら、徐々に鎖を長くしていき、届くと思った瞬間に投擲。触れた瞬間に凍結させるそれは、掠めるだけでも致命的なはず。

 

「ここ!」

 

 そして神風も地を蹴った。白雲の鎖がウツボに直撃するタイミングを狙って、避けられない程のスピードで接近し、刀を抜いた。全てを斬り裂く程の抜刀術で、その太いウツボであっても両断出来るはず。そう思っていた。

 

「届きませんよ」

 

 しかし、神風のそれすら空を切った。勿論、白雲の鎖もウツボには届いていない。

 綾波が叫んだように、()()()()()()()()()()。達人である神風であっても、その影響をモロに受けており、攻撃がまるで届いていない。

 

 これで、暁は確信した。

 

「……ジャミング! 妙高さんの能力!」

 

 

 

 

 妙高の得た力は、『ジャミング』の曲解。距離欺瞞と方位欺瞞を生身に齎すことが出来る力である。

 

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